第42話 夏祭り③ 教頭に補導されて
ソニプラビルに入ってクロックスを買った桜井は、桃瀬と柚木と若狭を連れてカフェに入った。
「悪いわね、美柑。高そうなお店しかなかったけど、いいの?」
「どうぞ、何でも好きなものを注文して。わたしはトイレに行って浴衣を直してくるわ」
桜井がトイレに行ってから、桃瀬は若狭に話しかけた。
「ねぇ、ねぇ、美柑を追いかけていた人。お名前を聞いてないわ」
「あ、はい。若狭翔太といいます」
「若狭くん、はいメニュー。何にする?」
「いいえ、僕は別にいいです」
「いいですって言ったって、まさか女子トイレまで美柑を追いかける気じゃないでしょうね」
「柚木くん、それは言い過ぎだわ。若狭くーん、わたし桃瀬春奈といいます」
「あ、どうも」
「ハルちゃん、若狭くんと親しくしすぎじゃない? ちなみにわたしは柚木カオルでーす」
「はい、どうも」
「ねえ、何にする? 若狭くんは何がいい?」
あまりに桃瀬たちが聞いて来るから、若狭はとりあえず話題を提供してみた。
「ここのお店って、かき氷で有名らしいですよ。この間SNSで見ました」
「へぇ、そうなんだー! 若狭くんって最新情報に詳しいんだね。そうだわ! みんなでいろんなかき氷を注文して、それぞれ分け合うってのはどう?」
「あ、いいね。わたし抹茶スペシャルにするー」
桜井がトイレに行っている間、桃瀬と柚木は若狭を挟んで、楽しく会話していた。
すると、桃瀬は見つけてしまった。
向こうからこのカフェに入って来る教頭の姿を。
「あ、教頭先生がいる。教頭先生と一緒にいる女の子、あれ誰?」
「さっきの子だ。さっき、あの子が白金女子学園の先生と肩組んで歩いていたのを、僕は見ました」
若狭は、さっきパソナ銀行の前でサトシと一緒にいた女の子を覚えていた。
「何ですって? うちの先生とあの女の子が一緒に? それは確かなの? 若狭くん」
「間違いありませんよ」
「むむむ、それであの子はうちの教頭に補導されたのかしら」
「ハルちゃん、これは事件よ」
教頭は友梨奈を補導して、このカフェに入って来た。
友梨奈を席に着かせると、店員を呼ぼうと辺りを見回し、桃瀬たちが店内にいることに気が付いた。
「まあ! うちの生徒たちまで……。ちょっと、友梨奈さん、ここで待っていてくださる?」
教頭は友梨奈を待たせて、桃瀬たちの席まで近づいて行った。
「あなた達、男子生徒と一緒にカフェなんかに入って、何しているのですか?」
「教頭先生、わた、わた、わたしたち何も……」
教頭の質問に桃瀬と柚木は、狼狽えた。
しかし、K大付属の若狭は動揺することなく、堂々と優等生らしい回答をしてみせた。
「白金女子学園の教頭先生ですか。どうも、はじめまして。僕はK大付属高校の若狭翔太といいます。実は、夏休みの課題について、彼女たちから相談を受けていたところです」
「K大付属っだったの? 若狭くん!」
桃瀬は思いっきり驚き、口をあんぐり開けたまま若狭を見つめた。
「はい。あの、教頭先生が今ご一緒している、あちらにいらっしゃる女生徒も、この勉強会に参加する予定なんですけど、ご存じでしたか?」
「なんですって?」
K大付属という言葉に教頭は驚き、つい若狭を信用してしまいそうになった。
だが、白金女子学園の教頭は手強かった。
このK大付属と名乗る男子生徒が言っている事は事実なのか。
教頭は試しに、一緒に来た友梨奈のことをこのK大付属の生徒は本当に知っているのかどうかを尋ねてみることにした。
「あらそう。でも本当かしら。では、わたしと一緒にいるあの女生徒のお名前はご存じなのかしら」
若狭は、一瞬詰まったが、桜井の先生と出会った場面を一生懸命に思い出しながら答えた。
「確か、白金女子学園の先生と一緒にいました。友梨奈さんですよね」
「まぁ! あなたはサトシ先生と友梨奈さんの関係までご存じなんですか?」
教頭の驚きを見て、今度は桃瀬たちが驚く番だった。
「一緒にいた先生って、サトシ先生なの?!」
「サトシ先生とあの女生徒が一緒だったって、どういうこと?」
「柚木くん、わたし美柑から聞いているわ。確かサトシ先生の家に聖ルチア女学館の女生徒がいたって話」
大声で叫んだため、百瀬と柚木は店内のお客からの注目を一身に浴びた。
もちろん、それは友梨奈の耳にも届いた。
どうやら雲行きが怪しくなってきたと悟った友梨奈は、このままではサトシに迷惑がかかるかもしれないと判断した。
教頭からはサトシについて厳重注意を受けていたし、友梨奈はこれ以上この騒ぎを大きくしたくなかった。
教頭が桃瀬たちのテーブルに付きっきりになったのをいいことに、友理奈はそーっとカフェを抜け出そうとした。
「お待ちなさい!」
運悪く、友梨奈は教頭に見つかってしまった。
「あの、お手洗いに行くのです。すぐに戻ってきますから」
そう言って、友梨奈はトイレの方向へと歩き出した。
今度はそれを聞いた桃瀬が焦った。
(あの女生徒が今トイレに行ったら、桜井と出会ってしまうじゃないの。あの女、
サトシ先生と一緒に夏祭りに来ているなんて、付き合っているに決まっているわ)
ちょうどいいタイミングで、店員が教頭のところにオーダーを聞きに来ていた。
生徒たちは、教頭に聞こえないように小声で話した。
「柚木くん、トイレにあの子が行って美柑と会ったらヤバくない?」
「でも、美柑はあの子がサトシ先生と一緒だったなんて知らないから、たぶん、大丈夫だよハルちゃん」
「え? 君たち何を言ってるんだよ。僕と一緒にいた時に、美柑は友梨奈さんと先生が一緒にいる所を見てるから、当然知ってるよ。」
「なんでっすって? 若狭くん、なんでそんな大事な事を今まで黙っていたのよ」
そんな会話を生徒たちがしているとは知らずに、
教頭は、店員からおすすめメニューの説明を受けて、どれにしようかと迷っていた。




