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堂々と

 「やったぁ!」


 体重計の数字は45と表示されている。この1ヶ月間、一生懸命サークル活動にいそしんだ結果でもあった。このままあと2kgくらい減らそうかな。そう思う綾乃の表情は明るい。


 サークルの度に君島と顔を合わせるのだが君島は変に気を使うでもなく無視する訳でもなく、前と同じように何もなかったかのように接してくれているので大変助かった。


 そういうところもモテる秘訣なのだろう。相変わらず周りには女の子が沢山いた。



 季節はもうすぐ冬を迎えようとする11月。


 奏矢とは相変わらずである。いつもの距離感。いつもの関係。それに対して不満もなかった。まだ自分の気持ちもはっきりとしない。


 奏矢には感情が無い事実。それが怖かった事実。それを普段は思い出さないくらいに仲良くしているだけでも十分であった。

 

 第一自分が奏矢を好きになってしまったらどうなるのだろう。相手は心を持たないアンドロイドなのだ。


 でも以前と比べて変わったなぁと思う。よくしゃべるようになったし、気のせいかもしれないのだが表情が豊かになったように見えた。でなければ怖さがなくなった事に説明がつかない。


 まあ好きになったらなったでいいじゃない。後の事はその時に考えよう。




 そういえば綾乃はいつも奏矢に何かしてもらうばかりだった。何かないかと考えたが思いつかなかった。自分の意思を持たない奏矢に何かしたい事があるかは聞いていいものか大いに悩んだのだが、思い切って聞いてみる事にした。もしかしたら何かのデータが欲しいとか言うかもしれない。


 次の週の土曜日の夜、尋ねてみる事にした。


 「あのさぁ、奏矢って何かしたい事や行きたい場所ってないの?」


 しばらく考えた奏矢はただ一言、


 「海が見てみたいです」


 そう言った。海という物に対する興味なのだろうか。翌日2人で海に出掛ける事にした。



 東京の海では何となく味気ない気がしたので湘南の方まで足を伸ばす事にした。



 

 数時間後浜辺に到着した。道中窓から海が見えないように海側を背にして座り、駅に着いた後も海が見えないように目隠しをして手を引いた。


 幸い人は少なく、余り変な目で見られる事は無かった。まあ見られた所で堂々としているけれども。


 


 階段を降りて砂浜に立つ。目隠しを外すと目の前には広大な海が、遠く地平線まで見える風景が広がっていた。


 奏矢はしばらく無言で立ち尽くした。写真や知識でしか見た事の無かったものが、今、そこにあった。


 波の音を聞きながら遠くを見つめる。しばらくしてから奏矢は口を開いた。


 「綺麗ですね……」


 果たしてその言葉は奏矢が本当に感じ取って出た言葉なのかはわからない。でも綾乃はそれで良かった。奏矢がきっと喜んでくれている。そう思いたかった。



 「少し波打際に言ってもいいですか?」


 奏矢の言葉に綾乃は頷く。手を繋いだまま前へ進んでいく。


 押し寄せる波で砂浜はツートンカラーになっていく。奏矢はしゃがんで海にそっと触れた。まるで壊れ物に触れるかのような優しい手つきで海水を手にすくう。指と指の間から元の位置へと戻っていく様を何度も見続けた。


 綾乃も一緒になって屈んで海を感じる。隣には奏矢がいる。目を閉じて余韻に浸った。





 ピシャッ。


 何かと思って目を開けると奏矢が笑っていた。どうも水をかけられたらしい。せっかくのロマンチックなムードに浸っていたのに現実に戻された。台無しではないか。軽く睨みつけた。


 「浜辺では水をかけるのが流儀なんですよね?」


 そういって奏矢はさっきよりも沢山の量の海水を両手ですくい綾乃目掛けてかけ続けた。


 最初の2回は我慢した。初めて見た海だものね。はしゃぎたい気持ちもよくわかるわ。私は海の様に心が広いのよ。そう思って奏矢に余裕の笑顔を向ける。


 しかし奏矢の手は止まらなかった。すくっては掛けすくっては掛け。一向に終わる気配がない。



 「ちょっとあんた、いい加減にしなさいよっ!!」


 怒った顔で綾乃も本気で応戦を開始する。水の掛け合いをしている内に綾乃の顔は笑顔に戻っていった。



 これ以上濡れたらさすがにマズイ。そうなるまで争いは続いた。


 砂浜に逃げ転んだ綾乃に向かって奏矢が手を差し伸べる。綾乃はその手を掴むと起き上がって軽くお尻の砂を落とした。



 2人で砂浜の上を歩きながら、奏矢は前を見つめたまま言った。


 「本当に今日はありがとうございました、綾乃さん」

1時間に1話のペースで8話投稿w


今日はもういいかな・・・

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