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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第39話 夏休みでも出勤してます②

 古松川先生に市場調査と言い切られたが、サトシはスパイ活動のような仕事は初体験だ。

気分はすっかり映画の主人公。

ドキドキしながら、塾入口で掲示板を眺め、他校の情報が無いか探すことにした。


すると、他校の男子高校生たちが塾の入り口でおしゃべりしている光景を見つけた。

河本塾は、高校受験から大学受験へと多彩なコースがあることで有名だ。

きっと、この男子生徒たちは大学受験コースなのだろう。

サトシは聞くつもりはなかったのだけれど、なんとなく男子生徒たちの会話が耳に入って来ていた。


(男子高校生っていうのは、声が大きいからなぁ。これは盗み聞きじゃないぞ。不可抗力だからな)


「なあ、夏祭りになったら、みんなで行かないか?」


「あ、悪いな。僕は、先約があるから無理」


「なんだよ若狭、彼女でも出来たのか? もしかして、白金女子に行ったあの子か。

確か、桜井美柑っていうんだっけ?」



(白金女子の桜井美柑だと?……、うちの学校に同姓同名でいたっけかな)



「美柑にはフラれた」


「あれ? そうだったのか? 女子にモテモテの若狭をふるとはなぁ。美柑なんてそんなに可愛い女の子じゃないのにな」


「美柑の悪口を言うな」


「あれ、ごめん、ごめん。若狭が美柑のことをまだ好きだとは思わなかった。で? 先約って誰だよ」


「誰でもいいだろ」


「何怒ってんだよーー。若狭くーん、ハハハハハ」


挿絵(By みてみん)



(なんだ、桜井はちゃんと青春してるじゃないか。それにあの若狭っていう子は、なかなかのイケメンだし。ほう、イケメンでも桜井にフラれたんだ。ちょっと俺、優越感)



サトシは、桜井が他校の男子生徒に告白されていた事実を知って、教師の立場から安心した。


「サトシ先生」


そこで、古松川先生に呼ばれて、サトシは我に返った。


「サトシ先生、次、瀬田ゼミナールに行きますよ。こんどは、サトシ先生から営業かけてみてください」


「はい、わかりました。行きましょう」





 15:00

 学校に戻ると古松川先生とサトシは、さっそく営業レポートを作成した。

古松川先生は、パソコンに入力しながらサトシに相談してきた。


「サトシ先生、聖ルチア女学館の受験日程が早くなるようですね。それにあわせて、こちらも前期と後期の日程を変更しましょうか」


「そうですねー。それは調整したほうがよさそうですね。教頭に提案しましょう」


聖ルチア女学館の日程なら、サトシは実家でいくらでもスパイできるのにと思ったが、それは言わないでおくことにした。

聖ルチア女学館の理事長がサトシの親戚だなんて知られたら、なぜここに来たのかと聞かれるのは目に見えていた。

サトシは、面倒な事は避けて通る主義だ。


「ところで、サトシ先生。河本塾の前で喋っていた男子生徒がいたのを覚えていますか。あの制服は確か、有名進学校のK大付属高校だなぁ」


「ああ、そうなんですか。K大付属なんですか。進学校ですよね」


「夏休み中でも、制服着ていたということは、学校で夏期講習でもあったのかもしれない」


「そうかもしれませんね」


「1年生から夏期講習とは、大変だな。進学校は力の入れ方が違う」


「古松川先生、どうして彼らが1年生だとわかったんですか?」


「K大付属は、学年ごとにネクタイの色が変わるんですよ。今日見た生徒たちのネクタイ。水色のストライプは今年の1年生だ」


「すごい、よく見ていらっしゃるんですね。さすが、スパイ活動のプロ」


「市場調査です!」


古松川先生の市場調査によって、桜井美柑に告白した男の子はK大付属高校の1年生だと、サトシは知ることができた。

確か、名前は……


(そうだ。たしか若狭と呼ばれていた。桜井と同学年なのか、俺より若いじゃん。若狭って名前からして気に入らないな。

あれ? 俺はどうしてこんなにK大付属の生徒ことを詳しく覚えているのだろう。しかも、年齢を俺と比較する必要性なんか全くないのに。……嫉妬? まさかぁ! ある訳が無い)


「サトシ先生、ちょっと相談なんですが。教頭に、K大付属で一年生夏期講習をやっていることは、知らせないでおきませんか?」


「どうしてですか、古松川先生。せっかくの貴重な情報なのに」


「教頭がこのことを知ると、うちも一年生から夏期講習やりますと言いかねない」


「そうなるでしょうね」


「考えてみてください。高校生の夏休みですよ。どうせ二年生、三年生は夏期講習が入るんです。高校生らしい夏休みをエンジョイできるのは一年生の時期しかないんですよ。一年生のときぐらい、夏休みを楽しく過ごさせてあげたいじゃないですか」


「そうですね。古松川先生にわたしも同じ意見です」


(K大付属か……嫉妬? いや違う)


古松川先生と会話していても、あの男子生徒の姿がちらついて、サトシはなんだかモヤモヤしていた。


(嫉妬……だから、違うって)





 17:00

 定時に退勤。

サトシは帰宅すると、カバンを置き、弁当箱を出して洗いはじめた。


(桜井のお弁当は美味しかったな)


洗いながら、若狭という生徒の顔が浮かんで来た。


(それにしても……桜井に告白したやつ、頭もよくてイケメンだった。それなのに、どうして桜井はあいつをふったんだ。……頭良くてイケメンで若くても、桜井は俺の方がいいとか謎すぎる)


サトシは、お弁当箱を丁寧に洗いながら、このお弁当箱が自分の手元にあるのが嬉しかった。


(いくら頭良くてイケメンでも、桜井のお弁当は食べたことないだろう。ふふふ、勝った……じゃなくて! 何考えているんだ、俺は! 教師だぞ。桜井の青春を応援する側だぞ。いかん、いかん、どうも変な方向に考えが……)


こんなことを考えながら……

延々と30分間もかけて弁当箱を洗っていることに、サトシは全く気が付いていなかった。


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