第21話:理事長からの答え
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夜になり、越智は浩樹がジョギングから帰ってくるのを待っていた。
そうとは知らない浩樹はいつものようにドアを開け、ランニングを脱ぎ捨ててタオルを首にかけた。そして、そのまま椅子に座ると携帯電話でメールを打ちはじめた。
送信の画面を確認してからスポーツドリンクを飲みながら溜息を洩らす。
「理事長へのメールか?」
「ああ、今日の事を報告した。あいつが止めてくれればいいのだが……」
そう返事をして動きを止めた。
誰もいない部屋で人のしかも女の声がする。そして、恐る恐る声のする方を見ると、ベッドに俯せになってスポーツ誌を読んで寛いでいる越智の姿があった。
「お、お前、いつ!?」
怒鳴りそうになるのを抑えながらそう言う浩樹に、越智は楽しそうにベッドから身体を起こした。
「主上殿のストリップ堪能させてもらったよ♪惜しむらくは上半身だけというとこだね」
(初めからかよ!?)
部屋に実に5分以上越智の気配を感じられずにいた自分も問題だが、平気でそれを観察する越智も問題である。浩樹は軽い目眩を覚えたが、話をする事にした。
「で?夜這いの理由は?」
「お嬢ちゃんの事に決まってるじゃないか」
当然だろうと胸を張る。
「正直……驚いた。凪があんな事を言うとは思わなかった」
「あたしも。お嬢ちゃん、実は行動派なんだな」
守りたくなる可愛らしい外見でありながら実は率先して挑むタイプである事を思い知り、二人は溜息を吐いた。
「で、本当にやらせるしかないのか?
他の部とは違う。部長の伊藤だけはインターハイ出てるんだぞ?」
「……もう俺達には止められない。だから理事長に止めてもらいたくてメールしたんだ」
何故か顔を公開しない理事長。
だが、浩樹は彼の従兄弟で、越智にとっても入学前に面識のある相手である。
負ける戦いは決してしない。その性格をよく理解しているだけに必ず凪の出場を取り止めてくれる。そう望みをかけて返信を待つ事にした。
だが、
「なんだと!?」
待ちわびたメールは彼らの期待を裏切るものだった。
『能力のない者は学園にいる資格はない。ましてや生徒の代表ともいえる生徒会にいるべきではない。
凪だって解っているから動いたはず。
やらせなさい。そして、浩樹達は彼女の頑張りを見守りなさい』
浩樹が越智にその文章を見せると、それを越智は派手に舌打ちした。
「あいつ、またやりやがった!」
「また?」
「ああ。馨の時もそうだったんだよ。馨の入学取り消しを詫びに来たくせに、馨が理不尽な事を突きつけられた時もこうして突き放したんだ」
理不尽な理由で一度不合格にされた紫藤。そして、それは入学後もずっと続いていた事は浩樹も知っている。
だが、凪の場合は違う。
理事長が長年待ちわびた大切な存在なのだ。
(大切な存在をなぜ守ろうとしない!?)
少なくても自分なら大切な相手を常に自分の傍に置いて守り抜く。
浩樹は机に拳を打ち付けて返信した。
だが、返ってきた言葉は変わらない。
『やりたいのならやらせればいい。お前は凪を知らない。
彼女は例え負けたとしても次に繋ぐ力がある。
だから俺の凪を信用して欲しい』
「負けると解ってるんじゃないか!あいつ何考えてんだ!?」
越智は叫びに近い声を挙げて理事長を批判する。
「俺の凪!?ふざけんな!そうホザクなら守りやがれ!」
浩樹はそう打って送信ボタンを押すと携帯を閉じた。
「浩樹。もしお嬢ちゃんに何かあったら試合中だろうが止めるぞ?」
唸るようにそういう越智に浩樹は頷いた。
「当然だ。俺も動く」
「いいのか?理事長はお前の親戚の中で唯一心を許せる存在なんだろう?」
理事長の言葉を無視すれば、今後に亀裂が入るのは間違いない。だが、浩樹は動じない。
「所詮、晃も『春宮』の人間だったって事さ。構わん。俺達で凪を守ろう」
「あたしもあいつに睨まれても構わない。そんな事より、お嬢ちゃんの方が大事だからな」
二人は固い握手を交わした。




