ERROR CODE:1x007 買いモノ
懐古厨が未来を書くと現代になるのでちょうどいいんです
「さて、君も暇ではないぞ。」
想定していなかった方向からの声に驚いて振り向くと、難しい顔をして佐藤さんが立っていた。
「君個人の準備がある。服飾品や周辺機器だ。」
「あぁ……そうでした。でも……」
今の自分の服を見下ろすと、薄い病院着たった一枚しか身につけていない。だけど俺は男だったわけだし、女の服装はよくわからない。
「安心しろ。俺もわからない。」
「さっぱり安心できないのですが。」
きっぱりと断言する佐藤さんとため息をつきながら答える俺。
「でも店員さんがいるからいいだろう。どうにかなるはずだ。さあ、行くぞ。話は俺は適当にごまかしてやるから。」
女の服はあんまり着たくはないんだけど、ずっとこの服というのも問題だからなぁ……。
悶々と考えつつ佐藤さんのレガシィに乗り、地元の小さな複合ショッピングセンターへ向かう。
「俺は家族も居ないからな、こういうところに来るのは初めてだ。とりあえず金は出すから必要なもの探すといい。採寸は店員さんにしてもらおう。」
妙にテキパキしているのはきっと緊張しているからだろう。自分も感じたことのない雰囲気に半ば圧倒されつつある。
「ちょっと、いいですか」
自信なさげに佐藤さんが店員さんに声をかける。店員さんはかくしゃくとした動きで近寄ってきて要件を聞いてきた。佐藤さんが一瞬たじろいだ様子を見せる。
「この子、今日退院だったのですが、普段着を数着と採寸をお願いします。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、店員さんの手がこっちに伸びて引っ張ってきた。
「それじゃ、採寸から致しましょう。こちらです。」
呼び止められた瞬間の事務的な雰囲気はどこへやら、テンション高めの店員さんに連れられ、女性服コーナーの奥の試着室に連れ込まれる。
でも採寸なんてメジャー当てるだけだろうと思っていた自分は甘かったようだ。
綺麗な肌をしておられますねー、だの素晴らしいボディラインですねー、だのなんで入院してたんですかー?だのどう答えればいいのかわからない質問の応酬に疲弊したが、それらは採寸で終わるわけでも無かった。
「お客様のような美人の方にはこんな服がお似合いだと思いますよ!こちらは今夏のトレンドでこっちは当店のオススメですよ!」
そんなこと言われても数年間制服と数着しか着たことのない自分にはわかる筈もないし、持ってきたものは派手な模様のついた露出の多いもの。自分の好むものではない。持ってこられた瞬間「えっ」とこぼしてしまったくらいだ。
「そういうのはちょっと…もっと地味なものはありませんか?」
「勿体無い!こういった明るい服じゃないと似合わないですよ?もっと持ってきますね!」
そう言って服を押しつけるとまたどこかへ行ってしまった。ダメだ、話が通じない。
店外でこっそりこっちを見ている佐藤さんと目を合わせて来てもらうと、かなり心配していた。
「別の店はありませんか?ここは自分には合わない気がするんです……。」
「だろうと思ったよ。あの店員、挙動不審だ。今のうちに店を出よう。敷地内にユニクロもあるからな。そっちにしよう。」
「本当に、ありがとうございます。」
「急ぐんだ。彼女が来たらまた厄介だ。」
結局ここへ来て採寸しかしてないことに気付くが、仕方ない。
やっぱりシンプルイズベストだ。ユニクロでジーンズやカーゴパンツ、Tシャツやトレーナーをカゴに入れる。サイズは合っているし試着は必要ないだろう。
「待て、大事なことを忘れているぞ。」
レジへ向かおうとした俺に佐藤さんの声がかかる。試着は別にいいのに。
「下着もなしに服を着るつもりか?」
佐藤さん、酷です。
しかしいつまでも病院着のままでいるわけにもいかないので、妙に薄く感じるパンツと飾り気の少ないスポーツブラをいくつか掴んでカゴに放り込む。さっき聞いた数値は覚えてるので、近似値のものを選んだつもりだ。
会計の際、佐藤さんが店員に試着室で着替えられるか聞くと、快く許可を頂いた。そんなわけで、結局試着室へ入ることになる。
試着室には、とても可愛い少女がいた。いや、それはよく見ると俺自身が鏡に映っているだけなのだった。
「嘘……だろ……」
今まで違和感しか覚えなかったこの声も、確かにこの顔から発せられるものなのならイメージ通りということなのだろう。しかし。
「これが俺……だと?」
自分に対する認識を改めなければならないかもしれない。
だけど、あくまで俺は俺だ。認識は改めても見失うつもりは毛頭ない。
今まで着ていた服に目をやると、生地は薄いものだが透けることはなく、その下には厚手の下着のようなものが着せられていた。
身体の形の違いに苦戦しつつそれらを脱ぐと、いよいよ一糸纏わぬ姿が鏡に映し出される。自分でもない、人間ですらない身体は、鏡の中では人間の自分だった。
顔もすっかり変わってしまった。今までの特徴のない薄い無愛想な顔が、今でははっきりした、大人しげな顔になっている。
佐藤さんを待たせていることを思い出し、ビニール袋の中の服に手を伸ばす。これを着たらもう帰ってこれない気がするが、来た道はもう戻れない。意を決してパンツから取り出し、足に通す。
思った通り、すべての服はピッタリのサイズだった。今まで着ていた服をビニール袋に入れ、試着室を出る。
その場にいる全員から視線を浴びる。今まで受けたそれとは違う好奇の視線だ。羞恥、という感情が生まれた気がした。俯いて足早に佐藤さんの元へ向かう。
「綺麗になったな」
柄にもないことを言う。
「なんですか、それは。」
今の俺の服装はジーンズにTシャツ、その上に薄手のパーカーを羽織っている。目立たないように配慮したつもりの服装だ。いざとなればパーカーのフードを被ればいい。
「まあいいさ。武藤からメールが来た。準備は万端だ。さあ戻ろう。」
周辺設定でも書くことにします。
オオタロボティクス株式会社 沿革
2007.2 東洋電機、富士エレクトロ、三鷹電子、伊勢崎精機四社の元従業員が集結し発足
2007.3 佐藤研究所と技術提携
2007.6 霊魂科学研究に基づく医療機器開発に着手
2007.9 佐藤研究所を吸収、旧佐藤研究所を東京事業所に改称
2007.12 旧防衛庁資料を基に半生体型高機動魂筐体試験機の開発を開始
2008.3 人間タイプの介護ロボットの開発に着手
2008.7 霊魂隔離技術を開発、特許申請
2008.9 本社工場完成、マイクロステッピングモータの生産体制を整備
2009.1 関東電子機器製造を完全子会社化
2009.5 本社社員寮を建設
2009.11 医療用霊魂隔離装置の第一試作機が完成
2010.2 東京事業所社員寮を建設
2010.3 医療用霊魂隔離装置の臨床試験を開始
2010.5 マイクロダンパーの試験生産を開始、翌月より本格生産
2010.8 本社工場に試作専用レーン追加、生体魂筐体の開発を開始
2011.2 医療用霊魂隔離装置の臨床試験成功、霊魂保持率100%を達成
2011.5 公式ウェブサイトのエイプリルフールで消費者庁から警告
2011.8 Windows Embedded Compact 7.0ベースの自律行動ソフトウェアを発表
2011.11 半生体型高機動魂筐体試験機の機構部分完成
2012.2 半生体型高機動魂筐体試験機完成、霊魂定着待機状態に移行
2012.4 医療用霊魂隔離装置の二次試作機完成
2012.6 半生体型高機動魂筐体試験機に霊魂定着
何のメーカーかさっぱりわからないくらい手広くやってるので、医療機器メーカーということにしておいてください