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第53話 原理はない!

 思えば飯田源吾が死んだすぐあとに茶々が洞窟で見つかった。


――茶々の時も、そうであった。


 関連に全く気が付かなかった。


 三成は愕然とする。


 早く発見できたのは……大谷はほぼ毎日、湯浅五助と部下数人と持ち回りで伊吹山の洞窟を巡回を続けていたかららしい。


 その日、駒井の言っていた天気予報が当たって、午後からは本降りの雨であった。


 洞窟の異変を知ってその足で、大谷はすぐに大垣城に走り、三成に報告してくれた。


 その際、夕方から雪になりそうな空模様と見ていたので、大谷は洞窟にはありったけの毛皮や着物を湯浅五助と洞窟の主に置いていった。


 翌日である。


 三成は何度か泥濘みに足を取られそうになりながら、大谷と共に伊吹山を登った。


 心配した雪は夜間に少し降ったが、たいして降り積もらなかった。


 既に雨も上がっている。


「で、誰なのだ? その洞窟の主は?」


「先に言っちゃうとつまらないだろ? ヒントはお前がよくよく知っている人間だ」


 大谷は長い手足で苦も無く山の斜面を登っていく。


――毛利輝元だったら厄介だな、と思う。


 女だろうか?

 ただ大谷の様子からもそうは思えない。


 息子の重家だとしたら勿体ぶらずに話すだろうし。


 洞窟の暗闇に目を凝らすと、湯浅五助ともう一人の男が蓑に仲良くくるまって寝ている。


「あ! 仁右衛門にうえもん殿!」


 増田長盛ましたながもりがゆっくり目を開ける。


「や! これは、治部殿!」


 長盛はまだ眠そうな眼を瞬かせた。


「なんだ〜仁右衛門殿かぁ……ジジイではないか!」


「な、な、何なんですか? 開口一番。ヒドイ!」


「そういえば、増田殿は若返っても幾分老け顔だな……」


 大谷もフムフムと頷く。


 三成は増田長盛のいかにも人の好さそうな垂れた目尻を見た。


 若返っているとは言え、散々見飽きた顔である……懐かしいのは、まあ懐かしい。


 正直に言うと、三成はかなりガッカリしたのは否めない。


 確かに増田長盛は五奉行として一緒に働いている時間は長かったが、長束正家よりももっと家康に近く、関ヶ原以前の二人は連携し合っていたのは明白であった。


 少なくとも三成の全面的な味方、というわけではない。


――ただ、藤兵衛は喜ぶだろうな。

 長束正家はどこまでも実務家なので、増田長盛に会ったら仕事仲間として快く迎えるに違いない。


 洞窟を出たところで大谷にたしなめられる。


「あんまりそうガッカリすると、増田殿が可哀想だろう」


「いや……まあ、なんだ。複雑だな」


 大谷の忠告に三成は冷静になって少し思い直す。


 長盛は見た目は凡庸だが、めっぽう仕事はできるのである。


 今まで手の回らなかった仕事をフォローしてもらうのにはうってつけの人材である。


 三成は洞窟に戻って、長盛に手を差し伸べる。


「仁右衛門殿、やっぱ歓迎する。この世界について分からないことがあったら何でも言うように」


「何ですか? いきなり。怖い!」


 長盛がビビりながら三成の手を握った。


 長盛はとりわけ土木……木材の切り出しや、水路建設、灌漑工事などはプロである。


 安全管理を含めてそこら辺のノウハウを熟知している者で右に出る者は他にいないだろう。


「頼んだぞ」


 三成は握った手に力を込めた。


「イタい、イタい……」


 大谷は洞窟の奥へと三成を手招きする。


 洞窟に開いた横に細長い割れ目を指差す。


 覗いてみろということらしい。


「真っ暗で何も見えないぞ」


 大谷は細長くねじった紙縒こよりに灯し油の火を付けて、洞窟の隙間、岩と岩の細い裂け目に通す。


 一瞬だが、先には空間が広がっているのが見えた。


「何だここは? 以前はこんなものはなかったぞ」


 三成は岩を押してみる。


 もちろん微動だにしない。


 爪で削ろうにも岩は強固で爪の方が簡単にいかれそうだった。


「何だろう? ピラミッドの内部空間のような……」


「ここが大坂城と繋がっていて、人が飛ばされてくる仕組みなんだろう。もっぱら原理は不明」


 大谷は空間の先をジッと見つめる。


「四次元? みたいな?」


 三成がポツリと話す。


「さぁ……専門家がいたら聞いてみたいけど」


 大谷は小首をかしげた。


 これ以上は調べようもない。


 もし空間に辿り着くためにマンパワーをかけて岩を削ったとしても、洞窟そのものが崩れるリスクもありそうだった。


 帰りの途上、誰かに見られるのを防ぐため、長盛には陣笠を深く被ってもらう。


 馬に揺られながら、三成は再び大谷と話した。


 茶々との件は敢えて触れなかった。


「誰か人が死ぬと大坂城からあの洞窟へ誰かが飛ばされる……そういうことか?」


「その可能性が高い、かな」


「ハハハ、だったら女を増やすには誰かが死なねばならないということではないか?」


 三成は笑って言った。


「そうだな」


 大谷はクスリともしないで返す。


 この論理だったら、二分の一の確率で女が飛んでくる。


 むしろ、今の――今と言っても関ヶ原合戦が起こった当時の大坂城内だが――は下働きの女中を含めると女の方が断然多い。


 誰かが死ねば、二分の一どころか高確率で女が増えるということになる。


「バカバカしい……そんなこと、あってたまるかよ」


 三成も大谷同様ほぼ確信に近いものを持っていたが、つとめて明るく話す。


「治部よ、このことがもし東軍に知れたら」


「……」


「間諜はまだ見つからないのか?」


 大谷の懸念はもっともである。


「このままではマズイぞ」


 わかっている。


 三成は馬上で何度か頷いた。


 村田は目を覚ました。


 二晩続けて執務室で夜を明かしている。


 流石に若いとはいえ、肩と首が凝って鉛のように固くなっている。


 自分としたことが深く寝入ってしまい、既に陽が高い。焦って執務室を出ようとすると、微かなギィっという音が聴こえた。


 村田は耳を研ぎ澄ませる。


 テーブルの下から、隠して置いた折りたたみ式の槍をゆっくりと音を立てずに取り出す。


 心臓の音がうるさい。


 槍を持った手に汗が滲む。


 カサカサとした衣擦れの音がちょうど頭上に移動した時、村田は槍をカチャンと素早く組み立て、天井に思いっきり突き立てた。

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