24:家に着く
大通りを横切る十字路を通り過ぎた。
デュレクが案内するままに、セシルは後をついていく。
「次の道を曲がるんだ。すると、三階建ての建物が並んでいる。そこの一室を借りている。なっ、近いだろ」
「歩いて通えるのは便利だな」
「そうそう。俺、こっちに帰らないですむように、色々注文つけてたんだ。実家は嫌だ、宮廷に馬車で通うのはごめんだ、街中は馬が走れないなら、せめて徒歩で通えないと嫌だ、とかな」
「呆れるほど、わがままだな」
「だろ。そうしたら、兄貴、全部、考慮しやがってさ。これ、俺、戻るしかないじゃんって、逃げ場が無くなって、こっちきたのよ。
ここだ、ここ。ここで曲がるとすぐだ」
言われるまま曲がると、三階建ての建物が並んでいる。階下には市民が利用できる商店が並んでいた。
飲食店、野菜屋、肉屋、金物屋など、ここだけで暮らしていけそうな店が並ぶ。
デュレクには見慣れた光景だが、市民の暮らす地域に初めて踏み入れたセシルは周囲に気を配る。
店舗の脇には小さな縦長の扉がある。
なんだろうと思って歩いていると、とある扉の前でデュレクが立ち止まった。鍵はかかっておらず、押すと簡単に開く。覗くと、細く急な階段があった。壁に手をかけたデュレクが、とんとんと上り始める。
セシルも続く。背後の扉をどうしていいか分からず、呼びかけた。
「ここの扉は閉めるのか」
「悪い。閉めてから、上ってくれ」
言う通りに扉を閉め、セシルは追いかける。二階、三階に続く踊り場には小窓がついていた。差し込む光を頼りに、二階の廊下を過ぎて三階まで上りきる。真っ直ぐな廊下に出ると、さらに奥まで進んだ。
通路の半面にも窓があるものの、隣の建物に遮られており、日光はほとんど入らない。
扉が等間隔に並ぶ。突き当りに扉があり、その前に立ったデュレクが懐から鍵を取りだし、扉を開けた。
後追うセシルは物珍し気に室内を覗き込む。
デュレクは靴を脱ぎ、入室した。
その所作の意味が分からず、セシルは小首をかしぐ。
「靴を脱ぐのか?」
「ああ。その方が、衛生的だし、家が汚れないからな」
「珍しいな」
「前線ではそうしてたんだ。こっちと違って、雨も多い。泥にまみれた足で室内は歩けない。衛生面を保つためにも、医療班から室内では靴を脱ぐように通達が出されたりもするんだ」
「前線ならではだな」
「だから、家主の意向に従ってね。セシル」
「了解」
狭い正方形の玄関に、壁一面の収納が備え付けてある。オープンな棚はまだスカスカで、靴一足どころか、なにも並べらえていない。
玄関扉を閉め、足元に荷物を置き、セシルは靴を脱いだ。脱いだ靴を壁際に並べて寄せる。置いた荷物を手にして、居室に足を踏み入れた。
横の壁には台所が備えられており、すぐ目の前に二人掛けのテーブルがあった。
デュレクはそのテーブルに持っていた荷物を置いた。セシルも誘われるように、テーブルの脇に立つ。荷物を置き、ぐるっと周囲を見渡した。
テーブルのさらに奥には、長椅子とローテーブル。キッチンの反対側には、扉が三つ。
(部屋が三つあると言った通りだな)
振り向くと、玄関横に、もう一つ扉があった。
「珍しい?」
デュレクの問いに、セシルは無言で頷いた。
「セシルの部屋から案内するよ。入り口側の部屋を使うと良い」
先んじて歩くデュレクに、ついていくセシルが、玄関横にある扉を指さした。
「ここは何なんだ」
「そこ? ああ、シャワー室とトイレだよ。洗濯用の水場もある」
軽く答えたデュレクが、壁側の扉を開けた。
「この部屋を使ってね。ベッドと備え付けのクローゼットは自由に使ってくれていいよ」
セシルが覗くと、部屋にはベッド一つしか見えなかった。そろそろと入る。振り向くと出入り口の横が備え付けのクローゼットになっていた。
ベッドの脇は人が一人通る幅しかない。入り口から見ても、大型の家具が入る余地はないように見えた。隣にある建物せいで、窓から品を出し入れできる風もない。
「デュレク。この部屋にこのベッドはどうやって入れたんだ。入り口も小さいし、窓は隣の建物とほぼ密着しているだろう」
「そんなとこ、気になるの?」
デュレクはふっと笑う。
知らないことばかりのセシルは笑われても仕方ないと嘆息する。
「おかしいか」
「いいや。ベッドは組み立て式なんだ。材料をここまで運んで、部屋で作る。マットは四つ折りだ。普通の市民が使うものだからね。こういう狭い家にも運べる仕様の品もあるんだよ」




