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第十九話 別れの時

殿下に提供された部屋での時間はまたたく間にすぎていった。


体の方は、足がまだ少し痛いが、だいたい良くなってきた。


侍医は、この王国でも有数の名医という。


この方が治療してくれなければ、回復は大きく遅れたと思う。


侍医には、何度も、


「ありがとうございます」


と頭を下げたが、その度に、


「わたしはあたり前のことをしているだけです」


と言うのみ。


とはいっても、決して冷たい口調で言っているわけではなく、やさしさが感じられる口調だ。


執事もそうだが、殿下のやさしい人柄が、そういうやさしい人達を自然と集めるようになっているのかもしれない。


わずかの期間ではあったが、マクシヴィヴィアン殿下と話すことができたのはうれしかった。


誕生日を祝ってくれて、涙が出るほどうれしかった。


殿下はとにかくやさしくて、癒してくれる。


そして、わたしの美しさを褒めてくれた。


「きみは、容姿も美しいが、心も美しいと思う。素敵だ」


殿下はそう言ってくれた。


心の底から人のことを思いやることができるのだろう。


わたしの周囲には、今まで、こういう人はほとんどいなかった。


公爵家の令嬢だから、フレナリック殿下の婚約者だから、ということでちやほやする人が多かった。


心から思っているのであれば別だが、口先だけで言っている人がほとんどだったと思う。


しかし、殿下は違っていた。


心の底からわたしのことを褒めてくれた。


殿下とのおしゃべりは、それほど長い時間ではなかったけど、時を忘れるほど楽しいものだった。


フィーリングも合っている気がする。


わたしはそういう殿下が次第に好きになっていた。




しかし……。


別れの時はきてしまった。


今日、わたしは殿下のところを去らなければならない。迎えの馬車がもうすぐ来る。


わたしは悲しい気持ちになっていた。


涙がこぼれてくる。


恋かどうかは、まだわからない。でもわたしは殿下が好き。殿下と離れたくない……。


そういう気持ちが強くなってきている。


でもわたしは王族の一員ではない。婚約者でもない。本来はここにいることはできない人間なのだ。


殿下には救けていただき、しかも、養子先も世話してくれた。


感謝の気持ちでいっぱいだ。


それでも涙は止めることができない……。




迎えの馬車が着いたようだ。


夕方。雲が出てきていて、このままだと夜は雪になるかもしれない。


もう泣いていてはいけない。これからはグッドランド公爵家の令嬢として生きていかなくてはいけないのだ。


わたしは涙を拭き、立ち上がる。


殿下が部屋にやってきた。


忙しいところ、来てくれてうれしい。


殿下にエスコートされ、グッドランド公爵家の養女になることを賛成していただいた国王陛下と王妃殿下に御礼をした後、馬車の方に向かう。


そして乗り込む前に、


「殿下、短い間、ありがとうございました。心より感謝申し上げます」


と殿下に言った。


思わず涙が出そうになった。


「セリフィーヌさん、わたしはきみと話すことができてうれしかった。これからより一層仲良くしたい」


「もったいないお言葉」


「それから、一つお願いがある」


「なんでしょう」


「これからはきみではなく、あなたと呼ぶようにしたい。そして、これからもセリフィーヌさんと呼んでいきたい。もちろん嫌なら、きみといういい方のままにするが。どうかな?」


恥ずかしそうに言う殿下。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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