第三十九話 会合
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背後より声を掛けられ、振り返ったキース達の眼前には、歩道の端に停められたバイクに跨る一人の男性が居た。
無造作に伸ばされた、蛍光色の様な明るい橙色に染まるやや長めの髪。走行時の風圧によって掻き乱され、毛先が四方八方へと跳ねているが、不思議と男性の雰囲気に合っており、粗雑な印象は受けない。目には風を避ける為のゴーグルが掛けられ、その真黒なレンズで視線が隠されている。口元や顎には無精髭が生えている。
上半身は襟元にボアの付いた革ジャンを羽織り、下も膝当てで補強された革のパンツにエンジニアブーツを履いている。
冬の為着込んでいるが、ほっそりとした身体付きをしており、身長はバイクに跨っている為、正確には解らないがキースやグレンと同じ位だろう。
全体的な印象と声を掛けられた時の声質から、比較的若そうな男性である。
「あっ、モトラ……」
男性が跨るバイクは先程広場で見かけたのと同じもので、思わず呟いたビエコフは間近でじっくりと観賞したい欲求を必死に抑えている。
「俺達のことか?」
偶々一番後ろに居たこともあり、男性と対面する形になったグレンが答える。
「そうだ。少し尋ねたいことがあってな」
そう言うと、男性はゴーグルを外して素顔を晒した。
素顔は想像通り、キース達と殆ど変らぬ年齢に見える。
「それで俺達に何か用か?」
少し警戒する様に、キースは女性陣の前に立つと男性に問い質す。
「そう警戒しなくても、と言っても無理か」
キース達三人が女性陣を庇う様に、男性との間に立ち並んでいる。
「今、俺のチームは一緒に組むチームを探している。それで尋ねたいんだが、ギルドランクはいくつになってる?」
突然の話に、キースやグレンは怪訝そうな表情を浮かべ、どう答えようか窮している隙に言い放たれた。
「さっき三本線になったんだよー」
グレンとビエコフの間から顔を出したエレノアが、自慢気な笑みを湛えながらあっさりと答える。
「ほんとか!? なら、俺達と一緒にクエストをしないか?」
興奮して話を進めていく男性に対し、焦る様にグレンが声を掛ける。
「ちょっと待ってくれ。一つ聞きたいんだが、どうして俺達に声を掛けたんだ?」
そもそもキース達は決して有名チームでも、上位ランクのチームでも無い。初めて会う様なプレイヤーがわざわざ指名する要素が無いからこそ、誘いに対して嬉しいという感情よりも先に疑念を感じてしまう。
「詳しくは組んで貰えば後で説明するが、実は俺達が見付けたクエストはちょっと変わっていてな。特定の条件を満たさないと受けられない仕様になっている」
「なるほど。それで広場に居たのか」
グレンは男性の説明で、僅かに納得した表情を浮かべる。
「見られていたのか。あそこだと該当するチームを探し易くてな。それでお前達を探していたんだ」
「因みに、その条件は教えて貰えるのか?」
キースの問い掛けに対し、男性は小さく頷いた。
「それは他のメンバーと合流してからだ。それで返事を聞かせてくれるか?」
「少し待ってくれ」
グレンは一旦返事を保留にすると、男性から少し離れた場所で、すぐにキース達を集めて相談を始める。
「私、クエストやりたーい」
真っ先にエレノアが賛成を表明する。
「まあ、お前はそうだろうな。それで、他はどうだ?」
グレンは残りの三人の顔を順に窺う。
「自分も受けてみたいですね」
「そうか。キースは?」
少し思案した様子のキースはゆっくりと口を開いた。
「そうですね。受けてみましょう。余程理不尽な条件を言われなければ、報酬などを譲歩しても、手間を掛けずに受けられるのは魅力です」
「条件付きのクエストなら、通常のよりも報酬は良いでしょうから、こちらにも結構利益があると思うわ」
ディートリンデは自身の経験から、推測される情報を伝える。
「じゃあ、受けるってことでいいな」
グレンの確認に、全員が賛成の意を表明する。
「けってー!!」
参加が決まり、エレノアは嬉しそうに両手の拳を突き上げている。
相談を終えてキース達が男性の方へと近づいて行くと、話声が聞こえて来る。どうやら相談している間に、他のメンバーと連絡を取っていた様だ。
暫く話が終わるのを待っていると、男性から声を掛けられる。
「待たせたな。それで結論は出たか?」
男性はグレンへと視線を向ける。
「ああ。一緒に組ませて貰いたい」
グレンの答えを聞き、男性はどこかホッとした様な表情を一瞬浮かべる。
「そうか。それじゃあ、早速――」
「待った。場所だけ教えてくれ。車を余所に置いてあるから、取ってから向かいたい」
言葉を遮る様にグレンが話すと、男性はすぐに端末を取り出して地図を映し出す。
「現在地がここで、場所はここになる。тройкаって名前の店だ」
こちらも端末を取り出し、データを送信して貰うと、一旦この場で男性と別れる。
キース達は急いで車を取りに戻ると、データをアイバンに移してナビの指示に従いながら、待ち合わせ場所である店へと向かった。
「あー、名前聞くの忘れたー」
突然大声を上げたエレノアに驚くが、四人もすっかりと忘れていたことに気が付いた。
「クエストの話に気がいって、頭から抜けてたな」
キースもばつが悪そうな表情を浮かべている。
「まあ、店に着けば他のメンバーも居るらしいから、そこで改めて聞けばいいだろ」
「そうだねー」
そんな話をしていると、待ち合わせ場所へと到着した。
「ここの様ですよ」
ビエコフの言葉に、一同は窓の外へと視線を向ける。
街の中心部より少し離れた場所に位置する、平屋建ての大きな建物だ。青銅色の屋根に白い外壁。窓枠や扉、柱にはバロックらしく細かな彫刻が施されている。
隣の敷地に在る駐車場へとアイバンを停めると、早速店の中へと足を踏み入れる。
「こっちだ」
入ってすぐに声を掛けられ、手を上げている男性の方へと向かうと、四人掛けのテーブル席には隣にもう一人座っていた。
隣に座る男性は、最初に声を掛けて来た男性とは違い、かなり年齢を重ね、老人と呼んでも差し障りない様に見える。
ふっくらとした体格に、日に焼けた浅黒い肌。顔には年齢を偲ばせる皺が刻まれ、黄金色をした髪は、綺麗な円を描いたアフロヘアーをしている。下はテーブルで隠れているが、上半身はカーキ色をしたフィールドジャケットを羽織り、中はオレンジ色をしたパイロットスーツを着ている。
「待たせたな」
そう言うと、グレンはキースと共に男性の居る方の席へと着き、エレノア達三人は隣のテーブル席に座った。
食事の時間は過ぎている為、軽食などと飲み物を注文すると、早速本題に入る。
「まずは互いの自己紹介から始めるか。俺の名はヴァン。で、隣に居る爺さんがシャバック。他にも三人程居るが、今は中には入っていない。その五人でチーム『I.C.O.M.S.』を組んでる」
「んー? I.C.O.M.S.ってなーにー?」
隣のテーブル席から身を乗り出してエレノアが尋ねると、ヴァンの顔が露骨に歪む。
「あー、それはだなー……」
口を濁すヴァンに代わり、隣に座るシャバックがあっさりと答えた。
「I.C.O.M.S.とはな、イノ・チーガ・オシー・ミリタリー・サービスの略じゃよ」
「なにそれー、ぷははは、変ななまえー」
エレノアがお腹を抱えて笑い出すと、他のメンバーからもくぐもった笑い声が漏れ出した。
「だー、だからこの名前を出したかねーんだよっ」
「しょうがないじゃろ。リーダーの決めた名じゃ。いい加減、諦めろ」
憤慨するヴァンとは対照的に、シャバックは年齢からか、達観の域へと到達している様だ。
ようやく一同の笑い声が収まると、今度はキース達が自己紹介をする。
「次はこっちだな。俺はグレン。それで隣に座っているのがキース。向こうのテーブルがビエコフとエレノア、それとディートリンデだ。この五人でチーム『オレンジ・ブロッサム』を組んでいる」
各自、名前を呼ばれると同時に挨拶をしていく。
それぞれの自己紹介が終了すると、タイミング良く注文の品が届けられ、一時話が中断する。
ウエイトレスが配膳を終え、下がって行くタイミングでヴァンが口を開いた。
「飲みながらで良いから、まずはこっちの話を聞いてくれ」
そう言われ、各人がカップを手にする様子を見て、キースも湯気の立つカップに口を付ける。
店名そのままにロシア料理を出すだけあり、殆どの人はロシアンティーを頼んでいる。芳醇な香りが立つ紅茶を口に含んだ後に、添えられた木イチゴのジャムを舐めると、一段と甘さと香りを楽しめる。紅茶にジャムを混ぜる方法もあるが、キースは別々に楽しむ方が好みである。
もっとも、欲を言えばジャムに少量のウォッカを混ぜたものが欲しい所だが、残念ながらこのゲーム内には酒は存在しない。
「会った時にも言ったと思うが、声を掛けたのは一緒に組んでクエストを受ける為だ」
話が開始されたのを受け、キースはグレンへと視線を向けると、小さく肯かれる。
どうやら今回の交渉役はキースに一任された様だ。
「それで受ける為の条件は教えて貰えるのか?」
キースがまずは尋ねると、ヴァンは大きく肯く。
「約束だからな。受注条件は"機体数が八機編制"の部隊だ」
「八機とは……」
「また厭らしい数字を指定して来たな」
キースとグレンはすぐにその意味を察し、顔を顰める。
このクエストの受注条件である"八機編制"と言うのは、制作側の厭らしさを象徴する様な設定である。
この八機と言う条件は、一チームの機体最大登録数が六機であることから、単独チームでは満たすことが出来ない数である。
そうなると条件を満たす組み合わせは、ソロプレイヤーが事実上存在しない為、6:2、5:3、4:4の三通りとなる。他にも組み合わせは存在するが、チーム数を増やす程難易度が跳ね上がる為、現実的では無いだろう。
ここで前提となる現在のプレイヤー達の状況を説明しよう。
開始直後に多くのソロプレイヤー志望者が散っていき、その後苛酷な環境に晒された中での戦闘を経験したプレイヤー達は、一チームでの最大登録数である六機、ないしは五機を有する様になっていった。
その為、このクエストに於いては、発見したチームは一つのジレンマに直面することになる。
この世界を生き抜く為に集まった機体数が多いチーム程、機体数の少ないチームを必要とする。しかし殆どのプレイヤー達が実感していることだが、この世界は人数が少ない程難易度は上がる為、当然のことながら人数が少ないチームなど極少数である。因みに、機体数が二機編制のチームも国内には僅かながら存在はしている。
更にまだ問題はある。クエストを受注する為の前提条件となるギルドランクである。
許可されるのは三本線からだが、当然機体数が少ないチーム程その進みも遅く、未だ条件に達していないチームも数多く存在している。
ならば、四機編制同士の組み合わせが一番簡単そうに思えるが、実際は三機編制以上に少ない存在である。
何故と疑問に思われるかも知れない。このゲームでは戦闘時に於いて、機体数が一機増えることによる恩恵は非常に大きい。
ところが問題はその運用にある。以前にも触れたが、機体運搬車両の積載数は二機か三機の二種類しか存在しない。つまり、保有数が四機に増えると、運搬車両が二台必要となる。
当然それにより、様々なものが付属してくる。車両代、燃料などの運用費、運転する為のスキル所得、更には戦闘以外に運転による疲労と言った身体への負担など、たった一機の違いで負担は大きく増える。そして、それらを軽減する為に、殆どのチームは更に機体数を増やし、規定数近くまで登録するのが一般的な傾向である。
その様な理由から、思われている以上に四機編制同士の組み合わせは、実現することが難しい条件となっている。
この"機体数が八機編制"と言う条件は、安易に楽な方法を取ったチーム程相手を見付けることが難しく、苦労を乗り越え、辿り着いたチーム程容易に相手を見付けられる、ある意味絶妙と言える設定数であった。
隣のテーブルでは今一理解出来てないエレノアに対し、ディートリンデから詳しい説明がなされている。
「そんな訳で五機で編成されている俺らは、三機編成のチームを探していたんだ」
すると、ここでキースがある疑問を投げ掛けた。
「一つ良いか。前から俺達のことを知ってたのか?」
キース自身は声を掛けられた時に、初めてヴァンと知り合った心算でいる。しかし、その言動から考えると、少なからず違和感を覚える。
キース達はミーヌフクスに着く前から機体をコンテナの中に格納しており、その姿を見る機会は無かった筈だ。
にも関わらず、ヴァンはキース達が条件を満たしたチームだと最初から知っていたかの如く、話し掛けて来ており、今まで一度も機体所持数を聞いて来なかった。
ならば、どこかで見知っていたか、何かしらの情報を得ていたのかと推測したのである。
「いや、全く知らんな。今日初めて会ったぞ」
ヴァンの答えは、そのどちらでも無かった。
「じゃあ、何で俺達の機体数を知っていたんだ?」
キースの訝しい表情を見て、ヴァンはその疑念の理由に思い至った。
「ああ、それは境界広場で見てたからな」
ヴァンはそう言うと、見付けるまでの過程を説明し始めた。
ヴァンはクエスト発見以来、毎日の様に境界広場を訪れては全体を見渡せる位置に着き、条件に合うチームをずっと探し続けていた。
まず複数のARPS輸送車で来るチームは除外だ。三機の機体を二台の輸送車で運用するなど、維持費などを考えるとあり得ない。仮にその様な運用をしているチームが居たとしても、その時点で御断りだ。
次にARPS輸送車でも、積載する機体数が二機と三機では車両の全長が異なる。その為、三機積載出来る全長を持った、単独で訪れるARPS輸送車を探せば良かった。
とは言うものの、中々条件の合う車両を見掛けない。偶に見掛けても、仲間と思しき車両と広場で合流をしていたりと、想像以上に厳しい条件であった。
そんな中、見付けたのがキース達だった。単独での車両で訪れ、他の車両とも合流する気配が無い。
すると、整備所の手続きの為に、車両からプレイヤー達が降りて来た。その人数は五名を数える。
一チームに所属する、機体の所持が許されないバックアップは二名である。総人数からバックアップの人数を差し引くと、残りは機体数となる。
「そう言うことか。話を切って悪かったな」
「いや、良いさ。それじゃ、続けるぜ。クエストの内容は受注の際に説明するらしく、現時点では不明だ」
「掲示板やネット上にも情報は上がって無いのか?」
僅かではあるが、公開されているクエスト情報も存在している。
「まだ無いな。だから俺らは条件も厳しいから、未攻略のクエストの可能性が高いと思っている」
その話を聞き、キース達も俄然やる気が出て来る。攻略に成功すれば、報酬として初回限定アイテムを入手出来る可能性があるのだ。
「でだ、最初に組む為の条件の話をしたい。弾薬などの消耗品と損傷を負った際の修復費用は自己負担。報酬は金銭に関しては人数で均等割り。アイテムも折半するが、選択の際に優先権を貰う」
「アイテムが一つだった場合はどうするんだ?」
「その可能性は低いだろう。受注条件に二チームは必要なクエストで、報酬アイテムが一つしか用意されていないってことは流石にないだろう」
製作側が厳しい設定を数多く作っているとは言え、わざわざ仲間割れを誘発する様な理不尽な設定をしているとは考えにくい。
「こっちは誘われた身だからな。その条件で組もう」
キース達としては、どちらにしろ利益の多い話である。
自力で未攻略なクエストを見付けることなど、余程の幸運でも無い限り、現状では可能性が低い話だ。
ならば、クエスト経験が得られ、報酬も選べはしないものの、初回限定アイテムを手にする可能性が高い今回の話は、受けるだけで利益が既に出ている様なものだ。
「OK、じゃあ、後はチーム編制の確認だな」
そう言うと、ヴァンの瞳に興味や好奇心と言った色が宿る。
「まずはこちらの編制から明かそう。うちは前衛が二機、中衛と後衛が一機ずつ。それと――」
「パシリが一機じゃ」
ヴァンの話を遮る様に、横合いからシャバックが口を挟んで来た。
「パシリっつーなって言ってるだろっ!!」
「何を言っておる。昔から雑用は若い者の仕事と相場が決まっておるのじゃ」
「だからっ、雑用って言うな!!」
二人はそのまま言い合いを始めそうになるも、キース達の存在に気が付きヴァンの方が自重する。
「くそっ、悪かったな。まっ、そんな感じで、うちは火力重視な編制になっている」
前衛から後衛まで揃えられ、バランスの取れたオーソドックスな編成となっている。
「うちは前衛が一機、後衛が一機。それと支援役が一機だ」
「ん? それで前衛が持つのか?」
ヴァンから当然の様な疑問を受け、キースは苦笑しながら実情を告げる。
「だから、大抵は支援機が前衛に回ってる」
「なるほどな。なら、三機編制でバックアップが二人もいらないだろ。一人減らせば良いんじゃないか?」
現状バックアップの主な仕事は、運搬役兼メカニックと言う認識が一般的である。その為、三機編成のチームに対し、バックアップが二人も付くのは過剰と言った印象を持たれる。
「いや、うちはメカニックは一人しかいないぞ」
キースがそう言うと、ヴァンとシャバックの二人は怪訝そうな表情を浮かべる。
キースは果たして詳しい説明をしても良いものかと、躊躇いを見せる。この先組んで戦闘を行えば、否が応にも目撃されることになる。
どうしたものかと迷ってると、隣に座るグレンが会話の後を継いだ。
「もう一人は機体は無いけど、戦闘には参加をしているんだ」
「それって、どう言う――」
「まさかっ、生身で戦闘をやっておるのか……」
期待と驚愕を綯い交ぜにした様な表情で呟くシャバックに対し、グレンはあっさりとばらした。
「爺さん、当たり」
すると、突如顔を俯けたかと思うと、喉を鳴らす様な笑い声を上げ始めた。
「爺さん、大丈夫か?」
「くっ、くっ、くっ、そうか。いやー、今度のクエストが楽しみじゃわい」
シャバックの好奇に満ちた眼差しを受け、グレンは背中に嫌な汗を感じずにはいられなかった。
その後、互いの機種や戦闘時の役割、更には細かい条件などを詰め終えると、今後の予定へと話は移る。
「それでいつやるんだ?」
キースはヴァンへと話を振ると、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「それ何だが、今日の夜まで待って欲しい」
「それはゲーム内での時間か?」
「いや、現実での時間だ」
現実では、今は金曜日の午前中に当たる時間である。
「今居ない他の三人ってのが、実は普通の会社員なんだ」
そう言うと、ヴァンは説明を始めた。
リーダーを含む、今はいない三人のメンバーはサラリーマンとして昼間は普通に働いており、メンバーが一同に会して活動するのは、現実時間で平日は夜間のみ。丸一日使用出来るのは休日だけである。
その為、平日の昼間は現在学生で夏休みを満喫しているヴァンと、既に定年してから数年経っているシャバックの二人だけだ。
そのことから、チームの活動方針は平日の昼間は情報収集や機体の修復、物品の買い出しを行い、平日の夜間と休日に入ってから本格的に活動を始めると言う変則的なスタイルを取っている。
「なるほど。攻略を週末に充てたい訳か」
「そう言うことだ。だが、運が良かった。今日を逃せば、また一週間待ち続ける所だったぜ」
ヴァンは肩の荷が下りた様な、ホッとした表情を浮かべている。
そんなヴァンの隣では、エレノアがシャバックへと話掛けていた。
「へぇー、じゃーほんとにおじーちゃんなんだねー」
「お前さんらから見れば、そうじゃな。じゃが、まだまだ若いもんには負けんぞっ」
そう言って戯れている二人を余所に、グレンは気になった点を尋ねる。
「そんな限られた時間しか活動して無いのに、もう三本線に上がったのか?」
話を聞く限りでは、今し方上がったばかりのキース達よりも早くに昇格をしている。
夏休みと言うことを利用して、一日の大半を費やしているキース達と比べると、その速さに目を瞠る思いである。
「そりゃ、機体数が違うからな。お前ら、多分討伐系依頼やったこと無いだろ?」
「ああ、その通りだ」
「だったら、その差だな。と言っても、俺らもちょっと前に上がった所だけどな」
キースやヴァン達のチームは、効率を追求する様なプレイはしていない。
その為、条件に違いがあったにも関わらず、この様な事態を引き起こしてしまったのだ。
ギルド依頼には討伐系と配達系、大きく分けて二種類の依頼が存在し、依頼毎にそれぞれ特徴がある。
まず、キース達が行っていた配達系依頼。こちらは日数が掛かるものの、戦闘難易度は低く、機体数の少ないチームや火力の乏しいチームに人気の依頼である。だが、その分報酬額には大きな差はないが、得られる報酬ポイントが低く設定されている。
次に討伐系依頼。こちらは各街毎に定められた区域内から依頼を出す為、移動距離が少ないことから日数は掛からないが、戦闘難易度は高い。当然、その分報酬ポイントも高く設定されている。
具体的に戦闘がどれ程違うのか。
配達系の場合、戦闘はあくまで防衛の為であり、回避しても構わないし、敵を撃退さえすれば殲滅する必要も無い。戦闘を行うにしても、奇襲でも受けない限りはこちらで戦闘場所を決められ、得意な環境や罠を設置するなど有利な状況で行える。
次に討伐系の場合、全く反対のことが言える。戦闘は必ず起こり、敵を全滅することが目的となる。戦闘場所に関しても、基本的には敵の拠点を襲撃する形となり、こちらの不利な状況の中、罠などを考慮しつつ戦わなければならない。因みに、失敗する依頼の多くは討伐系である。
二つの依頼はどちらの方が優れていると言ったものでは無く、チームの特徴から向き不向きによって選ばれるものである。
今回偶々発覚した昇格時期の違いの裏には、この様な依頼による差が生じていたのである。
「まあ、取り敢えずはこんな所か。今日着いたばかりなのに、悪かったな」
「いや、構わないさ」
首都散策の途中であったが、キース達から見ても十分に実りのある出会いとなった。
「後は、フレンド登録だけ済ませば、約束の時間まで好きに過ごしてくれ」
「但し、クエストに支障を来たさない程度にの」
交渉役を最初からヴァンに任せていたシャバックから、最後に締めの一言が付け加えられた。
こうして、キース達の初めてとなるクエストの攻略が決まった。




