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第四十話 合流

11/11 誤字修正

11/12 報酬内容を一部加筆

 会合を終えると、キース達は途中だった散策を中止にして、一旦現実へと帰還(ログアウト)することにした。

 ゲーム内の時間では、約束まではまだ数日あるものの、それだけの時間で行き来出来る街は残念ながら無い。

 首都から行ける街は三つ。一つは首都に来るまで滞在していたマクノーシ・スラビシュ。後の二つは、東へ四日掛かる『ソルコラヴリ』と西に三日半の『チェロニツィ』だ。どの街に行くにしても、片道だけの日数しか得られない。

 また、初めてのクエストと言うこともあり、攻略を終えるまでにどれ程の時間が掛かるかは全く読めない。その為、万全の体勢で挑むべく、キッチリと休養を取ろうと言う話になったのだ。

 約束の日取りまで、現実でしっかりと休息を取り、それぞれが期待を胸に再びゲーム内へと入って行った。




 約束当日となる日は朝から雲が多く、ここ暫く続いた晴天の日に比べると、気温も大分低くなっている。

 時折吹き付ける強い寒風に身体を縮こませながら、キース達は待ち合わせ場所へと向かっていた。

 どの顔もこの先に待つクエストに浮き立ち、興奮した表情を見せていることからも、期待値の高さを物語っている。

 特にエレノアなどは完全に浮かれた様子で、鼻歌交じりにスキップでもしそうな勢いである。


 待ち合わせた場所は、街の中心部にある傭兵ギルド近くの喫茶店だ。

 古めかしい店の扉を開けると、小さな鈴の音が来店者を迎え入れるかの様に鳴り響く。店内からは朝と言うこともあってか、ひっそりとジャズが流れている。

「オスカー・ピーターソンか……」

 ピアノ一人にベースが二人の変則トリオが奏でる静かな音色が、朝の強張った空気を解きほぐして行く。

 先頭で店へと足を踏み入れたグレンが呟きながら客席を見回していると、奥の方で手を挙げているヴァンの姿を見付けた。

 まだ朝早い所為か、客の姿も疎らにしかおらず、店の一角を占拠でもするかの様に陣取っているヴァン達も然程迷惑とはなっていない様だ。

「待たせたな」

 グレンが挨拶を交わしながら、取って貰っていた席へと腰掛けると、他の四人も順に空いている席へと座った。

 両チームのメンバーが全員揃ったのを確認すると、ヴァンの隣に座る男性が口を開いた。

「全員揃った所で、既に知ってる人もいると思いますが、自己紹介から始めましょうか」

 そう言うと、男性は徐に立ち上がった。

「私がイノ・チーガ・オシー・ミリタリー・サービスのリーダーをしているクルツです」

 クルツは肩に掛かる程長い金髪に、フレームレスの眼鏡を掛けている。レンズを通して見える瞳は青く、顔立ちはややほっそりとしている。チーム全員が御揃いのオレンジ色をしたパイロットスーツを着ているが、傭兵と言うよりは線の細い学者と言った印象を受ける。

 因みにゲーム内の眼鏡には、視力補正などの意味は無く、単なるファッションでしかない。

「次は俺だな。ダリルだ。宜しくな」

 続いて立ったダリルは、逆に絵に描いた様な軍人と言う、いかにもな風貌をしている。

 黒い髪を逆立て、両サイドは少し刈り込んでいる。眼光の鋭い細い目に、無精髭を生やし、クルツとは逆に横幅のあるふっくらとした顔立ちをしている。身長は非常に大柄で185cmを越えている。体付きは風貌に合わせたかの様に、鍛えられたガッチリとした体格をしている。

「……マグスと言います。宜しく」

 短髪の黒髪に、やや太い眉。常に気難しそうな表情をしているのか、額には数本皺が刻まれている。体格は小柄で、160cmを少し超えている程度である。

 前回の会合時に不在だった三人の紹介の後、キース達オレンジ・ブロッサム組の紹介を済ませると、早速本日の本題へと移る。

「色々と話したいことはあるでしょうが、時間が惜しいです。一先ずは置いといて、クエストの話に入りましょう」

「さんせー」

 どうやらリーダーであるクルツが、この場を取り仕切って話を進めて行く様だ。

「この後ですが、まずはクエストを受注したいと思います」

「場所はここから歩いて十分位の所だ」

 補足する様にヴァンがキース達に説明をする。

「と言う訳で、来て早々ですが、早速向かいましょう」

「おー!!」

 拳を振り上げながら立ち上がったエレノアの後に続き、他のメンバーはぞろぞろと席を立つと、店の外へと歩き出した。


 クエストを受注する窓口となる場所は、とある会社のオフィスらしい。

 その建物へと向かって歩く訳だが、早朝のまだ人影も疎らな中、一行は非常に目立っていた。

 それもその筈、十人と言う集団が纏まって歩けば、否が応にも他のプレイヤー達の目を引くことになる。

 チーム毎に少し距離を開けてはいるものの、あまり効果は無い様だ。

「何か、勘繰られますかね?」

 初めてのクエストと言うこともあってか、ビエコフが不安げに声を掛けて来た。

「そんなに心配しなくても平気だろ。それに場所が分かった所でしょうがない」

「それもそうですね」

 グレンの言葉を受け、ビエコフは少し落ち着いた表情を浮かべる。

 暫く歩き続けると、一軒の建物の前で一行を先導していたヴァンが足を止めた。

「ここがそうだ」

 そう言うと、早速中へと入って行く。

 淡いクリーム色に塗られた建物は周囲とも溶け合い、知らずにいれば通り過ぎる程特徴と言えるものが無かった。

 入口となる硝子扉には小さく社名が記入され、唯一それだけがオフィスの存在を示している。

 ヴァンに続いて他のメンバー達が建物の中へと入って行く。

 綺麗に磨かれた乳白色の大理石が敷き詰められたロビーの左手に、赤茶けた高級そうな受付カウンターが置かれている。

 一足先に入っていたヴァンは受付の前に立つと、対応して来た女性に用件を伝える。

「ソフィーヤさん居るか? 条件を揃えたんでヴァンが来たと伝えて欲しい」

「ただ今ソフィーヤに連絡を取りますので、少々お待ち下さい」

 女性はすぐにどこかへと連絡をすると、二、三言会話を交わした後に、ヴァンへと話し掛けて来た。

「すぐに案内の者が来ますので、今暫くお待ち下さい」

 程無くして、受付へと一人の男性が現れた。

「案内しますので、付いて来て下さい」

 四十過ぎ程の気難しそうな男性は、最低限の言葉を伝えると、すたすたと歩き始めた。

 キース達はその後を遅れない様に追って行く。

 階段を昇り、三階へと上がると、会議室らしき大きな部屋へと通される。

 中央には鏡の様な光沢を放つ黒い大型のテーブルが置かれ、その周りには二十脚程の黒い革張りの椅子が配置されている。

「少しお待ち下さい。今ソフィーヤを呼んで参ります」

 それだけ告げると、男性は返事も聞かずに部屋を出て行った。

「なんか感じわるーい」

 不満気に文句を言うエレノアに対し、ディートリンデが宥める様に声を掛けた。

「事務的なだけだと思うから、気にしない方が良いわよ」

 取り残されたキース達は上座となる席を開けて、テーブルの両側の席に各チームに別れて座ると、大人しく待つことにした。

 暫くすると、依頼主である女性が、先程の男性を伴って部屋へと入って来た。

 歳の頃は三十代の半ば位だろうか。キッチリとスーツを着こなした、有能そうだが少しきつい感じの印象を受ける。

「待たせたわね。じゃあ、早速確認の為にチームカードを見せて貰いましょうか」

 女性は上座となる席に着くと、開口一番挨拶も飛ばして告げて来た。

 キース達はいきなりのことに驚くも、すぐにチームカードを取り出すと、取りに来た男性へと手渡した。

 男性は手に持った端末でカードを読み取らせると、登録情報の確認を行っている。

 二枚とも確認が取れると、男性は上司である女性の方に向かって肯いた。

「改めて、今回の件の責任者になるソフィーヤと言います。まずは説明の前に、こちらを見て下さい」

 男性が端末を操作すると、テーブルの天板に地図を表示した大きな窓が現れた。

 地図には、ここミーヌフクスの街周辺が描かれている。

「今回依頼するのは、廃墟となった工場の調査と不審なARPSの排除です」

 告げられた依頼内容に、キース達オレンジ・ブロッサムの五人に緊張が走る。キース達には未だ討伐経験が無く、今回が初めての依頼となる。

 ソフィーヤは一瞬キース達へと視線を向けるも、すぐに話を続ける。

「場所はここから一日半程行った、こちらになります」

 指し示されたのは、ミーヌフクスの街を出て、街道を東へと一日程進んだ地点から、南へと半日程下がった場所になる。

「こちらで掴んだ情報によりますと、三ヵ月程前から廃墟周辺で、不審なARPSの目撃が頻発する様になりました」

「機体の種類や数は解っているのですか?」

 クルツが質問をすると、ソフィーヤは首を横に振った。

「いえ、不明ですが、それ程多くないと予想されます」

「あの、調査と言うのは、占拠されているかどうかの調査ですか?」

 続けてキースが質問をする。

「違います。占拠者が居ることは既に判明していますので、その場で何を行っていたのかを調べて貰います」

「それは俺達で分かる様なことなのでしょうか?」

 変にリアルに作られたこのVR空間に於いて、現場調査など酷く難易度の高い依頼となりそうである。

「調べるのはこちらでやりますので、あなたがたにはその手掛かりとなる品物を持ち帰って貰えれば結構です」

「そうですか、分かりました」

 十分自分達でも可能な範囲の内容に、キースはホッとした表情を見せる。

「一つ良いか?」

 グレンが小さく手を挙げて尋ねる。

「どうぞ」

「ここはどう言った内容の仕事をしている会社なんだ?」

 外観には看板と言った存在を示す様なものは一切無く、内部はロビーと言い、この会議室内の家具と言い、かなり高価な内装をしている。

 そのギャップから来る違和感が、グレンの興味を引いた。

「詳しくは申せませんが、国内に於ける安全管理を仕事としています」

「そうか」

 その答えに、グレンの他にもキースやクルツ、シャバックと言った面々が、少し考え込む様な仕草を見せる。

「他に無ければ、報酬の話に移ります。報酬は成功報酬とさせて貰います」

 ソフィーヤは一旦話を止めると、左右に座る両チームのメンバーの顔を見渡した。

「報酬額は、基本報酬にARPS八機分の諸経費を合わせた金額になります。それとは別に、持ち帰った品物から得られた情報次第で、追加報酬を検討致しましょう。現場内に残された武器や機体などは、貴方達の好きにしてくれて結構です」

 そう言ってソフィーヤが提示して来た金額は、決して多いとは言えない。中破以上の破損が四機も出れば、その修復代で吹き飛んでしまう程度の金額である。

「こちらの条件で良ければ、契約となります」

「分かりました。その条件で御受けします」

 全員を代表する形で、クルツが依頼を受注した。

 依頼の受諾を受けた男性は端末を弄ると、カードに情報を書き込んでいる。

「カードの方にも登録を済ませました。以降、成否に関わらず完了しない限り、他の依頼(クエスト)は受けられない様になりますから、注意して下さい」

 そう言うと、男性の方からカードが返却された。

「では、成功を祈っています」

 それだけ告げると、ソフィーヤは来た時と同じく、男性を伴い颯爽と部屋を出て行った。

 暫し全員が押し黙って座っていると、クルツから声を掛けられた。

「よしっ、それじゃあ張り切って行きましょう」

 その言葉を受け、キース達は一気にやる気を漲らせる。

「行くぞー、おー!!」

「「「おー!!」」」

 エレノアがまた掛け声と共に拳を突き上げると、今度はクルツやダリル、マグスの三人が追随して来た。


 キース達は建物の前で一旦別れると、それぞれ機体を取りに向かう。

 預けてあった整備場でアイバンを受け取ると、クルツ達と合流すべく街の境界広場へと急いだ。

 まだ午前の早い時間だけあり、広場は閑散としており、先に到着して待っていたクルツ達の二台のトレーラーはすぐに見付かった。

 二台のトレーラーはキース達が以前まで使用していたものと同じ、開始時より売られている輸送車両だった。

 荷台には雪を防ぐ為の幌で覆われており、僅かに荷台が短い車両の座席の屋根には、除雪用のスノーカッターが載せられている。

「お待たせしました」

 ビエコフはトレーラーの隣りへとアイバンを付けると、窓を開けて声を掛けた。

「来ましたか。この先、連絡は無線を使って行いましょう。1508チャンネルが空いていますので、そこを共通回線とします」

「分かりました」

 無線のチャンネル数を合わせると、スピーカーからクルツの声が聞こえて来た。

「聞こえていますか?」

「大丈夫です」

 無線機の前に座るキースが返答をする。

「じゃあ、私の居る車両が先頭を走ります。殿をヴァン君達に頼みますので、キース君達は間に入って、索敵の方を担当して下さい」

 初回の会合で役割などの擦り合わせは終えている。その為、特に混乱や相談も無く、分担を割り振っていく。

「了解です」

 スノーカッターを装備したトレーラーが走り出すと、その後に続きアイバンを発進させる。

 広場を出ると、三台の車両は左手に山脈を見ながら、街道を一路東へと進んで行く。

 この辺りは山脈が近い所為か、山脈側となる北は多くの木で生い茂った密度の濃い森が広がっている。

 街道を暫く走っていると、突然エレノアが窓の外を指差しながら、大きな声を上げた。

「あーっ、あそこ雪が削れてるー!!」

「うわぁ、相当な量が流れたな……」

 グレンがげっそりとしながら、エレノアが指摘した場所を眺めている。

 ここ数日晴天に恵まれ、日中の気温も高いことが影響してか、山の中腹の雪がごっそりと雪崩によって崩されていた。

 流石に距離が離れている為、街道が雪に塞がれるなどとはなってはいないが、麓付近に生えていた木々は雪に押し流され、白い雪崩の後に点々と木の残骸が入り混じっていた。

 暫くの間は隣街へと通じる幹線街道を走行していたが、昼食を済ませた辺りで街道とは別れを告げて、裏道となる様な旧街道へと入って行く。

 利用者が途絶えて久しいであろう旧街道は、所々瘤や窪みなどがいくつも見られ、降雪した状態のまま凍結した荒れた路面となっていた。

 道幅も狭く、トレーラーだと擦れ違うことが非常に厳しい。周囲の雑木林は木も少なく閑散としているものの、道と木々の距離が近く、日が陰っており、幾分肌寒く感じる。


 初日は特にトラブルも起きず、敵の襲撃を受けることも無く、順調に街道を進み、野営予定地へと到着した。

 幾分広めに木々の途切れた場所へと車両を停めると、ヴァン達が何やら大きなテントを建て始めた。

「これって、なーに?」

 気になったのか、エレノアは一人真っ先にアイバンから降りると、組み立てている傍へと駆け寄った。

「こいつは多人数用の大型シェルターだ」

 邪魔だとばかりに手で追い払いながら、ヴァンは組み立て続けている。

 今日は曇っている所為でここ数日よりも気温は低く、時折風も強く吹き付けている。打ち合わせを兼ねた夕食を取るには、流石に野晒しではまだきつい季節である。

 今組み立てているものはグレンが購入したシェルターなどとは違い、十五本にも及ぶポールを組み合わせた半円形となるドーム型のシェルターだ。完成したドームの直径はおよそ6m、高さも3mにも及ぶ巨大なものである。

「いやー、こちらから誘いましたし、前から必要だと思ってましたので、今回を機に買ったんですよ」

 組み立てている様子を見ているキース達に、クルツが話し掛けて来た。

「この大きさなら、十人は余裕で入れますね」

 着々と出来上がりつつあるシェルターを眺めながら、感嘆した様にキースは答えた。

 暫くして、シェルターが出来上がると、早速中へと足を踏み入れる。

「それで椅子を各自用意しろと言ってたんですね」

 キース達が中に入ると、先に入っていたヴァン達が各々の椅子を取り出して座っていた。

 早速キース達も各自が購入した折り畳みの椅子を取り出すと、夕食の準備に取り掛かる。


 両チームの交流も兼ねて、本日のメニューは寄せ鍋である。

 多人数だけに鍋を二つ使用して、各メンバーが入り混じった状態で車座に囲って食事を始める。

「うまっ、うまっ」

「かーっ、寒い中で食うと、一段と旨いな」

 エレノアの隣に座るダリルが、歳を感じさせる様に唸った。

 日が暮れて冷え込む中、湯気を立てた御椀を持ち、熱くなった具材をハフハフと頬張りながら、誰もが美味しそうに笑みを浮かべて食べ進める。

「最近、新しい情報は何か入りましたか?」

 クルツは先程からかきこむ様に食べているヴァンに尋ねた。

 クルツ達会社員三人は平日のプレイ時間が限られている。その為、週末毎にヴァン達が集めた情報を聞いては、チーム内の認識の共通化や今後の指針への参考にしていた。

 ヴァンは出汁の染み込んだ肉団子を口に入れると、もぐもぐと咀嚼しながら、この一週間で得られた情報の中から報告すべきものを吟味する。

「んー、俺の方は特に目新しい情報は無かったな」

「そうですか。シャバック(長老)の方はどうですか?」

 具材のエキスが滲み出たスープを堪能する様に、御椀を傾けて飲んでいたシャバックは、キッチリと最後の一滴まで飲み干すと、満足気に大きな息を吐いてから顔を向けた。

「そうじゃな……、そう言えば、一昨日闇水が解散したそうじゃぞ」

「えっ、マジ!?」

 ヴァンが驚きの声を上げる。

 話についていけず、キョトンとするキース達を余所に、クルツ達は盛り上がっている。

「何でも二つに割れたとか言っておったの」

「あそこは元々仲悪かったからな。時間の問題って感じだったろ」

 説明を続けるシャバックに対し、ダリルが口を挟む。

「それですと、この先帰還兵の争奪戦が活発になりそうですね」

「……今止めた奴は災難だな」

「かぁー、やだやだっ」

 近い将来訪れるであろう展開を見据え、マグスとヴァンはうんざりとした表情でぼやいている。

 盛り上がっているクルツ達に、恐る恐るキースが声を掛ける。

「あのー、闇水や帰還兵って何ですか?」

 その言葉に、一瞬の間が空く。

「おや、知りませんでしたか」

「闇水ってのは、高ランクに位置する中でも有名なダークウォーターってチームのことだ」

 意外そうに驚いているクルツに代わり、ヴァンが説明をして来る。

「他に有名所だと、月虹ステイトだろ。後はストパンって呼ばれている|第5001統合戦闘機甲団ストライク・パンツァー

notorious(ノートリアス)なんかも有名ですね」

 いずれも初めて耳にする名前に、キース達は興味深く聞いている。

「それと帰還兵と言うのは、元戦闘競技場(バトリング)選手のことです」

「対人戦闘をしてたから、そこらの一般プレイヤーよりも腕が良いって、チームを強化するのに人気になってんだ」

 どうもフィールドプレイヤーが見下されている様に感じるのか、ヴァンは気に入らないらしく、その後もブツブツと文句を言っている。

「トップチームですか……」

 ようやく三本線へと昇格を果たした、今のキースからはトップチームなど遠い存在である。

「そんなに自分達を卑下するもんじゃないぞ。トップチームだからと言って、その全てのチームが強い訳ではないからのう」

「そうなんですか?」

 その発言に驚いたキースは、シャバックの方へと視線を向ける。

「そりゃ、そうさ。ギルドランクはあくまで請け負った仕事に対しての評価。強さランクじゃ、無いんだぜ」

 隣に座っていたダリルもそんなことを言って来る。

「もっとも、上に行きゃ必要となる武力も多くなるから、強い奴も居るがな」

 そんな話をしていると、他チームの情報にはあまり興味が無いのか、退屈そうにしていたエレノアが口を挟んで来た。

「ねー、それよりさー、おじーちゃん達ってどうやって知り合ったの?」

「わし達のことか?」

 シャバック達は虚を突かれ、一瞬顔を見合わせると、期待に満ちた目を向けて来るエレノアに始めるまでの経緯(いきさつ)を話し始めた。


 元々シャバック達五人は、クルツが管理人を務めている大型SNSサイト内のロボット系コミュニティの常連達であった。

 取り扱う範囲もアニメに限らず、小説やゲーム。果ては実写映画まで、幅広く網羅している。

 話題も作品内容やロボットデザインから、政治的役割や軍事運用、技術論など多岐に渡り、非常に内容が濃いことでも有名だった。

 十代から六十代までと年齢の幅はあったものの、互いに他では理解が得られない話だけに、年齢差に関係無く楽しい日々を送っていた。

 そんなある日、五人の下に鋼鉄の新世界の情報が届く。

 ロボット対戦を謳ったVRゲームと言うことで、ロボット好きが集まっているコミュニティ内は大騒ぎとなった。

 当然の流れとして、五人も周囲の熱狂の渦に巻き込まれて参加を希望したが、ここで大きな問題が立ちはだかった。

 それはファンタジー系VRが全盛の中、物珍しさも手伝って、第一陣の参加希望者が殺到したのだ。そうなると待っているのは、参加枠の獲得競争である。

 五人の中では一人も欠けること無く、全員での参加が絶対条件であった。だが、流石に獲得競争となると二、三人ならいざ知らず、五人全員分の確保は非常に難しい。

 そんな諦めムードとなった時、動いたのがシャバックだった。数年前に定年を迎え、引退をしていたが、以前の人脈とコネをフルに使い、全員の枠を確保して来たのだ。

 それにより、五人は脱落者を出すこと無く参加することが出来、今日に至ったのである。


「おー、おじーちゃんすごーいっ!!」

「伊達に歳を取っておらんわ」

 称賛とも尊敬とも取れそうなエレノアの視線を受けるも、動じること無く、シャバックは飄々と受け流していた。

 その後は、キース達も今までの経緯を話し、互いの親睦を深めながら初日を終えた。

 翌日は依然雲はあるものの、前日よりも少なく、所々に透き通る様な青さを見せる空を覗かせている。

 一行は食事を済ませ、移動を開始すると、程無くして分岐地点へと差し掛かる。

「ここで良いのか?」

「渡された地図によりますと、この場所で間違いないですね」

 キースが困惑した様に呟くと、地図を見ていたビエコフが再度確認をして答えた。

 分岐地点は旧街道の途中であり、特に脇道などは見当たらない。地図の指し示す方向には、確かに木々の隙間が広く開いてはいるものの、雪深い雑木林の中へと進まなくてはならない。

 その時、キース達の困惑を見通した様に、クルツから連絡が入った。

「地図に依りますと、ここを南へと曲がる様です。こちらが除雪しながら進みますので、その後を付いて来て下さい」

「了解です」

 先頭を行く、クルツの乗ったトレーラーはゆっくりとスノーカッターを車両の前へと降ろすと、早速除雪を開始した。

 高速で回転する刃が凍り付いた雪を切断し、上部に取り付けられた通雪筒から進路の脇へと噴き出して行く。

 通り過ぎた後には未だ雪が残ってはいたものの、降雪の重みで引き締まった雪面は通行に支障はない。

 除雪をしながらの為、進行速度は低下したものの、どうにか夕暮れを迎える前に目的地近辺へと到着した。

 一同はベースキャンプとなる大型シェルターを設営すると、早速打ち合わせを始める。

「目的の場所までは、まだ30km近く距離がありますが、これ以上のトレーラーでの接近は敵に捕捉される恐れがあります」

 進行役となるクルツの言葉に、皆も同意を示す様に肯いている。

「そこで、まずはセンサー機を持つキース君に、建物の配置や周辺状況などを調べて貰います」

「分かりました」

 指名をされたキースは真剣な表情で答える。

「それと、長老とマグス君は護衛をお願いします」

「了解じゃ」

「……分かった」

 早速指示を受けた三人は機体に搭乗するべく、各トレーラーへと向かって行った。


 真っ先に姿を現したのは、キースの乗るスヴァローグであった。

「ほう、これはまた……」

「レドーム機か。嫌いじゃないぜっ」

 初めて間近に見る希少(レア)な機体に、クルツとダリルは好奇の視線を向ける。

「良いねえ。やっぱり、こう言うマニアックな機体に乗らねえとな」

 ヴァンはニヤリとした笑みを浮かべながら、早速スヴァローグへと近付くと、その周囲を歩きながら様々な角度から観察している。

 すると、時を置かずして、シャバックとマグスの機体も姿を見せる。

「あーっ、カグツチだー!!」

 エレノア達も他のプレイヤー機に興奮している。

 シャバックが駆るのは、エレノアの前愛機でもあったカグツチ壱型のNタイプである。

 通常時のカーキグリーンの塗装が、薄らと下に透ける白い冬季迷彩を施された機体は、急造風な仕上がりとなっている。

 Nタイプはエレノアが使っていたSタイプよりも装甲に厚みがあり、ややふっくらとした印象を受ける。

 武装は左手には大振りな四角い盾を構え、右手には太い筒となるバズーカを肩に掛け、予備弾倉を詰め込んだアイテムパックを背負っている。

「その後ろは、ザロジェニールMk-Ⅱですね!!」

 チラッと一瞬だけ見えた機体の特徴から、機種を当てたビエコフが一際興奮した様子で叫んだ。


 このザロジェニールMk-Ⅱと言う機体は、公開されたIランクの機種の中にあって、一風変わった設計思想をしている。

 性能的には癖の無い操作性で扱い易い半面、能力は欠点と言える所も無いが秀でた所も無い、極ありふれた平均的な機体である。

 では、どこが変わっているのか。通常ARPSは売られている状態が、メーカー側から示された完成品とされる。設計思想に基づき、多くの改良や修正が施された、一つの答えと言えよう。

 ところが、ザロジェニールは違う。完成品としてではなく、あくまで素体として存在するのだ。

 これは未完成品が売られていると言う訳ではない。購入者、それぞれの好みや特徴、個性に合わせられる様、改造し易いベース機体として始めから設計されている。

 殆どのARPSの場合、改造と言えば共通規格化された連結部を用いての部位(パーツ)の交換、外部武装の追加、もしくは内部ユニットの入れ替えが一般的である。

 しかしザロジェニールの場合、設計段階より改造されることが前提で作られている為、通常ではありえない外部装甲の換装や追加装備(パーツ)の装着さえも実現している。

 その為、メーカー側からも数多くの純正オプションが出され、またサードパーティーによる市販のパーツ類も非常に豊富である。

 ロボット好きなら誰しもが一度はプラモデル製作で経験をしたであろう、設計の意図などを無視した好みの装備(パーツ)や武装をふんだんに盛り付けた魔改造機。それを実現し得る機体。それが、このザロジェニールMk-Ⅱなのである。


 外観には大きな特徴と言えるものは無い。戦闘機のパイロットが被るヘルメットに酷似した頭部。西洋の甲冑の様な、丸みを帯びたデザインの胴体と手足。あくまで素体である為か、素の状態だと飾っ気が一切無く、簡素とも思えるデザインのARPSである。

 マグス機は追加装備として、アイカメラ保護用のスモークシールドを装着。肩の装甲も側面に向けて、短いアームによって持ち上げられた小型の追加装甲が付いたものへと変えられている。胸部装甲も純正品が取り外され、角張り、厚みのあるメーカーオプションの装甲へと換装されている。

 機体が装備する武装は、大きな盾とアサルトライフルと言う一般的な構成。背面装備も予備弾倉を所持する為に、アイテムパックを選択している。


「さてと、それじゃあ行こうかの」

「了解です」

「……了解」

 通信回線の設定などの準備が整うと、三機のARPSは日が沈み始め、夕焼けに染まる雪深い雑木林の中へと入って行く。


 三機のARPSが偵察任務へと向かった。いよいよ敵拠点への攻略が始まる。

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