第十八話 わたしは間に合わない (イレーナサイド)
わたしには、殿下のお妃になるしか生きる道はなくなっていた。
その為、異母姉が殿下の婚約者に決まった時は、わたしの人生はもう終わったと思ったほどだった。
それでも表面上は喜ばなければならなかった。
ラフォンラーヌ公爵家全体としては、喜ぶべきことだったからだ。
しかし、わたしの心の中は、荒れに荒れていた。
なぜわたしが、婚約者になれないの。異母姉は先妻の子供。わたしは、今の公爵家当主の妻の子供のわたしの方が、殿下の婚約者にふさわしいのに……。
悔しくて、悔しくてたまらなかった。
それならばこそ、殿下の婚約者になった時は、とてもうれしかったのだけど……。
こういう人生を歩んできた以上、わたしは婚約者の地位を守らなければならない。
そう思ってはいるんだけど……。
浮気をされるのは嫌だ。
しかし、浮気を堂々とされて、嫌な気持ちになっても、殿下の甘い雰囲気に染められてしまう。その時はすべてを忘れてしまうのだ。
しかし、このままだと、結婚したとしても、いずれ相手にされなくなるだろう。
マドリンだけではない。殿下の寵愛を受けたい人は、まだまだいっぱいいる。
それは、わたしが殿下と結婚しても変わらないだろう。
浮気相手に悩まされ、その度に心に打撃を受けてしまう……。
そんな思いはしたくない。
でも今の状態がずっと続くようであれば、
「わたしだけを愛してほしい!」
と言っても浮気をしてしまうだろう。
わたしは、つらい気持ちになっている内に、もう一つの大きな問題が心の中に浮かんできた。
お父様の子は、異母姉とわたししかいない。
したがって、公爵家の当主はわたしが就任することになる。
当主になることはうれしかった。
これでより一層贅沢ができると思った。
そして、ゆくゆくは殿下との間にできた子に、この公爵家を継いでもらう。
そうすれば、わたしは公爵家に影響を残し続けられるし、わたしの血筋も残っていく。
いいことづくしだと思っていたのだが……。
当主になった以上は、公爵領の内政をしていかなくてはならない。
公爵家の人達に任せきりというわけにはいかない。
わたしが主導権を持つ必要がある。
わたしが内政の主導権を持ち、わたしの力で公爵家の勢力を維持してこそ、結婚した後も王室に影響力を持つことができる。
もし公爵家の勢力を維持できたとしても、わたしが公爵家の内政の主導権を持つことができないと、わたし自身の発言力は低下してしまうに違いない。
ただでさえ、結婚後、相手にされなくなる可能性があるわたし。
主導権を持って内政を行っていくのは、結婚生活を維持していくのに必要なことだ。
しかし、それは、わたしにとっては難しい問題。
わたしは今まで、内政については、ほとんど興味がなかった。
内政は、領主のお父様が仕切っていたのだが、異母姉が十歳の頃から助言をするようになっていた。
悔しいことだが、この点は異母姉には全くかなわない。
異母姉は、幼い頃から内政に興味を持っていた。
この点を好ましく思い、才能があったと思ったお父様は、家庭教師をつけて、内政についての知識を身につけさせた。
すると、この分野での知識をあっと言う間に身につけ。お父様の助言ができるほどの存在になっていった。
異母姉の助言は的確で、それ以前に比べて、生産能力は増大し、人々の生活もより一層改善された。
善政だということで、喜んでいる人も多い。
それで、異母姉を慕う人が増えているという話を聞いていた。
しかし……。
今はお父様も異母姉もいない。
わたしには内政の才能はないし、お母様にもない。
領内からは、異母姉を追放したことに対し、
「なんでそういうことをするんだ! 生活を改善してくれたのに! セリフィーヌお嬢様こそラフォンラーヌ公爵家の当主にふさわしい!」
という声も出てきているようだ。
その声が大きくなったらどうしょう。
また、領内の経営が傾いたらどうしょう。
このことについては、お母様と相談するしかないのだけど……。
殿下のこと、内政のこと。
どちらもつらい話だ。
殿下のことはともかく、内政のことは、異母姉だったら解決していけることなのだろう。
今さら異母姉を追放したことについて、わたしが間違っていたと思っても、間に合わないと思う。
わたしは悲しくなり、涙を流し始めた。
どうして、どうしてわたしはこういう思いをしなければならないのだろう……。
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