第33話:犬猿の仲?
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翌日は、写真部に行った。
だが、部屋の前で浩樹は動こうとしない。寧ろそのまま通り過ぎようとしているのに帯刀が立ちはだかって動けないでいるようだ。
「あの、入らないんですか?」
その質問に浩樹は嫌そうに答えた。
「凪、この部屋は魔物がボスをしている地獄だ。入らない方がいい」
「ふざけるのも程々にしろ。入るぞ」
帯刀は呆れながらドアを開けた。
その瞬間、沢山のフラッシュとシャッターを切る音に迎えられた。凪はワケがわから呆然としていると、部長らしき男が姿を現して浩樹は凪を庇うようにその男の前に出た。
そんな様子に男は傷付いたように苦笑した。
「嫌だなぁ。まるで僕が彼女を取って喰らうみたいじゃないか」
「違うのか?スケコマシ。今まで何人の女泣かせた?」
男は心外だといったように肩を上げた。
「ひどいなぁ。僕は別にドサクサ紛れにナンパしてるワケじゃないよ。
ただ、女の子達が勝手に惚れるだけさ」
「甘い言葉で囁くからだろが!!」
「不純な動機じゃない。ただ、少しでもいい表情を撮りたいからさ。君なら解ってくれるよね?樹神凪さん」
いきなりこちらに振られたものだから、凪は目を丸くして男を見た。
「強制するな」
「してないさ」
凪は一呼吸置いて、浩樹の前に出ると男にお辞儀をした。
「岩倉譲治さんですね?」
「嬉しいな。僕の名前を知ってくれていたのかい?」
「叔父が以前帰国した時に、この学校に今後が楽しみな生徒がいると岩倉さんの事を話していたので……。
あ、伝言です。『心は見えたかい?』との事です」
「最上さんが!?」
上擦った声でそう言うと、夢見心地で語りだした。
「僕が写真始めたのは最上さんの写真を見てからなんだよ。
サモエド犬に包まれるように寝ている小さな女の子。その子が安心しきった表情で寝てる姿がスッゴク印象的で、その時の写真集を参考にしてカメラを持ち歩いて、あちこち撮りまくるようになったんだ。
あんな写真撮りたくてね」
その小さな女の子が凪である事は、凪が顔を赤らめ恥ずかしそうに視線をさまよわせる様子でよく判る。
浩樹と帯刀は、その写真集を買おうと心に決めながら二人の会話を見守った。
「毎日写真展に通い詰めて、ある日最上さんに声をかけられて家にお邪魔させて頂いた時はスッゴク緊張してね。その時にモデルの樹神さんを見掛けて、カメラを構えたのはいいけれど、どうしてもシャッターを押せなかったんだよ。
なんて言うのかな。
僕の撮りたいという欲求が邪魔をして、樹神さんが霞んで見えるようになってさ……で、目を凝らしたんだけどそうすればするほど樹神さんが見えなくなったんだ。で、最上さんにそれを言ったらたいそう驚かれてね。
『対象の気持ちを視られるように頑張りなさい』
と、言って貰ったんだ。
まだ、6才の僕には意味が解らなかったんだけど、今思えば『カメラと一体になれ』って事だったんだよね。
……そうか。最上さん、覚えて下さっていたのか……」
本当に嬉しそうに話す岩倉だったが、突然凪の肩を掴んですがるように凪を見た。
「樹神さん、僕のモデルになってくれないか?」
いきなりの展開に浩樹身体を強張らせ、凪は目を丸くした。
「僕はもう視られるようになったと思っていたんだ。で、歓迎会の時もテニスの時も君を撮った。でも、他のコの時と違ってどうしてもカメラと一体になれないんだ。出来た写真に本当の君が映らない。
難しい。本当に難しい。だからこそ撮らせて欲しいんだ!」
「ダメだ!!絶対に許さん!!」
これには浩樹も耐えきれず、凪を自分の方に引き寄せた。
岩倉は呆れたように浩樹を睨んだ。
「おいおい、樹神さんは君の所有物なのかい?」
「お、俺は凪の保護者だ!!」
帯刀が思わず吹き出すのを視界の端に捉え、浩樹は言葉の選択を誤った事を自覚したが、それを振り切るように続けた。
「だいたいさっきからパシャパシャ煩いんだよ!止めさせろ!」
イラつく浩樹を見て写真部員達は畏縮していたが、岩倉は悠然と彼をからかうかのような口調で答えた。
「それは無理だよ。うちの部費は自給自足制なんだよ?稼げるうちに稼がなきゃだろ?生徒会みんなの写真は高値で売れるんだよ。
特に樹神さんの写真は1000円でも売れるし、テニスの対抗戦のやつなんて1500円で伊藤先輩が買ってくれたしね」
「伊藤が!?因みに何枚買っていったんだ、アイツ!?」
先輩を呼び捨てにしている事には敢えて突っ込まず、岩倉は平然と答えた。
「3万円分だから20枚か。今回の衣装も1200円は固いな」
「お前なぁ!!!!!!」
凪が完全に興奮状態の浩樹をどうするべきか悩んでいると、帯刀が彼女の肩を叩いて、
「浩樹は放置して、仕事に戻るぞ」
と、言われたので承諾して評点を始めた。
「どうだ?」
「結構レベル高いですね。ですが、あの展示だけ妙に個性的ですね」
そう凪の示した先には、ただの写真ではなくCGを交えた幻想的な写真があった。
「この人、凄いですね」
「お前と同じ1年だぞ。
なんでもグラフィックをやっていて、写真との融合を目指して写真部に入ったらしい」
そう言って指差した先には、『魂の帰る場所』というタイトルと『1ーC 斎藤要』と書いてあった。
「凄いですね。これからどんな作品が出てくるのか楽しみです」
凪は備考欄に斎藤の事を書き足した。
「終わったか?」
「はい」
「ならば次だ。浩樹、遊んでないで次行くぞ」
浩樹は『遊び』を否定したが、帯刀が完全に無視して外に出たので、外に続いて出ようとした。
だが、凪が言った言葉に浩樹は完全にフリーズした。
「あの、岩倉さんモデルの件ですが、お断りさせてください。
でも、今みたいに勝手に撮るのは別に構わないので。その代わり、私の写真売れた時は1割生徒会にバックして下さいね」
にっこりと微笑みながらあっさりとんでもない事を言ってのける。
「勿論。モデルになるわけだし、僕は構わないよ」
岩倉は快諾したが、浩樹はワナワナと震え、
「恭介~!お前の仕業か!?」
と、叫びながら帯刀の元に飛び出して行った。
「……別に言われたワケじゃないのに……」
浩樹の出ていったドアを見ながらそう呟く凪に、岩倉はクスリと笑った。
「そのくらいじゃなきゃ帯刀の補佐は務まらないからね」
「あたしもそう思います。じゃあ、お邪魔しました」
凪はお辞儀をすると、写真部を後にした。
「なんか台風みたいだったね」
岩倉は楽しそうにそう言うと、持ち場に戻っていった。
本日ラストです




