第六十六話 前世のわたし・来世の約束
それから一週間ほどはわたしの体調も良かった。
殿下は毎日来るというわけにはいかなかったが、来た時は、恋人として仲睦まじく過ごすことができた。
このままいけば、また学校に行けるようになり、殿下と今まで以上に楽しい昼食をとれそうだと思っていた。
思っていたんだけど……。
わたしの病状は、その後、急速に悪化した。
意識もなくなることが多くなっていった。
そして……。
わたしは、この世での生命がいよいよなくなることを自覚した。
苦しくて、つらいが、目の前には殿下がいる。
今までわたしを愛し、育ててくれた両親もいる。
わたしを愛してくれた人たちには、笑顔で別れを告げたい。
「殿下、短い間でしたけど、楽しかったです。いい思い出をありがとうございました」
「リナグリッドさん、何を言っているんだ。思い出を作るのはこれからじゃないか。これからもっと楽しい思い出を作っていこう」
殿下はわたしの手を握り、涙を流している。
この手のやさしさ、わたしはずっと忘れないだろう。
「その言葉だけでもありがたいです」
「あなたはこれからわたしと結婚して、子を作り、一緒に幸せな家庭を作っていくんだ」
「わたしもそうしたかったです」
「だから生きてくれ! お願いだ!」
だんだん苦しさが増してきた。限界が近い。
「殿下、お願いがあります」
「なんでも言って御覧」
「わたし、来世で殿下と婚約し、結婚したいと思っています。そして、殿下のお役に立ちたいと思っています」
「来世で……」
「来世で殿下とわたしが出えるかどうかはわかりません。もし出会えたとしても、殿下が嫌であれば無理な話です」
「わたしは、この世でもこのまま結婚したいと思っている。来世でもあなたと結婚したい。わたしはあなたのことが大好きなんだ」
うれしい。
わたしは、
「殿下、ありがとうございます。これで安心してあの世に行けます」
と涙を流しながら言った。
「まだこの世でわたしと結婚するという大切なことがある。そしてその先の幸せな道も。まだ一歩しか一緒に歩いていないのに。わたしを残してこの世を去らないでくれ!」
「殿下、そういってくださってありがとうございます」
わたしは言葉を一回切った。
苦しい。声もかすれてきている。でももう一言言わなければ。
「殿下は大変お忙しいお方。お体には充分お気をつけください。休養をとるのも大切です。くれぐれもご無理はなされないでください。これからの殿下のお幸せを願っています」
「ありがとう。体には気をつけるようにする」
もう限界が来たようだ。
「殿下、大好きです、また来世でよろしくお願いします」
わたしは苦しさに耐えながらそう言うと、意識が遠くなっていった。
この世を去る時がきたようだ。
しかし、殿下の声ははっきりと聞こえていた。
「リナグリッドさん、リナグリッドさん、来世では絶対にあなたと結婚する! たとえ離れたところで生まれたとしても、絶対にあなたと結婚する! 大好きだ!」
殿下の強い想いが伝わってくる。
「来世は絶対に結婚しましょう」
わたしは遠くなっていく意識の中で、その言葉を殿下に言い、そして強く想うのだった。
「面白い」
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