第二十話 勇者の役割
「もう少し、森の中を探ってみてもいいかしら?」
名嘉の提案により、私たちは川へ降りずに、しばらく森の中を彷徨った。
栗の木密集地帯を見学したり、キャンプ場に宿泊する人たち向けに設置されたらしい、景観を意識した池を眺めたり。
パンフレットを頼りに歩き回ったのだけど、怪しいキノコは一切発見できなかった。
「ゲームらしいキノコは、まったくないよね」
「やっぱり、川で見た魚が怪しそうだよ」
相川と並んで散策をしていたけれど、戦闘に置いて魔法使いの出番はなかったようで、ウィンドウを操作しても、ステータスの確認は出来なかったみたい。
たまに出現するモンスターの対処を、私が担当し、相川が眺める。
「いいなぁ、アタシも戦士になってみたいかも」
「やってみる? 強い戦士がイメージ出来るなら、だけど」
「宮本武蔵、みたいな?」
「二刀流、格好いいかもね」
「大きな斧を振り回すよりも、スタイリッシュだと思うよ」
「チッチッチッ。セーラー服姿の女の子が、大きな斧を振り回すのが良いんじゃない」
「分からんなー」
そこはまぁ、見解の相違と言うやつで。
次第に魔法使いの役割が分かってくると、私たちは一定の距離を保ちつつも、分担をして探索をすることになった。
そしてやっぱり、川で見かけた魚ぐらいしか、怪しいものは見つからない。
「やっぱ、あれしかないよな。でも、捕まえる方法はまったく考えていなかったからなぁ。タモでも持ってくればよかったか」
「タモ、持っているんだ」
「釣り道具一式は用意してある。川沿いを下っていくと、釣りが出来る湖があるらしいんだよ」
「へぇ、そこって泳げる?」
「遊泳場所とは、分かれていたと思うな」
林田と相川の話を聞きながら、パンフレットを確認してみる。確かに湖があった遊歩道からも接続しているらしい。
モンスターとの戦闘終わりで、私は少し先行している。魔法使いの相川は後方に待機していて、キノコを調べる係りに徹底をしていた。
ここまでの行動で分かったのは、戦士は戦闘を行い。医者は人間を、魔法使いは物を調べる。そんな役割だった。
では勇者は何をするのか、というのはまだ分かっていないけれど、今後詰まる所があったら、相川の職業を変更して確かめてみるべきだろう。
それよりも、泳ぐ……、水泳、か。水着って学校指定のものしか持っていないのだけど、友達と遊ぶ際には、やはりちゃんとした水着を用意しなくてはならないのだろうか。
「ねぇ、カナちゃんは水着を持っている?」
「学校指定のものしかないわね。特に必要性を感じなかったから」
「じゃあ、一緒にそれを貫こうね!」
「それはダメ~。アタシが二人の分を選んであげよう!」
林田と話している内がチャンスだ、と思っていたけれど、そう甘くはなかったみたい。
森の探索に見切りをつけて、私たちは川に降りた。
亀のモンスターは問題なく対処できていて、風林火山のイメージによるステータスの高さを、身をもって実感した。
攻撃力は、九十九。
防御力も、九十九。
行動力も、九十九。
おそらくカンスト。亀のモンスターは一撃で倒すことは出来なかったけれど、被弾は一で抑えられてたし、十個の黒丸も、掛ける九と表示されている。
つまり、九十回は攻撃を受けられる、はず?
「よし、私はここで戦闘に集中するから、みんなは魚の対処をお願いね!」
と言いながらも、聞き耳を立てて様子を窺う。
「うーん、手掴みは拙いかも。毒があるのは確実だよね」
「さすがは魔法使いだな。で、どう捕る? やっぱりタモを取りに戻るか?」
「魔法使いなら捕まえることが出来る、という可能性はないかしら?」
「ちょっと試してみるねー」
そういうやり取りがあって、相川は魚に触れたらしい。直後に、チャイムが鳴った。
「俺、タモとバケツを持ってくるわ」
つまり、ゲームオーバーである。
いつも通りに目覚めて、グッと伸びをする。スマートフォンが鳴った。メセチャの通知で、名嘉からだった。
>夜まで待ってみない?
>魚はいいの?
>どこで魚が必要になるか分かるかも。
なるほど。毒となる魚を持ち運ぶよりも、その方がリスクは少ないのかも。それに、先に問題を並べておいたほうが、解答を探しやすいって面もある。
了解、と返しておいたけれど、そこで一つ、面倒な事実を知った。
「折角グループを作っても、リセットされちゃうのかぁ」
朝一番に、全員で話し合えたら良かったのに。唇を尖らせながら、私は支度を整えた。
そして放課後。いつも通りに大金を運搬して、私は我が家に戻っていた。
「どうする? 数えてから夜を待つ? それとも、夜を待ってから数える?」
「誰か訪ねてきたら説明に困るし、数えてから夜を待ったほうが良いかもしれないわ」
名嘉に意見に満場一致で賛成をして、私たちは紙幣の数を数える。これで戯駕に取り込まれることとなって、時間の流れが切り替わった筈だ。
「さて、と。これで夜まで待つわけか。どうする? ゲームでもするか?」
「なんで林田が提案するの? そういうの、家主である私がするべきだと思うのだけど」
「ははー、ゲームをさせてくだせー」
「うむ、許そう」
職業は、私が戦士で相川が医者。名嘉が魔法使いで林田が勇者ということになった。
家の中にまでモンスターが出現する、というわけではないようで、和やかにパーティーゲームを楽しみ、相川が腕を振るって夕食を楽しみ、家を出る。
「星空が、綺麗だよねぇ」
戯駕の中。他の人の活動がないせいか、地上の明かりは全くなかった。少し登れば見下ろせる集落も、真っ暗。まるで私たちの世界。私たちだけの冒険。
こんな世界を見てみたいと、あの日の『僕』は、そう思っていたはずだ。
「なんか、ここまで静かな夜だと、しんみりしてくるよな」
林田の言葉は、みんなが思ったことだと思う。
「だとしても、モンスターは変わらずに出没するみたいだけどねぇ」
風情のないチャイムだった。もう少し、こう、自然に馴染むような音だったらよかったのに。
だんだん癖になりつつある、唇を尖らせる行動をこっそり行いながら、私は目の前に現れたモンスターを見た。
際どい水着のような衣装。背中に映えるコウモリのような翼。ネズミのような尻尾。可愛らしく生える角。
「すっごいモンスターだなっ!」
笑顔を見せる林田の気持ちが、少し解った。
「さいてー」
「そういうものが好みなのね」
「だ、だね!」
けれど、ちゃんと空気は読めますので。セリフは間違えたのかもしれないけれど、なんとか女性陣に同調を示して、関心がないように振る舞う。
どうせ、私の先制攻撃だろう。斧を構えて、攻撃の意思を示そうとすると――。
そこで、チャイムがなった。
現れたウィンドウには、こう記されている。〈魅了の状態異常に掛かりました。勇者は力を発揮できていないため、戦闘の継続は出来ません〉。
あ、勇者の役割って、そういうことなのね。




