第39話:理事長の反応
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忙しい時になると生徒会室にいる率が何故か下がり、越智に追いかけられる浩樹は理事長室にいた。
浩樹の表情には翳りがある。
一方、そんな浩樹の報告を理事長は面白そうに聞いている。
「……て、ワケだ。
あれじゃあ凪が可哀想だ。恭介のあの態度に屈せず、毎日声をかける姿を見ているのは苦痛なんだ。だから晃から一言言ってくれないか?」
「成程ね」
「……で、お前はなんで楽しそうに笑ってんだ?凪が苦しんでるんだぞ!?」
理事長の表情に心配の色が全く存在しないのを見て、浩樹は苛立たしげに睨み付けた。
「だって、面白いじゃないか」
「どこがだ!?なんか勝負だのゲームだの帯刀は言うわ、凪は凪で負けないとか言ってるし。凪は毎日冷たくあしらわれてるんだぞ?
この前なんて、アイツ凪の書類を破り捨て、「やり直せ」って言い放ったんだぞ!?」
その言葉を聞いて、理事長は目を細めながら昔の凪と自分とのやりとりを回想して、また笑った。
「だから笑うな!!」
理事長の机を力強く叩く。
立て掛けていた本が音を立てて倒れていくのを見ながら理事長は溜息を漏らした。
「浩樹。お前は過保護すぎるぞ?」
「普通だ。お前が放任し過ぎるんだ。この学園に凪を呼びたかったのはお前じゃないのか!?呼ぶだけ呼んでおいて、彼女が苦しんでいるのに無視するなんてオカシイだろが!」
(やれやれ困ったものだ……浩樹の目には凪がか弱い女性にみえるらしい)
人を信用してない理事長が、幼稚園の凪に根負けした事実を浩樹は忘れているようである。
小さい頃に出来た事が今出来ないワケがない。
根負けするのは帯刀の方だと判りきっているから理事長は笑っているのだ。
「凪が将来を約束されたテニスプレイヤーだった事は知っているよね?」
「ああ、本人が言っていた」
何故理事長が今それを聞くのか理解しかねたが、取り敢えず頷いた。
「俺が幼い凪と別れる時に「必ず迎えにいく」と、約束したんだ。で、この学園に迎えようと俺はアメリカに行った。
だが、ケガで再起不能と知り俺は諦めた。実力がないのに無理矢理迎えれば凪が傷付くからね。でも、俺はどうしても彼女と再び出逢いたかった。だから、何か方法がないか探した」
その時の事を思い出し、理事長は苦痛そうに顔を歪めた。
「でも、何もなかった。いや、それどころか彼女は自殺未遂をしでかしたんだ」
浩樹は信じられないといった様子で近くの椅子に腰掛け、理事長の話を聞く体勢になった。
「俺はその時点で凪への興味を失った。
どんな理由であれ自殺に逃げる行為を俺は認めない。凪は俺が出逢いたいと思っていた凪じゃなくなっていた。だから永遠に別れようと決めた」
理事長のセリフは、人を平気で切り捨てる『春宮』そのものの冷酷な表情だった。心の拠り所を失い『春宮』らしさを手にした男の表情に、浩樹は眉間に皺を寄せた。
だが次の瞬間、彼は浩樹のよく知る『晃』の表情に戻った。
「……冬に一般入学試験の募集に彼女の名があるのを見た時は正直驚いた。
自殺からほんの数ヵ月でうちに応募してくるとは思わなかったからね」
一般試験は狭き門である。
学力もかなり高いが、何より将来性を重視される。推薦で殆ど決まるため、一般で受かり卒業した生徒はみなエリートコースを歩む人間となる。つまり、その位の才能が無ければ一般で受かる事はないのだ。
そんな無謀な試験に、将来を絶たれて自殺したばかりの人間が挑む。普通の神経ではまず有り得ない。
浩樹の生唾を飲む音が響いた。
「無謀にも程がある。バカなのか?とも思った。だから俺は彼女の試験の様子を観察した。
学力は全国模試上位で、特に語学は堪能だった。そして、一番驚いたのは面接だった。冒頭は自分の弱さについて語っていた。だから面接官のウケは最悪だった」
そこで一度区切り、理事長は興奮気味に話し出した。
「だが、凪は凪だった。俺のよく知る凪だったんだ!
浩樹。彼女にはね、お前と同じで人を惹き付ける能力があった。心証最悪だったはずなのに彼女が明るくハキハキと話せば話すほど面接官達は魅了されていき、最後は無理矢理面接の引き延ばしに躍起になっていた。
で、いよいよネタが尽きた頃、彼女は解放された」
浩樹が『樹神凪』の名前を覚えていた理由の一つだ。
面接時間の長さが1時間30分という記録的な長さを体験した受験生の存在は、教師達の中でかなり話題だったからだ。そして、『晃』モードで「凪が来る!」と御機嫌に話す理事長の様子に浩樹は更に興味を持った。
実際、凪は魅力的な子だったし浩樹も一瞬で魅了されたワケだが……
だが、それなら尚更彼女が挫けないよう守るべきなのではないだろうか?
そう訴える浩樹に理事長は呆れたように息を吐き出した。
「俺は彼女はとても強いと言いたいんだがわかるかい?
挫折から立ち直った人間ほど強い者はいない。それに彼女には魅了の能力がある。
その二つが揃った凪は無敵だよ。
くだらない心配は、逆に彼女を評価していないと判断するよ」
理事長は浩樹の肩を叩き、真剣な表情で聞いてきた。
「浩樹。お前の勘はどう訴えてる?」
「……いつか生徒会を背負って立つ器だと…」
それを聞いて、理事長は大きく頷いた。
「だろう?
お前の勘は絶対に外れない。外れた事はない。だから、外見で彼女を判断する事は止めて信じて見守れ」
話はそれで終わりだというように理事長はそう最後のセリフを強調させた。




