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第四十一話 斥候

11/25 誤字修正

 夕暮れの空にいくつもの帯状の雲が流れ、赤く染まった雲と蒼い空が幾重にも折り重なっている。

 昼間は空を厚く覆っていた雲だが、その大半は上空を強く吹く風に流され、西の空に僅かに残る程にまで減らしている。


 偵察に出た三機の機体は僅かに樹氷を残す林の中、雪煙を巻き上げながら奥へと疾走して行く。

 シャバックのカグツチ壱型が露払いの為に先陣を切り、殿を務めるのはマグスのザロジェニールMk-Ⅱ。キースのスヴァローグⅡは二機に守られる形で、その間に挟まれている。

 昔は廃墟へと続いて行く連絡路であった道からは、少し離れた雑木林の中を進んでいる。

 ここ暫く晴天に恵まれた所為か、冬の間木に降り積もっていた雪も徐々に溶け落ち、茶色く色付いた樹皮の姿も多く見かける。

 この辺りは平坦な地が多いシュネイックでは珍しく、急勾配の坂が連続して続く高低差が激しい土地である。短い斜面を滑り降りると、その勢いを駆って目の前に迫る急な坂を駆け上がる。斜面だからと言って、スキーの様にターンなどを繰り返して速度を落とすと、今度は坂を上がれなくなる為、怯まず一気に滑り降りる。

 そんなアップダウンの激しい道程を進んで行くと、ようやくそれらしい場所をスヴァローグのセンサーが補足する。

――マスター、方位1-7-1、距離17.1kmに建造物を探知しました――

「分かった。長老、マグスさん、目標を発見。機体を停止して下さい」

 キースの合図を受け、三機の機体は静かに停止した。

「長老達の機体はジャミングを使えますか?」

 敵の拠点ともなれば、当然警戒の為に周辺の索敵は行っているだろう。

「いや、残念じゃが、わしらは二人共隠蔽系は使えん」

「そうですか。なら、ここからは俺一人で行きます」

 敵の探知精度がどの位なのかは不明だが、不用意に近付き過ぎなければ、短時間ならジャミングで誤魔化せるだろう。

「分かった。わしらはセンサーに引っ掛からない様、この周辺で待機しておるので、何かあれば連絡を寄越してくれ」

「分かりました。じゃあ、行って来ます」

「……気を付けて行け」

「はい」

 キースはジャミングを展開させると、先程とは打って変わり、速度を落として慎重に奥へと進んで行く。

 目標となる建物へと近付くに連れて、坂の傾斜も緩やかになり、徐々にではあるが周囲の林の様子も変わっていく。木々の間隔が広がって空白地帯が所々に生まれ、上空から見ると斑模様に見えるだろう。

 日が沈みつつあるとは言え、未だ周囲は明るく、姿を隠す為の遮蔽物が少なくなるに連れ、スヴァローグは歩行速度にまで落ちて行く。

 それでも10km圏内に入ると、ようやく建物の全容が明らかになった。

 目標の廃墟は三棟の建物と、それらを取り囲む塀によって構成されていた。建物はHの文字の形に配置され、右側部分の建物だけは大きく作られている。出入口は正面となる場所に付けられた一箇所だけ。巨大な鉄扉で守られた門だ。四方を囲んでいる塀はコンクリート製で厚さもあり、高さも4m近くにも及ぶものだ。

 警備の為のARPSの姿も確認された。入口の前に陣取り、周囲を警戒しているARPSが一機。一世代前の旧型機であるレーシィ・シェースチが、アサルトライフルを装備して警戒に当たっている。

 入口と建物との間の広場に当たる部分には、八連のロケットポッドを装備した装甲戦闘車が二台と対ARPS用砲門を搭載した装甲戦闘車が一台。左右に別れて配置されている。

 そして気になる情報も上がって来る。

――マスター、人が使用していたと思われる場所を感知――

「なにっ!?」

――既に人の気配はありませんが、その部屋だけ室温が20℃を越えています――

「場所はどこだ?」

――左側の建物の一階部分、一番奥の部屋になります――

 恐らく占拠者達は、そこを居住スペースとして利用していたのだろう。その部分だけ、サーモグラフィーの表示が赤く色づいている。

――それと右の建物内にARPSの熱源を感知。その数、六機。他にも機体らしき反応があり、総数は十機前後と思われます――

「機種と武装は分かるか?」

――いえ、建物の影響を受け、そこまでの詳細な情報は掴めません――

「そうか。引き続き、データ収集を頼む」

――了解です――

 センサーの性能や索敵距離によっても、情報の精度は変わって来る。特に建物内部の情報に関しては、外部からでは確度の高い情報は得られない様になっている。

――マスター、敵の拠点及び周辺情報の入手終了しました――

「お疲れ。敵の動きも無いな?」

 まだそれ程近づいてはいないとは言え、情報収集の為に短く無い時間、一ヵ所に留まり続けている。

――到着時より、敵の動きに変化は見られません――

 その言葉を聞き、キースは幾分ホッとした表情を見せる。

「よし、見付かる前に、とっとと戻ろう」

――了解です、マスター――

 キースは機体を反転させると、その場を後にした。




 キース達が無事にベースキャンプへと戻る頃には、すっかりと日も暮れて、辺りは夕闇に包まれていた。

 一行は早めの夕食を取りながら、持ち帰った情報を元に作戦を検討し始める。

「さて、キース君のお陰で、敵の拠点情報を得ることが出来ました」

 進行役となるクルツが自身の持つ端末を見ながら、話を進めて行く。

 既にキースが掴んだ情報は、各自の端末へと送信されている。

「これによりますと、敵は入口が一ヵ所しか無いと言うこともあり、その周辺に固まっている様ですね」

 四方を塀で囲まれている為か、敷地内を広範囲に徘徊する様な動きは見られなかった。

「つってもよー、敵はこれだけじゃないだろ」

 ダリルの言葉に、キースは得られた情報を伝える。

「右側の建物の内部に、十機前後のARPSの反応がありました」

「大きさから推測すると、中央と左側のがオフィスで、右側が工場の建物っぽいな」

 グレンは地図となった情報を見ながら呟いた。

「敵ARPSの情報が不明な以上、強硬手段は下策でしょう。ですので、ここはひとっ走りして、一度見て来て貰おうかと思います」

 クルツの視線がヴァンへと向けられた。

「となるとじゃ……」

「パシリの出番だな」

「だからっ、パシリって言うな!!」

 日常的なやり取りなのか、からかう様な笑みを浮かべるダリルにヴァンが噛み付いている様子を、他のメンバーが愉しげに眺めている。

「ヴァン君の他には、帰って来て早々で申し訳ありませんが、もう一度キース君と……」

 思案する様にクルツの視線が彷徨っていると、マグスが自ら申し出た。

「……自分が行こう」

「では、マグス君も含めた三人で、改めて斥候に出て貰います」

「分かりました」

 キースが了承を告げると、ようやくヴァンも戻って来る。

「くそっ、帰って来たら、二度と言えない様にしてやる」

 そう言って、外へと出掛けるヴァンにダリルから声が掛けられた。

「相手の詳細が不明なんだ。あんまり無茶な真似はすんなよ」

「分かってる。任せろっ!!」

 三人はそれぞれの機体へと向かった。


 残る他のメンバーも出発を見送るべく、シェルターの外へと一旦出た。

 空はとっぷりと日が暮れて、夜の闇が辺りを包み込み、空には冬の星座が名残惜しげに、最後の時を瞬いている。

 流れ去る雲で、時折隠れるものの、満月を幾分欠いた様な大きな月が煌々と照らし、夜とは言えしっかりとした視界が得られている。

 そんな中、一度偵察に行き、外で待機をしていたスヴァローグとザロジェニールの傍へと、ヴァンの乗る機体が姿を現した。

「うおお、スフォシークだっ。この目で直に見れるとは!!」

「なーに、あのへんなのー!?」

「随分と変わった機体に乗っているのね」

 その異様とも言える外観に、エレノア達が騒ぎ出す。


 スフォシークは上位機種となるIランクから登場した、敵地への潜入偵察用に開発されたARPSである。

 単独で敵状偵察を行える様、レーダーなどの索敵から逃れる為の様々な工夫が各所に施されている。

 外観の大きな特徴は、一般的な頭部部位(パーツ)が排除されていることだろう。頭部が収まる場所には、真上から見ると縦に伸ばされた六角形の膨らみが代わりに装着され、前方だけでなく後方にもアイカメラが付けられている。

 また、その六角形の膨らみの左右、丁度付け根に当たる部分からは鋭角なブレードアンテナが二本装着されている。

 全身を覆う機体装甲自体もレーダーから発見されにくくする為に、平面で構成された独特の多面体形状で組み合わされている。装甲に使用される塗装にも、つや消しをされた特殊な電波吸収性塗料を採用。これにより敵の探知から逃れるだけでなく、ジャミングなどの隠蔽効果を増幅させている。

 その一方、敵レーダーからの索敵を逃れる為、サイズの大きい装備は所持出来ない。ライフルやガトリングガンなどの大型火器は勿論、身を守る為のシールドも装備出来ないなど様々な制限が科せられており、戦闘時には一抹の不安が生じる機体でもある。

 その様な条件もあって、ヴァンの機体はサブマシンガンを一挺持っただけと言う、非常に簡素な装備だった。


「しかし、恐ろしく静かな機体だな……」

 グレンはスフォシークを間近で見上げながら驚いていた。

 通常ARPSは静止状態でも出力ユニットなどからは絶えず稼働音がしており、行動時には駆動個所からも音が漏れて、非常に大きな音を響かせて動いている。

 その為、比較的静かだと言われる様な機体であっても、実際に傍に寄るとかなりの音量を周囲に振り撒いていたりもする。

 ところがスフォシークの場合、偵察用に設計されていることもあってか、静止状態だけでなく、コンテナより出て来た時の稼働時に於いても、非常に小さな音しかさせていなかった。

 グレン達の目の前には三機のARPSが立ち並んでいるが、スヴァローグとザロジェニールの稼働音に掻き消され、スフォシークは機体が停止しているかと見間違う程音がしていない。

「じゃあ、行って来るぜ」

 ヴァンは見送りに来たメンバーへと向かって、機外スピーカーを使い挨拶をすると、スッと音もさせずに静かに走り出した。

「うーん……」

「エリーちゃん、どうかしたの?」

 ディートリンデは隣で頻りに唸っているエレノアへと声を掛けた。

「あのロボット、なーんか静かすぎて変な感じがするー」

 この辺りの感覚は、自動車に例えると分かり易い。ガソリンを燃料とする自動車に乗り慣れている人が電気自動車に初めて乗ると、その余りの静かさに稼働状態を把握出来ずに不安を覚えたり、操縦時の満足感が得られないなどと言った感想が出るのと一緒である。

「偵察機なんだから、大きな音を立てたらダメでしょう」

「うーん、でも……」

「言いたいことも分かるわ。確かに、人によっては操縦した時の充実感が得られにくい機体よね」

「そう、それそれっ。こうね、ぐあーって気持ちが盛り上がらないの!!」

 去って行く機体の後ろ姿を見ながら、エレノア達はあれこれと感想を交わしていた。




 煌々と光り輝く月明かりに照らされ、僅かに残っている樹氷が煌めく雑木林の中にあって、周囲に一切の光を発しないスフォシークの姿は一際異様に見える。

 先頭を行く、ヴァンのスフォシークの後を追いながら、キースはその特殊な機体を興味深げに観察していた。

 真白な冬季迷彩に塗られた機体は、通常の多くの機体とは異なり光沢が全く無い。手で触れれば、ざらざらとした触感が得られそうな塗装面は、実際には滑らかで不思議な仕上げとなっている。

 その塗装は見た目だけでなく、異様な現象をも引き起こしていた。スヴァローグやザロジェニールの機体には、雪上の走行によって各所に掻き分けた雪が張り付いている。ところがスフォシークの機体には雪どころか、一欠片の塵すらも付いておらず、フィールドで使用されながらも新品の状態を保持し続けている。

 これは電波吸収と言う特性上、機体に付着物があると効果が著しく低下する為、特殊コーティング剤が含有されているからだ。その為、例え泥水を被ろうとも決して汚れないと言う、アニメに登場する機体の様な状態が再現されている。

「うーん、これは仕様とは言え、好き嫌いが分かれそうだな……」

 これは模型などでも、新品の綺麗な状態を好む人もいれば、幾多の戦場を戦い抜いた貫禄を醸す機体を好む人もいる。人それぞれに嗜好はあると思うが、スフォシークにはその選択の余地が一切無いのだ。

「でも、あの塗装効果は魅力的だな。クエストが終わったら、入手先を聞いてみるかな」

 月明かりの中、揺らめく様に疾走するスフォシークを眺めながら、キースは呟いた。


 敵拠点まで20km地点へと差し掛かる。前回の偵察時と同様、隠蔽機能を持たないザロジェニールを待機させ、ジャミングを掛けてからスヴァローグとスフォシークの二機で奥へと向かう。

 暫く進み、前回スヴァローグが索敵を行った地点へと到着すると、二機は再び停止した。

「俺の機体だと、この辺が限界だ」

 ジャミング効果があっても、存在を完全に消すことは出来ない。特にスヴァローグの場合、効果はスキルに依存しており、施設に設置されている様な高性能なセンサーが相手では、これ以上の接近は発見される恐れがある。

「じゃあ、この先は俺一人で行って来る」

「頼む。気を付けてな」

 スヴァローグをその場に置き去り、敵の拠点へと潜入すべく、スフォシークは単独で先へと進んで行く。


 敷地の入口付近には警備用のARPSが居ることもあり、ヴァンは雑木林の中を迂回して敷地の側面へと近付いて行く。

 敷地の四方を取り囲む、コンクリート製の塀は4m近くにも達するものであるが、生憎と今の季節は冬。周囲一帯には多くの雪が降り積もっており、塀の半分近くを埋めている。

 ヴァンは敷地の側面に到着すると、ゆっくり塀に沿って奥に進みながら、内部に侵入する場所を探していた。

「あそこが良さそうだな」

 見付けた場所は地形の影響か、他よりも多く雪が積もっており、塀となる部分が1m足らずしか出ていない。

 山となった雪を崩さぬ様、慎重に足を掛けて昇り切ると、敷地内へと踏み入れる。

「まずは侵入成功だな」

 降り立った場所は、敷地の左側に当たる塀の丁度真ん中付近である。辺りは除雪もされず、一面を雪で埋め尽くしており、身を隠せる様な場所は一切見当たらない。

「こりゃ、発見されたらお終いだな」

――敵ニ、依然動きハありマせん――

「エルドラ、そのまま警戒。敵が動いたら知らせてくれ」

――了解しマした――

 事前の情報通り、敵は入口だけを警戒している。

 ヴァンは目の前の建物へと、音もさせずに近付く。左側の建物は三階建てとなっており、人が利用していたであろう部屋がある。

 壁にへばりつく様に機体を寄せると、近くの窓から内部の様子を調べる。

 機体の首元に装着されたブレードアンテナの先端が伸びると、中から小型のアイカメラが現れる。

 ヴァンはブレードアンテナを動かして、アイカメラを窓に近づけると、建物内を覗き見る。

 建物内は照明は点ってないものの、上空からだけでなく、雪面に反射した月明かりも差し込み、仄かに明るい。

 二階となるその場所は事務室だったのか、多くの机が並べられ、壁際には書棚がいくつも立ち並んでいる。

「随分と放置されているな……」

 中は至る所に埃が積り、時間が停止している。机の上には書類であろう紙や文具類が散乱し、奥に見える書棚の中も殆どが空っぽで、僅かに一つ二つと言ったファイルが見えるだけだ。

 ヴァンは敷地の裏手へと回り込みながら、他の部屋も見て行くが、どこも似た様な状態であった。

「えっと、確か一階の一番奥だったよな」

 事前に行われたキースの偵察によって、敵が使用していた形跡のある部屋を見付けていた。

 問題の部屋は、雪で半分程を塞がれた窓の上部から、温かな光が漏れている。ヴァンは機体を屈めると、小型のアイカメラを慎重に窓の隅へと近付けた。

「うわっ、生活感ありまくりだな」

 以前は会議室にでも使用していたのだろう。広めの部屋には棚などは無く、中央に大型のテーブルが配置され、その上に置かれたランタンが部屋を点していた。

 人影は見られず、テーブルには小型のガスバーナーやケトル、食べ終えたインスタント麺のカップが散乱。床には寝泊りもしていたのか、寝袋がいくつか広げられていた。

「さて、どうするか……」

 左側の建物の端にまで行き着くと、裏庭となる場所を小型のアイカメラで探る。

 Hの文字の丁度中央に配置された建物は平屋建てで、左右の建物を繋ぐ連絡通路にもなっていた。建物の半分程を雪で埋もれさせ、その屋根越しには入口を警戒している装甲戦闘車の姿も見える。

「まっ、いつも通り、一気に行くか」

――中庭側の雪ハ溶け出しテ来ておリ、崩レ易くなっている為、塀の傍ヲ行くことをお薦めしマす――

「了解」

 ヴァンは塀の傍の場所を、右側の建物まで一気に走り抜ける。比較的なだらかな中庭とは違い、塀の傍はうねる様に雪が積もっており、その場所を静かに速く走るのには少々難儀をしたものの、何とか気付かれずに渡り切る。

 無事に建物の陰へと機体を潜ませると、暫くの間敵の様子を窺うも、気付かれた気配はしない。

 ヴァンは一息吐く暇も無く、塀沿いとなる建物の外側へと移動すると、すぐに調査を開始する。

 右側の工場であろうと当たりを付けていた建物は、構造からしても他とは全く異なる建物だ。長さ、高さは左側の建物と殆ど変わらないが、奥行きとなる横幅は約二倍にも及び、何より壁面にあるべき窓が殆ど見当たらない。

 それでも数少ない明かり取りの窓を見付けると、小型のアイカメラを伸ばして内部の様子を探る。

「ビンゴ!!」

 建物の丁度真ん中付近にあった窓を覗くと、薄暗い空間が広がっている。内部は照明が点されているが、廃墟だけあって全体的に照度が足りていない。元々は工場だった所らしく、いくつもの大型機械が置かれる中、その場にはそぐわない異物の姿が見える。

 殆どが暗闇で包まれているものの、僅かな明かりに照らされた各部の特徴から、それらがARPSであることが分かる。機体の詳細については映像の解析を待たねばならないが、武装に関しては輪郭からいくつかの目処は立つ。

「エルドラ、しっかりと記録を録っといてくれよ」

――録画ヲ開始しマす――

 その後も入口側まで全ての窓から内部を撮影すると、来た時と同様に塀を乗り越えて、見付からぬ様に拠点を後にした。




 キースはヴァンを送り出すと、敵の拠点の様子に注意をしつつ、周辺の索敵を開始する。

 敵の動向も重要だが、それ以上にMOBなどの襲撃で邪魔をされたくは無い。

 センサーの感度を上げて索敵を続けていると、改めてスフォシークの性能の凄さを思い知らされる。

「しかし、これは凄いな……」

 スヴァローグの索敵能力だけでは、その姿を完全には捉えることが出来ずにいた。今は部隊を組んだ際に交わす、僚機の証である敵味方識別信号を頼りに追跡をしている。

――現在の性能では識別信号がありませんと、発見率が35%を切ります――

「そんなにかっ!?」

 これでもスヴァローグは現状出回っている機体の中では、センサー性能だけで言うならば、トップクラスの実力を持っている。それを以ってしてもこの状態だと言うことに、味方になった頼もしさを覚えつつも、僅かな危機感を抱く。現状、敵側に同等の性能を持った機体は現れていないが、今後も無いとは思えない。

 キースは先送りにして来たハイブリッド機の製作を、クエスト終了後から早急に取り掛かろうと決意する。

 そんなことを考えながらも、キースは変わり映えしない視界をぼんやりと眺めながら、スフォシークの帰還を待っていた。

 しんと静まり返った雑木林の中に一人取り残されている所為か、時間の感覚が(おぼろ)げとなり、長くも短くも思える時間が過ぎていく。

 すると、アデリナから報告が入る。

――マスター、ヴァン様が戻られました――

 報告を受け、モニターを注意していると雑木林の奥、木々の間を見え隠れしながら、音もさせずにスフォシークが近付いて来た。

 無音のまま、ゆらゆらとした真白な機体の姿は、森林の中を彷徨える亡霊の姿にも思える。

 それにしても、アデリナが声を掛けてくれなければ、恐らく目の前に来てさえも気付かない程、存在感のしない機体である。

「今、戻った」

「お疲れ。首尾はどうだった?」

 キースは早速その成果を確認すると、誇らしげな声が返って来る。

「バッチリ録って来たぜっ。悪いがデータを送るんで、解析の方を頼んでも良いか?」

「分かった。アデリナ、データを受信と同時に解析を始めてくれ」

――了解です、マスター。データ受信。解析を開始します――

 キースはベースキャンプへと戻る道すがら、ヴァンの入手したデータの解析を進める。




 無事にベースキャンプへと帰還した頃には、月も頭上へと差し掛かろうとしていた。

 三人が到着すると、すぐにアデリナが解析を済ませたデータを持ち寄り、襲撃計画を練り始める。

「しかし、これは初めて見る機体ですね」

 クルツの言葉に、集まったメンバーからも声は無い。

 ヴァンが入手した映像とデータの解析からは、機体名すら判明しなかった。

「ディートリンデ、お前も見たこと無いか?」

 グレンは隣に座るディートリンデに尋ねた。

 ラサーラ時代にいくつものクエストを経験をしており、一同の中では一番の多くのARPSを見て来ている。

「いえ、初めて見るわ」

 ディートリンデは申し訳なさそうに首を振った。

「それにしてもじゃ、受注条件だけでなく、何とも厭らしいことをして来るのう」

「おじーちゃん、なになにー?」

 興味をそそられたエレノアがすぐ尋ねて来る。

「あれだろっ、入口に餌撒いてるって言いたいんだろ」

 ダリルが意地の悪い笑みを浮かべて答える。

「そうじゃ」

 それを見たシャバックも同じ様に微笑むと、エレノアは一人キョトンとした表情を浮かべている。

 建物内部を調べる手段が無い場合、配置されている敵の情報から戦力を推測するしかない。すると、入口を警戒している旧型機の情報から、敵戦力を侮ったプレイヤーは突如奥から多数現れた、見たことも無い未知の機体に混乱を来たすのは必至だ。

 キース達の様にある程度敵の情報を掴めれば、それがワザとらしい程のミスリードを誘っていることが分かる。

「襲撃する予定に変更は無いですが、初見の機体です。十分警戒だけはしておきましょう」

「他に判明した敵ARPSの情報です」

 キースはアデリナが解析したデータの説明を始める。

 映像を元に判明した敵機体数は十機から、最大で十三機。装備は分かっているだけでも、サブマシンガンとナックル装備が二機。アサルトライフルとシールド装備が三機。バズーカを装備しているのが二機となる。

「恐らくですが、敵の武装はこの三種類のみで、ライフルなどの遠距離の武器は無いと思います」

「戦場になりそうな入口周辺のスペースは、そんなに広くないからな。遠距離なんぞ、使い辛いってことだろ」

 ヴァンの指摘に、何人かが賛同する様に肯いている。

「では、襲撃方法を決めましょう。まず入口に居るARPSですが――」

「その機体は私が排除します」

 ディートリンデが撃破役に名乗りを上げた。

「それじゃあ、俺が観測手(スポッター)を務めますね」

 呼応する様にキースも自ら志願をする。

「分かりました。お二人には警備機を排除後も、引き続き入口付近の敵への攻撃をお願いします」

「「分かりました」」

 ここに暫くぶりとなる狙撃班が結成された。

「次に入口を塞ぐ鉄扉の排除ですが、……それは私の方で取り除きましょう」

 すると、ここでエレノアから声が上がる。

「ねー、グレンさん。今回はトラップ仕掛けないの?」

 エレノアの指摘を受け、グレンへと全員の視線が集まる。

「そうだな。敷地内にも敵が居るから敷設するのは難しいが、設置なら行けそうだな」

 その言葉を聞き、シャバックは愉しげな表情を浮かべている。

「と言う訳で、俺が建物から出て来る敵に対して、まずトラップを仕掛けよう」

「分かりました。そちらはお任せします。次にヴァン君ですが」

「おう」

 突然名指しをされたことで、ヴァンの身体が一瞬ビクッと反応する。

「ベースキャンプに残って、ビエコフ君と車両の警護に当たって下さい」

「まっ、しゃーねーか。了解」

「宜しくお願いしますね」

 ビエコフがヴァンに向かって声を掛けると、任せろとばかりに笑みを返された。

「残りのメンバーは全て突撃班になって貰います」

 クルツの声を聞き、エレノアは高鳴る期待を抑えきれずに色めき立つ。

「うおー、いよいよ突撃だー。頑張るぞー、おー!!」

「「「おおっ!!」」」


 日付が変わり、クエスト開始から三日目となる深夜二時過ぎ。キース達による廃墟への襲撃が開始される。

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