表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強黒猫の絶対防御と、無自覚バフの歌姫 〜心を閉ざした少女は、極上の音色で異世界を無双(癒や)します〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/41

第24話:地下室の沈黙。私にできることは、祈ることだけ?

 


 ズン……、ズン……。


 地下貯蔵庫の天井を揺るがすような恐ろしい轟音は、不自然なほどピタリと鳴り止んだ。

 代わりに響き続けるのは、街の西側から絶え間なく伝わってくる、鈍い地鳴りと微かな怒号だけ。


 天井からパラパラと落ちてきていた土埃も収まり、地下室にはランプの心細い灯りが照らし出す重苦しい沈黙が降りていた。


「……攻撃が、止んだのかい?」

「あぁ。でも、門の方からはまだ戦ってる音がする……」


 避難してきている大人たちが、ひそひそと不安げな声を交わす。

 泣き疲れた子供たちは、女将さんや母親に抱きついたまま、浅い息を繰り返して眠りについていた。


 私は木箱の上に座り、膝の上で丸くなっている黒猫の背中を、機械的に撫で続けていた。


『……ふん。ようやく少しは静かになったな。これで俺も安眠できるというものだ』


 黒猫は、外の地獄のような状況などどこ吹く風といった様子で、喉の奥でゴロゴロと治癒の音を鳴らしている。

 その規則正しい振動と、毛皮の温もりだけが、今の私をギリギリのところで現実の恐怖から繋ぎ止めてくれていた。


(ガルドさん……みんな……)


 私は、足元に置いたギターケースへと視線を落とした。


 いつもなら、この赤いベルベットのケースを開ければ、そこには私の『声』があった。

 言葉が通じない異世界で、私とみんなを繋いでくれた大切な魔法の木箱。


 広場で明るい曲を弾けば、見ず知らずの商人や子供たちが笑顔で手拍子をしてくれた。

 ギルドで静かなアルペジオを奏でれば、血と泥にまみれた冒険者たちが、ホッと息をついて痛みを忘れてくれた。


 私の音楽には、誰かの心を癒やす力がある。

 そう信じられるようになって、私はこの街で生きていく希望を見つけることができたのに。


(……でも)


 私は震える手を伸ばし、ギターケースの冷たい金具に指を這わせた。


 カチャリ、と小さな音を立てて金具を外す。

 蓋を少しだけ開けると、お爺さんが張ってくれた銀糸の弦が、ランプの光を反射して微かに光った。


 この新しいギターの音色は、本当に素晴らしい。

 今、ここで私がギターを弾き始めれば、怯えている地下室の人たちの心を、少しは落ち着かせることができるかもしれない。

 不安で泣いている子供たちに、安らぎを与えることができるかもしれない。


 でも、私の指は弦に触れる直前で、ピタリと止まってしまった。


 ――ここで私がいくら綺麗な音を鳴らしても、あの西の門で戦っている人たちには届かない。


 その冷酷な現実が、私の胸を鋭く突き刺したのだ。


 音楽は、空気を震わせ、心を震わせることはできても、物理的な暴力の前ではあまりにも無力だった。

 私がここでどんなに美しいコードを弾き鳴らしても、魔物が振り下ろす棍棒を弾き返すことはできない。

 私がどんなに祈りを込めてメロディを紡いでも、冒険者たちが負った引き裂かれた傷を塞ぐことはできない。


「……っ」


 結局、私はただの非力な少女だ。

 元の世界で声を失い、逃げるようにギターにすがりついたあの頃から、本質的には何も変わっていない。

 安全な場所に隠れて、ただ誰かが守ってくれるのを震えながら待つことしかできない。


 それがひどく情けなくて、惨めで、私は開けかけたギターケースの蓋を、バタンと閉めた。


『……おい人間』


 膝の上の黒猫が、薄く目を開けて私を見上げた。

 その琥珀色の瞳は、私の内心の葛藤をすべて見透かしているように真っ直ぐだった。


『なぜ弾かない。お前のその木箱の音は、こんな淀んだ空気の場所でこそ真価を発揮するだろう』


「……」


 私はフルフルと首を横に振った。

 弾けないよ。

 私の心は今、この地下室にはない。西の門で命懸けで戦ってくれている、あの大好きな人たちの元にある。

 だから、ここで自分だけが落ち着くために弾くなんて、そんな自己満足みたいなことはできない。


 私が声にならない思いを込めて見つめ返すと、黒猫は小さく鼻を鳴らした。


『ふん。頑固な奴め。お前が弾かないのなら、俺は寝る。好きにしろ』


 黒猫は再び丸くなり、目を閉じてしまった。

 冷たい言葉だけれど、私の膝から離れようとしないのは、彼なりの不器用な気遣いなのだろう。


 ギリッ、と私は自分の膝を強く抱きしめた。

 怖い。悔しい。もどかしい。


 頭の中に浮かぶのは、ガルドさんが不器用に笑いながら果実茶を差し出してくれた顔。

 厳ついおじさんたちが、顔を真っ赤にしながら木彫りの熊をくれた時の照れくさそうな顔。


 あんなに温かい人たちが、今、命を散らそうとしているかもしれない。


 ズン……。ズズンッ。


 地鳴りは、先ほどよりも少しだけ大きくなっている気がした。

 それはつまり、防衛線が突破され、魔物の群れが街の中心部へと近づいてきていることを意味している。


「あぁ……神様……」

「誰か……助けて……」


 地下室の暗がりから、絶望に押し潰されそうな祈りの声が漏れ聞こえる。


 私はギターケースを胸に抱き寄せ、冷たい石の壁に背中を預けた。

 何もできない。ただ祈ることしかできない沈黙の時間が、永遠のように長く、重く感じられた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ