空のお散歩、もう一周!
最初は、空を飛べるようにするだけのつもりだった。
けれど可愛い日傘を見ていると、魔法陣までおしゃれにしたくなる。
(こういうところまで好きにできるの、自作のいいところよね!)
白い縁飾りに沿って線を引いていると、横から白い前足が伸びてきた。
「あっ、コハク。そこ、まだ乾いてない!」
慌てて日傘を持ち上げると、コハクが飛び上がった。
今度はペンの先を目で追っている。どうやら、私が面白そうなもので遊んでいると思ったらしい。
(……まあ、楽しいのは間違いないけれども!)
「ちょっとだけ待っててね~」
私はコハクを膝に乗せ、日傘を少し遠ざけた。
私が線を引くたびに、白い頭もついていくように右に左に動いている。
(可愛いけれど、気が散るなあ……)
私は気持ちを切り替え、ペンを走らせる。
いつの間にかコハクは、膝の上で丸まって眠ってしまった。
私は最後の線を引いて、傘の中心に宝珠を取り付ける。
試しに魔力を通してみる。
宝珠が輝き、淡い青の布に描いた魔法陣が、ふわりと光を帯びた。
「わあ……!」
いい。とってもいい!
傘の表側からも魔法陣の模様が透けて、ぼんやり淡く輝いている。
THE・ファンタジーといった仕上がりで、精緻な魔法式の輝きを備えたそれはロマンそのもの。
これはくるくる回して、見せびらかしたくなるわね。
私は、一部始終を見守っていた大きな狐の神獣──ハクヨウ様を振り返る。
「ハクヨウ様、どうです? 可愛いでしょう」
『うむ。そなたほどの使い手が振るえば、竜とて一撃で屠れよう──さすがは我が霊泉の加護を受けし者だ』
「まったく、ハクヨウ様は大袈裟です。それよりカッコかわいいですよね?」
『そなたは変わり者だな。ああ。我の宝珠も、よく映えておる』
「よし! 明日はこれで、コハクと湖をひと回りしてきますね」
私は、上機嫌に眠りにつくのだった。
***
翌朝、私は湖のほとりで日傘を開いた。
片腕には、コハクを抱いている。
コハクは抱き上げても嫌がるどころか、待っていましたとばかりに私の腕にすっぽり収まっていた。
持ち手に魔力を通すと、内側の魔法陣が輝いた。
こだわりの"魅せ魔法陣"も四方に展開されていく。
足元がふわりと浮き、続いて私の足が地面から離れる。
「お、おお~~!」
つま先まで浮いた。
そのまま、ゆっくりと身体が持ち上がっていく。
(出力、十分。安定性もバッチリ!)
昨日組んだ魔法式は、思いどおりに働いてくれているようだ。
日傘を傾けると、岸辺が遠ざかった。
足の下を、青い水面が流れていく。
──飛んでいる。
私、本当に空を飛んでいる!
(な、なにこれ! 楽しすぎるんですけど!!)
もっと高く!
そう思って持ち手を上げると、身体がぐんと持ち上がった。
湖を囲む木々の向こうまで見渡せるようになった。
楽しくなって、ひゅんひゅんと湖の上を飛び回る。
遠くに山が連なり、白い鳥がその手前を横切っていく。
頬に風が当たる。髪も、スカートの裾もなびいている。
画面越しに見ていたときには、知らなかったことばかりだ。
「コハク、見て! 私たちの家!」
青い湖のそばに、白い屋敷が見える。
大きな窓に、花畑に、昨日入った温泉。その庭では、大きな白い狐がこちらを見上げていた。
「ハクヨウ様〜!」
コハクも私の腕から顔を出し、鳴いた。
遠くで、何本もの白い尾がゆったりと揺れる。
──このまま、あの山の向こうまで行ってみたい。
白糸の滝にも寄りたいし、空からなら虹を見下ろすことだってできるかもしれない。
(行きたいところが、増える一方なんですが!)
そうして湖を飛び回り、一周する。
コハクは怖がるでもなく、きゅいきゅいと楽しそうだ。
戻るつもりで屋敷の前まで来たけれど、もう少しだけ飛んでいたくなった。
「もう一周しちゃう?」
「きゅるっ!」
賛成とのことです。
私は笑いながら、日傘を湖のほうに傾けた。
***
……結局、三周してから地面に下り、コハクを下ろした。
あれだけ飛び回ったのに、魔力切れの感覚もない。
魔力が少なすぎるって、実家では義妹にさんざん馬鹿にされてたんだけど……。
(──さてと。町に行きますか!)
とりあえずは買い物だ。
冒険者としての道具を揃えたいし、新しい装備品もほしい。
余裕があれば、魔道具に使うための工具も新しく買いたいのだ。
そのためにも、まずお金が必要なのだ。
「ハクヨウ様。ちょっと町まで行ってきます!」
『なら我とコハクも行こう』
「本気ですか? 大騒ぎになっちゃいますよ?」
『そこは──ほれ』
ハクヨウ様の大きな身体が、みるみる縮んでいく。
あっという間にコハクほどの大きさになると、ひょいと私の肩に飛び乗った。
『これで大丈夫だろう』
(そういえば、この世界はモンスターをテイムするってシステムもあったわね──ハクヨウ様が言うなら、たぶん大丈夫か)
私は足元のコハクも抱き上げた。
さっそくコハクが、肩から垂れたハクヨウ様の尻尾にじゃれつく。
そのたびに、ふさふさの尾が私の首筋をくすぐった。
「ちょっと、くすぐったいって!」
私は笑いながら、日傘を差し直した。
昨日は時間をかけて歩いてきた森も、今日は上からひとっ飛びだ。
町の手前で地面に下り、日傘を閉じる。
門を抜けて冒険者ギルドに入ると、昨日の受付嬢が顔を上げた。
「おはようございます! 今日は依頼を受けに来ました」
「エリシアさん。採集の依頼ですね?」
「はい。白糸の滝に行くので、途中で素材を摘んでこようと思って」
白糸の滝には、午後からきれいな虹がかかるのだ。
一度は見てみたかった絶景スポットだ。
依頼がうまく行ったら、帰りにはお買い物を楽しんで。
(うん。今日も、楽しい一日になりそうね!)
「白糸の滝ですか……。今は、近づかないほうがいいですよ」
私が首をかしげると、受付嬢は掲示板に目を向けた。
いくつも並んだ依頼書の中から、赤い一枚を指さす。
「今朝、あの辺りで黒鎧竜の目撃情報があったんです」




