第45話:ラッキー?いや、拷問だ
「………嘘だろう?」
あり得ない事が起きていた。
勇気を出して告白しようとしていた相手である凪が帯刀の袖を掴んで眠っていたのだ。
気持ち良さそうに微笑みを浮かべ、規則正しい寝息をたてている。
(人が勇気を出して告白しようとしているその横で、何故一瞬で寝てる!?)
大事なシーンで寝られた事に多少の憤りは感じたが、同時に嬉しくもあった。
(……俺が隣にいて寝られる女がいるとは夢にも思わなかったな)
やはり、自分にとって凪は稀有な存在だと感じながら彼女を起こした。
「おい、凪。風邪を引くぞ」
そう言いながら凪を揺すってみたが、彼女は完全に熟睡していて全く起きない。
流石に冬にこんな所で寝たら間違いなく風邪を引く。
(いや、待てよ?
嬉しいのは確かだが、そもそも男の前でどうしてここまで無防備に寝れるんだ?コイツは。
いくらなんでも熟睡しすぎだろう)
口元に笑みを浮かべ、気持ち良さそうに自分にもたれかかる凪の額にデコピンをした。
凪は一瞬眉間に皺を寄せたものの、それでも起きようとしない。
ふと、越智の言葉が頭に浮かんだ。
『殆ど寝てないぞ。体力と気力でもってる』
(座るのを一瞬躊躇したのはこのせいか?……疲れさせたのは俺のせいでもある。
に、してもどうしたものだか……)
幸い左手で帯刀の右腕の袖を掴んでいるから、抱き抱えて連れていく事は可能だ。
だが、離れるなとばかりに強く掴まれてる為、寮に連れ帰ったとしても放しては貰えそうにない。
(仕方ない)
この時間なら生徒はほとんど帰っているから校舎内を抱き上げたまま歩いても目立たないはずだ。
とはいえ、見つかるのもよろしくない。
(遠回りだが、非常階段を使うしかないか)
帯刀は凪を起こすのを諦め横抱きに抱き上げると、最長コースで生徒会室に戻る事にした。
☆
生徒会室の扉がノックされる。
浩樹が「どうぞ」と言ったが、扉が開く気配はない。
越智が首を傾げながら扉を開けると、ぐったりしてる凪を抱えたまま押し退けるようにして帯刀入ってきた。
「え!?お嬢ちゃん!?」
「凪!?どうしたんだ!?大丈夫か!?」
浩樹も驚いて近寄ると、帯刀は大丈夫と答えた。
「寝ているだけだ。問題ない」
帯刀は凪を抱えたままソファーに腰掛けると、疲れたとばかりに息を吐き出した。
足を抱えていた左腕はソファーの背に投げ出してはいるが、右腕は凪を抱いたままの体勢に浩樹は不思議そうに突っ込みをいれた。
「ところで、お前は何故凪から離れないんだ?」
帯刀は自分の右腕を見せるように動かしながら呆れたように答えた。
「熟睡して放してくれん。何しても起きん。外せるものなら外してくれ。
コイツ意外に重いんだ」
凪が起きていたら確実に怒りそうな言葉に苦笑しながら、越智は帯刀の腕から凪を離そうとしたが、しっかり握り締めていて外せない。
「こりゃ無理だな」
越智がそう言うと、
「流石は凪さんですね。テニスで鍛えた握力は凄いものですね」
と、感心したように紫藤も呟くように言った。
最早縫い付けられてる状態らしい。
無理矢理やれば出来ない事はないが、それでは凪の指を傷付けてしまう。
「そのまま寝かせてやれ」
浩樹のセリフに帯刀は嫌そうに答えた。
「これでは仕事にならん。そして、重い」
「凪も疲れてるんだからそんくらい我慢しろ」
と、浩樹が言うと、
「そうですよ。これほどまでに熟睡してるのは誰のせいだと思ってるんですか?」
と、紫藤が責めるような口調で言い、最後は越智が、
「役得じゃないか。良かったな。帯刀」
と、意味あり気に笑った。
(冗談じゃない……)
好きな女が安心しきった表情で寝ている。
無防備状態を密接距離で見続けなければならないこちらの立場になって欲しいと、帯刀は言いたかったが言えるわけがない。
(拷問以外の何物でもない……)
帯刀はそんな気持ちを悟られないように、「重い」と、悪態をつくしか出来なかった。




