カロルド
足蹴りを喰らうその瞬間、適当に魔力を消費して三人の間に一瞬暴風を発生させる。
「勝手に逃げんじゃねー!!」
「マジでありえない……」
その勢いで距離が空いたので、煙玉を投げて視認されない様にして木に隠れる。二人はあの性格上前衛タイプで感知系のスキルに自信がないと踏んだがどうやら間違いでは無かったようだ。
しばらくその場でジッとしていると二人の気配が遠ざかっていったみたいで、二人は諦めて帰ってくれたようだ。
「クソ、身体中がイテェ〜……あのアバズレ野郎、このまま馬鹿にされてたまるかよ――」
幸い回復魔法を使えば直ぐ治る程のダメージだから直ぐに迷宮に向かえるが、あの二人が手を出してこない保証がないのが気掛かりだ。
――だがとりあえず、今から迷宮に入って自分を更なる高みにもっていかなければいけない。
「まだ三日しか経ってないけど、尚更時間を無駄に出来なくなったな、だけどアイツら……」
迷宮に行く途中、二人の動きについて思い返す。
攻撃が全く通らない――まるでこっちの動きが全て読まれているとしか思えない。だが一瞬の攻防にそんなことをするなんて、幾ら天使の身体を得たとしてもそれが出来るとは思えない。
「勘違いか、二人で来られたから過大評価してるだけなのか?」
生憎自分の中に答えを求めても無駄だ。
だが頭の中は先程のことでいっぱいだ、このままだと訓練中も考えてしまいそうだ。
「俺は二度も笑われてやるつもりはない……」
無意識だが思わず奥歯を噛み締めてしまった。
グギィという低い音が口の中から聞こえてくる。
相手は女とはいえ元経験者、心の中で言い訳してもそれ程自尊心は傷つかない筈だ。
「最低だな……」
* * *
あの後一日でも無駄に出来ないので迷宮で訓練したのだが、全然集中出来なかった。
だがとりあえず迷宮で魔物と戦ったからか、身体に溜まった疲労を取り除く為に帰宅する――つもりだったが、まだ今朝のことが頭から離れずにムシャクシャするからなんとなく気分になれずに庭園に足を運ぶ。
庭園ゲートに入ると色とりどりの花々に迎えられる。
前方に進むとふんわりとした芝生を敷き詰めた、寝転がれば気持ち良さそうな広場がある――でも今は前方で寝転ぶ人たちと一緒にはいたく無いから左側にまばらに浮かんでいる孤島に飛んでいく。
「……ん?あれは」
背中の翼で飛び立って孤島を一瞥したとき、そこにはカロルドが一人寝転がっていた。カロルドも迷宮帰りで俺と同じくリフレッシュにでもきたのだろうか。
不意にカロルドの閉じていた目が開いて目が合ってしまった。そのまま無視するのも感じが悪いとそのとき変に真面目なことを考えてしまい、カロルドの孤島に近づく。
「お主は――あの夜にいたっけ」
「こんにちは、てっきりすぐ帰ってしまったので覚えてないと思ってましたよ」
「いや、覚えてた訳じゃないんだが……」
どうゆうことだろ、カロルドは勘で応えただけってことなのか――俺は良くも悪くも印象に残りにくい顔をしているので雰囲気が似てる人ならそこら辺にいる筈だからそんな簡単に出てこないと思った。
「儂は最近他の人とは会ってないからの、そうなればあの神殿のことしか浮かばなくてのぉ」
「え、訓練とかしないんですか?」
……そういうことかよ、てかカロルドは図書館と訓練場にも全然行ってないってことかよ。戦争に参加するのにカロルドからは緊迫してる雰囲気が全くない。
やっぱりカロルドも前世は戦いに身を置いていた経験者なのか?
今少し話をしてみてエマとエナの二人のような隠れた性格の悪さなどは無いように思えた。ここまでのんびりしているということはある程度の自信を持っている様にも思えるので、とりあえずカロルドのことを聞いてみる。
「訓練はするんだが、一通り自分の動きを確認するだけだから、訓練場まで行く必要が無いってだけだな」
「戦いには慣れてるですね……」
俺が決めつける様な言い方をするが、そのことについては特に怒ることもなくカロルドは自分のことを話してくれた。カロルドの前世は農夫の子供だったが、十三歳の時に国同士の戦争に駆り出されることになって、そこで武力で名を上げて騎士として国に仕えていたらしい。
「儂は生まれつき才能や体格にも恵まれて、初めて戦場に送られた時は悲惨な思いをしたがのぉ、それ以降はそれなりの役職にも就いて、好きな時に酒を飲んで悪くない余生を過ごした…」
前世では英雄……とはいかないが、それでも名の知れた騎士として戦いには精通しているらしい。カロルドの話が本当なら戦いに関しては凄く頼りになりそうだ。ただ、カロルドが良い奴なのかは断定出来ない。
「俺は前世じゃ戦いの『た』の字も知らない程平和国に住んでたんだ、俺に戦いを教えてくれないか」
なんとなくカロルドは面倒くさがって教えてくれない気がしたが、言うだけタダなのでダメ元で頼んでみる。




