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第16話 知りたい

「だから、あたしのせいなんです。梓が亡くなったのは。転校さえしなければ、今も元気だったんです。あたしが、あたしが殺したのと同じです」


 亜朱沙は俯いた。妙子はゆっくりとソファから身体を起こした。


「そんなことがあったのね。前の中学校で苛めのようなことはあったらしいけど、本人は認めていなくて証拠も何もないって聞いていたから、それに梓ちゃんも何も言わないから何も判らなかったのよ。髪の色が薄いのは遺伝のようなものかなぁって勝手に思ってたし」


「あたしのせいです。梓の髪は綺麗な黒だったのに、急に浦島太郎みたいになったのもあたしのせいなんです。足を捻挫したのは梓のせいでもなんでもないのに、自分でもどうしようもなく腹が立って抑えることが出来なくて、誰もあたしには反対しないのは判ってたし、あたし、どうしようもない暴君でした」


「あなたが体操着を隠したり、とかは?」


「いえ。直接何かしたことはありません。でも、今だと忖度そんたくって言うのでしょうか、あたしが『これ、こうだよね』とか言うと、勝手にやったりする子が何人かいたので、きっとその子らがあたしに代わってやったんです。あたしは梓の体操着がないって、梓が本当に忘れたんだと思っていましたから。でも、結果的にはあたしがやったのと変らないです」


「そうか。なかなか難しい話よね。梓ちゃんが認めていなかったって言うのがそもそもね」


「梓は本気で自分が病気かも知れないって思ってたみたいだし、それが自分のせいじゃないとしても、梓の性格だったら、自分だけが我慢すればいいって言うのか、他の子を巻き込んで騒ぎになることが嫌だったんだと思います。体育大会の代走だけであたしが激オコしたので懲りたって言うか」


「今でもそう言うの、あるよね」

「はい。だから梓には合わす顔がありません」


「ま、今真相が判った所で、何かが変わる訳じゃないけど、それであなたは懺悔してどうするとかあるわけ?」

「懺悔は一生続けます。それと、さっき仰ったように梓が人を助けたとかあるのなら、そう言うことも含めて、こちらでの梓のことを正確に知って、それを元クラスメイトに伝えたいと思っています」


「なるほど。じゃ、私が知っている梓ちゃんをお話するところからね」

「はい、有難うございます。出来れば、他にも梓のことを知っている人の話も聞きたいと思っています」

「判った。力になるよ」


 亜朱沙はソファを降りて床に正座し、妙子に頭を下げた。


「有難うございます。梓の導きだと思います」

「そんなことしないでよ。梓ちゃんだって望んでいないよ。自然体で行きましょう。さ、座って。お茶、入れ替えて来るわね」


 妙子は足を引き摺りながら、湯呑を持ってダイニングと往復して戻って来た。


「じゃ、まずは私の足の話からしましょうか」

「足、ですか?」

「そう。実は私も梓ちゃんに生命を救ってもらった一人なの。梓ちゃんは表面上じゃなく、相手のことをきちんと見られる本当の優しさを持った子だった」


 妙子は14年前の会話を思い出した。


+++


「綿木先生は足がお悪いんですか?」


 梓が妙子に聞いたのは転校して来て2日後のことだった。


「そうなのよ。ちょっと事故っちゃってね、杖がないと上手く歩けないのよ」

「あのう…骨が無くなってるとかですか?」

「ううん、そこまでじゃないけどね」

「じゃあ、骨の周りの筋肉を鍛えたら、杖が無くてもある程度は歩けるようになるんじゃないでしょうか」

「ああ、まあ、そうかもね。お医者もそんな事を言ってた気がするけど、面倒になっちゃってね」

「家で一人でやっても、すぐに面倒になっちゃいますよね。先生、ジムに通いましょう」

「ジム?」


 梓は笑顔で頷いた。


「私も昔は足が遅かったんですけど、ジムで専門の人にアドバイスしてもらったら速くなったんです。トレーニングはむやみにやっても逆効果で、ちゃんとこことここを鍛えたらこうなるって考えてやらなきゃなんです。この近くにもジムがあるって聞きました!」

「そうね。通ってる先生もいるわ。じゃ、私も体育の先生に聞いてみてやってみるね」


+++


「私は梓ちゃんの笑顔に押されるように体育の先生に聞いて、早速ジム通いを始めたのよ」


 妙子は足を叩いた。 


「そうしたらさ、1ヶ月程で効果が出て来てね、杖なしでもヒョコヒョコ速く歩けるようになったの。学校でも階段をさっさと上がる練習とかもしてね」

「へぇ…」

「ま、震災以降はサボってるから元の杖婆さんに戻ったんだけど、震災の時はね、トレーニングのお陰で丘の上への階段を素早く登れて助かったのよ。梓ちゃんのお陰だよ」

「へぇぇ…」

「彼女は相手のことを考えた厳しさを優しさに包んで与えてくれたのね」


 亜朱沙も頷いた。


「でもね、実はさっきの話でもう一つ、謎が解けたのよ」

「謎…ですか?」

「そう」


 妙子は手を伸ばして亜朱沙の髪を撫でた。



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