第12話:図書室での出逢い
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それから2ヶ月が過ぎ、体育祭が近付いてきた。生徒会では各クラスの実行委員を集め、競技や費用について意見が交わされていた。
「仮装競争で2-Aはギリシャ神の姿になる予定です。それで、ベルトなのですが、かなり予算がかかるのですが」
「ボール紙でいいだろう?」
見も蓋もない帯刀のセリフに2-A実行委員は引き下がらない。
「手を抜きたくないんです」
「あの、それならホームセンターで売ってる紐を編み込んではいかがでしょう。ワンポイントにオーロラ色のビーズで補えば素敵になると思うんです」
凪がそう折衷案を出し、続けて意見する。
「あの頃の帯って素敵ですよね?あたし、個人的にギリシャ神話って大好きなんです。生地がたっぷりのチュニックに腰を魅力的に魅せる太い腰ヒモが素敵なアクセントになって本当に素敵ですよね!」
放っておいたら更にテンションが上がりそうだったので、紫藤が割って入った。
「いかがでしょう?樹神さんのいう通りにしてみては?」
物腰は丁寧だが、帯ごときに特注は断じて許さんという気力に負け、実行委員は大人しく引き下がった。
「よし。決まりだな。次、2-Bは?」
「はい。うちでは……」
こんな調子で会議は続き、終了したのは夜7時を回っていた。
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食堂で夕食を採った後、凪は図書室に向かった。
24時間自由に閲覧出来るが、流石に夕食を採った後の時間は殆ど人はいない。
だが、珍しくそこにはスーツ姿の男性がいた。生徒ならちらほら見掛けはするが、教職員がこの時間にいる事はまずない。
(英語の講師かしら?)
栗色に近い金髪が綺麗な男性。
恐らく20代前半位。グレーのスーツが彼によく似合っている。
(あんな先生なら女子にモテそうだな。
に、してもこの学校ってルックスのレベル高い気がするのはあたしだけだろうか……)
生徒も教師も十人並み以上。選別基準に顔があったりするのか?
と、いう所まで考えて凪は頭を振った。
(そんなものがあったら、あたしはこの高校には入れないよね。間違いなく)
そう思った瞬間、何故か落ち込んだ凪だったが気を取り直して目的の本を探し始めた。
歴史の棚、デザインの棚、美術の棚と巡り目ぼしい本をいくつか取り出し、閲覧する。その中で資料として使えそうな一冊を見付け、夜間貸し出し用PCに書き込むとホクホクしながら立ち上がった。
ふと、視線を感じて振り向くと、先程の男性がニコニコ微笑みながら、凪を見ていた。
「こんばんは。この学園で楽しく過ごせているようだね?」
「はい!毎日があっという間に過ぎるほど楽しんでます」
はっきりとそう答えると、男は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「それは良かった」
(前に何処かで会った気がするんだけど……)
人好きのしそうな温かい笑顔にデジャブを感じ、凪は首を傾げた。
「樹神さん?」
急に黙り込みジッと自分を観察している凪の名を呼ぶと、凪はハッとして慌てて謝った。
「やはり知り合いだったんですね。でも、すみません。あたし思い出せなくて……」
申し訳なさそうに言う凪に男は少し哀しげな表情を浮かべ、自己紹介をした。
「俺は春宮晃。『あきら』と書いて『こう』。もう誰だか解ったかな?」
その名前を聞いて、凪は再び謝った。
顔写真こそなかったが、その名前はあちこちで見掛ける。
「すみません!あたし、理事長さんとは知らずに……失礼しました!」
「ハハ…気にしなくていいよ。
自分はまだ未熟でね、正直理事長としてどうすべきか悩んでいた所に楽しそうな君を見掛けてつい、話し掛けてしまったというわけだ」
春宮は凪に声を掛けた理由を説明すると、彼女の目の奥を覗き込むようにして続けて言った。
「だから、もし君さえ良ければなんだけど、時々こうして俺に学校生活の事とか話してくれると助かるんだけど、無理かな?」
「あたしで、いいんですか?」
男は「勿論」と嬉しそうに笑って、次に会う日を指定すると去っていった。
凪はその後ろ姿に何処か懐かしさを感じて理由を考えたが、やはり思い出せずもどかしさに身悶えた。




