第二十話 公爵家へ
殿下としても、わたしとの距離を縮めたいのだと思う。それがこの申し出なのだろう。
わたしも殿下との距離を縮めていきたい。
「殿下がよろしければ、わたしには異存はありません」
わたしはそう言った。
「よかった。じゃあ、これからは、あなた、もしくは今まで通りセリフィーヌさんと呼ぶことにする」
ホッとしたような表情の殿下。
「よろしくお願いします」
殿下がわたしを、「あなた」そして、これからも「セリフィーヌさん」と呼んでくれる。
とてもうれしいことだ。
「じゃあ、これで今日はお別れだな」
「そうですね」
わたしも残念な気持ちでいっぱい。
「もう少し話をしていたかったが……」
「わたしもです」
「そう言ってもらえるとうれしいな」
寂しそうな表情の殿下。
殿下は、わたしのことが恋愛の対象として好き、とかそういうことではないのだろうと思う、まだ出会ったばかりなのだから。でも好意は持ってもらっていると思う。
「また明日、学校で会おう」
「今までありがとうございました」
わたしは頭を下げる。
「わたしは当然のことをしたまでのこと。これからもよろしくお願いしたい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
わたしはもう一度頭を下げ、馬車に乗り込む。
そして、馬車は、王宮を離れていったが、わたしは涙が止まらなくなっていた。
学校でまた会うことができるのだ。それで満足すべきなのに、なぜ泣いてしまうのだろう……。
そうは思うのだが、涙はとめどなく流れてくる。
殿下……。わたし、殿下のことがますます好きになってきているようです。
この想い、少しでも届くといいんですけど……。
馬車は、グッドランド公爵家の屋敷に着いた。
王宮から近く、結構大きい敷地。
今は雪に覆われている庭園があり、池もある。
夏場はさぞ涼しい雰囲気がすることだろう。
建物は、華美なところは少なく、むしろ質素な方であるが、中は清掃が行き届いていてきれい。
今まで、わたしがいた公爵家となんら遜色はない。名家だけのことはある。
夜が近くなり、寒くなってきた。もうすぐ雪になりそうだ。
まだ殿下のところを去った打撃はあるが、もう切り替えていかなくてはならない。
わたしは、公爵夫妻の部屋に案内された。
「これはよく来られた」
とルナード閣下が言うと、
「待っていたのよ」
とアマンナ夫人も言ってくれた。
二人とも七十を越えている。威厳があり、厳しそうな雰囲気だったのだけど……。
「我々には子がなくて、ずっと寂しい思いをしてきた。やっと我々にも子ができた。うれしくて、うれしくて……」
閣下は少し涙ぐんでいる。
「こんな美しい人が我が家にくるなんて……。これほどうれしいことはないわ」
夫人も涙を流し始めていた。
「喜んでいただいて、光栄です」
わたしは頭を下げる。
「あなたのことは、殿下から伺っている。いろいろ苦労したんだね」
「わたし、あなたの苦労した話を閣下から聞いて、涙が出てきたのよ」
わたしの為に泣いてくれている。
ありがたい。うれしい。
二人は涙を拭くと、
「わたしのことは、これから父と呼んでほしい」
「わたしのことは、母と呼んでほしい」
と言ってくれた。
わたしは一瞬戸惑った。
しかし、この二人はこれからわたしの両親になるのだ。
呼び方もきちんとしていかなくてはいけない。
「お父様」
「うん」
「お母様」
「うん」
「わたしのことをお父様と呼んでくれた。うれしい」
「わたしのことをお母様と呼んでくれた。うれしい」
抱きしめ合う二人。
夫婦仲は、極めて良好のようだ。
これからは、心の底から。二人のことを両親として大切にしていかなくてはならない。
「これからは、わたしたちの子供だ。とはいってももう年頃だから、干渉はしない。ただ困ったことがあったら、いつでも言ってほしい。力になる」
「もう家族になったんですもの。親子として仲良く過ごしていきましょう」
「ありがとうございます」
わたしは深々と頭を下げた。
これだけやさしさのある二人だ。きっとうまくやっていけるに違いない。
「わたしたちもこれからセリフィーヌさんと名前で呼ぶけど、いいね」
お父様はそう言った。
名前で呼ばれることに抵抗はなくはないが、家族なんだからそれは慣れなければいけないだろう。
それに名前で呼ぶということは、親しくなりたいという意志があるからだと思う。
「もちろんです。お父様」
「じゃあ、呼ぶよ。セリフィーヌさん」
「わたしも呼ばせて。セリフィーヌさん」
ぎこちなさはありながらも、二人はわたしを名前で呼ぶ。
名前で呼ばれることに、抵抗が少しあったわたし。
でも、これはなかなかいいものだと思った。
「よろしくお願いします。お父様、お母様」
わたしは二人に微笑んだ。
「いい笑顔だ。これからよろしく」
「よろしくお願いしますね」
わたしたち三人は、手を握り合った。
「面白い」
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