王妃の憂鬱
ファーマルズ王国の都の端にある港から保養地としてお金持ちが静養目的で行く島があった。
その島には王家所有の保養所もあり、この島に湧き出ている温泉が病気治療に効果があるらしく、各国周辺地域の王族や金持ちがこぞって島の中央に湧き出ている温泉がある施設を利用する為に長期滞在をしていた。
この島の所有者であるファーマルズ王家の王妃であるキャサリーヌ・サフォンヌも静養と称し一年の大半をここで過ごしていた。
「はあ~つまらないわねえ…何か面白いことないかしら」
キャサリーヌは自分の三階の部屋から窓の外を見下ろしながらため息をついた。
「キャサリーヌ様、気晴らしに海岸などを散歩なさってはいかがですか? 何か食べるものをシェフに作らせましょうか? 海を眺めながら昼食を食べられてはいかがでしょう。本日は天気もよろしいようですし」
「そうね…でもねえ~ほら今日は抽選日でしょ。海岸に行くまでにいろんな人達と会わないといけないでしょ。いちいち返事を返すの面倒なのよね」
そう言って、庭園に設置されているベンチなどに腰かけて多くのご婦人や紳士たちがくつろいでいる光景をため息交じりに眺めながら言った。
「ああ~そういえば今日でしたわね。気が付きませんで申し訳ありません」
「あなたが謝ることはないのよ、どうせ私が病弱なのがいけないんだから」
「そんなことございません。王妃様は一人ご立派な王位継承者をお産みになられていらっしゃるではございませんか!」
キャサリーヌ専用の侍女マーグが、少し離れたテーブルの上にテーセットを用意しながら言った。
「でもねえ…もう一人子どもをって声が未だにあるみたいじゃない」
「そうでございますね…ですがもう十年になりますでしょうか、あの側室抽選会なる不埒な行事ができたのは」
「そうだったかしらね。でも、あの側室の方々のおかげで私はこうしてのんびりできているんだもの。ここは島だけあって、王宮内の情報があまり入ってこないからいまいちわからないけど、二人とも元気にやっているんでしょうね」
「ああ、それでしたら、最近こちらの館のスタッフに新しく入った子が確か都から来たっていっていましたから呼び出しましょうか?」
「いいわよ、王宮内部の事までしらないでしょ」
「そうでございますね。それにしましても昨年の応募人数が100人を超えていたとか、まあ、年々数が増えているように思いますけれど、正室であるキャサリーヌ様に対しての配慮や遠慮というものがないのでしょうか」
「しかたないわよ。王家存続がかかっているんだから。私は平気よ、ここはわたしくの生まれた国、どこにも追い出せないわ。それにほら陛下ってあの通りイケメンだしね。側室募集なんてしていたら飛びつきたくなる気持ちもわからないでもないわ。もし、子どもでも授かったら王位継承第二位になるんですんもの。そりゃ応募するわよね。それに、噂では一年で国へ戻った人たちもその後幸せになったって噂が広まっているようで、なぜか汚点にはならないみたいなのよね。生まれながらの女ったらしなのよあの人」
窓の下から甲高い女性の笑い声と男性の話し声が耳に入ってきて上からのぞき込みながら、下の様子を汚いものでも見るかのような顔をしながら言い放った。
「そうですね。確かにイケメンですものね。ラファイル王子と並んでもご兄弟のようにしか見えませんものね。ですが、キャサリーヌ様、ここも最近騒がしくなってまいりましたし、別の場所を探さなくてはなりませんね。あのように騒がしい輩がいては静養になりませんよ」
「そうねえ…王宮の敷地のどこか空いている離宮にでも隠れ家を作ろうかしら」
「あら、それはいい考えですわね。あっそう言えばキャサリーヌ様、実は昨日その新人から聞いたんですけれど、都で今すごく売れている絵があるとかで見せてもらったんですけど、それがなんと、ラフアイル様が婚約者様とご一緒に描かれている絵だというんですよ」
「なんですって、ラファイルに婚約者?」
「ええ、ですがその似顔絵をみましたら、どうも別人のようなんです」
「あらどういうこと?」
「ラファイル様だという似顔絵はスリムなんですの」
「痩せているラファイルってこと?」
「はい、確かにお顔は陛下に似てとてもハンサムでしたけれど」
「あら気になるわね。私も見たいわ」
「そうですか? ではわたくしが借りてまいりましょうか?」
「いいわ、宮殿に戻るわ」
「え? 今からでございますか?」
「そうよ、ここにいるのも飽きてきたし。支度をなさい。荷物は後から送らせればいいでしょ。どうせここには服ぐらいしかもってきていないんだから」
「ですが、本日ではなく明日になさってはいかがですか? 本日は抽選日ですし」
「今からでても、王宮殿に着く頃は夜になっているでしょ。船は一日に二回しか出ないんだから」
「そうでしたね、わかりました準備に少々お時間をいただけましたらすぐに帰る用意をいたします」
「わかったわ」
キャサリーヌはそういうともう一度座り直し飲みかけのお茶を飲み始めた。
この時はまだ彼女の耳には今年の側室募集が中止されたことは耳には入ってきてはいなかったのだ。
そして、舞踏会でのロケリア王女の事も何も知らないのであった。
ただ、知らぬ間に息子に婚約者ができているという噂に自分にはなんの報告もされていない事実に複雑な胸の心境のキャサリーヌであった。




