9.「vs千匹のモンスター」
グレイトファイアードラゴンを倒して、少しすると。
「「!」」
〝歌王〟城を覆っていた魔法障壁――結界は、ガラスが割れるような音と共に、粉々に砕け散った。
「これでやっと中に入れるわね!」
「そうだね! 楽しみだ!」
セティスの言葉に僕が反応した直後――
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「「!?」」
――雄叫びが遠くの方から聞こえてきた。
更には、地響きも。
「『ライト』」
勇者さんが、大規模な光魔法を遠くの空に放って、周囲を明るくする。
「うっ」
と同時に、また耳鳴りが僕を襲う。
「モンスターの大群だ。千匹はいる。しかも、全てSSSS級だ」
え? もうスター?
あれは、もう大道芸の〝スター〟になってる人たちってことだね!
じゃあ、みんな仮装なんだ! まるで本物みたい! すごい!
しかも、全てグレイトファイアードラゴンと同じ、SSSS級のモンスターばかりだ。
ゴブリンキングよりも更に大きい〝スーパーゴブリンキング〟。
城壁をまたげそうな巨漢の〝ギガントサイクロプス〟。
そして、ゴーレムをも凌ぐ巨躯を誇る〝ヴィシャスゴーレム〟等々。
大地を揺らすほどの巨人の群れを前に、勇者さんが聖剣を構えると――
「城の中に入っちゃえば良いじゃない」
「いや、城内に大勢入られても戦い辛い。ここでケリをつける」
セティスの提案に、勇者さんは首を振る。
「『聖剣』」
「ああもう! やってやるわよ! 『巨大氷柱』!」
よ~し! 僕も続こう!
きっと、こっちに走って来るあの人たち全員が、試験官なんだ!
すごい大道芸を見せられるように、頑張ろう!
僕は両手を翳して、呪文を唱えた。
「『ファイア』!」
小さな炎を十一個同時に生み出す。
さっきに比べると、かなり速いスピードで飛んで行く炎たち。
大地を踏み鳴らすモンスターの群れ、その先頭を走る十一匹に当たって――
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」」」」」
高い防御力を有するはずのモンスターたちが、激しい炎に包まれて、倒れる。
やっぱり僕のために、自ら燃えてくれるんだ!
相手を立てる大道芸! すごいな~!
感激して身を震わせながら、僕は立て続けに魔法を発動した。
「『ファイア』! 『ファイア』! 『ファイア』! 『ファイア』!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」」」」」
一回で十一個の炎、それが何度も放たれて、飛翔して行く。
その度に、モンスターたちは猛炎に焼かれて、次々と力尽きる。
「『ファイア』! 『ファイア』! 『ファイア』! 『ファイア』!」
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」」」」」
それを何十回も繰り返すと――
「あれだけいたのに、全部倒しちゃった!」
モンスターの討伐が完了した。
一匹たりとも、至近距離に近寄らせることすらさせずに。
「ロス、あんなにたくさん倒すだなんて、すごいわ!」
「ありがとう!」
中の人たち、本当にありがとうございます!
僕は、漆黒の大地に転がるモンスターたちへと、深々と頭を下げた。
※―※―※
〝歌王〟城に入った僕たちは、特にモンスターに遭遇することもなかった。
そして、五階――最上階の、玉座の間にて――
「よく来たな、勇者たちよ。我は、モンスターを統べる者だ」
モンスターを統べる者!
つまり、仮装していた大勢の大道芸人さんたちのトップの人!
この人が、〝歌王〟さんだ!
きっと滑り知らずの面白い大道芸ばかりなんだろうな!
――僕たちは、とうとう〝歌王〟さんに会った。