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なかなか良い所もあるじゃないかとテディの肩を叩き、デッキチェアに深く腰を下ろしていたテディは、ノートから顔をあげ、運命論を一つといて、プールに身投げしようとするので、すんでのところで抱き留め、笑い男から賞賛されたと思ったら、仮面を外して自分を驚かし、そのすきにテディを盗んでどこかに行ってしまい、エレベーターに一人取り残されたカンタは、扉が開いていたことに気づき、咄嗟に端によったが、誰かが乗り込んでくる気配はなく、首だけ出して廊下を見回したが、しんと静まり返っていて、人のいる気配はなく、クソったれいたずらかよと、どこかの悪ガキに憎悪を向け、しかし現実的に考えてこんな時間にいたずらをする子供はいないだろうと考え直し、ここで降りた酔っ払いだかが間違えて下がりのボタンを押してそのまま行ってしまったんだろうと、適当に納得し、だけど悔しいので屁を一発こいて、ボタンを押して扉を閉めると、ほどなくエレベーターは動き出し、あるかなきかの慣性の法則の中、笑い男をしのび、笑い男の悲しい人生に涙を流し、全てを受け入れたテディに尊敬を送り、そんな生き方は自分には出来ないと、ライ麦畑のつかまえてに、捕まえてもらいたいそんなカンタは、ホールデンに憐憫の情を送ったが、そんな安い同情は簡単に見抜かれて、こちらに一瞥もくれずに売笑婦と共にホテルの部屋へ消え、彼の被っていた赤いハンチング帽がやけにカンタの目に残って、それは誰かに向けられた血涙のように感じられて、そう思ったら扉が開いて、顔を出したホールデンがそういう所だぞとこちらを野次り、また一人取り残された自分は、すぐに己への同情に結び付ける悪い癖に気が付いて、だけどそんなこと言われてもと少し落ち込んだところで、想像力は人間に残された最後の武器なのだとバディに肩を叩かれ、屋根の梁を高く上げることへの是非について話し合っていると、フラニーから電話がかかってきたようで、最近は便利な世の中になったさと、ポッケからスマホを取りだし、これじゃあゾーイーもあがったりだね片手をあげ、だけどそのお陰で窓際の席に座れるからいいんじゃないとカンタは励まし、大工に宜しくと言うとバディは行ってしまい、カンタは表示された階数をじっと睨み、あと五階降りたら逃げられない現実と直面することになり、煩悩の塊のカンタは、五戒の戒めを何一つ守ってこなかった自分が、果たして神様に導いてもらえるのかと、でもよくよく考えると不邪淫だけは守っているというか、守らざるを得ない境遇に、




