ERROR CODE:1x008 繰り返されるモノ
いろいろあった一日もやっと終わり。
……一日に何話割いてるんだと……
「おかえり。荷物は車でいいよ、今日中には住処に移れる。」
「人の車だからって。」
到着早々、武藤さんと佐藤さんの掛け合いが始まる。言葉とは裏腹に二人は笑っていた。
「とりあえず、さっきの会議室で話そう。」
そう言う武藤さんに佐藤さんとついていく。佐藤さんは歳なのだろう、二階を過ぎたあたりから息が上がっている。
思えばこの身体になってから疲れを感じない。朝から何も食べてないのに空腹も感じることがない。便利な身体になったものだ。
「まずは住処の話だが、東京事業所社員寮の空き部屋が使える。ワンルームで風呂トイレ台所付きだ。洗濯機は共用スペースに数台あるし、寮倉庫にあった家具類は利用可能だったから後で運び込む。」
会議室で座るなり話が始まったことに少し面食らう。
「すまない。忘れないうちに話しておきたいんだ。今社員寮は表向き学生向けアパートになっているし、住人もいくらかいる。安心してもらっていい。インターネットも少し遅いが利用可能だ。とりあえずここのダンボールに必要なものをそろえておいたからそのまま持って行くといい。」
武藤さんが机の上に置かれたいくつかのダンボール箱を指差す。こんなに車に乗るのだろうか。
「次に学校だ。」
その言葉にダンボール箱に向けていた顔をハッと上げる。
「君は3年だったと言っていたので、社員寮の最寄りの高校に三年次編入を打診したら、一人空きが出来たからそこへ入ってもいいという。いちおう試験はあるみたいだがそこ以外は受け入れてくれないみたいだった。どうする?」
まさか。
「もしかして……その……」
その一人の空きというのは。
「詳しくは聞けなかったが、多分事故死した君のことだろう。」
やはり、同じ学校だったのか。
クラスメイトの顔が浮かぶ。歪んだ目線を思い出す。沸々と憎しみの感情が首をもたげる。
「大丈夫か?君には申し訳ないがこういう結果になってしまった。すまない。」
「いいんです。大丈夫です。」
武藤さんが心配そうに掛けてくれた声に我に返る。今俺はあの頃の俺じゃない。きっとやっていけるはずだ。
その後、編入試験の日程などを確認して佐藤さんのレガシィに乗り込んだ。
東京までの道は長い。
運転している佐藤さんは右手でハンドルを握りながら左手でコンビニおにぎりを食べている。MTなのに器用なものだ。
いつしか車は埼玉県に入っていた。自分の左側が受け取ったダンボール箱で埋まっているので、中央分離帯しか見えないのが少しつまらない。
二人は前席で何やら盛り上がっている。自分にはわからない言葉ばかりで、何を言っているのかわからない。
仕方なく、自分の手を見る。一瞬啄木の短歌が頭をよぎった。細く、白く、そして柔らかい手のひら。これが本当に機械なのかと未だに信じることができない。それは自分の思うままに動き、一切の違和感も残さない。
その手でお腹をさする。やや温いそこは、やはり柔らかい。そこにメンテナンスハッチがあるとは考えられないほどだ。それに車に乗り込むとき、上半身を屈める体制になったが、何の抵抗もなく身体が曲がった。本当に不思議でしかない。自分の身体なのに何がどうなっているのかわからないが、そこもなんだか人間らしいと思う。
気がついたら朝いた東京事業所の前で起こされた。疲労も空腹も感じないのに眠気だけは人一倍あるようだ。
「社員寮はこの近くだから、歩くよ。」
武藤さんが手招きしている。佐藤さんは荷物を下ろして小さな台車に積み重ねていた。
「そういえば君の名前なんだが、坂田正治では問題があるということに戸籍捏ぞ…作成の時に気がついてね、勝手だったが『太田 ひかり』と登録させてもらった。これからそう名乗ってほしい。」
「太田……ひかり……」
「オオタロボティクスの光芒たる存在だからな。その名前はいいな。」
後ろから佐藤さんの声がした。荷物は積み終わったようだ。
「いい名前をありがとうございます。大事にします。」
改めて礼をする。これは自分で考えてもだめだっただろう。俺のセンスは自慢じゃないが低かったからな。
「じゃあ、行こうか。」
「ここだ。」
かなり綺麗な建物だった。普通のアパートと言ってもいいくらいだ。
「数年前に建てたばかりだからね。社員寮だけど社員で住んでる人はいないがね。さて、君の部屋は二階の一番奥だ。荷物を上げるぞ。武藤、鍵は?」
「鍵は会社から預かってる。倉庫のもある。とりあえず倉庫からの運び込みが先だろう。俺は鍵を開けてくるから、倉庫の鍵投げるぞ。」
「心得た。来い!」
武藤さんが投げた鍵を後ろ手でキャッチして佐藤さんは裏の方へ入っていった。
「とりあえず部屋に案内しよう。」
武藤さんに連れられて思ったより長い廊下を歩き、「220」とかかれた部屋まで行く。部屋はフローリングで、簡単なカーテンがついている以外は完全に何もない部屋だった。
「ここに、最低限の家具と荷物だけ今日中に運び込んでしまおう。それ以外は後日購入という形にする。」
「わかりました。」
「じゃあここで待っていてくれ。私達は荷物を持ってくる。」
「俺も行きます。」
「……いいだろう。こっちだ。」
一瞬の間のあと、武藤さんは俺が手伝うことを許可した。
そのまま歩いて倉庫に向かう。倉庫では佐藤さんが三扉の大きな冷蔵庫を抱き上げようと苦戦していた。
「そんなに大きなの要らないです。こっちの小さいのでいいですよ。」
とりあえず大きいのは要らないので壁際に置かれた二扉の小さいものを指す。
「あぁ、こっちでよかったのか。じゃあこれでいこう。次はベッドと布団だな。」
見回すと奥の方に折りたたみのパイプ製のベッドが、棚に袋詰めになった布団があった。
まずは武藤さんがベッド、佐藤さんが冷蔵庫、俺が布団を抱えて部屋に向かう。
それらを部屋におくと、すぐに戻ってまた物色が始まる。しかし、今度はめぼしいものもなく、小さなコタツとカーペット、テーブルタップを数本拾って倉庫を後にすることになった。
部屋はスカスカだった。ワンルームを広いと感じるのも不思議な話だが、実際そうなのだから面白い。
「さて」
武藤さんが口を開く。
「ダンボール箱の中身は私からの、いや我が社からのプレゼントだ。君には無理やり付き合わせてしまったからね。家賃はうちの寮だから通常経費で落ちるから気にしなくていい。それとこれとは別だ。」
そんなことを言いながら箱を並べ始める。
「まずこれが非接触通信ヘッドセットだ。」
「装着は被るだけだが接触が悪いから急速充電では有線でやるように。」
佐藤さんが補足した。
「有線に統一すれば軽量化出来たのに。」
「端子の露出は美学に反する。あと防水防塵性能に不安が残るのもあるから。」
佐藤さんのぼやきに武藤さんが突っ込んだ。
「これが交換用バッテリー。まぁよほどでもなきゃ使わないだろうけどな。」
箱を横からのぞきこんでいた佐藤さんが灰色の直方体を数個取り出した。
「満充電状態にしておいて順次交換という手もある。バッテリー単体でも充電できる。」
武藤さんがそのうちの一個の一面を俺の方に向けると、そこには俺の身体のものと同じAC端子がついていた。
「交換方法はさっき渡したマニュアルに記載されている。4基搭載しているが別に1基しか装着しなくても1日は活動できる。そしてこれが君とバッテリーの充電器。一応規格物の既製品だから安いし4つ付けておこう。これでこの箱は終わりだ。次はこの箱。」
武藤さんがさっきの箱の半分くらいの箱を引き寄せる。
「今までのものは言ってみれば君の身体の一部だ。こっちは正真正銘のプレゼント。」
そう言って箱を開ける。プレゼントとは何だろう?
「すまんね。会社のシステム開発部が一括注文して余った奴なんだ。」
箱から箱が出てくる。ノートパソコンだった。NECのLavieだ。
「あと在庫あるのを選んだら中途半端になってしまった。」
今度はオレンジ色の小さな箱が出てきた。IS12Tと書いてある。
「携帯電話だ。型落ちですまんね。電話番号、初期設定のアドレス、auID、契約プランは中に紙に書いて入れてある。プラン変更の希望があったらまた言ってくれるといい。」
「その機種しかないとかその店おかしいだろう。」
佐藤さんがこっそり突っ込んだのを俺は聞き逃しはしなかった。
「あとは無線LANルーターと充電器。私たちからのプレゼントはこれだけ。試験は来週、範囲は二年次以前の範囲、教科は数学と英語のみだ。」
「それでは、女の子の部屋におじさん二人がいつまでもいると怪しまれるから帰るよ。俺たちのアドレスはもう携帯に入ってるから何かあったらいつでも連絡してほしい。」
二人を見送りに外へ出ると外は暗かった。角を曲がる時にブレーキランプが何度か点滅した気がするが多分あれは五回なのだろう。
第一部はこれが最終話ですが、TS的な旨みはあまりありませんでしたね…
第二部は学校メインです。佐藤さん武藤さんは多分ほとんど出て来ません。




