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転生少女の回顧⑫

魔王の出現が確認された。それに合わせて聖女召喚の儀式が行われ、それは成功した。

私の落ちていく気持ちとは裏腹に周囲は歓喜の声を上げる。これで魔王の脅威に対抗する術ができたのだ。当然のことだろう。


「……フィリア具合が悪いの?」 


そう聞いてきたのは同僚だ。私はその声に我に返ると無理矢理笑みを作る。


「……そんなわけないじゃない!聖女の召喚が成功したのよ!これほど喜ばしいことはないわ!」


そうだ。その通りだ。これで一歩私は自分の目標に近づけたのだから。


「……そう?なら、良いけれど……」


前のように私の様子を言及してこないのは、彼女自身浮かれているからだろう。私を気にかけている余裕などない。

聖女の召喚が成功したという知らせに誰もが浮かれ、騒いでいる。皆嬉しいのだ。……もちろん私もそうでなくてはいけない。


「そう言えば今日の夜リオン様に会うんでしょう?お礼を伝えておいて」


「ええ、わかった」


聖女召喚という大役を担ったリオン。それが成功した今日はお偉い方々に囲まれて忙しいはずだが、私は無理を言って時間を作ってもらっていた。

名目はリオンのことを祝いたいからと言ってはいたが、本当は違う。リオンに詳しく話を聞くためだ。

聖女が召喚された。時間は確実に動き出した。

もうぬるま湯に浸かっているのは終わりにしなければいけないのだ。



●○●○●



「リオン。ごめんなさい。無理を言って……」


待ち合わせの場所はリオンの魔術の研究室だ。華々しい場所などから遠く離れたこの場所は、遠くで開かれているだろうパーティーの声も聞こえない。


「ううん。フィリアのためならいくらでも時間を作るよ」


「……ありがとう」


その無邪気な笑みと言葉にチクリと胸が痛む。しかし、それに構うことは許されない。だから、私は何でもないように笑みを浮かべて言った。


「お疲れ様、リオン。聖女様を召喚してくれてありがとう。皆もあなたに感謝していたわ」


「うん。フィリアの役に立てたのなら良かった」


無邪気に向けられるその無垢な想いが痛かった。リオンにとって全ての行動が私のためなのだと実感させられる。

本当ならリオンは今この場に来るべきではないのだ。大役を果たして見せたリオン。開かれたパーティーに普通なら今出席しているところだ。立ち場上いちおう出席したらしいが途中で抜け出して来たという。地位のある方と繋がるのならこれ以上の好機はないというのに。

リオンにとっては地位も名誉も名声も必要ではないのだろう。彼には私だけが必要なのだ。自惚れでそう思うのではない。事実だ。私の自惚れであれたのならどれ程良かっただろうとさえ思うのに。

そうすればここまで胸を痛めたりなどしなかったのに。

私とリオンはしばらく他愛のない会話をした。私はリオンを讃えて、それにリオンがはにかみながら答える。穏やかな時間だ。叶うのならばこのままでいたいとさえ思う。しかし、そういう訳にはいかなかった。

ふと会話が途切れる。私は何でもないことのように、世間話の一つのように、それを切り出した。


「聖女様はどんな方だった?」


私の今日の目的はリオンと会話を楽しむことではない。聖女のことを少しでも引き出すことだ。

そんな思惑にも気づかずリオンは答える。


「普通の女の子、かな。変な服は着てたけど」


「変な服?」


「そう。膝よりも上に丈がある変な服。本人は学生の制服なんだって言ってた。それと、そうだな。黒い目と黒い髪をしていた。初めて見たから最初驚いた」


「……そうなの」


聖女はもしかして日本人の学生なのだろうか。昔の私と同じような平凡な。


「……驚かれたことでしょうね。突然こんな世界に召喚されて」


「そうだね。驚いてたよ。それに話を説明したらすごく動揺して、魔王なんて倒したくない、帰りたいって泣いてた」


「そう、でしょうね」


当然だろう。突然見ず知らずの世界に連れてこられて、魔王を倒せなんて命じられるのだ。受け入れられるはずがない。


「でも、魔王を倒せば帰れると伝えたら少し落ち着いてくれたけれど」


「……それは良かったわね」


帰れる。その言葉にドクンと心臓が跳ねた。鼓動が加速する。逸る気持ちを抑え込む。

落ち着け。ここで焦って違和感を覚えさせてはいけない。

あくまでも普通に何も意識せずに口にしなくてはいけない。


「そういえば聖女様は帰れるのよね?歴代の聖女様の話を聞いていると帰る方と帰らない方が居るみたいだけれど……」


「そうだね。帰れるよ。帰らない聖女は自らの意思でここに残ったんだと思う」


「そう。選べるのね?でもどうやって帰すの?それも召喚の儀式と同じようにそういう魔術があるの?」


ドクドクと心臓が鳴る。緊張で今自分がしっかりと言葉を話せているのかもわからない。

でも、しっかりとリオンには伝わったようだ。


「うん。でもいろいろややこしい召喚時と違って、送還は簡単だから大丈夫」


「何か違うの?」


「……なんて言えば良いのかな?召喚は素質のある人を連れてくれば良いだけだから本当は条件を指定すれば良いんだけど、送還は数ある時空の中の、知りもしない世界の、同じ時間軸、同じ地点に戻さなきゃいけないから、その明確な地点がわからないとできないんだ。だから、召喚する時に時空に少しだけ穴を開けておくんだよ。開けすぎても時空に歪みが出てしまうし、狭すぎても帰れないからそれがすごく大変。ちょうど一人分の穴を開けるのが限界だし目的を果たしたら消えちゃうくらいの穴だから」


「……消えちゃうの?」


「うん。そうしないと時空に歪みが出て大変なことになるからね。召喚した時と同じような者を送還したら消えるようになってるよ」


「それって、つまり……」


ドクドクとうるさいくらいに心臓が鳴る。

聞きたくなかった。でも、聞かずにはいられなかった。


「召喚した時間時空にしか戻れなくて、しかも一人しか帰らないということ?」


私はどちらの答えを求めているのだろう。

リオンがそうだと答えれば今回の召喚で私の帰還は叶わないかもしれない。だってもしかしたら同じ世界の人でもないかもしれないし、もしかしたら私の生活していた時間から百年は経った時間から来たのかもしれない。

そうすれば、私は今また帰る手段を失うこととなる。

消えた沙夜。彼女を見つけるまでまた猶予ができるのだ。

何年も姿を見せない沙夜。彼女が見つかることはこの先もしかしたらないかもしれない。もしかしたらそれ以前に彼女は早々に帰宅を果たしているかもしれない。そうすれば、私はこの世界に居るしかなくなる。

私はどちらを望んでいる?


「そう言うことになるね」


わからない。わかってはいけない。でも自分がどこかほっとしてるのを感じた。

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