22:改めて決意する
セシルとデュレクは団長の部屋からぽいっとほおり出された。仕方ないと二人は顔を見合わせる。
「セシルには、団長みたいな部屋はないのか」
「机はある。物品や経費などの事務仕事をこなす人員のために用意された大部屋があって、そこに座席が設けられているんだ。
デュレクの席も、近々に用意されると思う。のぞいていくか」
デュレクは、どうしようかと眼球を上向け、すぐに戻した。
「やめとく。団長は、俺の顔をまだ広く知らしめたくないだろう。二日間は、大人しくしているよ。まずは、セシルの荷物を俺ん家に運ぼう。手伝うよ」
更衣室があるフロアに到着する。女性用更衣室の出入り口前に男一人は目立つ。デュレクは階段の脇で待つことにした。
入室したセシルは、鍵付きの棚に置いてある荷物を取りに行く。
専用の棚を開く。小ぶりの旅行鞄二つに荷袋がある。かけていたボロのコートをハンガーから無造作に外し、腕にかけた。差し当たって、旅行鞄一つと荷袋を持って行けば間に合う。小ぶりの旅行鞄一つ残し、棚の扉を閉めて、鍵をかけた。
もうすぐ三時になる。朝一番で登庁した者が帰宅するにも、夕刻から夜に務める者が登庁するにも、時間が早い。
見渡せば、更衣室には誰もいなかった。
(荷物を運び出すにはうってつけだな)
セシルは再び鍵を開けて、扉をひらくと、もう一つの鞄をむんずと掴んだ。
太子御所の霧を払う早朝に登庁する時に、鞄を持ってくれば良かったが、持ち出すときには人目につく懸念があった。子爵家の令嬢がなんでそんな荷物を持って行くんだと思われかねないのは嫌だった。休日前に、鞄を一つずつ持ち出して、さもこれから旅行に行くとばかりに演技でもしようかと思っていた。
(ある意味、手間が省けたな)
棚に鍵をかけなおし、セシルは更衣室を出て、デュレクと合流した。
「待たせた」
「いいよ。ほら、荷物持つから、かせよ」
朗らかに笑むデュレクが、セシルの鞄の取っ手に手を伸ばす。
セシルがふっと後ずさり、デュレクの動きが止まった。
「セシル?」
「いや……、鞄ぐらい自分で持てる」
「そう言うなよ。一緒に歩くのに、一人だけ大荷物持たせるのも目立つだろ」
目立つ、という単語が引っかかるセシルは、でもと言いたげに、デュレクを見つめた。
不安げな表情に見えたデュレクは、目を細め、口角をあげた。
「気にするなよ」
「……なら、旅行鞄を持ってもらえるか? 一つでいい」
「いや、二つと持つよ」
「いいのか」
「かまうな」
「悪いな」
セシルは鞄を渡す。デュレクは何も言わず、二つの旅行鞄の取っ手を一つの手で持つ。
歩き出したデュレクをセシルは追う。
デュレクは心持ちゆっくりと歩く。横を歩くセシルは何を話したらいいか分からなかった。無言の空気が重い。そっとデュレクの横顔を見ても、前を向いているだけだ。
(気まずい)
かと、言って無駄口を叩く気にもなれない。昨日のことは、無かったかのようにふるまっている。
聞きやすそうな、あのあと宿はどうした、とも聞けない雰囲気を醸しているのは自分という自覚がセシルにもある。
黙っていると、太子御所から戻る道すがら、デュレクが語った内容が思い出された。光彩が左右で違うだけで、兄と弟に明確な差別を行っていたのだ。
(平民と貴族の眼を併せ持つだけで、ひどい話だ。表には出なくても、子爵家だけでなく侯爵家にも色々あるのだな)
貴族の家は、叩けば何が出るか分からない。
嫡出子でありながら、扱いは非嫡出子より劣る。貴族として生まれていながら、まるで平民という育ち方をしたデュレク。そんな弟を、気にかける団長。
(たった一人でも、味方がいたのは救いと言えるか)
妹のことがセシルの脳裏をよぎる。
(妹は、使用人として働きながらも、外に出たことがない)
それは瞳の色のせいである。貴族の子どもの眼をしておいて、のこのこ街は歩けない。セシルのような大人になれば別だが、子どもの場合は、誘拐されることもある。
嫡出子でありながら、平民以下の扱いを受けるデュレク。
使用人として勤めながら、屋敷から出ることなく育った妹。
(貴族の血を引くだけで、なぜこんな理不尽な扱いを受けなくてはいけないのだ)
セシルもまた、貴族の子である。母に運命を握られ、父に貶めらた。
(現状を改善するには、まだまだ時間がかかる。それでも、まずは非嫡出子の扱いをあらためる法を通さねば、話にならない。
長年保留にしていた法がやっと日の目を見るというのに。
支持する殿下、法の責任者である宰相。彼らを貶めんとするなど言語同断)
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価。心よりありがとうございます。
このタイプの小説はとかく読まれないので、連載中に総合ポイントが100に到達してくれただけでとても嬉しいです。ほんとうにありがとうございます。




