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第14話 その次の章

 梓を巡る事件は、持ち物が行方不明になるだけではなかった。クラスメイトは薄々気がついていたのだが、梓の髪の色が変化しているのだ。元々は艶やかな黒髪だったのが、徐々に色が抜けている。秋から冬への移ろいのように、梓の髪は枯れつつあった。しかし、正面からそれを話題にする者はいなかった。


 そして冬休みに入って、北端中学の職員室は急に慌ただしくなった。生徒たちが何も知らない間に。


+++


 終業式の翌日、北端中学の応接室では、飯野梓の両親と教頭、および2年3組の担任教諭が向かい合っていた。


「梓本人も自分の不注意だからと、苛めなどは認めようとはしないのですがね」


 梓の父親が渋い顔で話す。 


「しかし、急に髪が白くなるって、相当強いストレスがかかったとしか考えられんのです。私の職場でもパワハラでそういうのってありましたから」


 母親も頷きながら


「体操服も泥だらけで持って帰って来て、外に忘れたみたいって言うんですけど、そんなことあります? 梓の性格からも他人のせいにはしたくないって見え見えでして」


 教頭も渋い顔で頷いた。


「仰ることはよく判ります。クラスでも無記名でアンケートをしたのですが、残念ながら有力な話は皆無でして、ただ、スカートが切られていたというのは、刃物を持ち込んでいた可能性があるので看過は出来ないと言うことで、担任も相当強い調子で話してくれたようなんですが、大っぴらに犯人探しと言うのも躊躇う点がございましてね」


 教頭は咳払いをして続ける。


「犯罪となると警察に依頼せざるを得ないのですが、学校と言う所はその手前で留まれるように物事を教えてゆくところですので、なるべく私どもの手で詳《つまび》らかにしたいと言うのが本音でしてね」


 父親は頭を上げた。


「先生方が教育者としてそう仰るのは理解はできます。しかし、やり得《どく》のようになってもいけないと思うのですよ。エスカレートもしかねませんし、梓以外に被害者が出るのも困りますので、大人として一線を示しておくべきと思うのです。梓自身は交友関係を言わないんで、親としてはさっぱり解らないのですが、何かお気づきの点はないのでしょうか」


「ご意見は重々承知しています。梓さんはどちらかと言うと目立たない方で、敵を作るとも思いにくいのですが、体育大会でリレーの代走をやって頂いた後にひと悶着あったとは聞いています」


 担任がその後を引き取った。


「ただ、その件は陸上部の男子が間に入って治まったと聞いていますし、そもそももう片方の当事者も陸上部の女子で、クラスでも人気者なんですね。性格も判っていますが、人望もあって陰湿なことを考えるような子じゃないんです。実際にスカートの件でもアリバイはありましたし、疑えませんでした。経験上、そういったことをしでかす場合、兆候と言うかどこかに不自然な点が見えるのですよ。まだ中学生ですからね」


 その日の話し合いでは得られたものは特になかった。それだけに梓の両親の焦燥感は募った。


+++


 ところがその二日後、教頭は突然訪れた梓の父親から意外な話を聞いた。


「実は勤務先から異動の内示が出ましてね。急なことなんで本来なら単身赴任なんですが、こういった状況を踏まえて帯同で引越ししようと考えてる次第なんです。急なことで申し訳ないですが、1月1日付なので年末には退去致します」

「どちらへ行かれるんです?」

「東北なんですよ。三陸海岸近くです。梓も気分転換になりますので」

「そうですか…」


 教頭は驚いたが、反面ほっとしたことは否定できない。古くから転地治療はオーソドックスなものだ。


+++


 こうして3学期が始まった初日、クラスの生徒たちは飯野 梓が転校して行ったことを知った。駿も、亜朱沙ですらそれを聞いて唖然とした。そしてその直後から、梓のモノと思われる体操着や文房具が校舎内外で次々に見つかった。



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