第28話:苦手なものは誰しもある
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文化祭の季節がやって来た。
生徒会のメンバーは南国衣装に身を包み、出し物の評点の為に回っていた。
最初は固まって動いていたが、あまりにも目立つため浩樹・帯刀・凪グループと越智・紫藤グループの二手に別れて行動した。
帯刀は凪を見ながら顔をしかめた。
「パレオなのはいいが、もう少し足も出したらどうだ?露出が足りん」
「十分だろが!!」
お前の感覚は異常だと浩樹が抗議している様子に、凪は思わず苦笑した。
両極端の性格の二人は、正反対の反応を見せる。それなのに生徒会運営に関しては、ピタリと息が合うのだから不思議な関係だと思わずにいられなかったからだ。
「次はここだな」
浩樹の抗議を完全に無視し続けながら、帯刀は目的の教室を指差した。
「俺を無視するな」と言いながらその教室の看板を見た浩樹は思い切り顔をひきつらせ、凪は凍り付いた。
黒い看板、紅い血のようなおどろおどろしい文字。光を遮断するための黒いカーテン。
どう見てもお化け屋敷である。
「……苦手なのか?」
信じられないといった口調で問われ、二人は間を開けることなく頷く。帯刀は露骨に呆れながらも浩樹の手を取った。
「なら、樹神を待たせて二人で入るぞ。評点をしに来ているのだからせめて二人は必要だ」
だが、浩樹は帯刀を振り払って拒否した。
「いや、本当にダメなんだ」
全身から嫌な汗を吹き出しながら後退りする浩樹に溜息を漏らした。
お化け屋敷で悲鳴を上げる生徒会長というのはイメージ的に宜しくない。
だが、外見は小動物系の愛らしさを持ち合わせた凪なら問題ないだろうと判断した帯刀は、彼女を見た。
「仕方ない。樹神、行くぞ」
凪はイヤイヤと首を振って帯刀から離れようとしたが、帯刀はそれより素早い動きで凪の首根っこを掴んで強引に引きずり込んだ。
「ま、ま、ま、真っ暗です」
「暗くなきゃお化け屋敷じゃないだろ」
突き放すような言葉にめげずに凪は名案とばかりに言った。
「そうだ!目をつぶれば怖くないですよね?」
「……評点を付けられないだろが」
埒があかない。
このままでは永久に入口から先には進めない。帯刀は「仕方ない」と呟いて、腕が密着するような繋ぎ方で凪の手を握った。
「これなら怖くないだろ?」
意外な程優しい声音と、暖かい手の温もりに凪は安心して頷いた。
「よし、じゃあ動くぞ」
お化け屋敷の中は想像以上に凝っていた。
小さいスペースを迷路のように細い通路にする事で怖さや不安を煽り、壁には所々紅い蛍光塗料を使い、血のようなグロテスクさを浮き立たせている。
「かなり力を入れてるな。見事なものだ」
冷静な帯刀の声が響くが、凪はそれどころじゃない。壁の演出でも充分怖いのに、時折生暖かい風が頬や足元を掠めていく。
その度に凪の身体は魚籠つき、帯刀の腕にしがみつく。
(どんだけ怖がりなんだ……?
こんな事なら越智組にお化け屋敷を担当させるべきだったな)
そう後悔したが最早手遅れだ。
帯刀はデカイだっこちゃん人形(それを知ってる17歳いるのだろうか?)を抱えてると思う事にし、先に進んだ。
「ひぇっ!!」
凪の奇妙な声が上がる。
「な、な、な、何かが足を舐めたっ!!」
それも演出の一つ。
ボール状に丸めた糸こんにゃくを人肌に温めて、壁に隠れている人間が引っ張り合い、小さい得体の知れない者が横切ったと演出しているのだ。冷静に考えれば直ぐに判る事だと言うのに思考回路は停止しているらしい。
帯刀はしゃがんでいる凪を立たせて、腰を抱いた。
そうすれば、こちらが力を入れさえすれば行きたい方向に進める。
そう判断したが、恐怖に我を忘れた人間には通用しない事を次の部屋で思い知った。
子猫を掴む親猫のように、主人公を引きずり込む男。
なんとも糖度のない展開です。




