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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第十章 Wedding編

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第271話 未来はそんな悪くない

 そんな微妙な空気を切り裂くように、レイコ姉さんは、勢いよくマイクを取り直した。

聞き覚えのあるリズムが小さく流れる中、レイコ姉さんによるDJが始まった。


「Ladies and gentlemen!  Are you ready!?」


あの懐かしい、明るくて、前向きなリズムだ。

桃瀬や夏梅、柚木、一ノ瀬が顔を見合わせた。


「あれ、このリズム……あれじゃない?」

「あれだわ。さっき先生たちがビデオで練習してたのは、この曲なんじゃない?」

「マジで?」

「え、これ……! 先生たちが白金祭で踊ったやつ……!」

「やば、踊れるかも……!」


「Hey everyone in Japan, can you hear me? (おい日本のみんな、聞こえてるか?)

It seems Japan hasn't been doing well lately? (最近、日本は元気ないって?)

There's no money, work is tough, and there's just a lot of bad news in the news! (お金がない、仕事が厳しい、いまいちなニュースばっかりだもんな!)

But there's no point in worrying, right? (でも、くよくよしててもしょうがないだろ?)

Now it's time to get up and dance! (今は立ち上がって踊るのさ!)

This is the hottest dance that will get you pumped from the teachers! (先生たちからお前のテンション上がりまくる、最高にホットなダンスだ!)

"Koi Suru Fortune Cookie"!!! (「恋するフォーチュンクッキー」!!!)

Dance, Japan. Dance like crazy! (踊れ!日本。踊り狂っちまおうぜ!)」


唐突な英語DJ風のトーンに、ゲストたちは「えっ?」と顔を見合わせた。

そして、レイコ姉さんは、にっこり笑って指を鳴らした。


「One! Two!  One! Two! 三、四(さん、しー)ー!!」 



リズムは軽快なイントロに変わった。

それは、先生アイドル化計画で踊った「恋するフォーチュンクッキー」の、あのメロディだ。


会場の中央、自然に集まったゲストたちの真ん中から、次々に立ち上がるスタッフ姿の人物がいた。

踊り出したのは……さっきまで料理を運んでいたウェイターたち? 否、工藤先生がその中にいた。


挿絵(By みてみん)


「工藤先生!?」


誰かが叫んだ。


そして次の瞬間、工藤先生はウェイター用の黒いエプロンを脱ぎ捨て、ステップを踏みながらセンターへ。

それを合図に、先生たちのメッセージビデオで流れていた先生たちも次々に踊り出した。

藤原先生も、ウェイター姿から、エプロンを投げ飛ばした。

古松川先生はサトシの手を取り、緑川先生は桜井の手を取って、一緒に踊るようにと促す。

五十嵐先生は校長の手を引いて、転ばないように注意しながら一緒に踊り始めた。


会場のボルテージは最高潮に達したころ。

イントロが変わった。


アキラとアツシも自然とステップを踏み始めた。


「やっべ、俺、これ踊れる」


「おう! ダンスなら僕、自信がある」


山梨の親戚や秋田の親戚まで、うずうずし始めた。


「家紋、家紋、ベイベー、占ってよ♪」


「塀、塀、塀! 塀、塀、塀!♪」


親族も生徒や卒業生たちも、工藤先生のダンスを見て踊り始めた。


挿絵(By みてみん)


「さぁ、みなさんもご一緒にー!」


レイコ姉さんのマイクが盛り上げ、照明が一段と華やかに切り替わった。


披露宴会場の扉が開いて、コック帽を被った料理長まで、笑顔で手を振って登場した。

実は、それは大山先生だった。


「キャー!大山先生! 何これ! サプライズ・フラッシュ・モブ」

「工藤先生も、サトシ先生と登場の仕方が被ってたしね」

「うちの母校、ほんと、先生たち仲いいわー」


大山先生の登場を見ていたサトシと桜井は、信じられないというような顔で驚いたが、もっと信じられないことが起こった。


なんと、モニターの中から現れるように、あの映像で踊っていた職員たちが、本物として登場してきたのだ。

用務員のおじさん、購買部のおばさん、音楽教師、保健の先生、中庭でサボってた先生たち……。


次々に入場してくる学校関係者に、長谷川は慌てて息子たちに確認した。


「おい、あの先生たちへ渡すお礼は取ってあるんだよな?」


「大丈夫、ちゃんと準備してるよ父さん」


「母さんと工藤先生からの指示がありました」


「母さん?」


「うちの店、白金女子学園魔法部ですから……ホホホホ」


「は? 意味わからん……」




あのときの白金祭を見ていた人たちが、ひとり、またひとりと踊り出し、会場は白金女子学園のステージになった。


「……桜井、来い……!」


サトシが手を伸ばすと、桜井はその手を取って、今度はふたりでステップを踏んだ。


「え? え? これって先生が仕掛けたの?」


「本物の先生アイドル化計画だ。俺は君の永遠のアイドルになる」


「何それ」


ふたりはお互いの顔を見つめて、笑った。

そこに、桜井の同級生、サトシの同僚の先生たち、司会のレイコ姉さん、そして青柳先生まで加わった。


会場の中央に、自然とできた大きな円。

その真ん中で、新郎新婦のサトシと桜井が手をつなぎ、笑顔を交わす。


カメラマンに戻った青柳先生が、望遠レンズ越しにそっとつぶやく。


「これが……ほんとの、集合写真だな」


シャッターを切った。


会場いっぱいに流れるダンスの輪は、まるで未来へとつながる大きな橋のようだ。

誰もが笑っていた。

泣きながら、笑っていた。


「あなたとどこかで愛し合える予感♪」


桜井がくるっと回転し、サトシの腕の中にすっぽりとおさまる。

ふたりは見つめ合い、カメラを背に、そっとキスを交わした。


会場中が湧き立った。

拍手と歓声と、きらめく照明が会場を魔法のステージにした。


曲のラスト、曲が終わった途端。

全員でポーズを決め、叫びながらジャンプ!


「Hoo!!」


レイコ姉さんのマイクが優しく響いた。


「Ladies and gentlemen, thank you for coming.

Let’s give a big round of applause to the most wonderful couple in the world──Mr. & Mrs. Sato!」

(皆様、ご来場ありがとうございます。

世界で一番素敵なカップル──佐藤夫妻に盛大な拍手を贈りましょう!)


レイコ姉さんはサトシにマイクを渡した。


マイクを受け取ったサトシは、一度深く頭を下げ、そしてゆっくりと顔を上げた。

その笑顔の中に少しだけ照れが混じっていた。


「本日は、わたしたちの結婚式にお越しいただき、本当にありがとうございます。

……正直、まだ夢を見ているような気持ちです。目の前に、こんなにたくさんの方々の笑顔があって、隣には、人生で一番大切な人がいて――もう、何も言うことはありません、って言いたいところなんですが……やっぱり、言わせてください。」


少し笑いが起きると、サトシはゆっくり言葉を続けた。


挿絵(By みてみん)


「この披露宴は、わたしたち二人だけでは絶対に実現できなかったものです。

準備に協力してくれた職場のみなさん、

どこまでも味方でいてくれた友人たち、

そして、育ててくれた家族、

……何より、三年間も遠回りして、ずっと待っていてくれた、彼女へ。

本当に、ありがとう。」


桜井の目が一瞬潤んだ。

サトシは笑って見せながら、少し声のトーンを落とす。


「わたしは教師という仕事が大好きで、ずっと生徒たちに“誠実であれ”と語ってきました。

それを、自分自身にも問いながら、今日この日まで来ました。

……彼女との関係も、その想いを貫いてきたつもりです。

だからこそ、今日、胸を張って“幸せです”と、ここにいる全員に伝えられることが、何より嬉しいです。」


会場に温かい拍手が広がる。

サトシは一呼吸おいて、少し冗談めかして言った。


「そして最後に……この場を借りて、ひとつだけ。

結婚しても、校内で彼女のことを桜井と呼ばないでください!

――でも、家では……こっそり許してもらおうと思ってます。」


クスッと笑いが起きる中、桜井が笑ってツッコミを入れる。


「サトシ先生と桜井でいいじゃん。もう」


サトシは満面の笑みを浮かべて、もう一度深く頭を下げた。


「みなさん、本当にありがとうございました。

これから、ふたりで……

いえ、みなさんと一緒に、楽しい人生をつくっていきたいと思います。」


ゲストのあたたかい拍手に包まれながら、新郎新婦はそっと手をつないだ。

鳴り止まぬ拍手の中で、ふたりは一礼し、ゆっくりと退場していった。


そして、退場した扉の横で、招待客一人一人に感謝の言葉を述べて見送った。


「美柑、おめでとう!」

「サトシ先生、今日は楽しかったよ」

「お二人らしい結婚式だった」


サトシが恋愛相談をしてから、ずっと応援してくれていた工藤先生が足を止めた。


「サトシ、おめでとう。三年前のクリスマスの恋愛相談だけどさ、まさか真に受けて、本当に結婚してしまうとはな」


「えっ?! あれ、冗談だったのか、工藤……」


「半分はな、でも半分は真面目だった。まさか三年間も本当に清い関係を続けるなんて思わなかった。サトシは凄いよ」


「褒めてんの? バカにしてんの?」


「さあな!」


工藤先生は笑いながら手を振った。


サトシにとって、昔の恋敵がキューピット役だった。

当時は分からないことが、後で振り返ると分かることもある。

サトシと桜井は、親友であり恩師の工藤先生の後ろ姿を見送った。


そして、ふたりの結婚披露宴は終わった。

まるで白金祭のステージのあと、幕が下りるように……。

しかし、それは終わりではない。


──This is where their new story begins.

(ここから、ふたりの新しい物語が始まる)


挿絵(By みてみん)

まるで最終回のような終わり方でしたが、あと1話だけ続きます。

次回が最終話です!

明日、完結します。


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