閑話 プランコンペ編
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「しかし、一向に捗った気がしないな……」
健はキーボードから手を離すと、凝り固まった背筋を伸ばすように腕を上へと持ち上げて、仰け反るように椅子の背もたれへと身体を倒した。
「うーん……」
大柄な体格で百キロ近い体重が伸し掛けられた椅子の背もたれから聞こえる、苦情とも取れる軋む音を余所に、健は気持ち良さそうな声を上げるも、終着点が未だ見えず困窮した思考までは爽快とならない。
つい先日、国光の次期機体となるハイブリッド機製作の相談を受けて以降、二人は候補機体の選定作業に取り掛かっていた。
その所為もあってか、ここ暫くの間はゲームを行っていない時間の大半は自室のパソコンに向かい、各機種の部位性能の精査と資料の作成に費やされている。
それは非常に地味で根気のいる作業だ。
機体アンロックにより解禁された三十機以上にも及ぶ上位機種全ての機体を、各部位ごとに選り分け、それぞれの性能と相性の考察をする。
更にその際、ネット上に公開されている情報ともすり合わせて、選定作業も同時にこなしていく。
とは言え、作業の進捗状況はあまり芳しくはない。現状では公開されている情報が少な過ぎて、候補機体を絞り込む段階まで行かないのだ。
「やり始めて実感したけど、これじゃあハイブリッド機が流行らない訳だな」
今現在、プレイヤー達の約半数は未だ初期支給機を使用している。
その所為もあってか、出回っている上位機種の機体情報ともなると、その大半は乗り換えの為のインプレッション情報である。その為、長時間乗り込んでこそ分かるような機体特性や操作時の特徴、推奨される戦術運用と言ったものは、全くと言っていいほど見られない。
そして、このこともハイブリッド機が普及に至らない要因の一つとなっている。
もう少し上位機種が浸透して各種の情報が出回り始めれば別だが、成功者も殆ど見当たらない現状ではどうしても躊躇するのは否めない。
どのゲームに於いても先駆者達は苦労するものだが、このゲームの場合、物が物だけに掛かる費用が非常に高く、その分リスクも大きくなる。
特に国光のような全身の部位全てを変換するフルハイブリッド機への挑戦者は非常に少なく、今は手足と言った一部の部位を変換するに留めるのが主流となっている為、重要となる機種ごとの組み合わせによる相性情報なども非常に偏ったものとなってしまう。
今は僅かに出回っている情報の中から、明らかに不要と判断した該当機種の部位を省く作業に終始している状況である。
遅々として進まぬ現状に苛立ちを感じ、もっと効率の良い方法は無いかと健が思案していると、パソコンからネット電話の呼び出し音が鳴る。
大きく深呼吸をし、気持ちを平常に戻してから健が回線を繋げると、既に馴染となった声が聞こえて来る。
「こんばんは。今平気ですか?」
電話と掛けて来た相手は、ゲーム内で情報屋と言う希有な職を営む、寿人からであった。
以前ひょんなことから知り合い、互いの趣味嗜好が合うことから、現実世界でもちょくちょく連絡を取り合うようになっていた。
「煮詰まっていたので、丁度良いタイミングでしたよ」
「おや、何をしてたんです?」
寿人の疑問に答え、健はこれまでの経緯を説明した。
「なるほど。それはやり方が悪いですね」
「そうですか?」
「そう思いますね。聞いた限りでは、本来の目的に達する前に力尽きそうですよ」
自覚していないような健に対し、寿人は苦笑するしかない。
これは几帳面で凝り性と言う、健の性格が招いた結果だった。
往々にしてありがちではあるが、健はオタク気質である所為か、全ての情報を一度精査してから最良の答えを探そうとしてしまう。その為、時間と労力を多大に費やした結果、出来上がったものに対して労力が見合っていないことも多々ある。
「今は特に有用な情報も殆ど出回ってはいない時期ですし、慎重になるのも分かりますが、もっと気を楽にした方が良い結果が出ますよ」
健としては自分達の手でロボットを製作すると言う、ゲーム開始以来待ちに待った機会だけあって気持ちが先走り、少し根を詰めすぎた感は否めない。
「試行錯誤って言葉もありますし、失敗や調整を繰り返しながら煮詰めて行くのも楽しいもんですよ」
健は寿人の核心を突いた言葉にハッとさせられる。
「それもそうですね。ありがとう。もう少し楽に進めますよ」
「いえいえ。と言う訳で、自分もその話に交ぜて貰えますか?」
「へっ!?」
こちらの話が本題とばかりに、寿人が畳み掛けるように話を進めてくる。
「丁度、こちらも色々と手詰まりになってまして……。少し違うことを楽しみたいかと」
「ほう、理由を聞いても?」
珍しく疲労が滲む声色に、健の興味が惹かれる。
「いやー、実は今、密輸品を扱っていると言う噂の店を探してるんですが、これが中々の難物でして……」
「また、車ですか?」
寿人が旧車を中心としたコレクションをしているのは、仲間内では有名な話である。
「いえ、今回は趣味とは別です。聞いた話だと、何でも品揃えが凄いらしく、他国製プレイヤー機の部品まで揃えているとか」
「そりゃ、凄い!!」
興奮した健が大声を上げる。
ゲームの設定上、プレイヤー機は所属する各国の重要な軍需機密であり、他国への輸出は禁じられている為、自国に侵入してきた機体を戦闘の末に鹵獲するぐらいしか方法が見つかっていない。
それでも機体の状態に関わらず、その希少さから市場では高値で取引をされている。それが新品で入手出来るとなると、一体どれ程の値が付くだろうか。
「でしょ。それで探しているんですが、移動店舗で営業でもしてるのか。手掛かりすら全く掴めてないんですよ」
その言葉を聞き、健は驚いた表情を浮かべる。
寿人は情報屋を営んでいることもあり、多くの人脈や様々な伝手を持っている。それを以ってしても、見付けられないとは、まさに幻の店とでも言えるだろう。
「まあ、それは一旦置いときまして。自分達と国光さんを含めた三人で、次期機体選定のプランコンペを是非開催しましょう。幸い、近々アップデートの為の長時間メンテナンスが入るらしいですし」
「……そう言うことですか」
今は健と国光の二人で案を出し合っているが、やることには変わりは無い。寧ろ人が増えた分、より優れたものが出来上がる可能性もある。
健は僅かに考えるも、すぐに了承の返事をする。
「分かりました。国光さんには自分から話を通しておきますね」
「ありがとうございます。いやー、楽しくなって来ましたね」
寿人の声からも、浮き立つような楽しげな様子が伝わって来る。
それもその筈、寿人も健と同様に自身の機体と言うものを持っていない。元々情報屋を始める切っ掛け自体が、死亡により機体を失ったことに端を発している為だ。
とは言うものの、このゲームに参加する位なので、ロボット自体は非常に好きである。その為、今の自分には必要としていないが、他人の機体であっても製作に関われる機会と言うのは、日頃発散されない欲求を満たしてくれるまたとない貴重なチャンスである。
「取り敢えず、条件としては頭部はスヴァローグⅡのを流用。それと、バックパックは新規の演算ユニットパックを使うことが、既に決まってます」
「了解です。こちらもその条件で色々と案を練ってみます」
その言葉に、健は先程から気になったことを問い掛ける。
「そう言えば、さっき情報が少ないって言ってましたが、寿人の所にも情報は集まってないんですか?」
ネットや掲示板を頼りにするような健達とは違い、寿人は一時ソースとなる多くの人脈を抱えているはずである。それだけに、先程の言葉は気に掛かった。
「正直に言いますと、ハイブリッド機自体の情報はいくつか持ってます。ただ、今回の用途には使えないものなんですよ」
今回のハイブリッド機製作の目的は、メーカー純正の後継機が存在しないスヴァローグのセンサー機能を十二分に発揮させることにある。
現状スヴァローグは非常に希少な機体の為、ハイブリッド機は元より純正機の情報でさえも、殆ど見受けられない。
寿人が持っている情報も、ハイブリッド機ではあるものの、スヴァローグとは関わりが全く無い。それ処かセンサー機ですら無い機体情報の為、今回の件に対しては全く役に立たないのである。
「それは残念」
多少期待してたのか、健の声に落胆の色が見える。
「ふっふっふ。とは言え、これから掻き集めますので、当日の発表を楽しみにしていて下さい」
怪しい笑い声に混じり、自信に満ちた宣言をする。
「じゃあ、発表の日時は改めて連絡しますね」
「了解です。それじゃあ、また」
健は通話を終えると、煮詰まった重苦しい気分もすっかりと晴れ、当初とは一転わくわくとした高揚感に満ちていた。
「あっ、そうだ。国光さんに連絡しないと」
健は携帯を取り出すと、早速国光に今の話を伝え始めた。
事後承諾となったが、国光からは条件付きであっさりと了承が取れた。
条件は唯一つ。知り得た情報の売買禁止。それだけである。
それとプランコンペの日取りも決定した。ちょうど十日後に、アップデートの為の長時間メンテナンスが行われると公式より発表となったので、その日に開催される運びとなった。
開催日が正式に決定したことで、各自の動きも俄然慌ただしくなっていく。今まで締め切りも無く、ただ漫然と考えていたものが人前での発表となる為、とにかく形にしなくてはならなくなったのである。
健も数日で情報集めには見切りを付け、その後の時間はひたすら組み合わせとシミュレートに時間を割いた。
鋼鉄の新世界では、各機の寄せ集めの部位から機体を組み上げることが可能となるとは言え、流石に高価な部位だけに全て自前で試せとは言えない。
運営側もそれらを補佐すべく、公式ページには組み合わせ後の外観イメージや各性能の数値が算出されるシミュレート機能が備えられている。
健は手慣れた様子で早速シミュレーターを起動させると、パソコンに繋げられていた3D照射装置が連動して動き出す。
稼働時に一瞬鈍い音を発すると、十五センチほどの丸い台座上にぼんやりとした淡い光が柱となって現れる。
健がモニター上で機体部位を選択すると、連動するように光の筒の中に3Dホログラムによって作られた機体部位の姿が現れた。
その後も次々と部位を選択していき、機体全身が完成されるとゆっくりと回転し始め、一周した所で停止した。
健はシミュレーターが算出した数値を横目で見ながら、3D照射装置に現れた機体の姿を確認して行く。今まで数値と言ったデータでしか見ていなかったものが、実物となって再現されている。
ハイブリッド機を製作するに当たり、この3D照射装置での確認は必須と言われている。確かに外観デザインなどはモニター上でも様々な角度から確認を取れるが、稼働時の各部位の摺り合わせや不具合を事前に予測することは難しい。
いくら他機の部位を用いて好き勝手に機体を製作出来るとは言え、全ての組み合わせが使用可能となる訳ではない。
例えば今回の場合、頭部にはスヴァローグの部位を使用する訳だが、エレノアの愛機となるマリーアイゼンの胴体には装着することが出来ない。これは頭部を半分埋もれた形で装着するように胴体が設計されたマリーアイゼンに対し、横に広がった円盤状となるスヴァローグの頭部が物理的に装着しない為である。
このように機体のデザインや形状によっては、事前に判明するものもあるが、ものによってはわかり辛い機種も多い。
シミュレーター上ではパッと見上手く装着されて見えるものでも、装甲の一部が擦れていたり、ある可動域に到達すると装甲同士が干渉し合うなどと言った問題が潜在されている。
その為、実際の製作によって、後から不具合が発覚する事例も確認されている。
そのことから少しでも事前に見つけるべく、3D照射装置によるチェックは欠かせないと言われているのだ。
健は3D照射装置に映し出された機体を動かしては様々な角度から確認を取り、性能だけでなく見栄えや機体のバランスなどを検討しながら、組み合わせを試して行く。
するとここに来て、ハイブリッド機を製作する者にとっての最大のジレンマが待ち受けていた。
今まで性能や相性と言ったデータだけを元に選り分けていたものが、現実として形あるものへと姿をなすのである。
「これは……、うーん、他の腕を付けると、性能が一段落ちるし……」
性能をあくまで追求するか、機体のデザイン性を優先するか。機体デザインと一口に言っても、部位ごとのバランスだけでなく、全体としての統一感も重要となる。
部位を付けては取り外しを繰り返し、黄金の配合を見つけるべく、健は頭を悩ませていた。
元々全く異なるデザインの部位同士を組み合わせて、一つの完成機を作り出そうと言うのである。ちぐはぐな個性が衝突し合う組み合わせもあれば、不思議と調和の取れる組み合わせも存在する。
ここは製作者の好みが如実に現れるところであろう。性能を追い求めた結果、ネタのような歪な外観の機体に乗るも良し。デザインを優先した結果、純正機と然程性能差の無い機体に乗るも良し。どこに着地点を見つけるのかは、製作者のセンスが問われることになる。
健の場合は性格的なものもあり、妥協を許さずに性能とデザイン両方の最大値と呼べる、黄金の配合を見付け出そうと模索していた。
性能を優先させた組み合わせから、デザインの浮いた部位を付け換えて行く。付けては戻し、また別の部位を入れ換える。
ひたすらシミュレート機能に掛かり切りとなり、時間の許す限り試行作業を繰り返していった。
それぞれが理想の機体を模索する日々を送る中、いよいよプランコンペ当日となった。
発表者となる三人はそれぞれ似たような状況を経て、今日を迎えていた。
間違いなくゲーム内でも初めてとなる機体の製作である。噴出する問題に対しても、自己で解決を探るしか方法は存在しない。その答えとも言える、一つの形となったものが集まった。
発表会場となる健の部屋には、既に三人の姿が見える。
因みに参加者の一人である寿人は、遠方に住んでいることもあって本日はネット上からの参加となる。
「……何でお前まで居るんだ?」
当然のように、その場に居る未沙に対して、国光が声を掛ける。
「なによー、いーじゃない。楽しそうなことしてるんだもんっ。私の時だって、見せてあげたでしょー」
そう言われると、国光も強くは言えなくなる。
「それに、今日は私が審査いいんちょーをしてあげる!!」
そう言い放つと、腰掛けたベッドの上で偉そうに胸を張って踏ん反り返る。
その様子を見て、国光は諦めたように大きな溜息を吐いた。
「しょうがない。大人しくしていてくれよ」
「任しといてっ。ちゃんといーのを選んであげるから!!」
一人張り切っている未沙を余所に、国光は机に向かい、先程からパソコンを頻りと弄っている健の方へと近付く。
「準備の方はどうだ?」
声を掛けられた健は手を止めると、椅子を回して背後へと振り向いた。
「寿人とも繋がってますし、いつでも始められますよ」
「こっちも良いですよ」
健に続き、スピーカーから寿人の返事も返って来る。
「よし、それじゃあ始めようか。まずは自分の機体なんだし、俺から行こう」
国光はパソコンを操作すべく、机の前の席を譲って貰うと、早速シミュレーターを起動させた。
「これが俺の考える、次期機体だ」
パソコンに繋げられた3D照射装置の上には、ハイブリッド機特有のどこか全体のバランスが崩れた外観の機体の姿が映し出されている。
シミュレーターには大勢で鑑賞出来るようにデータリンク機能が備わっている為、寿人の所でも同じものを見ることが出来る。
「コンセプトは偵察任務にも対応出来る機体だ」
ベースとなる機体は、先日のクエスト時にI.C.O.M.S.のヴァンが乗っていたスフォシークである。胴体と脚部に採用され、腕には操作性に優れ、拡張性の高い、ザロジェニールMk-Ⅱが選ばれた。
既に決まっている頭部にはスヴァローグの円盤が。バックパックには新装備となる、演算ユニットが背負われている。
外観は一言で表現するならば、不揃いと言えるだろう。スフォシークの平面で構成された、独特の多面体形状で組み合わされた胴体と脚部。素体に近いシンプルなデザインのザロジェニールの腕は、まだ許容される範囲だろう。しかし、円盤状をした頭部はデザイン上明らかに浮いている。
またスフォシークの大きな特徴である二本のブレードアンテナは可動部から取り外され、形状が異なる頭部との接合部には大きな隙間開いており、鈍色に光る内部ユニットが覗いている。
性能的には機体出力が及第点ではあるものの、ハイブリッド機であることを鑑みるとやや物足りなさを感じる。肝心のステルス能力はと言うと、スフォシーク純正機に比べると隠蔽性能が74%とまずまずなのに対して、消音性能が52%とかなり落ちている。
「うーん、60点」
どうやら審査委員長である未沙的には、国光案の外観デザインはあまりお気に召さない様子だ。
「品評は全て出揃ってから行うとして、次は自分の案を発表します」
モニター上には、次の機体となる寿人が作成したものへと代わる。
「自分が得た情報ですと、純正機であるスヴァローグは出力不足とそれに伴う装備重量制限に悩まされているらしいので、それらを解消した機体となってます」
円盤型の頭部の下には平均的な機体よりも一回りは大きい、エルンストレームの胴体が採用されている。腕には左腕をエスクートゥアのシールド装甲、右腕にはザロジェニールMk-Ⅱが装着。脚部には機動性に優れた、カグツチ弐型-Nタイプが選ばれている。
性能的には、胴体に採用されているエルンストレームは機体コンセプトの通り、現状最大出力を誇る機体である。また、少しでも装備重量を増やすべく、エスクートゥアのシールド装甲を採用。反対の腕にはザロジェニールMk-Ⅱを選び、装甲の換装や多彩なオプションによって高重量な左腕とのバランス調整を取り易くしている。巨大な胴体、バランスの悪い腕部によって損なわれた機動力を少しでも補うべく、脚部には機動性能に優れたカグツチ弐型が採用されている。
外観を表現するならば、歪の一言と言える。横幅だけでなく、厚みもある角ばったごついデザインの胴体の上には平べったい円盤が載せられ、巨大なシールド装甲をまとった大きな左腕に、痩せ細って見える右腕。それらの機体を支えるには心許無い細身でシャープなデザインの脚部とくれば、異論は出ないだろう。
性能を第一に優先した結果、実にちぐはぐなハイブリッド機らしい仕上がりである。
「むー、45点」
未沙は眉間に皺を寄せながら、最初に発表された国光案よりも低い点数を告げた。
「最後は自分のですね」
モニターに現れた機体は、今までのものと比べると酷く地味な印象を受ける。
「凄く悩みました。色々と迷走もした結果、最終的には原点に立ち返ろうかと。自分の案はセンサー性能を追求しながらも、扱い易い機体です」
胴体に選ばれたのは、センサー機であるガスヴァルディ。設計思想が似ている所為もあってか、やや丸みを帯びた装甲の胴体はそれほど違和感無く頭部と装着されている。腕にはザロジェニールMk-Ⅱを採用し、その多彩な改造パーツを利用することで、搭乗者の好みを反映させ易くしている。脚部にはナキサ二型を選んだ。耐久性に優れた機体で、運動性能の劣るセンサー機ではあるものの、チームの実情から戦闘の際には前線に参加することもあり、無茶な扱いにも耐えれるよう採用した。
今まで登場した三機の中では一番整った外観の機体である。ザロジェニールの腕が純正のままだと、少し素っ気なく感じるものの、キチンと全体が調和された完成度の高いデザインとなっていた。
唯一上げるとすれば、好みにもよるが、バランス的に太く感じる脚部を変えたくなる程度だろう。
「85点!!」
審査委員長を務める未沙から、本日の最高得点が与えられた。
全ての機体が出揃った所で、早速各自の案の品評に移る。
「まずは国光さんの感想を伺いたいですね」
所持者となる本人からの感想を求められ、国光は少し考えるように一旦間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「そうだな。自分の思いもよらない視点からの意見が見られて、非常に面白かった。案を出してくれた二人には礼を言いたい。ありがとう」
「いえいえ、こちらも楽しませて貰いましたから」
寿人の声からは、少し照れくささを感じる。
「それじゃあ、順番に見て行きましょうか。最初は国光さんの案ですね」
そう言うと、健はパソコン上に国光のデータを呼び出す。
3D照射装置には再び見事なまでに、直線と曲線が乖離された機体の姿が現れた。
「なんかバラバラな感じがして、私好きじゃないなー」
審査委員長のデザイン評価は低いようだ。
「そこはしょうがないだろ……」
国光自身も妥協をした点だ。現状偵察用にステルス性能を有している機体はスフォシークしか存在しておらず、例えデザインが合わずともその独特の多面体形状で構成された機体を使用するしか選択肢はなかったのだ。
「この首にある隙間も気になりますね」
寿人は正面と背後、首元二ヵ所に見える隙間を指摘して来た。
流石にシミュレーター上では細かな既存パーツの取り外し位は行えても、特注するしかない補完パーツ類を表示することは出来ない。
「そうですね。装甲で塞ぐことは可能でしょうけど、強度面でちょっと不安ですね」
健はメカニックの視点からも、問題を指摘をする。
胸部装甲とは別の作りとなる為、装甲自体の強度は勿論のこと、胸部装甲との接続強度も重要となってくる。被弾をした際にあっさりと外れては意味が無いのだ。
「何とかなるかと思ったが、そう簡単にはいかなさそうだな」
国光は少し残念そうに呟いた。
「そう言えば、元々スヴァローグも確か当初はステルス性能を持とうとしてたんですよね」
寿人がコンペの為に集めた情報の中に、開発時の逸話としてそのような内容を目にした記憶がある。
図らずも、国光の案はメーカーが実現しえなかった機体の再現と言う一面も持っている。
「ただ、この性能ですと、どっちつかずの器用貧乏になりそうですね」
機体性能を見ながら、健は呟いた。
国光案は両立を目指した結果、上位機種である他の純正センサー機よりも、幾分勝っている程度の性能に収まっている。この性能でも現時点では間違い無く最高値ではあるが、それがずっと続く訳ではない。
更にステルス性能にした所で、一般の機体と比べれば格段の性能を誇るものの、実戦での使用には些か不安の残る数値ではある。
「まあな。色々と試してみたんだが、この辺りが限界だったよ」
元々国光自体もあまり現実的な案だとは思っていない。今回の件が無ければ、作らなかっただろう。
では何故作ったのか。それは保険が掛けられていたからである。
幼少より付き合いがある健のことは、多少なりとも理解している。彼ならば、こちらのことを十二分に配慮し、自分も満足のいく現実的な案を出してくれる。更にもう一人参加するならば、自分は思いっきり理想を追求した実験的な機体を作ろうと思い至ったのである。
「では、次に行きましょうか。寿人の案ですね」
国光案の機体の姿が消え去ると、すぐに別の機体が映し出される。
「これ、ごちゃついてて嫌ーい」
審査委員長からは辛辣なコメントが飛び出した。
「性能は良いんですが、確かに見た目は悪くなってしまいましたね」
苦笑いをしながら寿人は弁明をした。
総体的な機体性能で言うと、この寿人の案が最も優れた機体となっている。センサー性能を向上させながら、戦闘性能をも十分に有しており、数値的には正にハイブリッド機の見本とも言える完成度を誇る。
「この機体は操縦が難しそうだな……」
あまり機体の操縦が得意ではない国光は、実際に動かす所を想像すると、自分では荷が重そうだと感じる。
機体の特徴である左腕のシールド装甲は、その重量もあって機体の取り扱いが非常に難しい。これは実際純正機の所有者であるダリルからも、その苦労を笑い話と共に伺っている。
更には機体バランスを取る為、右腕には別の機種の部位を選択したことで、左右で操作感や動きの癖と言ったものが全く異なって来る。その為、実にハイブリッド機らしく、非常に高い操縦技術とセンスが要求される。
「後は、この癖のある外観を許容出来るかですね」
健は若干口を濁した言い回しをした。
外観デザインは思った以上に重要な項目である。
当初より外観を度外視していたり、ネタ機として所有者が納得しているならばいざ知らず、そうでない場合には後々ストレスとなり、ゲームから離れる切っ掛けにもなりかねない。
そのような理由もあって、審査委員長の意見もあながち莫迦に出来ないのである。
「最後は自分のですね」
再び機体映像が入れ替わり、最後となる健案の機体が映し出される。
「脚はもっと細い方がいいなー」
審査委員長からはアドバイスを頂く。
「やっぱり健もザロジェニールを使ってきましたか」
奇しくも今回出された三人の案、全てに於いて採用された機体である。
ザロジェニールは素体に近い機体設計をしていることもあって、ハイブリッド機にとって重要な要素である他機との相性が非常に良い。また豊富な改造パーツが用意されているので、各個人の細かな要望にも対応が可能となり、ハイブリッド機製作者達の間では非常に高い人気を誇る。
それらの理由から、相談系掲示板などでは「困ったら、ザロジェニールにしておけ」と言われるほど、定番の機体となりつつある。
「センサー機能に関しては、何気に健の案が一番良いんですよね」
寿人が少し悔しげに呟く。
総体的な性能は寿人案の機体の方が勝っているものの、センサー性能だけに限って言えば、健案の方が一歩抜きん出た数値を出している。寿人としてはかなりの数の組み合わせを試し、それなりに自信もあったのだが、それをあっさりと上回られたことに対して、悔しさとも称賛とも言い難い複雑な感情を持っている。
「スヴァローグの上位互換機って感じだな」
国光は自身の予測通りの結果に、満足げな表情を浮かべている。
機体のアンロックによって解禁された上位機種の中には、スヴァローグの名は載ってなかった。しかし、製造メーカーで仮に後継機が製作されたならば、このような性能の機体になるだろうと思わせられる内容である。
高いセンサー性能に、平均をやや上回る程度の各種機体性能。得てして操縦の癖が強くなりがちなハイブリッド機にあって、扱い易さにも重点が置かれ、操縦者にも十分な配慮がなされている。
「悔しいですが、実際に運用することを考えると、健のが一番実用的ではありますね」
寿人の声に、国光も同意を示す。
二人の案は長期の運用を考えると、色々と問題を生じそうな感じである。
国光案は二つの性能を求めた結果、その両方が飛び抜けた数値を持たず、完成初期は良いだろうが後々苦労しそうな気配が濃厚である。
寿人案は数値的には問題無い。ただ、癖の強い機体の組み合わせだけに運用していくに連れ、どの様な故障が起こるのか見当も付かない。最悪、常に調整や修理する為に、整備ドックに入り浸っているような事態も十分起こり得る。
「ねー、だったらさー、これの脚換えよーよ」
「そう言えば、健は何でこれを選んだんだ?」
国光に聞かれ、健は机の前から椅子を引くと、国光達が座るベッドの方へと振り向いた。
「それはですね、機動性がそれほど高く無いので、戦闘時に無茶な扱いをすることも多いかと思い、耐久性に優れたナキサ二型を選びました」
「なるほどな。俺の場合、そこまでの腕が無いからな。心情的には無茶になる前に何とかしたい所だな。もっと機動性が高くなる脚はないのか?」
その話を聞き、寿人は自分が集めた情報を元に、意見を述べる。
「だったら、カグツチ弐型がお奨めですよ。Sタイプなら、更に機動力が増しますし」
自身の選んだ部位を推薦して来た。
「うんうん、カグツチはいい機体だよねー。そっちに換えよー」
前愛機と言うこともあって、寿人の意見に未沙が頻りと賛同する。
健はデータを弄り始め、提案のあったカグツチ弐型-Sタイプのものへと変更する。
すると、機動性能の値が22%も上昇した。
「うんうん、いいねー。これにしよー。けってー!!」
「そうだな。これにするか」
国光は決断を下した。
「それじゃあ、拠点に戻ったらすぐに製作に入れるよう部位集めに入りますね」
「そうだな。早速各メーカーの販売所を調べるか」
健と国光は早くも製作の話をし始める。
「自分もちょくちょく寄らせて貰いますね」
自身も関わりを持った貴重なハイブリッド機の製作過程だけに、寿人も興味津津と言った様子だ。
「ああ、是非完成した機体も見てってくれ」
国光は寿人に声を掛けた。
ようやく次機となるハイブリッド機の青写真は完成した。
そして、いよいよ国光と健の二人は完成機へと至る、長く続く苦難の道を歩き始めることとなる。




