第三十四話 提案
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新たな機体の購入が決定した矢先、ディートリンデからふとした疑問を投げ掛けられた。
「そう言えば、拠点の機体収納制限には掛からないのかしら?」
この拠点の機体収納数は三機と定められている。当然、新たに機体が購入されれば、制限を超える機体を保有することとなる。
「それなら平気ですよ。カグツチは大破判定になっていますから、既に制限数からは外されています」
ビエコフは診断時に判明した情報を告げる。
戦闘により損傷を負った機体は、その損傷の程度によって中破や大破と言った判断を下される。そして大破と判断をされた機体は、機体登録を抹消される。今のカグツチの機体状態は大破と判断されており、既に機体では無く、鉄屑と見られている。その為、新たに機体を購入しても、収納制限には掛からない。
また、大破した機体を修復する場合、修復する機体が収納制限数に掛かっていると修復自体が行えない様になっている。
「そう、なら問題は無いのね」
取り敢えずの懸念は払拭された様だ。
話が纏まった一行は、ようやく長かった一日を終え、現実世界へと帰還した。
現実へと戻った未沙は早速公式サイトを開き、次機候補を探し始めるが、ものの十分もせずに投げ出した。
「こーっんなんっ、わっかるかー!!」
そこには初期支給機の説明とは、全く違った形での情報が掲載されていた。
初期支給機は誰にでも分かりやすく、とても簡易な説明がされていた。
例えば『索敵向き』『遠距離攻撃向き』と言った役割や、『速度重視』『パワー重視』と言った機体の方向性が示され、能力値は補足と言った意味合いが強い紹介だった為、各プレイヤーはそれに沿って好みの機体を選択したのだ。
ところが、開放された上位機種は全く違う。制作側がいよいよ本気で自分達の趣味を盛り込んで来たと言える内容であった。
役割や方向性と言った分かり易い紹介文は消え去って、各種項目と数値が羅列された諸元表が主体に代わり、捕捉程度に機体の特徴が書かれるだけとなった。
車やバイクなどのカタログを思い浮かべて貰えれば分かり易いだろう。諸元表には出力値や巡航走行速度と言った項目が延々と並べられ、それで判断しろと言っているのだ。
データ好きには歓喜しそうな内容だが、未沙の様なライトプレイヤーからすると発狂ものだ。
更に初期支給機は十機程度だった機体の種類が、一気に三十機程にまで増えたことも要因の一つで、本来ならば喜ばしい所だが、現状では選択肢が増えた分だけ混乱が増してる様な有り様である。
未沙は勢い良く部屋を飛び出すと、隣にある健の部屋の扉を叩いた。
「入るわよっ」
ノックとは名ばかりに、相手からの返事も待たずに未沙は扉を開け放った。
少し広めの八畳間の部屋には、入って真正面に見える窓際にPCを乗せた机があり、その右側にはベッドが置かれ、枕の上には先程まで使用していたVR用のヘッドセットが乗せられている。ベッドの対面の壁際には一面棚が設置され、漫画や小説などに混じり、アニメやゲームなどに登場したロボットの模型が所狭しと陳列されている。
部屋に入ると健は机に置かれたPCに向かっており、丁度未沙と同様に公式サイトの機体諸元表を見ている所だった。
「姉ちゃん、どうしたの?」
椅子を回し、振り返ると不機嫌そうな姉の顔が見える。
「どうしたも、こうしたも無いわよっ。何なのよ、あれっ。全然わっかんないじゃないっ!!」
未沙が不満を爆発させるが、
「いや、こっちも分からないんだけど……」
と、健は困惑した表情を浮かべる。
「これよっ!!」
未沙がモニターを指差すのを見て、ようやく健は不満の原因を理解した。
「あー、これかー。確かに姉ちゃんみたいな人達には不評だろうね」
そう言うと健は苦笑する。
これにはちゃんと理由がある。初期支給機はプレイヤーを誘導する為に、敢えて分かりやすい特徴が付けられた機体のみが、与えられていたのだ。
それは開始以前の状況が分からず手探りな状態に於いて、敢えて役割を明確にし、各プレイヤーの行動を導く為でもある。
しかし、上位機種に与えられた役割は違う。それを一歩進めた所にあるのだ。
初期支給機によって様々な経験を得たプレイヤー達は、自身が求める方向性も明確となっている時期だろう。
初期支給機の限定された能力の機体から、上がった能力値を活かして多くの多様性が生まれ、各々の機体に個性とも呼べる役割や価値を得られる様にもなる。
このことにより、公式として指標を出すには難しく、却って先入観や固定観念を与える懸念を考慮して、敢えて明確な指標を表示しない方法を取ったのだが、未沙の様なプレイヤー達からは不満の声が上がっている。
とは言え、ある意味仕方が無い。ロボットと言う機械を題材にする以上、数値データとは否応無しに付き合って行かねばならず、この点が敷居の高さであり、また面白さに通じる点でもあるのだ。
そんな状態に置かれたライトプレイヤー達が頼りにするのは、wikiと言った情報サイトである。
だが、上位機種への乗り換えは始まったばかりであり、現状情報と言えるものは第一報程度しか無く、機体を明確に捉えた精度の高い情報が集まるには、まだ時間が掛かりそうである。
「こんな数字だけじゃ、何が良いのかなんて分からないわよっ!!」
未沙はベッドにドスンと腰掛けると、頬を膨らませて不貞腐れる。
この辺はファンタジー系とは全く違う面白さであり、また人を選ぶ敷居の高さにも繋がっている。特に未沙の様な格闘機の場合には、それが一段と顕著であった。
通常ファンタジー系の装備の場合、攻撃力は純粋に表示されている数字を比較すれば、どちらがより高性能かはすぐに判別出来る。しかしこのゲームで用いられるARPSは、様々な要素が絡む為、一瞥して判断することは非常に難しい。
格闘機の場合、まずは武装による攻撃力。そこに腕力となる機体出力が加わる。更には走行速度に機体重量も絡んでくる。この様に多くの要素が合わさった結果、攻撃力が判明する為、未沙の様なプレイヤーからすると分かり難い所の話では無い。
「いや、色々と分かるけど、普通の人にはちょっと難しいかな」
健は苦笑をしつつ、未だ興奮冷めやらぬ姉を宥めて、話を進めていく。
「じゃあ、一緒に選んでいこうか。念の為に聞くけど、姉ちゃんはまた格闘装備でいくの?」
「もちろん!!」
一瞬の迷いも見せずに、未沙は即答する。
「銃とか――」
「いらないっ」
「……はあ。じゃあ、次は方向性だね。被弾を覚悟で高い攻撃力を狙うか、今まで通り機動力を活かして手数で勝負するか」
「えー、速くて強いのがいいなー」
健の提案に対し、不満を示すかの様に、未沙はベッドの縁を脚でバタバタと叩いている。
「確かに格闘系の理想は速くて重い攻撃だけど、その矛盾を整合させるのは難しいよ。速い機体は大抵軽量になるから攻撃力は低い。攻撃力の高い一撃を狙うと、重量が増して機体速度は遅くなる。特に格闘装備の場合、機体重量はそのまま攻撃力に直結するからね」
「ぐぬぬ……。でも、やっぱり速いのがいいなー。後、防御力も上げたいっ」
最近は多少改善されて来たとは言え、やはり接近時に受ける損傷を気にしていた様だ。
「速さと一括りにしても色んな種類があるからね。高速で移動出来たり、瞬発力が高いとか。姉ちゃんの場合、防御力も上げたいなら瞬発力が高い方が良いかな。この辺なら多少速度が落ちるけど、装甲が厚くなるし」
「えー、遅いのは嫌よっ」
「大丈夫。遅いと言っても、高速移動が得意な機体と比べてだし。それにカグツチよりは速くなるから」
健はその後も姉の要望を聞き取り、時には宥めながら、何とか候補機を五機にまで絞り込んだ。
弟の協力を得て、何とか次機の目処が付いた丁度その時、突然自室の扉がノックされた。
「健、居るか?」
そう言って、部屋へと入って来たのは国光だった。
幼馴染だけあり、何度も通い詰め、勝手知ったるは我が家も同然の仲である。
「あれー、何しに来たの?」
不思議そうな未沙の視線を受け、
「いや、ちょっと相談したいことがあってな」
と、国光はベッドに腰掛ける未沙を詰める様に退かし、空いたスペースへと腰掛ける。
「そう言えば、未沙は次の機体何にするのか、もう決めたのか?」
隣に座る未沙へと振り向く。
「ほほう、気になるかね」
未沙は意地悪そうに微笑んでいる。
「まあな」
「でも、ざんねーん。まだ決まってないんだよねー」
「そうなのか」
他人事とは言え、新機体を楽しみにしていた国光は、少し残念そうな表情を浮かべる。
「国光さん、相談したいことって何ですか?」
一人机に向かう椅子に腰掛けている健は、国光の方へと体を向ける。
「いや、新しい機体のことなんだが……」
「なになにー、一緒に機体換えるのー?」
「……あー、それが、実は換えたい機体が無いんだ」
国光は散々期待させられながら、外れを掴まされた様な微妙な表情を浮かべる。
「えー、何それ?」
「どう言うことですか?」
二人の不思議そうな顔を見て、国光はこれまでの経緯を説明し始めた。
機体のアンロックを受け、上位機体が公開されると国光も期待を膨らませながら、その情報を一つずつ順にチェックをし始めた。
機体数も大幅に増えたことに加え、様々な関連情報などを集めたりと、乗り換えを行うのはまだ先のことながら、準備期間特有の楽しさを堪能する心算でいた。
ところが、暫く進めていく内にあることに気付かされる。現在使用しているスヴァローグよりも、センサー範囲が広い機体が存在しないのだ。
いや正確に言うならば、スヴァローグと同範囲のセンサー機しかないと言った方が正しいだろう。
勿論、これにはちゃんと理由が存在する。基準となる機体がスヴァローグではなく、ブラケニィーグであると言うことだ。
ブラケニィーグはシュネイック共和国では、センサー職の主力機として多くのプレイヤー達に愛用されている機体である。
そのブラケニィーグはスヴァローグと比べると、センサー範囲は狭くなるが運動性能は高く、戦闘での使用を考えるとバランスの取れた優れた機体だ。その為、多くのプレイヤー達からすると、センサー能力は十分上がっているのだ。
更にセンサー性能だけを比較すると同等に思えるが、運動性能を犠牲にしてセンサー性能を上げているスヴァローグに対し、上位機種となる機体は同等のセンサー能力を有しながら、格段に運動性能を向上させている。
その結果、国光からすると乗り換えることで相対的な性能は上がるが、一番期待していたセンサー性能は現状と変わらないと言う、何とも微妙な状況に陥ってしまっている。
「えー、変なのー」
「まあ、最初からセンサーに関してだけは、かなり高性能な機体だったと言うことではあるんだが……」
これは何もスヴァローグだけに限ったことでは無い。
何度か触れているが、初期支給機でも改造次第では、上位機種と対等に渡り合うことが可能となっている。
これは言い換えると、初期支給機と上位機種とでの性能差に、致命的な程の大きな開きが無いことを意味している。
つまり、スヴァローグの様な極端な性能の偏りを持った機体の大半は、初期支給機であろうと上位機種と同等の性能を有する能力が存在するのだ。
その所為なのか、大半の初期支給機は上位互換と言えるシリーズ機体が存在するのだが、残念ながら公開された上位機種の中にスヴァローグの名前を目にすることはなかった。
「じゃー、上位機種に交換しないでこのまま使い続けるの?」
「いや、家に来たってことは違うんですよね」
健は何かに期待する様な視線を国光へと向ける。
「最初は諦めてたんだが、良いものを見付けてな」
「「良いもの?」」
二人に説明をする為、国光は立ち上がると机に載せてあるパソコンを借り、表示していた公式サイトの中からある画面を映し出す。
「これだよ」
そう言って、二人に見せたのはBPの一覧表だった。
「これー?」
「あっ、これって……」
未沙とは対照的に、健はすぐに国光の言う良いものに気が付いた。それは大手メーカー製となる演算ユニットだった。
現状スヴァローグは専用BPとなる演算ユニットを用いて、機体性能を維持している。だが、アイバンとのリンクにより、実際には性能不足の所為でセンサー能力を十分に発揮出来ていないことが判明した。
それに加えて、今回見付けた上位機種となる演算ユニットのBPを足すと、答えは自ずと見えて来る。
「単なる乗り換えじゃなく、このBPを利用したハイブリッド機を試したいんだ」
国光の提案を聞き、健の中の狂機体整備者の血が湧き上がった。
ハイブリッド機。それは各メーカー共通の連結機構を利用し、メーカー純正の機体では無く、購入者がメーカーやシリーズを問わずに各パーツを選りすぐり、組み立てられたオリジナル機体を指す。
初期支給機に関してはセット売りしか行われていないが、上位機種となるIランクからは各パーツ単体での購入が可能となる為、生まれた機体でもある。
この説明だけを聞くと性能の高いパーツを選りすぐり、反映出来る高性能な機体と思いがちだが、それは大きな勘違いである。能力値と言う数字だけしか見ていない、机上の空論でしかない。
そもそも純正機とは、統一した設計思想に基づいて各パーツが作製された機体である。即ち、諸元表の数値上には表れない、操作性や機体バランス、耐久性など数多くの項目をパーツ単位では無く、一機のARPSとして一定の水準以上に仕上げた、言わば完成された機体なのだ。
それを設計思想や操作性など統一性の全く無い、諸元表などを目安に各パーツを寄り集め、組み上げた機体こそがハイブリッド機の実態である。勿論、各パーツの選別時にある程度の考慮はされるだろうが、機体が違えば各パーツに於ける役割や性能も微妙に変わってくるものだ。
当然、各数値上は純正機を上回る値を示すことになるが、戦闘とは単なる数値比べでは無い。幾ら数値が上回ろうとも、その数値通りの能力が発揮出来なければ、純正機の方が勝るのは当たり前の結果である。
つまりハイブリッド機は組み上げただけでは完成には程遠く、それ以降に山程生まれる調整や各種トラブルを解決する能力が問われる、物凄く手間の掛かる機体なのだ。
しかし、その見返りが大きいことも確かである。純正機よりも総体能力値が高いと言うことは、機体のポテンシャルが優れていることの証明でもある。完成されたハイブリッド機は、一世代上の機体とも互角に戦える。それだけの可能性を秘めているのも事実である。
ただこの様な理由から、万人に受け入れられている機体では無い。何しろ専属に近い形のメカニックを必要とするのだ。機体を熟知しない者に下手に弄らせると、今までの積み上げた成果が無に帰すことも起こり得る。
実際、当初は多くのプレイヤーが喜び勇んで挑戦したが、その大半が失敗作を生み出し、手を引いていった経緯がある。
その為、諸元表の数値以上に、機体性能は製作者たるメカニックの腕に負う所が非常に大きいと言う認識が生まれた。
現状では条件を満たした幸運な物好きか、浅慮な数値至上主義者と言った極一部のプレイヤー達だけが手を出している状況だ。
「是非っ、是非ともハイブリッド機にしましょう!!」
「……あ、ああ、色々と面倒掛けるが、宜しく頼む」
掴み掛る様な健の勢いに呑まれ、国光は唖然としながらも了承をする。
当初のお願いをする立場から、丸っ切り逆転してしまった。
「任せて下さいっ。スヴァローグは出荷台数が非常に少ない機体ですからね。まだ、それをベースに利用したハイブリッド機は存在しない筈……」
そう言うと、健は怪しい笑い声を上げ始めた。
国光が若干早まったかと、後悔し始めた時、背後から未沙が声を掛けて来た。
「そう言えばさー、オリジナルの組み合わせでロボット作ったら、名前付けられるんだよね?」
「そうだな。完成機体には登録出来る様になってるな」
メーカーもシリーズも統一されていない、各パーツの寄せ集めとなるハイブリッド機には、当然機体に固有の名称は存在しない。
その為、完成した暁には独自の名称を付けることが許される。名称は登録制となっており、同じ名称の使用は不可となるので早い者勝ちである。
条件は機体構成が頭部、胴体、腕部(左右)、脚部(左右)の計六箇所の内、四種類以上の機体パーツが使用されていることだ。因みに、同じ組み合わせの機体であっても、内部ユニットを交換したりなど細かな違いがあったりする為、別機体として扱われるので名称登録が許可されている。
更に、次機となる機体に一つ以上のパーツを継続使用することで、名称を継承することも可能である。
「私が名前付けてあげる!!」
「い、いや、まだ出来る前から、そんなことは……」
「遠慮しなくてもいいよー」
楽しそうに語る未沙の迫力に押され、国光は断わり切れず、明言を避けるだけに留まる。
「何がいいかなー」
こうなると誰にも止めることは出来ず、後は時間による忘却を期待するしかない。
国光はこの先を思うと、一抹の不安を感じずにはいられなかった。
翌日は休息日であり、各メンバーはそれぞれ思い思いに過ごしている。
グレンは解体屋を中心に、行き付けの店を定期巡回しつつ、新規装備や掘り出し物探しに勤しんでいる。
ディートリンデは評判が良かったり、新たに出店したカフェなどを巡りながら、クエストを中心として様々な情報を収集している。
そしてキース達三人はと言うと……。
「うーん、あまり評判は良くなさそうだね」
「えー、ダメなのー」
「こっちのは良さそうだぞ。この人はエレノアと一緒で前機がカグツチだから、参考になるんじゃないか」
ゲーム内の掲示板で、候補機体の情報を集めていた。
ネット上とゲーム内、二つの場所はそれぞれ情報に違いがある。
ゲーム内は仕様上、最新情報や生の声と言った、その場の思いがダイレクトに反映されている。
それに対してネット上の情報は考察であったり、ある程度精査された確定情報が多く、当然その分鮮度は劣る。
上位機種への乗り換えは始まったばかりであり、チーム内で一、二機保有している所が、中位のチームにもちらほらと見え始めた所である。
その為、ネット上には有益な情報がまだ数少なく、三人はゲーム内の掲示板を覗きながら、玉石混交の情報の中から有益そうなものを漁っていた。
「どうだ?」
「そうですね。この辺の情報などは、ネットにはありませんでしたね」
「ふむふむ、なるほどー」
情報を見付けては、三人で検討していく。そんなことを一日続けていくと、五機程あった候補機が二機にまで絞り込むことが出来た。
翌日、拠点へと集まったメンバーの前で、エレノアから発表が行われた。
「それでどうだ。決まったか?」
グレンが早くも知りたいと、好奇心を湛えた瞳を向けて来る。
「うーんとねー、決まったと言うか……」
エレノアの言葉は歯切れが悪い。
「実は二機にまで絞り込んだのですが、最終決定の前に実機を見に行きたいと思うんです」
見兼ねたビエコフからフォローが入れられる。
「そんなことが出来るのか?」
「掲示板にメーカーで説明を受けたと言う人がいるんですよ」
キースは昨日見付けた話をする。
掲示板を漁っていた中、一件の興味深い書き込みがあった。
その人はまだ上位機種の情報など殆ど無い頃に、乗り換えを行ったらしく、曰くダメ元でメーカーに話を聞きに行ったら、丁寧に機体の説明をしてくれたとのことだった。
「そんなことが出来るなら、購入前に是非試してみたいわね」
「でしょ、でしょー」
感心しているディートリンデの隣で、エレノアが盛んに頷いている。
「それじゃあ、早速行こうぜ」
グレンが一同を促そうとするが、
「それがですね、メーカーがレニンスキには無いんですよ」
「なに!?」
ビエコフの言葉に、グレンは虚を突かれた表情を見せる。
レニンスキは開始の街だけあり、多くのメーカーの拠点が存在する。
「実は候補の内の一機を製造するメーカーが、マクノーシ・スラビシュに行かないと無いんですよ」
「そこだと、二機共見ることが出来るの?」
「うん、そーだよ」
ディートリンデの問い掛けに、エレノアは嬉しそうに答えている。
「成る程。移動が必要なのか……」
「はい。そこで相談なのですが――」
「まあ、平気だろ。依頼を受けずに移動すれば、襲撃も少ないだろうし、特に問題無いな」
グレンはビエコフの話を聞くこと無く、あっさりと結論を出す。
「ねえ、どうせ行くなら、私首都を見てみたいのだけど」
グレンの結論を聞き、ディートリンデから一つの提案がなされる。
首都であるミーヌフクスは、マクノーシ・スラビシュから北西に三日ほど行った場所にある。
「良いですね。自分も一度行きたかったんです」
「いーね、いーねー。いこー!!」
「そうだな。今の所目的も無いし、ついでだしな」
「じゃあ、エレノアの機体を受け取った後は、『首都ミーヌフクス』まで足を延ばすってことで」
「さんせー」
全員の賛同を得て、今後の予定は決まった。
エレノアの失った装備を揃え直し、食料などの備品を買い終えると、すぐにレニンスキの街を出る。
天候は晴天に恵まれ、キラキラと光り輝く雪面が眩しい。
ここ暫く大量の雪が降っていないこともあり、綺麗に轍が残る街道を一路北へと進んで行く。
以前にも一度経験をしているが、依頼を受けずに街道を進むと、襲撃率が格段に下がる。
偶に索敵に引っ掛かる襲撃者も、現在保有しているARPSが二機しかない為、スヴァローグのセンサー性能を生かし、回避していく。
極力リスクを避け、安全を優先に進んで行く一行は、結局一度も戦闘をせずに、どんよりとした雲に覆われつつある四日目の午前十時過ぎ、無事にマクノーシ・スラビシュの街へと到着した。
街中の道路は舗装がうっすらと透ける程に除雪され、脇には山と積まれた雪の壁が遠くまで続き、すっかりと冬の街並みである。
「まず、どっちから行くの?」
運転をしながら、ビエコフは後部座席に座るエレノアへと問い掛けた。
「うーんとねー、シブサワ重工の方からかなー」
シブサワ重工とは老舗ARPSメーカーの一つで、エレノアの愛機であったカグツチ壱型を製造していたメーカーである。
「了解。アイバン、シブサワ重工の場所までナビ宜しく」
――……位置判明。ナビゲート開始します――
その声と共に、ビエコフの視界の先にあるフロントガラスには、行き先を示す矢印が映し出され、誘導が開始された。
アイバンの指示に従い、街中を十五分程進むと、最初の目的地であるシブサワ重工が見えて来た。
レニンスキにある建物とは違い、景観規制を受け、三階建てと言う低さながら横に長く広がった真新しい近代的なビルだ。
ビエコフはアイバンを敷地に入れると、建物の前に広がる駐車スペースへと停車をさせる。
止まるのとほぼ同時に後部座席のドアが勢いよく開くと、エレノアが車外へと飛び降り、ビルへと向かって走り出した。
「エリーちゃん、走っていくと危ないわよ」
同じドアから降りたディートリンデが一人先を行くエレノアへと声を掛けるも、一度振り返り大きく手を振るとすぐに走り出してしまった。
「あんなに急がなくても、変わらないだろ……」
外へと降りたキースの呟きに、ディートリンデもその無邪気な行動に苦笑してる。
四人はエレノアの後を追い、建物の中へと入っていく。
鏡面の様に磨かれた黒い御影石が敷き詰められたホールには、入口から入って一番奥に重厚な木製の受付カウンターが置かれ、受付嬢の一人と話をしているエレノアの姿を見付ける。
四人は近づいて行くと、話を終えたエレノアがこちらへと振り向いた。
「どうだった?」
「見せてくれるって」
キースが窺うと、笑顔で了承が取れたことを伝えて来る。
やはり情報は正しいらしく、チームカードを提示して機体を見せて貰いたい旨を伝えると、あっさりと許可を取れたらしい。もっとも試乗まではさせては貰えない様だ。
「それでね、案内に付く人が説明してくれるって」
「そうか」
暫くその場で待っていると、サラリーマン風の男性が声を掛けて来た。
「お待たせ致しました」
その姿を見て、エレノアとビエコフの二人が「あっ」と言う声を上げる。
「おや、エレノア様でしたか」
男性からの言葉に、
「エリーちゃん、知り合いなの?」
ディートリンデ達三人は不思議そうな表情を浮かべる。
「カグツチを買った時に担当してくれた、ミナヅキさん!」
「いえ、私の名前はミツヅカです……」
「そうそう、ミツヅカさん!!」
間違いを指摘され、エレノアは気まずそうに笑いながら誤魔化している。
ミツヅカは一つ咳払いをすると、
「では、早速案内を致しましょう」
と、ビルの中を先導していく。
一行は通路を暫く歩くと、建物の裏手へと出た。そこには巨大な倉庫の中に、左右に五ヵ所ずつARPSを収めるハンガーが設置されている。
ハンガーにはARPSが数機格納されており、中には見覚えのある壱型の機体も見掛ける。
ミツヅカはその中の一機の元へ向かうと、足下に立ち、こちらを振り返った。
「こちらが御指名頂きました、壱型の上位機種。カグツチ弐型-Nタイプになります」
キース達五人は一斉に機体を見上げる。
外観は前機であるカグツチ壱型とほぼ変わらぬデザインとなっており、壱型と同じくライトグレーに塗られた機体には、肩や下腿と言った一部の装甲が赤いピンストライプの模様で彩られている。
特に頭部は内部の変更に留まり、壱型と全く同じデザインの作りとなっている。
壱型よりも僅かに機体が大きくなった弐型は、機体性能の向上に伴う各部の大型化を上手く抑え、外観のバランスを崩すこと無く、性能の向上と壱型と変わらぬデザインの両立を見事に果たした機体に仕上がっていた。
また、このNタイプはSタイプより各部の装甲が増加され、防御力と重量を増してはいても、本来基準となる機体である。機体の特徴である速度と操作性は失われずに保たれている。
外観を見る限りでは、特に大幅な変更点が見られないことから、操作性や性能にも大きな違いは殆ど無いであろう。そのことから壱型に続き、多くのプレイヤーに継続して愛用される機体となるであろう。
「操作性とかはどうなんですか?」
機体周りをうろついているエレノアに代わり、ビエコフが案内役のミツヅカへと質問をする。
「壱型と殆ど差違は御座いません。寧ろ性能が上がった分、扱いやすく感じられると思います」
カグツチは操作性が優秀で、そのことが売りとなっている機体だけあって、ミツヅカの説明からもその自信が窺える。
「Sタイプからの乗り換えだと、重量も増えるしスピード感とかは?」
「Nタイプで御座いましても、性能が上がっておりますので、例え壱型Sタイプからの乗り換えでも遅いと感じることはありません」
その後も当事者のエレノアを差し置いて、ビエコフやキース達が主体に説明を受けていった。
「……で御座います」
「成る程。ありがとうございました」
キースは半ば聞き流しているエレノアに対し、
「お前の機体になるんだから、ちゃんと聞いてたか?」
と、注意を入れる。
「えー、だって乗ってみないとさー」
指摘されたエレノアは、頬を膨らませ不満を露わにしている。
一通りの説明を受けると、またミツヅカの案内で入口へと戻って来た。
「エレノア様には、引き続きカグツチを御愛用頂ければと願います」
「うん、考えとくねー」
一礼をする男性に、エレノアは手を振り、一同はその場を後にした。
次に向かう、カグツチの上位機種である弐型と競合する機体とは、一体どの様なものが選ばれたのだろうか。




