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第三十七話 反攻

10/21 誤字修正

 攻撃ヘリの撃墜は咲耶からの連絡を待つこと無く、メンバー全員の知ることとなった。


 墜落時の破壊音と黒煙は、大分距離の離れた戦場からでも確認することが出来た。

――どうやらヘリが墜落した様だな――

 エレノアが居る場所より南西の方角から、空を覆い尽くす様な勢いで黒煙が立ち昇っているのが見える。

「じゃあ、もう邪魔は入らないね」

 そう言うと、エレノアは口角を吊り上げ、獰猛そうな笑みを浮かべた。

 広場での戦闘は上空からの攻撃を警戒したことにより、キース達は守勢を余儀なくされていた。

 とは言え、機体数には差があり、ここまで均衡を保っていられるのは、新機体となるマリーアイゼンの力が大きい。

 盾持ちが二機とロッド持ちが一機の計三機で構成される敵の前線に対して、損傷を負い機動力を欠くスヴァローグの分までマリーアイゼンが支え、獅子奮迅の働きを見せている。

 瞬発力の優れたマリーアイゼンは、短距離の移動に関しては戦場のどの機体よりも速く、時折隙を突き、飛び道具を失ったことで格闘戦を挑んで来るロッド持ちの相手もしていた。

 そんな状況もヘリを撃墜され、制空権を失ったことで徐々に変化を見せ始める。


 森との境付近に陣取り、ヘリからの攻撃を避ける為、木々に隠れていたシュヴァルディアが再び姿を現した。

 丁度自機の上空近くを通過しながら墜落したヘリのお陰で、再び狙撃の機会を得ることが出来た。

 シュヴァルディアは足下の雪を足場となる様踏み固めると、スタビライザーを展開した。台座が雪面へと叩きつける様に下ろされると、固定用のピンが固く締まった雪に捩じり込まれて行く。

――ちっ、やっぱり……。ディー、右側に注意して。故障の影響で反動吸収率が28%低下してる――

 爆風に晒された右脚側の調子が悪く、雪面には固定されているがショックアブソーバーが些か曲がっており、固定用の台座が僅かに宙に浮いて、強引に打ち込まれたピンにより辛うじて繋がっている状態だ。

 そんな状態ではあるが機体を固定し終えると、ディートリンデは戦場へと視線を向ける。視線の先では動きの少ないスヴァローグの周りを、盛んにマリーアイゼンが動き回り、何とか戦線を維持していた。

 敵はマリーアイゼンに翻弄されながらも、盾持ち二機が前線を支えて踏み止まっている。

――ディー、準備は良い?――

 モニターに映し出される戦場が徐々に拡大される中、ディートリンデはダイアナからの問い掛けに無言で頷く。

――じゃあ、通達を出すわよ――

 拡大された視界の中をピントが合わず、ぼんやりと滲んだ色彩となったマリーアイゼンが慌てて横切る姿が映し出される。

 ダイアナから各AIに出した通達とは、これよりシュヴァルディアの射線には入らぬ様にする為の警告だ。

 フレンドリーファイアを防ぐ為とは言え、現状はマリーアイゼンの機動力で維持しており、それ程長い時間は掛けられない。

 ディートリンデは細かく動き続け、壁となっている機体を避け、標的に十字照準線(クロスヘア)を合わせるべく調整をする。

――ちっ、流石にミサイルを装備した機体までは狙えないわね――

 最優先ターゲットであるミサイル持ちへの射線には、絶えず壁役たる盾持ちかマリーアイゼンなどの機体が入る様に動かされており、この場からは狙うことが叶わない。

 そこで次なる標的へと狙いを変更する。盾持ちと連携を取り、攻撃役を担っているロッド持ち機体の排除に掛かる。

 格闘機であるマリーアイゼンは兎も角、スヴァローグにとっては依然として格闘装備は脅威である。しかも現状は少なからず損傷を負っており、エレノアの働きにより、何とか踏み止まれている様なものだ。

 壁となる二機の盾持ちの背後を、うろちょろと動き回るロッド持ちをセンサーも利用しながら、ディートリンデは狙撃のタイミングを計る。

 手前にはスヴァローグとマリーアイゼンが防戦の為奮闘しており、戦場には狙撃の障害となる四機のARPSが蠢く様に動き回っている。

――ディー、来るわよっ――

 ダイアナの声に、ディートリンデは呼吸を止め、集中を増していく。




 急に今まで障害となっていた、厄介な格闘装備の重装甲ARPSの運動量が急激に減った。

 それをチャンスと見たロッド持ちは、負傷を負ったセンサー機の側面を突くべく、外側に回り込もうと壁役となっている僚機の後ろから姿を現す。

 側面へと回り込みながら、スキーモービルのエッジを立て、勢い良く雪片を撒き散らして、振り上げたロッドがセンサー機へと襲い掛かる。センサー機の方もすぐに気付き、対応しようとするも、盾を装備する左手側へあっさりと回り込まれた。損傷した左脚の影響と正面からの銃弾を防いでいる盾を外す訳にもいかず、為す術無く追い込まれる。

 いつもであれば重装甲ARPSからのフォローが入る所だが、今は大分距離を開けた場所に位置しており、最早間に合うことは無い。

 開幕時に重装甲ARPSからの一撃を受けて右上腕部を潰され、ダランと片腕を垂れ下げながらも、片腕となった左腕で高々と振り上げているロッドが、雲の切れ間から差し込む光を浴びて一瞬煌めく。

 目の前に居るセンサー機は、最早視線を向けることもせず、その姿は諦めた様にも見える。

 そんなセンサー機へと、渾身の力でロッドを振り下ろそうとした瞬間、胸部を轟音と衝撃が襲った。




 ディートリンデは初弾を当てると、素早く次弾を装填した。

 敵の機体は依然ロッドを振り上げており、万一にも振り下ろされた場合、死角からの攻撃を受けたスヴァローグは甚大な損害を負ってしまう。

 こちらを信用しきって隙だらけな姿を晒すスヴァローグに、責任と同時に喜びを感じながら、ディートリンデは再び照準を付ける。

 銃弾を受け、他の場所よりも厚い装甲で覆われた胸部は罅が入り、大きく陥没していた。中心部の装甲は僅かに内側へと捲られ、小さな穴を開けており、罅はそこから四方へと向かって伸びている。

 ディートリンデは十字照準線(クロスヘア)を陥没した中心となる黒点へと合わせ、引き金を絞るとすぐに反動が機体を襲う。

 いつもならその衝撃に逆らわず、反動に機体()を任せてスタビライザーの機能を十二分に引き出す様にする所だが、故障の影響から左右の吸収率の違いから、機体が強引に捻じ曲げられつつある。

――ディー、左の吸収率を下げて右と合わせるから、上手く機体をコントロールしてっ!!――

 一度目は何とか誤魔化せたが、二度目となる今回は更に状況が悪くなった。

 ダイアナはディートリンデの返事も待たずに、スタビライザーの吸収率のバランスを取った。

 すると、シュヴァルディアの機体は捻じ曲げられるのが収まると同時に、勢いを殺せずに後方へと押しやられる。

「――っ!!」

 ディートリンデは機体が引っ繰り返りそうになるのを必死に耐え忍ぶ。

 台座を固定していた何本かのピンは負荷に耐えきれず折れ、スタビライザーの機能は更に低下し、雪面へと爪を喰い込ませているスノーシューもズルズルと後退して行く。

 ディートリンデは咄嗟にライフルのストックを雪面へと突き刺し、何とか持ち堪えた。

 ようやく状況が落ち着くと、ディートリンデはすぐに標的へと目を向けた。

 まるで黒点に吸い込まれるかの様に、標的となったロッド持ちの機体へと着弾した銃弾は、内部ユニットへの侵入を果たしていた。幾度も小さな爆発をさせながら黒煙を噴き上げ、背中側から雪面へと倒れ込み、掲げていたロッドを深く雪面へと突き刺していた。

「ふう……」

 ディートリンデは取り敢えずの役目を果たし、大きく息を吐いた。

――ディー、次の標的に行くわよ――

「了解」




 同じ頃、救われた側であるキースも大きく息を吐いていた。

「はあー、心臓に悪いな……」

 ディートリンデのことを信頼はしていたが、流石に攻撃を仕掛ける敵に対して構えも取らず、無防備な状態を晒すのは精神的な損耗が大きい。

 しかし実際の所は損傷を負い、ただでさえ乏しい機動力が更に落ちたスヴァローグでは、敵である85式を複数相手取るのは難しく、今までもエレノアにフォローされて保っていた為、今回の様な囮役は本人としては心外かもしれないが、格段の威力を発揮する。

 そして機体数が同数となった広場では、いくつもの枷から解き放たれたエレノアが舞っていた。

 なだらかに起伏する雪原の上を、まるで銀盤上の妖精の様に軽やかに舞い踊り、二機の敵を相手取り、翻弄しながらその間を縫う様に疾走している。

 至近から放たれる銃弾を避け、巧みに側面へと回り込み、右拳のナックルで打撃を入れ、通過時にはショルダーを当て、敵の行動を阻害する。

 それら一連の行動を可能としているのが、マリーアイゼンである。

 機体の特徴となる瞬発力は、同じIランクの機体である85式を相手にしても、十二分に威力を発揮している。特に近接距離で対峙した際により顕著に現れ、横への移動速度には付いて来られず、敵の視界からは一瞬にして機体が消え去って見える。

 そして重要な役割を担っているのが、案内の男性が熱弁していた制動力である。瞬時に最高速へと達した機体の体勢を崩すこと無く、キッチリと減速をさせ、細かな方向転換を可能としている。この凄さは搭乗者よりも、寧ろ外から見ている傍観者の方が比較対象がある分実感出来るだろう。

 所々凍り付き、滑り易くなった雪原の上を、摩擦抵抗の少ないスキーモービルを履いて、マリーアイゼンは鋭角なターンを繰り返す。その後を追い、85式も進路をなぞる様に進むも、所々大きく進路が逸れ、加速力で後れを取り、時間を追う毎に差が広がって行く。

 特に85式は反転の際の制動力が弱く、長い距離と時間を有してしまい、機体も外側へと流れて体勢を崩し、それらを取り戻すべく無理な加速を続けると言う悪循環に陥っている。

「ふーん、ふん、ふふーん♪」

――ご機嫌だな……――

 エレノアはようやくここに来て、操縦に慣れて来た所為か、鼻歌を口ずさむ程機嫌良く機体を操っている。

 慣らし時は出力にリミットを設けており、戦闘開始時に初めてその枷を外された。当初はその有り余る出力(パワー)に翻弄され、暴れる機体を抑えるのに注力していたが、ようやくそれにも慣れ、本来の機体性能を発揮し始めた。

 マリーアイゼンは背後から迫る敵を引き連れ、損傷を負ったスヴァローグから敵を引き離しながら、標的となる敵ARPSへと詰め寄った。

 それに気付いた敵ARPSは、射線から僚機を外す様に移動すると、すぐに銃撃を掛けて来る。

 エレノアは銃口がこちらへと向けられる直前、すぐに回避行動を取った。敵が反応し辛くするべく、銃を握る腕の外側へと機体を動かす。

 加速の際、一瞬背中へと押し付けられる様に働いた力は、すぐに腕の方へと移る。急激な方向転換により、体重の数倍に当たるGが二の腕へと圧し掛かる。

「――っ!!」

 エレノアの顔がGに耐える様歯を食いしばって歪むが、目だけは楽しげに笑い続けてる。

 マリーアイゼンは機体が横にスライドする様に、敵の側面へと滑り込む。スキーモービルからは飛沫の様に雪を撒き散らしながら、普段は固く感じられる脚部のサスペンションも威力を発揮し、機体をふら付かせること無く、すぐに攻撃体勢へと移行する。

 数瞬遅れて敵ARPSも行動を起こすも、既に横にはマリーアイゼンの姿が無く、視界から見失っている。

「どーん!!」

 敵ARPSを嘲笑うかの様に、あっさりと背後を取ったマリーアイゼンは、隙だらけの背面へとナックルを叩き込んだ。

 衝撃を受けた敵ARPSはよろよろと前へと進んだ所に、追走して来たARPSと()ち合うこととなる。

「隙ありっ」

 重なり合う二機の85式へと追撃を掛けようとした時、冷や水を浴びせる様に邪魔が入る。

――エレノアッ、ミサイルが来るぞ!!――

 既に標的(マリーアイゼン)をロックしたミサイルが、煙を引いて一直線に向かって来る。

 マリーアイゼンが絶えず僚機と絡んでいた為、攻撃の機会を失っていたミサイル持ちだったが、僚機を助ける為とは言え、形振り構わずに攻撃を仕掛けて来た。

「もー、いっつも邪魔ばっかりしてー」

 エレノアは文句を言いつつ、振り上げた右手を降ろしながら、ミサイルから回避すべくローラー走行で後退を掛ける。

 損傷を負ったスヴァローグを庇い、距離を離したことが裏目に出た。今まで受けていたチャフの支援はもう無い。

――どうするつもりだ?――

 徐々に迫って来るミサイルに、GARP(ガープ)は不安げな声を上げる。

「へーき、へーき」

 目の前へと差し迫るミサイルにも、余裕の表情を浮かべるエレノアに対し、GARPの不安は増していく。

 すると、目の前へと迫っていたミサイルと衝突するかに思われた時、突如視界からミサイルの姿が掻き消えた。

 標的を見失ったミサイルは、そのままふらふらと飛び続けるも、すぐに雪原へと墜ち、盛大に雪片を撒き散らした。

「ねっ、へーきだったでしょ」

――…………――

 自慢する様に誇らしげな顔を見せるエレノアに対し、GARPは今起こった出来事の凄さから言葉を失っている。

 エレノアのしたことは、実に単純なことだった。迫って来るミサイルを引き付けるだけ引き付けたのち、当たる直前で横へと避けたのである。

 言葉にするのは非常に簡単だが、実際にそれを可能としたのは機体の瞬発力の高さと、その性能を引き出せるだけの操縦技術があってのことだ。

「でも、どうしよう。また邪魔されるのも嫌だし。むむむ……」

 良案が出ず、唸り続けるエレノアに対し、GARPから声が掛けられる。

――心配せずとも良いみたいだぞ――

 懸念すべきミサイル持ちに対し、アデリナ達が何やら仕掛ける様だ。

「なによー。ちゃんと分かる様に教えなさいよー」

 エレノアは不満の声を上げるも、GARPは(にべ)も無い返事を寄越す。

――目の前の敵を倒せってことだ――

「むー、倒すけど、終わったらちゃんと説明しなさいよっ」

 口では文句を言いつつも、再び二機の85式へと襲い掛かる。

 マリーアイゼンは膝をやや屈めて前傾姿勢になると、その場に衝撃だけを残して飛び出して行く。

 ミサイルを回避した際に出来た距離を一瞬で詰め寄り、攻撃する隙も与えずに、自分の間合いへと敵を引き入れる。

 並び立つ二機のARPSの間に出来た隙間を駆け抜けると、スキーモービルに装着されているターンピックを雪面へと撃ち込み、先刻の攻撃で損傷を負った敵の背面へと回り込む。

「くっ……」

 強引な反転により、急激な横Gに襲われながらも、必死に視界を凝らす中、風景がもの凄い速さで流されて行く。

 遠くにある雪が積もった森の木々が溶け出し、白と濃緑のボーダー柄でモニターが埋め尽くされる。

 そんな中、突如異物の様に敵機体の姿がモニターに現れる。

「うりゃ!!」

 敵の状況を確認もせず、現れた機体へと反射的に攻撃を仕掛け、左手で持つ盾を無造作に叩き付ける。盾の先から突き出る杭が、敵のARPSへと喰い込む。

 先刻の攻撃で背負っていたBPが潰され、機体の背面装甲にも亀裂が入っていた所に杭が突き刺さるも、盾の部分が邪魔をして深くまで入り込んでは行けない。

 機体一機分の衝撃を背後より受けた敵のARPSであったが、それでも倒れ込むことも無く、辛うじて立っていた。もっとも杭が突き刺さり、盾が装甲と噛んでいた為、支えられていたことも要因である。

「どーん!!」

 エレノアが止めとばかりにパイルバンカーを撃ち込んだ。

 装甲に突き刺さった所で押し留まっていた杭の先端が一瞬震えると、内部ユニットを突き破り、胸部装甲を内側から捲り上げ、敵ARPSを刺し貫いた。

 すると、敵機体と絡み合い、機動力を封じられたマリーアイゼンに対し、チャンスと思ったのか、もう一機のARPSが銃撃を仕掛けて来た。

 既に破壊された僚機に躊躇する必要も無く、マリーアイゼン共々容赦無く銃弾を浴びせて来る。

「ひゃー」

 搭乗席にも銃弾の跳ね当たる音が充満する。

「とりゃっ!!」

 エレノアは機体出力に任せた力技で、強引に刺さったままの敵機体を射線軸上に動かした。

 視界には映らないものの、正面から銃弾を浴び、敵ARPSのアイカメラや装甲が破砕する音が耳に入る。

――損傷は軽微だが、10%を超えたぞ――

「へーき。これ以上はやらせないよ」

 エレノアはパイルバンカーを引き戻すと、杭が抜けて残骸となった機体を未だ健在な敵ARPSへと押し出した。

 敵ARPSとは距離が離れているものの、自身へと向かって来る物体に反射的に反応をしてしまう。

 エレノアはその一瞬出来た隙を突き、残骸の陰から躍り出ると、一気に敵ARPSへと詰め寄った。

 すぐさま敵ARPSも反応するが、瞬発力に長けたマリーアイゼンは一瞬で敵の懐に潜り込む。

「あーんぱーんち!!」

 銃を持つ敵の右側の腕を盾で跳ね上げると、がら空きとなった頭部へとナックルを叩き込む。

 殻を割る様な僅かな抵抗の後、中身を押し潰した感触が機体を通して、操縦者であるエレノアにまで伝わって来る。

 ゆっくりと拳を引くと、装甲が押し破られ、回路や配線が剥き出しになったユニットが外気に晒され、窪んだ眼の様にレンズが割れ、空虚な穴だけとなったアイカメラの姿が現れた。

――たった一撃で破壊するか――

 カグツチでは損傷は負わせても、一撃だと部位の破壊にまでは至らなかった。

 エレノアは止めとばかりに、引いた拳を胴体中央へと再び叩き込んだ。

 敵ARPSはマリーアイゼンへともたれ込む様に倒れると、そのままズルズルと沈み込んで行った。

「デビュー戦、勝利っ!!」

 勝ち誇るエレノアに呆れながらも、GARPは今日だけは何も言わずにおこうと口を噤んでいた。




 ヘリの撃墜に成功したグレンは咲耶が待つケッテンクラートへ戻ると、すぐに潜んでいた岩場より飛び出した。

 戦場を左手に見ながら、岩山や木々が多数点在する雪の上を疾走する。

「咲耶、戦況報告」

――あいよ。ちょっと前に格闘装備の奴がディートリンデに倒されて、機体数が同数になったよ――

 グレンは耳から入る報告に注意しつつ、速度を上げて行く。

 戦場となっている広場とは違い、この辺りは岩などが多く埋もれているらしく、小さな瘤やうねる様な傾斜などがあちこちに見受けられ、少しでも注意を怠ると、すぐに転倒してしそうになる。

 その為、グレンは進路の状況を注意して見ていたが、一面真っ白な雪面の起伏は非常に見辛く、運悪く小さな山に乗り上げてしまい、勢いそのままに飛ぶ羽目になる。宙を舞う車体からは、空転をして垂れ下がる履帯からこびり付いた雪が剥がれ落ち、僅かな浮遊感を体感したのち、衝撃と共に着地した。

 グレンは必死にハンドルにしがみ付き、体重を掛けながら、暴れる車体を必死に制御しようとする。

 しかし、災難だったのは咲耶の方だろう。後方の荷台に載せられ固定された状態の咲耶は、着地時の衝撃をそのまま受けることとなり、シェイクでもされたかの様に激しく揺さ振られた。

 どうにか車体を立て直し、速度を落として一旦停車をさせると、グレンは荷台の方へと振り向き、相棒(咲耶)の安否を確かめるべく声を掛けた。

「おい咲耶、大丈夫だったか?」

 しかし、反応は返って来ない。

「おーい、咲耶ー。……咲耶さーん」

 すると、物凄く機嫌の悪そうな声でようやく返事が返って来た。

――……なんか用かい――

「いや、俺が悪かった。この先はちゃんと注意するし、終わったらキチンとメンテもするから、機嫌を直してくれ」

 明らかに、私はとても怒ってますと言う思いを滲ませる言葉に、グレンは即座に謝罪を口にすると、機嫌を取り始めた。

――……全く、もう二度とゴメンだよ――

「悪かったな」

 そう言うと、グレンは再び走り出した。今度は少し速度を落とし、慎重に進んで行く。

――報告を続けるよ。現在マリーアイゼンが敵二機と交戦中。それと、アデリナがミサイルを装備した奴にハッキングを仕掛けてるよ――

 最後の報告を耳にした途端、グレンは愉しげな笑みを浮かべると、

「ほお、そうか」

 とだけ返事をし、先を急いだ。




 スヴァローグの機体は、思った以上にダメージを受けていた。

――マスター、これ以上損傷を負いますと、左脚が稼働停止になります――

「……そうか」

 キースは悔しげに返事を返した。流石に片脚しか動かなくなれば、退かざるを得なくなる。

 スヴァローグの状況を見越してなのか、幸い敵ARPSはエレノアが二機共引き付けており、こちらに攻撃を仕掛ける様な余裕はなさそうだ。

 となれば、やることは一つしかない。

「アデリナ、ミサイルを持つARPSにハッキングを仕掛けるぞっ」

――了解です、マスター。ハッキングを開始します――

 指示を出すと、キースは戦況をより一層注意深く見守る。

 現状のスヴァローグの性能ではハッキングを行うと、処理能力の所為で運動性能が格段と落ちてしまい、戦闘機動どころかまともな移動さえも出来なくなってしまう。

 ならば、戦場から引き揚げて行えばと言う話になるが、現状では機動力を失ったスヴァローグであっても戦場に存在することに意味がある。

 例え動けなくても、攻撃力を持って立っているだけで、敵は警戒し、スヴァローグの存在を考慮して行動することを余儀なくされる。

 その為にも、キースは今しばらくここに居続けなければならない。

 すると、前方より一発のミサイルが発射された。何度もチャフを使って避けた所為か、キースでは無くエレノアへと向かって飛んで行く。

「拙いっ」

 マリーアイゼンは逃げる様に後退をするが、ミサイルの方が速く、徐々にその差が詰まって行く。

 キースは当たると思った瞬間、ミサイルがマリーアイゼンの機体を擦り抜けた。

「何!?」

 ミサイルがマリーアイゼンの後方で爆発を起こし、エレノアが無事であることを喜ぶのも忘れ、キースは今し方目にした不可思議な出来事に心を奪われていた。

 呆然としているキースに対し、アデリナから報告が入る。

――マスター、ミサイル持ちの機体に対してグレン様が接近しています。どうやら攻撃を仕掛ける様ですが、いかが致しましょうか?――

 センサーで確認すると、前方となる広場と森との境付近に陣取るミサイル持ちの側面を突くべく、森の中を進んでいる様だ。

 キースは未だ究明したいとする欲望を抑えると、気持ちを切り替える様にアデリナへと指示を出した。

「アデリナ、進捗状況はどうだ?」

――現在侵攻率83%、後およそ二分でシステムの奪取を完了致します――

「よしっ、グレンさんに通信を繋げてくれ」

――了解です。…………通信繋がります――

「よう、どした?」

 グレンは敵周辺に潜伏しているとは思えない程、普段と変わりない様子で通信に現れた。

「グレンさん、攻撃仕掛けるのちょっと待って貰って良いですか?」

「構わないが、何かあるのか?」

「実は、今ミサイル持ちの敵に対してハッキングを仕掛けてまして、もう少しで完了するんです」

「そうか、だったらそっちから合図を送ってくれ」

「分かりました」

 通信が切れると、戦況を確認しつつ、キースは再びアデリナへと指示を出す。

「アデリナ、ハッキングが完了次第、グレンさんにもカウントを送ってくれ」

――了解です――

 広場では二機の敵ARPSに対し、再びマリーアイゼンが襲い掛かる姿がモニターに映し出されている。




 敵の近くにまで迫ったグレンは、気付かれぬ様ケッテンクラートから降りると、徒歩にて森の中を進んで行く。

 森の中は人が踏み入らない為か、表面は薄い氷の膜が張っているものの一度(ひとたび)踏み割ると、中に詰まったさらさらとした粉雪に足を取られ、膝まで埋まった身体で雪を掻き分けながら、ゆっくりとした歩みで接近して行く。

 一足毎に氷の膜を割り、破砕する甲高い音が森に響く。

「はあ、はあ、思ったよりも疲れるな……」

 雪の中を進む為のラッセル作業は交替要員も居らず、一人で続けるしか無いので、徐々に疲労が蓄積されて来た。

 ようやく敵を攻撃出来る距離にまで近づくと、一旦近くにある木で遮蔽を取りつつ、一息入れる。

 一旦手にしていたARPS砲と背負っていたバックパックを木の根元に置くと、自身も背を預ける様に腰を下ろした。

――お疲れさん――

「おう」

――それとキースから通信が入ったよ――

「繋いでくれ」

――はいよ。…………繋がるよ――

「よう、どした?」

 グレンが通信に出ると、少し緊張した声でキースが通信に現れた。

「グレンさん、攻撃仕掛けるのちょっと待って貰って良いですか?」

 懐からタクティカルミラーを取り出すと、敵の様子を窺いつつ、一瞬考える。

「構わないが、何かあるのか?」

 15m程先に見える敵ARPSは、マリーアイゼンの方へと砲塔を向けてはいるが、先程の攻撃以降は追撃する様子を見せずに大人しく静観している。

「実は、今ミサイル持ちの敵に対してハッキングを仕掛けてまして、もう少しで完了するんです」

 ミラーをポケットへと仕舞い、代わりに煙草を取り出して咥えると、手が自然に火を点けそうになって慌てて止める。

「そうか、だったらそっちから合図を送ってくれ」

「分かりました」

 ぷらぷらと火が点いていない煙草を口に咥えたまま、通信を終えるとARPS砲へと砲弾を装填し始める。

――さっきは通信を遮って、怒鳴ってやろうかと思ったよ――

「いや、つい手がな……」

 グレンはばつの悪い表情を浮かべる。

 座り込んだ腰からは、防寒着を通り越して染み入る寒さに耐えながら、グレンは弾頭を付け終えたARPS砲を肩に掛けて、暇を持て余す様に上空を仰ぎ見る。木々の隙間からはどんよりとした雲が広がるも、所々切れ間も見え、透き通るような蒼さと共に木漏れ日が差し込んでいる。

「この分なら、この先も雪が降る心配は無いか」

 耳には先程から氷を削るローラー音と金属が擦れる音が絶えず聞こえ、時折思い出したかの様に銃声が割り込んでいる。

――アデリナから連絡が来たよ――

 咲耶の声に反応し、グレンはすぐに意識を切り替え、臨戦態勢へと移行する。

「こっちは何時でも良いぞ」

 再びタクティカルミラーを取り出すと、遮蔽を取っている木から差し出し、再度敵の様子を確認する。

――あいよ。じゃあ、カウント開始するよ。十、九……――

 敵ARPSは依然変わらずに広場の方を向いており、ミラーには背面に背負ったBP(バックパック)の姿が大きく映っている。

――七、六……――

 ミラーを仕舞うと、グレンは咥えていた煙草を吐き出して、木の陰から姿を現す。

――四、三……――

 ARPS砲を構え、照準を敵の機体へと合わせる。

――二、一、零――

 引き金を引き絞ると、砲弾はミサイルポッドを構え、無防備に晒された機体の脇腹に着弾した。

 グレンは発射後、素早く木の陰へと戻り、爆風を回避しながら次弾の装填を急ぐ。

――効果時間、残り二十秒!!――

 何度となく繰り返し行っている作業は、淀むこと無く、数秒で完了する。

 グレンは追撃を行うべく、木陰から躍り出た。

 眼前には、脇腹の装甲に穴を開け、周辺を真黒く煤で汚し、穴の下方からはオイルが噴き出している敵の機体が見える。

 必死に反撃すべく、機体を動かそうとするも、何故か脚部が動かずに、上半身だけがもがく様な動作を繰り返している。

――残り十秒っ、急いどくれ――

 この状況こそが、キースの仕掛けたハッキングの効果だった。今回は敵のシステムに侵入して機体の脚部制御を掌握したのだ。

 効果の程は絶大だが、未だLvが低い為か、使い勝手が悪いスキルでもある。

 今回も準備に五分以上の時間を掛けて、効果が得られるのはたった二十秒。当然、途中で失敗することもあれば、効果が切れる場合もある為、使い所が中々無い。

 とは言え、今回は成功した様だ。

 敵の背後に位置するグレンは反撃の心配をすること無く、同じ場所を攻撃すべく慎重に狙いを定める。

――七、六、五……――

 咲耶のカウントを聞きながら、もがく腕の隙間を狙い、タイミングを計る。

――四、三……――

 効果が切れる寸前、グレンは引き金を絞った。

 発射された弾頭は振り回された腕を掻い潜り、初弾よりやや下だったものの、見事機体に命中した。

 初弾時に空いた穴は大きく広げられ、内部ユニットにも破壊が及んだ。爆発時に漏れ出たオイルに引火して、大きく開いた穴周辺からは火の手は上がり、黒煙が立ち昇っている。

 時折ショートした火花により、小さな爆発をさせながら立ち尽くしていた敵ARPSであったが、やがて力尽きたかの様に膝を突き倒れ込んで行った。

 その様子を木陰から覗いていたグレンは、懐から煙草を取り出して今度こそ火を点けると、堪能する様に大きく紫煙を吹き出した。


 思わぬ展開から集団戦を余儀なくされたものの、キース達は何とか勝利を得ることが出来た。

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