第八十話 婚約破棄をした人はもう間に合わない
九人の父親の貴族たちが、国王陛下の執務室に来ている、ということを聞いたフレナリック殿下は、執務室に乗り込むと貴族たちに対し、
「今すぐ自分たちの領地に戻れ! そうすれば、領地は少し取り上げるだけにしてやる。抵抗する場合は、領地全土を取り上げる!」
と宣言する。
力の入った言葉だった。
貴族たちは動揺した。
形勢は、フレナリック殿下に傾きかけた。
しかし、貴族たちの一人が、
「国王陛下、どうか、国民の為にご決断ください。フレナリック殿下を修道院に送らなければ、この国はやがて衰え、国民はつらく苦しい思いをしてしまいます! そして、何と言っても、王室全体の維持ができなくなります!」
と熱意を込めて国王陛下に言った結果、形勢は逆転し始めた。
他の貴族たちも、熱意を込めて言い出したからだ。
「国王陛下、ご決断をお願いします」
「国民の為、王室の為です!」
貴族たちの勢いは増していく。
「父上、この人たちの意見を聞いてはなりません。この人たちは、父上やわたしから、この王国の実権を奪いたいと思っているだけなんです」
フレナリック殿下は、一生懸命抵抗する。
「きみたちは、このわたしから、この王国の実権を奪いたいと思っているのかね」
「我々は、国王陛下の為ならば、この身を捧げることのできるものでございます。そんなことは思ったことはありません」
貴族たちはみなそう言った。
「まあよい。きみたちは、王太子のような人間が王位を継いだら、この王国が傾いてしまうというのだろう。まあそう思うのも無理はない。きみたちの娘と別れただけでなく、贅沢の為、増税をして国民を苦しめているからな」
国王陛下の疲労の色はだんだん濃くなってきている。
「その通りでございます。我々の娘たちのことはともかくして、国民を苦しめる政治をこれからもしてしまうと思います。だからこそのお願いです」
「きみたちは娘たちのことをまだ根に持っているのか! 全く、いつまでそのことを言い続けるつもりだ!」
「娘たちの多くはまだ苦しんでいます。子供が苦しんでいるということは、親にとってもつらいことなのです。しかし、あなたを修道院に入れてほしいと願っているのは、この王国全体のことを思ってのことなのです。決して私情から動いているわけではなりません」
「何はこの王国を思ってのことだ。この王国のことだったら、わたしに任せていればいい。ただの私情で父上を動かさないでほしい!」
「どちらが私情でしょうか。わたしたちは、この王国の将来を思っているのです、自分の欲望が第一のあなたとは違います」
フレナリック殿下と貴族たちの戦いは続く。
「もういい加減にしないか、先程も言ったが、これ以上、わたしに歯向かうと、領地をすべて取り上げるぞ!」
フレナリック殿下は、怒りの頂点に達しようとしていた。
それに対し、
「あなたにそんな権限はない!」
と貴族たちの方も怒りが頂点に達しようとしている。
「国王陛下、御覧の通り、王太子殿下は気に入らないものはすべて切り捨てようとします。このような方に王国の今後は任せられません」
「父上、私情で動くものたちの意見は一切聞いてはなりません。わたしはきっと王国の為、いい政治を行います」
「国王陛下、今度こそご決断を!」
「父上、このものたちの意見を聞いては絶対になりません!」
国王陛下は、このやり取りに心から疲れた表情をしていた。
しかし、どうやら決断したようだ。
「王太子よ。お前は修道院に入ってもらう」
その瞬間、フレナリック殿下は、呆然とした表情になった。
「きみたちの言う通りだ。このままでは、この王国は衰えてしまうだろう。王室の存続ができなくなるだろうし、国民にも迷惑がかかる。これは仕方のない決断だ」
「父上……。あんまりな仕打ちです」
ガックリするフレナリック殿下。
「お前は、もう少し王太子としてきちんとしてほしかった。みんなに尊敬される人間になってほしかった。残念でたまらない……」
涙を流す国王陛下。
「もう一度、わたしにチャンスをいただくことはできないのでしょうか?」
「無理だ。もうお前は、修道院に行くしかない」
「チャンスをください」
「無理なものは無理だ」
「無理だと言われてもお願いします。わたしは王太子なのです」
フレナリック殿下はお願いをし続けたが、国王陛下は断り続ける。
こうして、国王陛下は、王太子を変更し、フレナリック殿下を修道院に入れることを決断した。
断腸の思いだったと思う。
これに対しフレナリック殿下は、反発し続けていたが、権限の多くを移譲されていたとはいっても、国王陛下の権威にはかなわず、従わざるをえなかった。
フレナリック殿下は、とても悔しそうな表情で、修道院に送られたそうだ。
そして新しい王太子が擁立された。
現在の国王陛下の甥にあたる人物で、まだ若いが、贅沢好きではなく、聡明だという。
この動きは、貴族や民衆に歓迎された。
フレナリック殿下を擁護する人はほとんどいなかったという。
ラフォンラーヌ公爵家は、後継者を選ぶことになり、選ばれた後継者に領地が返還されることになった。
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