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第二十三話 新調

7/8 誤字修正

7/9 誤字修正

 方針の決定後は一気に忙しくなった。

 本格的に冬季装備を揃えるのは向こうの街に到着してからとして、まずは時間を優先して最小限の準備で向かうことを決める。

 とは言え、何が必要となるのかなど何も分かってはいない。ならば、知っている人に聞けばいいと、各ARPSの製造メーカーに相談しに行くことにした。

 開始の街であるレニンスキには、当然初期支給機のメーカーは全て揃っている。

 所持している三機のARPSは全て違うメーカー製の為、順番に巡って行く。

 教えられた装備は、概ねキースが予想した範疇のものだった。雪上や氷上移動用のスノーシューやスキーモービルと言った歩行用装備。関節部の凍結防止用インサレーションカバーやアイカメラのレンズ凍結防止用ヒーター付ゴーグル、吸気及び排気口の目詰まり防止用ヒートカバーといった装備だ。

 中でもスノーシューやインサレーションカバーなどは、特殊な形状のARPSでなければ汎用品の使用が一般的らしい。

 そして大きさや形状から専用品が必要となるゴーグルとヒートカバーは、スヴァローグの分だけ購入をする。

 理由は単純でスヴァローグの製造メーカーは、ここレニンスキと首都であるミーヌフクスにしか存在しない事が、今回の訪問で判明したからだ。


「流石、二十機しか所持者がいないだけあるな」

「まさかっ、これ程小規模な所で作られているとは……」

 グレンの指摘にも反応すらせず、呆然となるキースであった。


 カグツチとシュヴァルディアは、マクノーシ・スラビシュにもメーカーの所在地があるので、一旦購入は見送り様子を窺う事にする。

 その後、トレーラーのタイヤをスタッドレスタイヤに替えて貰い、食材などの日用品を買い揃えると、一行はギルドへと向かう。

 尚、今回からサイドカーを拠点へと置いて来ており、AIユニットはトレーラーの座席の後ろにあるトランクスペースに詰め込んでいる。

 ギルドへと到着すると普段とは違い、珍しくかなりの人で賑わっていた。その多くが第二陣から始めた人達なのだろう。どことなく、仕草からは初々しさといったものを滲ませている。その様子を見て、果たして自分達からは歴戦とは言わずとも、それなりの風格が醸し出される様になれたのだろうかと、キースなどは思ってしまう。

 一行は受付に受領書を渡して、配達依頼をまずは完了させる。依頼を重複受注する事は出来ない。唯一許可されているのは、賞金首討伐だけだ。

 依頼完了後、目の前で空いた端末をカウンターに見付けると、次の依頼を探していく。

 相変わらず、討伐系とキレンスクロフへの依頼は殆ど見掛けない。あれから大分日数が経っているが、依然として人気が高いようだ。この分だと、第二陣のプレイヤーもそれに続くだろうし、キース達が受けられるのは当分先になるだろう。

 希望するマクノーシ・スラビシュ行きの依頼は、想像以上に多く見つかった。そして、その依頼内容の殆どは護衛依頼となっていた。

 どうやら街道が雪に閉ざされる前に、急ぎ移動しようとする人達がこの時期は多いようだ。

 出来れば配達依頼が良かったのだが、残念ながら見付けられず、多くある護衛依頼の中から条件の良い一件を選び、受付で受注する。

 キース達は久々の、そしてグレンは初となる護衛依頼を開始する。




 待ち合わせ場所となる街外との境界線広場には、大型のRV車が一台とコンテナ車を引いたトレーラーが三台停まっていた。

 キースとグレンが代表して挨拶に向かうと、六十代位だろうか、白髪で商人にしては目つきが穏やかな老人が対応に応じて来た。どうやら、この人が商隊のリーダーのようだ。簡単に挨拶を済ませると、護衛に関する確認を行う。

 前回と違い、今回は指示を任せるとの事なので、キース達のトレーラーを先頭に配し、間に商隊を挟み、殿に自走担当のARPSを置く形を提案し、了承を貰う。

 連絡用の専用回線をリーダーの乗るRV車との間に設定すると、すぐにマクノーシ・スラビシュに向け出発をする。


 マクノーシ・スラビシュはレニンスキからは三日半の道程となる。

 今日は昼過ぎからの出発となるので、予定行程は半日分だ。

 レニンスキを出ると、一路北東へと伸びている街道を進んで行く。

 昨日から暗い雲に覆われた空は、回復する兆しを見せず、進行方向である北に向かう程、黒く立ち込めているのが見える。

 レニンスキで確認した予報では、明日は一時雨とのことだったが、どうやらいつ降られてもおかしくない様相だ。

 暫く走ると街周辺の草原地帯が徐々に消え、レニンスキ北部に位置する大森林地帯が見えてくる。

 この大森林地帯は広大な面積を誇り、北はマクノーシ・スラビシュの先、首都のミーヌフクスまで続く広さを持っている。

 多くの木々が密集して内部は夜のような暗闇に覆われており、磁気が狂っているのか、センサーが効かなかったり、機体の稼働に支障を来たす様な場所も存在するらしい。

「そんな所なんだってー。一度探検に入ってみたいよねー」

 殿を自走するカグツチの通信から、そんな声が聞こえて来た。

「そんな場所に安易に入ったら、彷徨った挙句に餓死するのが落ちだぞ」

 キースは横目で、始まったばかりの大森林地帯を眺める。天候の影響も有り、中は既に2m先も見通せぬ程の暗さになっている。

「えー、だってさー、そんな場所なら中に絶対何かあるよー」

「まあ、確かにありそうだわな」

 先頭を走るトレーラーに乗車するグレンも、視界に端が見えない程の広大な敷地を持つ森を眺めながら苦笑を浮かべる。

「焦らずに、一歩ずつ着実に進めて行きましょうね」

「うん、わかったー」

 ディートリンデの言う事だけは素直に聞く様だと、キースは頭の片隅に留めておく。


 夕方近くになると野営地を探し出し、宿泊の準備を始める。

 今にも降り出しそうな空模様だが、初日は何とか持ったようだ。

 商隊より少し離れた所に、キース達はシェルターを並んで建てる。内側から入口を開けると、少し離れた位置にある街道を跨いだ奥に大森林地帯の姿が見える。日が暮れたことで、昼間以上に不気味さが増しているようにも思える。今後は目的地まで、この大森林地帯沿いにずっと進んで行く事になる。

「この森林地帯からも、敵は現れて来るんでしょうか?」

 先が全く見えない程深い森を見ながらキースが呟くと、

「どうだろうな。取り敢えずは、警戒するに越したことはないだろ」

 煙草を吹かしながら、隣に立っていたグレンも視線を大森林地帯へと向ける。


 夜も更け出すと、とうとう雨が降り出して来た。

 シェルターの壁を叩く音も、太鼓の様な乾いた音から、時間が経つに連れ徐々に濁った音が混じる様になる。

 夜が明ける頃には、夜半から降り出した雨はすっかりみぞれへと変わっていた。

 それに伴い気温も一気に下がり、吐く息も白く、これから長くて厳しい本格的な冬の始まりを予感させる。

 一行は天候が回復する兆しも見せぬ中、急ぐ様に街道を北東へと進んで行く。

 二日目に入ると、常時周辺警戒をしているスヴァローグのセンサーには、はっきりと目に見える形で大森林地帯の異様さが現れ出した。

 円を描く形で映し出されるセンサー範囲に対し、まるで虫食いの様に不明箇所がいくつも見つかるのだ。


「こんな場所があるなんて……」

――不明箇所は奥に行く程、個数及び範囲が増える傾向にあるようです――

 周辺部とは言え、今までの収得したデータから、アデリナが独自の分析を掛けたようだ。

 一見、極普通のやり取りに思えるが、実は大きな一歩となる出来事であった。

 AIが自身の判断で独自の分析を掛ける、それはようやく成長の兆しが現れた事に他ならない。

「森林地帯に向かう時は厄介になりそうだね。とは言え、現状での対処も考えないと……。アデリナ、範囲10km圏内の不明地点は注意してくれ」

 しかし、キースはアデリナの成長の兆しに気付く事は無かった。

――それだと処理負担が増える為、探索範囲が15kmにまで縮まる事になりますが……――

「構わない。至近からの襲撃の方が、脅威度は高いからね」

――了解です。範囲10km圏内の不明地点の警戒を開始します――


 その後は時折襲撃受けるも、危なげなく倒していく。

 みぞれが降り始めているとは言え、今の所は地面が泥濘(ぬかる)む位の影響しか無く、雨天での戦闘を経験しているキース達の問題にはなっていない。

 大森林地帯からも襲撃を受けたが、不明地点からは不思議と敵が現れることはなかった。


 街道にも薄らとみぞれが降り積り、路面状況が段々と悪化するに連れて、移動速度が落ちていく。

 何とか雪が降り始める前に、マクノーシ・スラビシュの街灯りが見え始めた頃には、四日目の午後十時を指そうとしていた。

 街の入り口で完了証明書を貰うと、商隊は街の中へと消えていった。

 どうやらこの街はペトロヴェートとは違い、泥に塗れた車両を洗う必要はないようだ。この事は夜を迎え、かなり気温も下がっているので非常に助かった。

 自走を担当した機体を整備所に預けると、一行は終了手続きの為にギルドへと向かう。

 到着時刻も遅い所為か、明かりを灯す建物も少なく、閑散とした街の中を進んで行く。

 ギルドは街の中心部でも数少ない、十階建てのビルに入居していた。

 中に入ると、流石に二十四時間営業しているとは言え夜も遅く、フロアには人影が疎らにしか見掛けない。

 早速受付へと完了証明書と各自のカードを預ける。

 処理されるのを暫く待っていると、受付から名前を呼ばれた。

 一行が向かうと、対応に現れたのは証明書を渡した職員とは違う、いかにも事務官といった理知的な風貌の女性に変わっていた。

「お待たせしました。カードを御返却致します。それと申し訳ありませんが、少し御時間を頂けませんか。支局長が皆様との面談を要望されています」

 突然の展開に呆気にとられるも、承諾するとすぐに上階の別室へと案内される。


「なんだろーねー。怒られる様なことって、なんかしたっけ?」

「いや、多分大丈夫だろ」

 女性の後に従い、通路を歩きながら小声でやり取りをしていると、突き当りとなる部屋へと入室を促される。

 重厚そうな扉が開かれた部屋へと入ると、中央に楕円形の硝子の大型テーブルが配された、会議室の様な場所だった。

「暫くお待ち下さい。すぐに支局長が参ります」

 一礼すると、そのまま女性は退室していった。

「どうなってるの?」

 未だにエレノアは、一人だけ戸惑いから抜け出せていない様子だ。

「大丈夫よ、エリーちゃん。どうやら当たりを引けたみたいだから」

 ディートリンデの言葉にも、キョトンと首を傾げているが、みんなが椅子に座り出すと、釣られる様にディートリンデの隣りへと座った。

 部屋の雰囲気の所為か、雑談などする事無く大人しく待っていると、一人の男性が先程の女性を伴って入室して来た。

「お待たせしてすまない。私がマクノーシ・スラビシュのギルドを預かっている、支局長のエーベルハルドだ」

 名前を告げた男性は、年の頃は四十代。栗色の髪に口髭を蓄え、フレームレスの眼鏡を掛け、紺色のスーツを着た、ビジネスマン然とした人だった。

 キース達三人は場慣れしていない事もあるのだろう。男性の登場により生まれた空気に、完全に呑まれていた。

「御用件があるそうですが……」

 動じる事無く、グレンが淡々と対応する。

「そう警戒しなくても平気だ。今日はこれを君達に渡そうとしたんだ」

 エーベルハルドが合図をすると、後ろに控えたいた女性から一枚のカードを渡された。

「これは?」

「これはギルドに貢献があったチームに渡される、チームカードと呼ばれる物だ」

 そう言うと、カードの説明を始めた。


 チームカードの特典は二つ。一つは各ARPS製造メーカーに提示する事で、支給機よりも上位の機体の購入が可能となる。また購入出来る様になった機体は、公式サイトで能力値が記された諸元表が公開される。但し、閲覧にはチームカードの登録番号の入力を求められる。

 もう一つは、ギルドにチーム名義の口座を得られる。チーム口座に入金されたお金は、メンバーが死亡しても減額される事は無い。唯一、チームが全滅した場合のみ半減される。なので、状況によっては「俺に構わず先に行けっ!!」をリアルに要求される場面も出て来るであろう。


「やったー!!」

 エレノアが椅子から立ち上がり、一人興奮を隠しきれずに喜んでいる。

 支局長の後ろに立つ女性が注意を促す様に一つ咳払いをすると、慌ててディートリンデがエレノアの手を引き、椅子へ座るよう促す。

「話を進めてもいいかな?」

 支局長が窺う様な視線を一堂に向けると、すぐに話を続けた。

「チーム口座の方は既に開設されているので、入金はいつして貰っても構わない。それじゃあ、これからも君達の活躍に期待しているよ」

 支局長はこちらへと笑みを見せると、女性を連れて部屋を出て行った。

 部屋の中にキース達だけが取り残されると、溜めていた喜びが一気に爆発した。

「やったなっ」

「ええ、やりましたっ」

「やったー!!」

 女性陣は抱き合って飛び跳ねており、キース達三人もハイタッチを交わしていた。

 喜びも収まると、今後の方針を相談する。

「これで一歩進みましたね」

「ああ。説明を読むと、機体などの支払いはこのチームカードでも行えるみたいだから、後で入金しておこう」

 グレンはカードを手にして説明を読みながら、聞いたもの以外を確認している。

「でも、一体どんな条件だったのかしら?」

 最近加入したディートリンデには、一応これまでの過程を話してはいるが、思い付かない様子だ。

「恐らくですが、"ギルドに貢献があったチーム"って言うのがカギだと思います」

「それはどう言う意味かしら」

「今までの俺達の行動から推測すると、条件は二本線から登場した街への依頼を全て達成している事だと思います」

 星二つとなって訪れた街は、ノヴォベリスク、ペトロヴェート、そしてここマクノーシ・スラビシュの三つだ。

「それじゃあ、最初にここへ来ても、チームカードは貰えなかったのですか?」

 ビエコフが当然の疑問を投げ掛ける。

「多分ね。最終到達地で渡されることになっているんだと思うよ。俺達は偶々ここが最後だったんだよ」

「それともう一つ。ギルドで渡されたって事は、依頼を受けて来なければならない。単に訪れたってだけではダメなんだろう」

 キースの説明を補足する様に、グレンが続ける。

「取り敢えず、今日の所はこれで解散にしましょう」

「そうだな。みんな疲れているだろうし、街の散策は明日にするか。これで情報も開示されるから、ビエコフは明日までに新車の目処を立てておけよ」

 グレンの言葉を受け、ビエコフは満面の笑みを浮かべて了承する。

 ここに来るまで、ARPSでの長距離自走、悪天候下での戦闘など様々な影響を受け、表情にこそ現れていないが、各自目に見えぬ疲労が溜まっていた。

 一同は部屋を出て、受付で入金を済ませると、一旦整備工場へと戻り、機体を預けたのちログアウトをした。




 翌朝、一行は集まるとまず新しい車両を購入するべく、製造メーカーへと足を向ける。

 数日前から降り続いたみぞれもとうとう雪へと変わり、いよいよ冬の始まりを告げていた。

 昨夜は到着が遅く、暗かったので、街並みをよく見ることが出来なかった。

 その為、初めて目にするマクノーシ・スラビシュの街は、整然とした独特な雰囲気を作り出している。

 ビルといった高層な建物は殆ど見当たらなく、広大な区画を擁した施設がいくつも点在している。

 区画に記された名称などを見ていると、どうやらこの街は教育機関や研究所といった施設を多く持つ学術研究都市のようだ。


 案内するビエコフの話によると、車両メーカーは開始当初一社しか無かったが、アンロック後は三社へと増えたようだ。

 公開された上位機種の中で、積載数が三機、整備用重機付きで積載時に機体を露出しないと言う条件をクリアする車両はたった二台しか該当せず、いずれも新規メーカーのものだった。

 その該当した二台から選ぶのだが、それ程悩むことはなかった。何故なら、その内の一台に強烈に惹かれたからだ。

 もっとも、現実的にも選択肢など存在しなかった。何故なら条件を満たした内の一台を製造するメーカーは、この街には販売拠点が存在しないことがすぐに判明した為だ。


 と言う訳でこれから向かう所は全ての条件をクリアし、運良くビエコフが希望した車両を製造しているメーカーとの話だった。

 辿り着いたその場所は、支給品としてトレーラーを受け取った場所とは、全く毛色の違う所だった。

 ショールームや整備工場などといった、車屋らしき雰囲気など微塵も感じない。どちらかと言うと、ARPSを受け取った場所に近い雰囲気を感じさせる。

 敷地の入口正面に、五階建ての真新しいビルが建っている。その左側には格納庫と呼ぶに相応しい、かまぼこ型の倉庫が三つ並んでいる。

 入口右手にある駐車場にトレーラーを停めると、一同はビエコフを先頭にビルへと向かって歩き出した。

「ねーねー、ほんとにここ車屋さんなの?」

「確かにね。車両メーカーにはちょっと見えないな」

 後ろで会話するエレノアとキースに対し、ビエコフが歩きながら振り向き説明をする。

「ここはね、車屋じゃなく、戦車などの戦闘車両を作っている軍需メーカーなんだ。そこに新しく一台、ARPS運搬用に開発された車両があるんだ」

 ビエコフは意気揚々と自動ドアを開け、中へと入って行く。

「なんか、嬉しそうだねー」

「そりゃな、やっぱり新車は誰でも嬉しいだろう」

 二人は見合うと、笑い合いながらビルへと入って行った。


 受付にチームカードを提示して要件を伝えると、暫くして担当者となる一人の男性が現れた。

 その男性に付いていく形で、ビルの左手にある格納庫然とした倉庫へと案内される。

 真ん中にある倉庫の前へ到着すると、それを待ち受けたかの様にゆっくりと入口のシャッターが上がり、中にある一台の車両が視界に入って来た。


 濃い灰色に塗られた装甲と言える外装で覆われた車体は、四人掛けの操縦席を挟む形で左右に欄干で囲まれた一人分の幅を持つ屋外作業スペースが付いており、車両の幅が5m程にも及ぶ。

 以前のトレーラーよりも一回りは大きいであろう、エレノアの肩程(約1.4m)の高さがあるタイヤは、前に二輪、後ろが三輪の計十本装着され、その全てが駆動輪となる十輪駆動、10×10となっている。

 前方に突き出された形の操縦席の下は、艦船の船首の様に斜めに削られ、牽引用の大型フックが左右に二ヵ所、その中央には牽引用ウインチの姿も見える。

 フロントの左右には丸い大型のヘッドライトが、金網で出来た保護ガードとセットで縦に二つ並んでいる。

 今度の座席は後部座席が据え付けられ、乗車定員は倍となる八名へと増えた。

 乗車部の後方には右側にトランクと240ℓの水用タンクが設置され、反対の左側には武装用固定アームが立っている。

 操縦席外側の天井部には、高さ50cm程の柵が付いたスチールラックが備え付けられ、側面にはスタック脱出用のスノーラダーやシャベルが、ラックにはスペアタイヤなどが載せられる様になっている。

 乗車部の後方には、同じ濃い灰色に黄色い線が二本入った、大きくて長いコンテナが載せられている。側面には手摺付きの梯子が掛かった入口があり、そこから内部へと入る事が出来るようだ。コンテナの中には整備用重機が設置され、部品を収納出来るスペースも確保されている。コンテナの天井部には二本のレールが走り、作業用アームが各二本ずつの計四本ぶら下がっている。

 今まで使っていたトレーラーとは、明らかに毛色の違う車体。軍需メーカーが開発した、装甲ARPS輸送車であった。


 全員が騒然と眺めいている中で、案内をして来た男性が車両について、ビエコフに色々と説明をしている。

「……となります。コンテナ内には降着状態で三機、機体を寝かせた状態ですと二機の収納が可能です。また内部にはメンテ用の重機と、部品収納用の簡易倉庫も設置されており、走行中でも内部で修復作業が行えます。もっとも、振動が生じる状況では細かな作業は難しいでしょうが」

 ここで男性は一旦振り返ると、注文をしたビエコフに向かって話掛ける。

「次に、武装の選択になりますけど、ご希望は御座いますか?」

「お薦めは何ですか?」

「そうですね。今まで購入された方が選ばれたのは、機関砲もしくはロケット砲ですね。個人的には、遠距離から攻撃可能なロケット砲をお薦めします」

「それじゃあ、ロケット砲でお願いします」

「畏まりました。設置に時間を要しますので、御引き渡しは一時間後となりますが、宜しいでしょうか?」

「解りました。後、冬を迎えるに当たって、準備する物とかはありますか?」

 男性は少し考え込むと、

「特には御座いませんね。元々冬季の使用も想定して、設計されておりますので」

 と、きっぱり言い切った。

 少し驚いた表情で、ビエコフは質問を投げ掛ける。

「えーと、チェーンとかもいらないんですか?」

「はい。装着していますタイヤは、車内より空気圧を調整出来、それにより必要に応じてタイヤのブロックからスパイクピンを出す事が可能となります」

 呆然としているビエコフに、男性はにっこりと笑い掛けた。


 後で引き取りに伺う約束をして、一行は街の散策と各種消耗品などの補給を行う。

 学術研究都市と言う土地柄からか、商店の数は少なく目ぼしい品物にも出会う事は無かったが、再びあのメーカーの商品を見掛けた。


 ブーメラン(ホーミング機能付) 2,200,000Y(イェン)/アキバ商会謹製 備考:ほんっ……とに…も~~~っ!!思いつきで怪しい武器作っちゃってさあ~~~


「おー、かっこいー」

「これって、意外と実用的では……」

「いや、ダメだろ」

 エレノアとビエコフの二人が目を奪われる中、キースだけが冷静に判断を下す。

「えっ、ダメですか?」

「ああ。この国だと障害物が多過ぎて、まともに投げられる機会は殆ど無いだろ」

「そう言われると、そうですね」

 少し冷静に考えるとすぐに解る事でも、商品を前にすると意外と思い付かなかったりする事が多々ある。


「はっはっはっ、なんだこりゃ」

「ふふ、誰が買うのかしらね」

 初めて目にするグレン達二人も、やはり驚きと同時に笑いをもたらしていた。




 一行は再び車両を受け取りにメーカーへ戻ると、倉庫の中の装甲ARPS輸送車には、後部座席の後ろにロケットの筒が円形に八本並んだロケット砲が設置されていた。

 男性はビエコフに機能を説明し終えると、ロケット砲にカバーを掛けた。

「では、こちらが鍵となります。お支払いですが、今乗られているトレーラーはいかが致しますか?」

 男性はビエコフの背後にある、今まで使用して来た支給機のトレーラーへと視線を向けた。

 ビエコフは背後へと振り向くと、一瞬目に寂しさを滲ませる。

「……下取りをお願いします」

 未練を断ち切る様に男性へと告げると、減額された金額をチームカードで支払う。

 当初は予備車両とする案もあったのだが、拠点の収容制限に引っ掛かり売却を余儀なくされた。

 全員で手分けをして、積んでいた機体や様々な荷物を新車の方へ載せ返ると、ビエコフは最後にAIカードをホルダーから抜き取った。

「短い間だったけど、……色々とありがとう」

 ハンドルを一度撫でる様に触り、座席から降りると男性に鍵を渡した。

 ビエコフは目に焼き付ける様に、運ばれて行くトレーラーの姿を視界から消えるまで見送った。


 気持ちを切り替える様に、ビエコフが新しい車両へと振り向くと、車内には既に全員が乗り込んでいる姿が見える。

 今回の乗り換えにより、以前と大きく変わった事が一つある。

 それは運転手であるビエコフ以外も、今後は全員が車内に乗る事が可能となったのだ。それは探索を担当するキースも例外では無い。

 今まではキースがARPSに搭乗していた事で、遠距離の索敵が可能となっていた。

 しかし、今回車両の性能が上がった為、スヴァローグとの情報リンクを交わす事で処理の一部を負担し、搭乗時と殆ど変わらぬ索敵距離が実現可能となった。この件はアデリナからもたらされた情報で判明した。


 何故この様な事が可能となったのか。その原因はスヴァローグの機体設計に端を発する。

 センサー性能に特化した機体と言う方向性が行き過ぎた結果、演算機能を専用BPで補う形を取っているが、実際にはそれでも足りてはいなかったのだ。その為、車両の性能を一部使用する事で若干ではあるが補填され、性能が上昇する事が発覚したのだ。

 この事はチーム内に新たな波紋を呼び、スヴァローグに限らず、各機体の限界値がどこにあるのかと言う疑問を生じさせる切っ掛けとなった。


 とは言え、詳細情報に関してはキースが搭乗し、スキルを使用しないと判明出来ないのは変わらない。

 ビエコフがドアを開けると、騒々しい車内の声が聞こえて来た。

「この車、広いし座り心地が良いね」

 エレノアは後部座席に座り御満悦の様子だ。

 今までは座っているだけとは言え、半日をARPSに搭乗して過ごすと言う状況は、かなりの疲労を負っていたのだ。

 ビエコフは運転席に腰を下ろしてエンジンを掛けると、まずはAIカードをホルダーへと挿入した。

 すぐにシステムへとアクセスが始まると、各種様々な設定が自動でなされていく。

 すると、若い男性の声が車内へと響く。

――初期設定が終了しました――

 突然の出来事に、車内に居た全員が固まってしまう。

「……えーと、誰?」

 ビエコフが恐る恐る声を掛ける。

――初めてとは言え、その言い草は随分と酷いですね。私はアイバン。貴方のAIですよ――

「「「ええーっ」」」

 車内は一気に騒然とした空間となった。


 新しい車両と共に新しい仲間(?)を得て、本格的な冬が始まる中、一行はレニンスキへと向かう事になる。

追記:設定資料の方に舞台となるシュネイック共和国の地図を掲載しました

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