第41話:初恋
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部屋に戻った帯刀は怒りをぶつけるかのように机を叩き付けた。
アルミ製の机は悲鳴をあげて帯刀の拳の形に凹んだ。
(……初恋、だと!?人の心見透したかのように言いやがって!!)
確かに初恋だった。
女というものは雌の臭いをプンプンさせて媚を売る気持ちの悪い生き物でしかない。
どいつもこいつも帯刀自身を見ようとはせず外見しか見ない最悪な存在だ。
確かに帯刀自身、自分の顔の造りはいいとは思っている。
だが、それ以上に劣悪な性格が滲み出ている醜い顔だと思っている。
そんな顔に惚れる者の気がしれないと感じてきた。
そんな連中が色を込めた瞳で接してくる。
人間嫌いになって当然であり、ましてや恋なんて出来るわけがない。
だが、そんな中で凪に出逢った。
初めて逢った時の凪は、帯刀に見惚れていた。
他の女達と同じで、凪もまた顔で判断する人間なんだと感じた。
それなのに不思議と惹き付けられて彼女と握手を交わしてみると、その瞬間身体に電流が走り、本能が「彼女だ」と言った。
彼女こそ帯刀の心を受け止めるただ一人の相手だと。
有り得ないと思った。
だが、同時にどうしてそう感じたか見てやろうと思った。
凪に媚びるような色香はない。
帯刀に見惚れる事は非常に多かったが、彼女の見惚れるという行為は色恋ではない事をすぐに悟った。
同性の越智に見惚れ、中庭で寛ぐ猫に見惚れ、木漏れ日に見惚れる。
純粋な子供が何にでも感動しているのと同じ感情で見惚れていたのだ。
彼女にとって顔はその程度のレベルだった。
その事実に気付いてからは、恋に落ちるのは簡単だった。
知れば知るほど凪に惚れていった。
彼女の過去を調べ、自分との接点を見付けた。
それもあって更に興味を持ち、そして気持ちが加速した。
凪が欲しくなった。
自分の気持ちを伝えたい、いや、それ以上に自分を愛して欲しいと願うようになった。
だが、それと同時に独占欲が芽生えた。
いろんな人と楽しそうに話す凪を見る度に苛立った。その苛立ちは時には怒りのような感情に変わり、凪にぶつけそうになった。
いや、チャペルで強引に唇を奪った行為は明らかに暴力だった。
もう、限界だった。
自分がいかに欲深で醜い人間かという事を思い知らされた。
だから凪を突き放したのだ。
自分では、凪の妨げになる。異常なほどに加速していく独占欲は彼女を追い詰めるに違いない。事ある毎にそう感じ、浩樹なら彼女を彼女らしく成長させてくれるハズだから自分は身を引こうと決めた。
だが、彼女の幸せと成長を見守るようにしようという気持ちさえ、あの時は失っていた。
何故自分だけの凪でいてくれないという気持ちしかなかった。
そして、ぐったりと自分を見つめるあの時の凪の表情があまりにも煽情的で、このまま彼女の全てを貪り尽くしたい衝動に支配された。
間違いなく、自分の欲で彼女を破壊する。
そう自覚させられた瞬間だった。
「だから俺じゃダメなんだ!」
それなのに、理事長は凪と付き合えと言う。
「人の気も知らないで……!」
「もうその辺で止めときなよ」
机を再び殴り付けると、越智の声が聞こえた。窓の外を見ると、木に登った越智がそこにいた。
越智は指で窓を指しながら開けるようにジェスチャーでアピールしていた。
帯刀は嫌そうに溜息を漏らし、渋々越智を部屋に入れた。




