第43話:恋のライバル
☆
期末試験が無事終わり、試験結果が貼り出された。
それを見て凪は胸を撫で下ろした。
「かなり順位上がったね」
そう声をかけられ、振り返るとそこには学級委員長の伊達がいた。
「あと一点で伊達君に追い付けたのに、惜しいな」
「いや、生徒会みたいな大変な仕事していて二位になるなんて凄いよ」
「伊達君だって、弓道部の期待の星なのにいつも首席にいるじゃない。流石だなぁって思ってたんだよ」
そうお互いの事を誉めあった所で笑いあった。
「あたし、来年は特別クラスに行こうと思ってるんだ。
ようやく特別クラスの人より上の順位に行けたし、やっていける自信ついた」
「特別クラスに……」
伊達はそれを聞いて、何かを考え始めた。
そして意を決したように口を開いた。
「お、俺、俺も来年は特別クラスに行こうかと思っていたんだ」
「ホント!?知り合いが一緒なら新しいクラスも楽しくなりそう」
そのセリフを聞いて、伊達は少し寂しそうに笑った。
(『知り合い』か。樹神さんにとってはその程度だよな。だけど、せめて三年間一緒のクラスでいるくらいは許されるよな?)
完全に自分の事を眼中に入れていない。
だが、親友としてのポジションなら彼女の笑顔を近くでみられる。
今はそれでいい。
今は知り合い扱いでも時間をかければチャンスはあるハズだから。
まずは、励まし合って友人ポストから始めよう。
そんな事を考えながら伊達はフラグを立てるための言葉を紡いだ。
「お互い頑張ろう。もし、勉強で解らない事があれば俺、教えるか……」
「心配は無用だ。コイツの勉強は俺が教える」
肝心なセリフを言い終わる前に、突如、冬の冷気よりも冷たい声が響いた。
そして伊達にとって邪魔なその男は当然のように凪と自分の間に割って入ってきた。
伊達は咄嗟に睨んだ。
その視線を受けて、帯刀は伊達に一瞥を投げてから凪に視線を移した。
「樹神。クリスマスパーティーのドレスが来ている」
「わかりました。伊達君ごめん。失礼するね」
凪は早口にそう言うと、走って生徒会室へ向かった。
伊達は帯刀を睨みながら口を開いた。
「なるほど。そういう事ですか」
「お前もな。だが、望み薄と解っていて同じクラスで居続けるか。フッ、それもいいだろう」
帯刀も退かずに伊達を再び睨み付けた。
「……随分優位にいるかのような物言いですね」
「少なくともお前よりはな」
帯刀はそれだけ言うとその場を去って行った。
伊達は忌々しげに顔を歪め、帯刀が消えるまでその背中を睨み続けた。
☆
いよいよクリスマスパーティー目前となり、生徒会室は慌ただしくなった。
浩樹も山積み書類の片付けに入り、次から次に承認しては指示を出していく。
「紫藤、職員室にこれとこれを頼む。
越智、ダンスコンテストの参加者リストをもう少し積めてくれ。各々踊るスペースは確保したいだろうからな」
「あいよ」
浩樹は指示しながらも書類のチェックに余念はない。
今にも崩れそうだった書類の山がみるみる小さくなっていく。
いつもこうならばいいのだが、追い詰められないとエンジンがかからないらしい。
よって、修羅場と化す。
それを心得てる面々は予め自分が出来る事は初めのうちに終わらせるのだが、それでも忙しい。
「恭介」
帯刀は指示を受ける前に書類を渡した。
「全体の経費だ」
「お、ごくろうさん」
言われる前に仕上げてくるのはいつもの事なので、浩樹はそれを受け取って今度は凪に視線を向けた。
「はい。こちらでいいですよね?」
凪も透かさず書類を提出して来たので、浩樹は戸惑いながら頷くとそれを受け取った。
「帯刀先輩。各部活動経費の経過をグラフにして送りましたので、チェックお願いします。
では、行ってきます」
ザッと早口にそう言うと、凪は生徒会室を飛び出した。
「おい!?どこへ!?」
浩樹が呼び止める声は一歩届かず、凪の姿は既に消えていた。
「パーティーの舞台設営ですよ」
紫藤が代わりに説明すると、越智が少し心配そうにしていた。
「越智、どうかしたのか?」
「いや、最近ずっとお嬢ちゃん休みなく働いてるから心配でさ。
勉強も遅くまでやってるみたいで電気が消灯過ぎてもついてるし。多分殆ど寝てないぞ。
体力と気力でやってるよ。あれは」
越智が言えば、紫藤も頷いた。
「ええ、本当に……。
樹神さんの可愛らしい目元がくすんでいるのは見ていて忍びないです」
確かに頑張り過ぎていると、浩樹も思った。
いつも笑顔でいるが、どこか無理している気がしてならない。浩樹はその原因であろう人間を見た。
「僕としては『凪さん』は、充分評価に値すると思うのですが、まだ満足しないのでしょうかね。誰かさんは」
いい加減にしろとばかりに帯刀を睨み付け、紫藤は職員室へ向かうべく生徒会室を退室した。
今まで「樹神さん」と呼び続けていた紫藤が「凪さん」と呼ぶ。
それは衝撃的だった。
少なくても浩樹は状況を受け入れられずに唖然としていたし、越智も複雑な表情を浮かべている。
長い付き合いの越智でさえ、越智以外を名前で呼んでいる紫藤を見た事がないのだ。
言われた帯刀の方は、顔を盛大にしかめた。
何故なら、
「僕は彼女を名前で呼んでもいいくらいに信頼してます。
ですので、これ以上彼女に冷たく当たるなら容赦しません」
と、紫藤の視線と口調はそう語っていたからだ。
本当の事を言えば、実は帯刀はもう既に白旗をあげていたのだ。
ただ、それを言い出すタイミングがなかっただけだ。
(……仕方ない)
帯刀は溜息を吐いて生徒会室から出ていった。




