百一話
「これからもよろしくな、みずき」という100話の余韻と、夜空に咲いたキャベツ花火の静寂から数日。
秋休みも終盤を迎えた19時。天宮ミルクのチャンネルでは、旅の思い出を振り返る情緒あふれるBGM……ではなく、どこか聞き覚えのある、部室のドアが「ガラガラッ!」と力強く開く音から生配信がスタートしていた。
タイトル:『【ただいま】全国ロケツアー無事完結!? 金沢&飛騨高山のお土産大開封&101話目からの「日常」帰還雑談!』
100話という伝説的な節目を越え、迎えた新たな第101話。チャンネル登録者数600万人超のリスナーたちは「101話目きたあああ!」「部室に帰ってきた!」「おかえり!!」「前髪下ろしヒューガからいつものヒューガに戻ってるww」と大歓喜し、開始数分で同接数は150万人を軽々と突破していた。
【おかえりなさい!!!】
【やっぱりこの部室の画面が一番落ち着くww】
【※机の上に金沢と飛騨高山のお土産が山積みになっています】
【ヒューガのいつものパーカー姿たすかる】
――19時ジャスト。配信スタート。
画面に映し出されたのは、見慣れた大学の部室。長机の上には、金沢の金箔工芸品や和菓子、飛騨高山のさるぼぼや特産品の数々、そしてなぜかダンボール一箱分の巨大な飛騨キャベツが積まれている。いつものパーカー姿に戻ったヒューガと、お気に入りの部屋着姿の天宮ミルク(3D)が、パイプ椅子に並んで座っていた。
「……みなさんこんばんは。個人勢VTuberのヒューガです。……画面をご覧ください。全国ロケツアーを無事に終え、俺たちのホームグラウンドである部室に帰ってきました。101話目も無事にスタートです。……ですが、旅から帰ってきたばかりだというのに、天宮さんが『101話目は新たなスタートだから!』と、机の上にお土産と称した謎の巨大キャベツを鎮座させています。助けてください」
「こんミルク〜! 全国ロケから無事に部室へ帰還した『ホームの天宮』です〜!」
「勝手にホームを名乗るな!!(※101回目のツッコミ) なんで飛騨高山からわざわざ重いキャベツをダンボール一箱分持って帰ってきてんだよ!! 宅配便の送料の方が高くついてんだろ!!」
【wwwwwwwwwwww】
【記念すべき101回目のツッコミww】
【安定のキャベツお土産草】
【部室に帰ってきた安心感がすごい】
そこへ、101話目の新たなスタートを祝う(?)べく、Discord経由で仲間たちがいつものように通信を入れてくる。
黒羽レン『……ヒューガさん、天宮さん、無事のご帰還何よりです。僕の計算によれば、ロケツアー後の部室の安心感により、おふたりの脳波は現在アルファ波が78%を占めています』
「実家に帰ってきた時みたいな脳波データ出すな!! 確かにめちゃくちゃ落ち着くけども!!」
鳳凰院カグラ『クックック……旅を終えし者たちよ! 我が暗黒の土産『魔界の飛騨牛せんべい』の味を報告するのだ!(※ただの美味しい名物せんべい)』
「普通に自分へのお土産買ってるじゃねぇか魔王!! 後でみんなで食うぞ!!」
星空ルチア『ヒューガ先輩! AIの101話目解析データにより、新たな100話に向けた最強の誓いが判明しました!「ふたりで手を繋ぎながら『101回目のプロポーズ(※キャベツを添えて)』を再現する」です!』
「昭和のドラマのノリでキャベツ差し出すな!! なんで101話目から急にプロポーズ企画が始まんだよ!!」
【アルファ波78%ww】
【魔王ちゃっかりお土産買ってる草ww】
【101回目のプロポーズ(キャベツ添え)ww】
【同接破竹の180万人突破!】
仲間たちのハチャメチャな通信を笑いながらさばき、旅先で買ってきたお土産のお菓子を二人で頬張る、平和で愛おしい部室の時間。
「……ふぅ。全国の美味いものを食ってきたけど……やっぱり、この狭ぇ部室でパイプ椅子に座って、お前とくだらねぇ話しながら食うお菓子が一番美味いな」
「ふふふ、そうでしょう〜? 日向くん、100話の温泉で言ってたこと、覚えてますか〜?」
「あん? ……『ずっと隣でツッコミ続けてやる』ってやつか?」
みずきはパイプ椅子を少し寄せて、嬉しそうに首を傾げると、画面越し(そして駆の横顔)へ向けて、太陽のような飛び切りの笑顔を向けた。
「はいっ! 101話目からも、ミルクの隣は日向くんの特等席です! どこへ行っても、何をやっても、日向くんと一緒なら世界一楽しい日常になります!」
駆は照れくさそうに首の後ろを掻き、でも隠すことなく、優しく柔らかい笑顔を返した。
「……へいへい。101話目からも、覚悟して付き合ってやるよ。お前がどんな暴走しても、全部俺が受け止めてやるからな」
そのあまりにも「てぇてぇ」が詰まった101話目の誓いに、同接195万人のリスナーから「やっぱりこの二人が最高」「101話目からの日常編も全力で追うぞ!」「永遠にてぇてぇしててくれ」「神回」と、画面を覆い尽くすスパチャと歓声が降り注ぎ、帰還記念配信は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
――配信終了後。お土産の箱を片付け、夜の部室に静寂が戻る。
パイプ椅子に深く腰掛け、温かい缶コーヒーを飲みながらホッと息をつく駆。
「……ハぁ……。全国ロケも楽しかったが……やっぱり部室が一番だな」
「ふふっ、日向くん、お疲れ様です!」
隣で冷たい缶のいちごミルクを持ってみずきが、愛おしそうに駆の横顔を見つめる。
「日向くん、101話目も無事にスタートしましたね! 明日は何やりましょうか?」
駆は一口コーヒーを流し込み、窓の外の夜空を見上げながら、悪戯っぽく笑った。
「お前が決めていいぞ。どうせまた、ろくでもねぇ暴走企画なんだろ?」
みずきは目を輝かせると、胸を張って高らかに宣言した。
「明日は『101話目からの新章開幕! 部室に100個の巨大キャベツ型クッションを持ち込んで、部室全体をキャベツのベッドにするフワフワ安眠配信』です!」
駆は夜のキャンパスに向かって、101回目となる本日一番の快晴のような爆音ツッコミを叩き込んだ。
「部室をキャベツのベッドにするんじゃない!!!! 埋もれて朝まで起きられなくなるわ!!!」
「きゃはは! やっぱり日向くんのツッコミ、世界一〜!」
夜空に溶けていく二人の弾けるような笑い声と、変わらない爆音ツッコミ。
100話の節目を越え、舞台は再び愛おしい部室の日常へ。
世界一のツッコミと世界一のド天然の物語は、101話目からも、どこまでも賑やかに未来へ続いていく――。




