赤く染まる戦場 (3)
ちょっぴりダークな異世界転生ファンタジー。
勇者は一人ではない。
番号を与えられ、量産され、戦場へ送られる世界。
“勇者A”と呼ばれた少年は、
モブのまま消えていくのか。
それとも・・・英雄になるのか。
『異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~』
赤ゴーレムが崩れ落ち、
戦場に、一瞬だけ静寂が訪れた。
土煙。
砕けた瓦礫。
鉄と血の臭い。
エルクは荒い息を吐きながら、その場へ膝をつく。
「はぁ……はぁ……」
手が震えていた。
剣を握る感覚が、まだ現実じゃないみたいだった。
隣では、シュウが尻もちをついたまま空を見上げている。
「死ぬかと思った……」
「実際、かなり危なかった」
「いやもう完全に死んだと思った」
シュウは乾いた笑いを漏らした。
周囲を見渡す。
勇者A部隊は、半分近く減っていた。
さっきまで一緒に荷馬車へ乗っていた人間たちが、瓦礫の街に転がっている。
動かない。
誰も助けに来ない。
兵士たちは別の戦線へ向かったのか、周りには姿がなかった。
「これ……本当に初戦なのかよ」
シュウが呟く。
エルクは答えられなかった。
その時だった。
ズシン――。
地面が揺れる。
二人は同時に顔を上げた。
瓦礫の向こう。
再び、巨大な影が立ち上がる。
「……嘘だろ」
赤いゴーレム。
しかも今度はさらに大きい。
肩や腕には、乾いた血みたいな赤黒い筋が走っている。
そして。
その巨体の上に、何匹ものゴブリンが乗っていた。
弓を構えている。
「ギャギャッ!!」
矢の雨が降った。
「伏せろ!!」
エルクはシュウを引き倒す。
直後、背後の壁へ矢が突き刺さった。
木片が飛び散る。
「最悪だろこれぇ!?」
シュウが叫ぶ。
ゴブリンたちは高所から次々と矢を放ってくる。
しかも赤ゴーレムまで接近している。
逃げ場がない。
別の勇者が立ち上がった瞬間、肩へ矢が刺さる。
「ぎゃあああっ!!」
悲鳴。
その隙に、ゴーレムの拳が振り下ろされた。
轟音。
石畳ごと勇者が潰れる。
赤い光が、さらに濃くなる。
「クソッ……!」
エルクは歯を食いしばる。
――右。――
声。
エルクは反射的に動く。
矢を回避。
だが数が多すぎる。
避けきれない。
次の矢が迫る。
その瞬間だった。
銀色の閃光が走る。
風が裂けた。
「・・・下がって」
女の声。
ゴブリンの首が宙を舞った。
「……え?」
エルクは目を見開く。
瓦礫の上へ降り立ったのは、一人の女戦士だった。
エルクは息を呑んだ。
夕焼けに染まったような、赤みがかった長い髪。
風を受けるたび、燃える火の粉みたいに揺れている。
細身の黒い軽鎧は無駄がなく、動きやすさを優先した実戦仕様だった。
だが、その背に担いだ大剣だけは異質だった。
人ひとりを叩き潰せそうなほど重厚な鉄塊。
普通の人間なら持ち上げるだけでも苦労しそうな武器を、彼女は片手で軽々と振るっている。
そして何より。
その瞳だった。
淡い金色の瞳。
綺麗なのに、どこか冷たい。
まるで何度も死線を越えてきた人間の目だった。
戦場に立つ姿は完成されている。
その姿は、勇者というより――。
血に染まった戦場を歩く、ひとりの処刑人みたいだった。
彼女は着地と同時に地面を蹴る。
速い。
赤ゴーレムの懐へ、一瞬で潜り込む。
轟ッ――!!
大剣が振り抜かれる。
赤い亀裂ごと、ゴーレムの腕が吹き飛んだ。
「ギガァァァッ!!」
ゴーレムが咆哮を上げる。
だが女戦士は止まらない。
迫るゴブリンの矢を、大剣で叩き落とす。
火花。
回転。
そのまま瓦礫を蹴り上げ、空中のゴブリンを真っ二つにした。
圧倒的だった。
動きに迷いがない。
まるで戦場そのものに慣れきっているみたいだった。
「……すげぇ」
シュウが呆然と呟く。
女戦士は赤ゴーレムの頭部へ飛び乗る。
そして。
「終わり」
静かな声と共に、大剣を突き立てた。
赤い核が砕ける。
赤ゴーレムは崩壊した。
轟音。
砂煙。
静寂。
戦場から、魔物の気配が消える。
しばらく誰も動けなかった。
やがて。
「……生きてる?」
シュウが震える声で言う。
エルクはゆっくり周囲を見渡した。
瓦礫の街。
血。
死体。
勇者A部隊。
生き残ったのは、十人ほどだった。
たった一日。
それだけで、三十人近くいた仲間が消えた。
エルクは無意識に拳を握る。
女戦士がこちらへ歩いてくる。
近くで見ると、年齢は自分たちとそう変わらない。
だが、その目だけは妙に鋭かった。
シュウは慌てて立ち上がる。
「あ、あの! 助かりました!」
女戦士は無言。
シュウは気にせず続ける。
「俺シュウ! ここでは、勇者A-244!」
「……リア」
小さい返事。
「ん?なに?」
「名前っ!リア!あんたたち死ななくてよかったね!」
シュウの顔が少し明るくなる。
「お、おぉ、リアさん、お強いですね!」
リアは軽く溜息を吐いた。
その視線が、エルクへ向く。
そして。
彼女の動きが止まった。
「……あなた」
リアの目が、わずかに揺れる。
驚き。
そんな感情が見えた。
エルクは眉を寄せる。
「……?」
だがリアはすぐ表情を消した。
「気のせいか」
小さく呟く。
そのまま踵を返した。
「え、ちょっ、行くの!?」
シュウが慌てる。
リアは振り返らない。
瓦礫の奥へ、そのまま消えていった。
「なんだったんだ……?」
シュウが首を傾げる。
エルクも同じだった。
だが。
なぜか妙な違和感だけが残っていた。
どこかで、あの目を知っている気がした。
・
・
・
その日の夜。
生き残った勇者A部隊は、城へ戻された。
与えられた部屋は、地下ではなかった。
狭いながらも個室、ベッドがあり、明かりも暖かい。
着替えも用意されていた。
まるで、
“生き残った者だけ待遇が上がる”みたいだった。
「このシステム考えたやつ絶対性格悪いだろ……」
湯船へ浸かりながら、シュウがぼやく。
エルクも浅く息を吐く。
熱い湯が、ようやく身体の震えを溶かしていく。
薬草風呂なのか、回復作用もあるようだ。
細かい傷は消えていた。
「でもさ」
シュウがニヤける。
「あのリアって子、めちゃくちゃ強くなかった?」
「……まあ」
「あれ完全に主人公側のキャラだろ」
「ゲーム脳やめろ」
「いや絶対レアキャラだって!リセマラでやっと当たり引いた感じ?人権キャラってやつ?」
シュウは楽しそうに笑った。
「しかも近くで見るとすごい美人!!また会えるかなー? おい、エルク聞いてる?」
エルクは湯気の向こうをぼんやり見つめる。
リア。
あの剣。
あの目。
そして、自分を見た時の表情。
なぜか胸の奥に、小さな引っ掛かりが残っていた。
第2話 赤く染まる戦場 ここまでです。
ーー現在分かっている情報ーー
登場人物
名前:リア・エ・アルヴェイン
性別:女
年齢:?
武器:大剣




