表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘテロクロミアの魔眼騎士  作者: 礼(ゆき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/50

25:無知に気づく

(色々、工夫して生活しているんだな)


 セシルは、ベッドをぎゅっと押してみた。硬い感触。掛布も薄手だ。屋敷で使っていたベッドより一回りは小さい。


「荷物置いておくから、片づけて着替えておいで。お茶を用意しておくよ」

「ありがとう」


 デュレクがパタンと扉を閉める。

 ぽつんと残されたセシルは静かな部屋を見回す。隣の建物に遮られて日光はほとんどさしこまない。夜だけ寝に帰ると思えば、問題はないだろう。

 

 クローゼットを開けると空だった。荷物をぽんと投げ入れ、着替えをぽいぽいっとベッドに投げた。


 ハンガーが数本あり、騎士の衣装をかける。


(さっき、洗濯と言ってなかったか……)


 屋敷で暮らす分には、衣類はすべて使用人に渡せば済んでいた。これからはそうはいかない。改めて、細々(こまごま)としたことが何もわからないと気づく。


(これからは衣類も自分で洗うのか)


 途方に暮れる。一人で暮らす難しさを初めて知る。なんにしても、一つ一つ覚えていくしかない。髪留めを外し、背に長い髪を流したセシルは、ベッドに投げたパンツとシャツに着替えて、部屋を出た。




 

 セシルに貸した部屋を出ると、デュレクは台所へと向かう。

 水を入れたやかんをコンロに置き、火をつける。

 

(兄貴のやつ、本当に細かいところまで準備してやがる)


 上の戸棚には、必要な調味料が並んでいる。コンロ下の棚には鍋類。

 調理台の下にある引き出しには料理に用いる器具とカトラリーが並ぶ。

 食器類はシンク上の棚に大小の平皿、スープ皿などが重ねられている。


 ティーポットとマグカップを二つ出した。棚の端に寄せておいてある紅茶缶に、引き出しからティースプーンを出す。開けた缶から、二杯分の茶葉をティーポットに投げ入れた。

 紅茶缶を棚に戻すと、やかんから湯気が立ち上り始める。


 お湯が沸き、火を止める。湯温が下がるまで待つ。


 背後で扉が開く。


「今、お茶入れているところだから……」


 振り向いたデュレクが言葉を失う。

 昨日を彷彿とさせる長いアッシュブラウンの髪を揺らし、セシルが出てきた。


 髪を束ねている時より可愛らしい。見方によっては、少し大人っぽい。


(やっぱり、血統書付きのお嬢様だね)


「どうした、デュレク」

「いいや。椅子に座って、今、紅茶淹れるから」


 デュレクはポットにお湯を注ぎ入れる。茶葉が熱気で踊り出す様を見て、ポットの蓋をのせた。マグカップを手にして振り向くと、セシルは椅子に座ろうとしているところだった。


「着替えてきたの?」

「ああ、騎士の姿だと堅苦しいだろう」

「違いない」

「実は、昨日と同じ服だったんだ。さすがにそのままにしてはおけない」


 デュレクは、机にトントンとカップを置く。再び背を向け、ポットを手にして戻る。しゃべるセシルの言葉に耳を傾けながら、デュレクはカップに紅茶を注ぐ。

 

「正直に言って、どうしたらいいか分からない。屋敷にいる時は、着替えた服はすべて使用人が回収し、仕事から帰ってくればクローゼットに収まっていた。これから、そういうことも自分でするんだとしても、私にはどうしていいかわからない」

「騎士の制服の洗濯ねぇ……」


 デュレクはカップをセシルの前に出し、椅子に座った。

 セシルはカップを両手で包み込み、背を丸める。勢いと、憤りと、決意だけで、家を出てきていた。いざ出てみると、知らないことばかりで、途方に暮れる。


 濡れそぼった野良猫の気分にかられながら、セシルはデュレクを見た。

 セシルの弱々しいまなざしを、デュレクは苦笑して受け止める。


「私は、今の今まで、分からないことも、知らないことも、気づかなかった。ベッドとクローゼットしかない部屋。脱いだ衣類。そういうものを見て、初めて実感した。

 一人で暮らすと家を飛び出しても、私にはそんな能力も知恵も、一つもなかった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ