第13話 癇癪
「いい気にならないでよ!」
2年3組の教室に亜朱沙の声が響き渡った。優勝の余韻が残るクラスメイトは一斉に亜朱沙を見る。亜朱沙は制服に着替え、しかし足首には包帯を巻いたまま。その目の前には梓が座っていた。
何もかもが気に入らない。綱引きなんかで足を捻挫してしまったこと、駿が梓にベタベタしていること、そして何よりも梓の快走である。こんなだったら最下位でも良かった。亜朱沙は真面目にそう思った。
「スカートで走って何を見せびらかしたかったのよ!」
『まぁまぁ』と周囲の生徒が亜朱沙を押し留める。
「あんたのせいで、あたし、大会にも出られないじゃない! どうしてくれるのよ!」
「ご、ごめんなさい」
梓は机に頭を擦り付ける。慌てて駿が仲裁に入った。
「藪さん、それ、飯野さんと関係ないでしょ。捻挫したのは綱引きの話なんだからさ」
「だって、この子が出れないから負けたんじゃん! 人数少なくて」
「それだけじゃないよ、戦法とかいろいろあったよ。綱を引く分には互角だったんだからさ」
「なんで竹内君はこの子の肩を持つのよ! 同じ陸上部じゃんか! あたしが悔しいの、判らない?」
「それは判るよ。判るけど、飯野さんのせいじゃないでしょ。それにリレーで十分に役割を果たしたんだしさ」
駿は穏やかに説得しようとするが、亜朱沙の顔は強張ったままだった。女王の怒りに他の女子生徒は声を上げられない。
「もういい! 責任は取ってもらうからね! 竹内君、あたし、部活しばらく出れないから」
言い捨てて、足を引き摺りながら亜朱沙は教室を出た。
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次の日である。梓のスカートが切り裂かれているのが見つかったのは。珍しく失せなかった体操着に着替えて体育を受けたあと、制服に着替えたら、スカートの後ろから梓のパンツが丸見えになっていたのだ。女子の中でそれを指摘するものは誰も居らず、男子もどうしてよいのか判らず、結局他のクラスの女子の指摘で、梓自身は放課後になってようやく気がついた。
昨日の今日である。放言して帰った亜朱沙が疑われたが、あいにく亜朱沙はその日、捻挫の診療のために学校を欠席していた。事件は迷宮入りした。
その後も梓の持ち物は、しばしば行方不明になった。亜朱沙は素知らぬ顔だし、梓自身も変わらぬ自分の不甲斐なさを責めた。




