第15話 苦い後味
3学期が始まって2週間、亜朱沙は放課後、佐藤 美順に話しかけた。
「美順、転校した飯野さんの荷物のこと、何か知ってるんじゃないの? いなくなって急にいろいろ出て来るって変じゃない? ブラが出て来た時はぞっとしたんですけど。あの子、何か酷い目に遭ってたんじゃないかって」
「あー、あれね。でもさ、亜朱沙にとっては結果オッケイなんじゃないの? 竹内君も取られなかったし」
「ちょ、ちょっと。なにそれ。あんた何したの?」
「大丈夫だよ。暴力は振るってないから。それに亜朱沙だって、そうして欲しそうだったじゃん」
亜朱沙は美順の前に仁王立ちになった。
「そんなの頼んだ覚えないよ! 体育大会の係分けとは違うのよ! それ、苛めってか犯罪じゃないの?」
「だからぁ、脅したりとか無理やりとかは一切していないよ。飯野さんがぼーっとして忘れてっただけ。亜朱沙も思ってたでしょ、何とかならんかなーって。実際、竹内君は取られかけてたのよ。むしろ感謝して欲しいわ」
「あのね、力任せで押しのけるみたいなのは、あたしだって嫌よ! 竹内君だってそんなの認めないよ」
美順はプイっと背を向けた。
「ま、今さらだけどね。あの子がいなくなったのは親の転勤なんでしょ。関係ないじゃん、ウチらとは」
「それはそうかもだけど、なんかあたしも意識しちゃうのよ」
「だからぁ、もう終わったんだって。もう出て来ないよ。あんま気にしないことね。じゃね」
美順の言葉に亜朱沙の心のモヤモヤはどす黒く渦巻き上がった。
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1ヶ月も経てば、そんなあれこれも、『飯野 梓』の名前すら中学生たちの頭からは遠のいていく。しかし、更に1ヶ月後、2年3組の生徒たちは再びその名前を思い出すことになった。
3月の初め、東北地方を未曽有の大災害が襲ったのだ。多くの人が生命を失い、生命が無事でも家財や仕事、住む場所や故郷を失った。
生徒たちもニュースでその状況を知っていたが、そんな中で2年3組に噂が聞こえて来たのだ。
転校して行った、飯野 梓が、震災で生命を落とした、という噂である。
誰もがその噂に一旦立ち止まったが、すぐに新学年に向けての課題に忙殺された。
亜朱沙には後味の苦さしか残らなかった。




