番外1
もしも元勇者が幸せそうなカップルを見つけたらのお話し。
蛇足的な番外編です。本編のイメージを崩されたくない方はブラウザバック推奨。
そっと二人は寄り添っていた。
まるで世界は二人を寿いでいるかのように、輝いていた。
ほんのわずかな、奇跡の瞬間。
私には、その瞬間が何倍にも長くに感じられた。
見る人をも幸せにするかのような、幸福に満ちあふれた光景。誰もが彼らを祝福せずにはいられない。誰ひとり彼らの邪魔はできない。私でさえ、そんなことはできなかった。
私はただぼうっと、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
やがて二人は手に手をからめ合い、幸せそうに微笑みあいながら、どこかへと歩き去って行った。
それでもなお、私は動けなかった。
「ぁ…っ…」
やっと出た声は潰れてかすれていて、何を言っているのか、何を言いたいのすらも分からなかった。ただ何かが壊れてしまいそうな気がした。今すぐにでも、その何かを壊してしまいたくなった。
こんなふうに痛むのならば、いっそ、そうしてしまったほうがいいのではないだろうか?
その答えは随分前に出したはずだったのに、私はまた迷ってしまう。本当にこれでいいのか。何か間違ってはいやしないか。自分の中の特段に柔らかい部分が、じくじくと痛む。自分の中にこんな弱いところがあるだなんて、私はあの時まで知らなかった。知らずに、いたかった。
ただ何もかも忘れて、あんなふうになりたかったのかもしれない。
絶対になれないと分かっていても。
それが私の選んだものの行く末だと知っていたけれど、あんなふうになれないと分かってはいたけれど、それでも願ってしまった私はどれだけ愚かな道化だったのだろう?
「でもっ…」
それでも、私は後悔などしていない。
例え一度は愛した者を、この手で殺したのだとしても。あんなふうに愛し合うはずだった二人を引き裂いたのだとしても。
私は、それだけは後悔していない。
もう二度と埋まらない空白が、泣きたいほどに痛ましい。




