世界はカレーと愛に満ち溢れている
さて、今回のカレーは『バターチキン風りっちゃんカレー』だ。
チキンは胸じゃなくて足を使うのと、ヨーグルトのメーカーと市販のルーの配分をアレにするのがポイントだ。
「やっぱり、アレにすると風味が変わってイイ感じになるわぁ」
出来上がった鍋から、スプーンでひとすくい。味見をした私は満足げに頷く。
その日の気分で分量もメーカーも変わるから、アレと表現するしかないのが申し訳ない。結婚する前、拓人さんに作り方を教えてみたけど「りっちゃんのカレーには勝てない」と凹んでいた。ごめんね適当な人間で。
拓人さんが作ってくれたサラダを前菜にして、まっている人たち(精霊含む)に、じゃじゃーんとカレーを鍋ごと持っていく。
「ふぁぁ、いい匂いですぅ。これだけで幸せですぅ」
「なんと神々しい……さすが勇者様の奥方……」
大興奮する精霊たちを抑えながら、拓人さんが聖女カップルにドヤ顔をしているのが可愛い。
私をベタ褒めしているからか、敵認定モードは解除されたようで何よりです。
「今回はバターチキンだよ。サフランライスと白米があるから、好きな方で召し上がって」
「私は、この、綺麗な黄色を」
「では白い方に」
おそるおそるライスを選ぶ聖女様と神官くん。
すると拓人さんがすかさずシャモジを手に取り、くるりと回してポーズを決める。
「俺は両方にするもんね!」
「な、なんという暴挙を!?」
「これが……勇者の実力……っ!!」
いや、たかだかライスの種類で、何をやり合っているのかね君たちは。
精霊さんたち用で小皿によそってあげたら、にゃーぴぃわんきゅーと喜んでいる。珍しく起きている黒ちゃんを気づかう白ちゃんが、仲睦まじくてほのぼのするね。
あれ? もしやこの二人って……。
「闇と光の精霊は夫婦なんだよ。アホ女神に光の精霊が下僕扱いされて、暴走した闇の精霊が魔王化しちゃったんだ」
「はぁ? 何それひどい……って、黒ちゃんは魔王だったの?」
びっくりして黒ちゃんを見れば、人形用のスプーンを使ってカレーをもぐもぐ食べながらコクコク頷いている。可愛い。許す。
精霊たちのほっぺが、黄色のハムスターと同じようになっているのが可愛い。そんなに美味しいの? おかわりたくさんあるからどんどん食べてね?
「今はこうやって俺やりっちゃんを助けてくれているし、二人とも楽しく暮らせているなら、勇者になったのも悪くなかったと思うよ」
「うん。拓人さんは優しいから、これでよかったと思う」
魔王のことを黙っていたからか、申し訳なさそうにしている拓人さんの皿に、カレーを肉入りで追加してあげる。
「拓人さん、すごく大変だったと思うけど、私だけじゃなくて黒ちゃんも白ちゃんも精霊たち皆を幸せにしてくれてるよね」
そう言いながら、拓人さんのお皿にご飯もたっぷり盛ってあげる。
「だから、異世界じゃなくて、この世界でも拓人さんは私の勇者だよ」
「……りっちゃん!!」
涙目になる拓人さんは、こんな感動的な会話をしている中でも、カレーを食べる手を止めることはなかったのでした。
どんだけカレー好きなのか……。
「違うよ。カレー好きじゃなくて『りっちゃんの作るカレー』が好きすぎて止まらないんだよ」
「でも拓人さん、カレーに夢中だし……」
「もう、りっちゃんったら……カレーに焼きもちかい?」
「ち、ちがうですし!」
「ふふ、りっちゃんカレーは好きだよ。でも、りっちゃんのことは愛してるから。ずっとそばにいて欲しいから。だから……結婚しよう?」
「拓人さん……!! はい!! 結婚します!!」
抱き合う私たちを、聖女カップルは熱のこもった目で見ている。
「夫婦であるにも関わらず、さらに何回もプロポーズするとは……」
「ほぼ毎日プロポーズしたいくらいに、お二人は愛し合っているということですね」
さすが勇者様と奥様だと、やんややんやされている中、カレーを食べている精霊たちに異変が起きていた。
なぜ、それに気づいたのかというと……。
「あの、どちらさまで?」
『え? あれ? わたしの体が???』
『ふむ……力が戻っているようだな』
とつぜん、白い羽根を背中に生やした美女と、黒い羽を背中に生やした美青年がいる。外国のモデルさんみたいに大きい。背が高い。凹凸が凄まじい。
そして孔雀くらいの緑の鳥、水色の虎、赤毛の狼、黄色い……モルモット? ぷぷっ。
『キューッ!!』
「ごめん、ごめんって、大きくなったね。すごいね」
『キュキュッ』
赤毛狼の背中でぷりぷり怒っている黄色いモルモットは置いておくとして。
なんだか急に部屋が狭く感じるのですが。皆さん急に大きくなるとか、一体どうしたのですか?
白い美女と黒い美青年が答えてくれる。
『どうやら、奥方様のかれーらいすで、力を得たようです』
『これなら元の世界と同じように力が使えるぞ』
ええ!? そうなの!?
「そういえば、りっちゃんのカレーを食べた日は、おかしいくらい仕事が捗っていたなぁ。マリ◯のス◯ーを取った時みたいな感じになる」
マジすか! すごいな私のカレー!
「これなら元の世界に帰れそうです」
「向こうからの迎えを待つことはないです」
ええ!? 聖女カップルたちまで!?
それから。
私のカレー(冷凍保存したやつ)をお土産に、聖女様と神官は異世界へ帰って行った。
あの女神の後任は、しばらく上司?の神様が担当するらしい。よかったよかった、異世界は平和になるね。
「まさか異世界に拓人さんが呼ばれた理由、私のカレーを食べていたからだなんて……ごめんね、拓人さん」
「すごい魔力があるって言われた理由は、それだったんだね。りっちゃんが料理を始めたのって、俺と付き合ってからだっけ?」
「トーストも上手に作れないのに、なぜかカレーだけは作れるようになったから嬉しくて。いっぱい拓人さんに食べてもらって……ああ、それが原因で拓人さんがポッチャリになったんだ」
「幸せ太りだよ。りっちゃんの愛情は高カロリーだから」
うう、ちがうよ、カレーが高カロリーなんだよ。ごめんよ。
私は週に一回、カレーを作っている。
そのときは、拓人さんの精霊魔法(小)が精霊魔法(極大)になるのだけど、それを何に使うのかといえば……。
「それにしても、異世界ってすごいね。ドラゴンとかペットにできるんだね」
「違うよ。それはりっちゃんの料理だけだよ」
カレー以外作れなかった私は、異世界では色々と料理が作れることが判明した。
異世界の生き物が食べれば、能力がグングン上昇するらしい。こりゃ、ここでしか作れないはずだわ。
「ユニコーンって、乙女じゃなくても懐くんだね」
「違うよ。それはりっちゃん以下略」
忙しくて新婚旅行にいけなかったけど、異世界旅行ができる夫婦なんて私たちくらいだよね。
「拓人さん、愛してる!」
「りっちゃん、愛してる!」
今日も私たちは、世界を越えてもラブラブです!
完結です。
お読みいただき、ありがとうございました。
某うっちー先生の、奥様とのラブラブ話を聞いて思いついた作品です。
最後の副題がヒントでございます。(ヒント、とはw)
応援していただき、ありがとうございました。
これからもがんばります。
よろしくお願いいたします。
もちだもちこ