第十七話 ダメおっさん、サラの両親に出会う
「サラ、よくやったな」
「……ガンク」
サラは俺に抱き着いて、何度も泣きじゃくりながら俺にしがみつく。
俺もサラにつられて泣きそうになる。
その涙はうれし涙か悲しみの涙かはわからない。
でも、まだすることがある。俺は魔力波形を辿り、森の奥からこちらを見守っている二人に会いたい。
「サラ、ちょっと歩くぞ」
「……うん」
俺たちは無言で森の奥に歩いていく。
森は先ほどまでの戦闘の余韻などないかのように静まり返っていた。
漆黒の魔獣が暴れまわっていたのが、嘘だったかのようにな。
見つけた。ボロボロのフードを被ったサラとよく似た魔力波形の二人。
「パパ、ママ……」
『……』
フードの中には黒い体毛が少しだけ生えた獣人族のような顔をしているのが見える。
フードを被った女性が少しだけ手をこちらに伸ばす。
俺は止めどない感情に襲われる。こいつらはサラを背中から切り捨てた最低な両親のはずだった。なのに、何でこんなにこいつらは悲しそうにしているんだ?
サラに任せて喋らないつもりだったがどうしても胸の奥のふつふつとした感情が抑えきれなかった。
つかつかと歩き、男の方のフードに対して声を張り上げる。
「なんで、何も言わねえ!」
『ッ!』
男の胸倉をつかみ上げる。こいつがサラに消えない傷と心の傷をつけたんだ。
無言でこちらを見つめる目にどうしようもなくイラついた。
俺は、何でこんなに怒っているんだ?
男を無言でぶん殴りそうになったところで、サラが後ろから声を上げる。
「ガンク! やめて!」
「……サラ。だってお前の傷は……こいつに付けられたんだぞ!」
「良いの。ガンクが殴ったらパパは死んじゃうかもだし」
「なんだよそれ……」
少しだけ乾いた笑いが出る。俺が胸ぐらを離すとサラは無言でパパと呼んでいた男に向かっていく。
涙をぬぐいながら、サラははにかんだ。
サラ、お前、本当に優しい子だな。
サラは二人に向かって走り、目の前にたどり着いた。
「パパ、ママ。どうしてあの夜、あたしを斬ったの?」
『……』
「何も言わないんだね。でもね、今ならわかる。あたしたちが戦った漆黒の魔獣、あれはレインブルク一族だよね?」
『……グスッ』
「そして、今のパパとママにはあの魔獣と同じ黒い体毛がある」
『……』
フードを被った二人は顔を見合わせて、月明かりが照らす中、フードを下ろした。
何だよ、これは……。俺は思わず愕然とした。
黒い体毛が二人の体を侵食している。そして皮膚にはタトゥーのような呪いが刻まれていた。まさかレインブルク一族には……呪いがあるのか?
「サラ、本当にごめんな」
「……ごめんなさい」
その言葉を二人が発した途端、サラは二人に抱き着く。
何だよ、俺は深い悲しみに包まれる。こんなにも愛情深い家族が呪いによって引き裂かれる。こんなことって許されるのかよ!
俺は後ろを向き、涙をこらえる。
サラは二人に抱き着いていたが、こちらを向いて俺に後ろからくっついた。
「ねえ、ガンクは何で泣いてるの?」
「泣いてなんかいねえ」
「フフフ、顔見せてよ」
「……嫌だよ」
フードの二人がこちらに近づいてくるのが分かった。
俺はぐちゃぐちゃの顔のまま、向き直る。
サラのパパは俺に厳しい顔のままこう言った。
「サラを……頼みます」
「あんたが面倒を見なくちゃいけないんじゃないのか!」
「俺たちには呪いがある」
「でも、私たちの呪いはこの代で、ここで終わるわ」
「解く方法はないのか!」
だが二人は無言で首を振る。
二人は顔を見合わせ、フードを被りなおすと森の奥に走っていこうとする。
「また会えるの?」
サラは声を震わせて、そう一言言った。
「もう会うことはないだろう」
「サラ、貴方は立派なレインブルク一族よ」
「……本当にすまなかった」
それだけ言って、二人は森の奥に消えた。
魔力波形を辿っていたが人知を超える恐ろしい速さだ。
あの二人は先ほど戦った漆黒の魔獣よりは弱いが、次に会ったらどうなるかわからん。
呪いか。俺にかかっている呪いは弱体化だが、二人にかかっていたのは理性を蝕む呪いだ。俺は最悪の想像をしてしまい、絶句する。
「ガンク」
「……なんだ」
「あたし、呪いを解ける人を探す」
「……そうか」
俺たちは無言で左手と右手を繋ぎ、花畑に戻っていった。
その後はカティンや蒼火の剣、バンズに抱き着かれて大変だった。
俺は野郎と抱き合っても嬉しくないっつうの。
でも蒼火の剣のナランたちと抱き合っているときはサラが無言で睨んできた。
何でだよ。俺悪い事してないだろう?
今回の森の異変の緊急依頼は騎士三人、冒険者四人の犠牲で終わった。
アルトたちも随分と活躍したみたいだな。
「ふん。冒険者もなかなかやるではないか」
「騎士たちもまあちょっとは頑張ってたぜ」
俺とカティンは手をしっかりと握り合った。
蒼火の剣は今回の依頼で簡単にやられてしまったことを反省するらしい。
ゴーガスの街に戻って一から鍛え直すようだ。
そして、俺は依頼を達成し、マルクの街に戻ってきた。
だが……一番変わったのはやっぱりサラだろう。
「なあ、もうちょっと遠くに座ってくんねえか?」
「……ここがいい」
何故か、サラは森の温もりの宿を引き払い、俺の家に住み始めた。
しかも俺がソファーに座っているとべたべた引っ付いてくる。
……なんか悪い物でも食べたのか?
熱はないよな?
俺はサラのおでこにおでこをくっつけて、熱を測る。
「きゅ~」
「えっ?」
サラは何故か顔を沸騰させて、倒れ込む。
な、なんなんだ。俺はどうしたらいいんだよ!
次話。第一章 エピローグ。
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