第41話 夏祭り② 先生の目の前で
桜井は、友梨奈と一緒のサトシを見て愕然とした。
サトシは、若狭と一緒に手を繋いでいる桜井を見て愕然とした。
「先生……」
友梨奈はサトシの腕にまとわりつきながら、桜井をチクチクと攻撃してきた。
「桜井さん、新しい彼氏とデートなの? 羨ましいわ、たくさん恋ができて。わたくしは、サーちゃんと清いお付き合いしかできませんのに」
サトシは友梨奈を叱った。
「友梨奈、よしなさい」
「だってー、この人、サーちゃん以外にも好きな人がいるみたいなんですもの。わたしは、サーちゃんひとすじだからね」
「よしなさいって、友梨奈。俺は学校の見回りで来ているだけだから」
「ええ? 見回り? 友梨奈そんなの知らなーい。行きましょう、サーちゃん。桜井さんのデートの邪魔をしちゃ悪いわ」
「ああ、そうだな。桜井、遊ぶのはいいが遅くならないうちに家に帰りなさいよ」
桜井は、自分が男子生徒と遊んでいると誤解されるのが嫌で弁解しようとした。
「先生、違うんです。わたし……」
桜井がサトシに言おうとしたところを、若狭が遮った。
「桜井さんの学校の先生ですか?」
「そうですが、君は?」
「はじめまして、若狭翔太といいます。K大付属の一年生です」
(ああ、知っているよ。河本塾にいただろ)
「桜井さんの彼、すごーい! K大付属ですって」
若狭は、サトシが桜井の先生だとわかると、懇切丁寧に挨拶した。
「先生、ご安心ください。僕たちは清い交際です。9時には責任をもって彼女を家に帰しますので」
「はぁ、そうですか。では、そのようにお願いしますよ」
サトシの教師としてのもっともらしい言い方。
それがかえって、桜井を傷つけた。
桜井は、サトシにフラれて若狭と付き合っているなんて、そんな風に誤解されることに我慢できなかった。
桜井の右手の拳に力が入った。
「あんたってば、なんで彼氏ヅラしてんのよ。バカ―!」
桜井のパンチが若狭の頬に一発入った。
若狭は突然のパンチにうめいた。
「ううううう」
「もう嫌! あんたなんか大っ嫌いよ! よくも先生の目の前で彼氏ヅラなんか……、下駄なんか脱げば平気よ。裸足で歩いていけば問題ないし。バーカ!」
桜井は下駄を脱いで両手に持ち、怒りながら人ごみの中に消えて行った。
「おい桜井!」
「おい美柑!」
サトシと若狭は二人同時に桜井を呼んで、お互いに顏を見合わせた。
「あ、どうもすみません。学校の見回りで来ているので、ついデートの邪魔を」
「いいえ、当然ですよ」
「そんなことより、若狭くんでしたっけ? 早く桜井を追いかけてください。わたしは他の見回りに来ている先生に連絡しますから」
「わかりました。お願いします」
若狭は、サトシに言われた通りに人ごみの中へと、桜井を追って入って行った。
そして、サトシはポケットからスマホを出し、他の先生に連絡しようとするが、友梨奈がべったりと付いて離れない。
「サーちゃん、友梨奈つまんなーい。なんで桜井さんのことばっかり心配するの?」
「友梨奈、いい子だからレイコ姉さんが来るまでここに居なさい」
サトシは、一緒に見回りに来ている大山先生に急いで連絡を取った。
「もしもし、大山先生。サトシです。うちのクラスの桜井を急いで追わないといけない状況になってしまいまして、詳しい説明はあとでします。とりあえず、パソナ銀行の前に来てくれますか? え? 教頭先生も見回りに来ているって? 面倒な事にならないといいですが……、そう、急いで来てもらえますか?」
「サトシ先生」
「え、大山先生、早いな」
サトシが呼ばれて振り向くと、大山先生ではなく、そこには教頭が立っていた。
「サトシ先生! 呆れました! こちらのお嬢さんを連れて見回りしていたのですか? なんという不謹慎な! このお嬢さんとはどういうご関係で?」
「教頭先生……、これはわたしの従妹です。勝手に付いてきたのです」
「はじめまして、白金女子学園の教頭先生ですね。わたくし聖ルチア女学館の佐藤友梨奈と申します」
「あなた……女子高生? 聖ルチア女学館の? まあ! どういうことですか? サトシ先生、未成年の女子高生とお付き合いしているのですか?」
「だから、従妹ですってば。あ、ちょうどいい、教頭先生。この子のことをよろしくお願いします!」
そう言って、サトシは友梨奈を教頭に押し付けて、桜井を追うため人ごみの中へ走って行った。
「サトシ先生!」
「サーちゃん!」
友梨奈と教頭は目があった。
パソナ銀行のシャッターの前で、とても重ーい空気が流れた。
そのころ、桃瀬と柚木は、行方不明になった桜井を心配して一旦人ごみから外れることにした。
「いないねー、美柑。どうしよう」
「携帯は繋がらないの?」
「さっきから電話してるんだけど、聞こえないのかな。メールしておこうか」
そこへ、よれよれになった桜井が裸足で歩いている姿を柚木が発見した。
「いたっ! 美柑―! おーい!」
「あ、柚木くーん、ハルちゃーん」
髪の毛は乱れ、浴衣も乱れ、おまけに裸足で歩いてきた桜井を見て、柚木と桃瀬は驚いた。
「「だいじょーぶーーー?!」」
「へ、へ、へ、大丈夫。みんなは大丈夫だった?」
「美柑、あんた、全然大丈夫じゃないよ。とにかく、どこかでトイレ借りて浴衣と髪を直した方がいいよ。ってか、裸足なんてありえないっしょ。サンダルでも買えば?」
「ははは、そうだね。どこかお店あるかなー。あ、あそこのソニプラでさぁ、クロックスもどきでもあればいいんだけど」
「じゃ、ソニプラのビルでトイレ借りようか。美柑、わたしがおんぶしてあげるよ」
「ごめんねー、柚木くん」
「まだ、盆踊り会場までたどりつけてないわよ」
「ハルちゃん、美柑がかわいそうでしょ」
「ごめんねー、ハルちゃん。浴衣で来たわたしがバカだったわ」
「いいのよ、美柑。気にしないで。どこかのカフェでおごってくれれば」
「ハルちゃん、その性格、わたし好きよ」
柚木が桜井をおんぶすると、人混みの中から桜井の背中はぴょんと飛び出した。
それを、遠くから見つけた若狭は、桜井を目指して走って来た。
「美柑―! 大丈夫かぁ?!」
桃瀬と柚木は、突然現れたイケメン高校生に驚いた。
「だ、誰? 美柑、まさか彼氏?」
「まさかー、違うわよ。彼氏じゃないわよ」
「美柑ったら、わたし達とはぐれておいて、黙って彼氏とデートしていたの? 信じられなーい」
「違うって! こいつ嫌いなの。追っ払ってちょうだい、柚木くん」
柚木におんぶされながら桜井は、若狭を嫌いだと言い切った。
「何? ストーカーなの? ちょっとあんた、美柑に近づかないでくれる?」
「え、僕はストーカーじゃないです。ただ、桜井美柑さんが人ごみの中で倒れていたから、助けただけです」
「あら、そうなの? 柚木くん、わたしはこの人嘘をついていないと思うわ」
「ハルちゃんがそう言うのなら、そうかもね」
桜井は、柚木の背中でわめき続けた。
「た、確かに助けられたけどぉーー、わたしはこいつが許せないの!!」
「まあ、まあ、まあ、美柑落ち着いて。この人、美柑の彼氏じゃないのね。なら、ちょうどいいわ。わたしたちこれからソニプラで美柑のサンダル買うつもりなの。ちょっとだけ付き合っていただけます?」
桃瀬は若狭を見て、ちょっとかっこいいかもと思って誘ってみた。
すると、若狭は明るく返事をした。
「はい、喜んで」
「何、喜んでるのよー! あんたなんか、付き合わなくてもいいから」




