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「じゃ、明日10時ね!」と笑いながら言い残して立ち去った5人を見送り、俺はヘッドセットをかぶりベッドに入った。寝ながら栄養補給できるのはなかなか便利だと思う。
携帯のアラームは9時にセットした。十分間に合うだろう。部屋の電気を消すと、窓から見える夜空に国内便の灯火が瞬いていた。
夜は、太陽が出るまで続く。
太陽が顔を出すとほぼ同時に、携帯の鳴る音で目が覚めた。会社からの連絡だ。土曜日の朝から召集とはかなりの重要事項なのだろう。
一斉送信のメールに目を通すと、「旧自衛隊資料群関連の取扱いにおける確認事項」とだけ記述があった。間違いなく彼女のことだろう。おおかた佐藤がやったのだろうが、どう説明するつもりだろうか。
開始時刻は10時か。9時ごろに会社に行って打ち合わせしてこよう。佐藤にメールを入れておこうとメールの新規作成画面を開き、簡単に内容を書き込んで送信する。
返信はなかった。
携帯が鳴った。朝だ。布団から出ずに手を伸ばして携帯を引き寄せる。
開いた目に映る細い腕には毎朝驚いてしまうが、17年間の記憶は簡単には書き換わらないということか。いずれ慣れるだろうけど。
ロックを解除してアラームを止めると、音の消えた部屋は急に広く閑散としたものに感じられた。
昔からこうだった。
小学校ではいつもぼうっとしていると言われた。中学では何を考えているのかわからないと言われた。高校では何も言われなかったが、きっと同じように思われていたのだと思う。
実際は何も考えていないのだ。ただ何も考えずにぼうっとしているのが好きだっただけ。
何もかもが変わってしまっても、こういうところが過去の自分を色濃く残していることが、少し嬉しかった。
「どういうことだ、突然召集をかけるとは」
生産管理課の職員が佐藤に詰め寄っている。佐藤の後ろでは先行開発事業部の面々が気まずそうな面持ちで顔を見合わせ、武藤の姿を認めると小声で呼びながら手招きした。
「武藤部長、聞きましたか?」
どこか非難も混じった小声で技術職員の一人が問いかける。
「会議のことか?聞いてるから来たんだよ」
「そうじゃありませんって」
武藤の冗談混じりの返答に眉をしかめながら男は続けた。
「私も詳細は聞いてないのですが、どうも佐藤顧問は試験体の管理を見直そうとしているみたいなんです。」
「試験体の管理……?あのとき方向性では合意したはずだが」
驚きのあまり繰り返すと、男は神妙に頷いた。
「武藤部長もご存知ないのですね……本当に突然だったので我々もどうすればよかったやらで」
「とりあえず先行開発部の連中は会議までに個人的な意見をまとめておいてくれ。提出は要しない。あとで聞いておきたい。」
部下の職員を残すと、踵を返して佐藤の元へ向かう。
「佐藤、どういうことか説明をしてくれないか」
時間はいつのまにか過ぎていた。
我に返ると慌てて昨日脱ぎ散らかしたものを拾い集めて洗濯カゴに放り込み、昨日乾燥機にかけた服の山から適当に引っ張り出して着込む。
自分の身体ながら脱ぐときに動悸を抑えられないのはどうしたらいいのだろう。
髪を手ぐしで適当に押さえつけていると、インターホンが鳴った。
「おおたさーん、いるー?」
これは長田さんの声か。
「いまーす!今行きまーす!」
とりあえず俺も大声で答えることにする。この状況に踏み込まれたら面倒だし。
髪をとりあえず押さえつけ、寝ぐせを癖っ毛のレベルにまで落ち着けてから、靴下を履いて玄関へ走り思い切りドアを開ける。
「すいません、お待たせしました……」
目を上げると、そこにはいると思っていた長田さんの姿はなかった。
「誰もいない……?」
「ここよ」
少し呆れたような声が、ドアの向こう側から聞こえる。少しドアを引くと、長田さんのいたずらっ子のような笑みを浮かべた顔がぬっと突き出した。
「まさかあそこまでびっくりされるとはねぇ」
「か、からかわないでくださいよ…」
「ギリギリね。もうみんな準備できてるわよ、早く行きましょう!」
笑いながらそう言うと手を掴んでグイグイと引っ張るので、慌てて片手でドアを閉めて付いていく。
綺麗な、広い廊下を二人で走ると、足音が打ちっ放しのコンクリートに響く。
社内で最も広い会議室のドアを開くと、すでに多くの社員が席につき、小声で声を交わしあっていた。
先ほど佐藤に投げかけた問いの答えは、未だ返ってきていない。
社長と佐藤が最後に入ってきて内容を発表する算段なのだろう。全員の席に配られた資料は封筒に収められていた。
席に着くと、隣に座っていた生産管理課の事業部長が失礼します、と声をかけてきた。
「今回の召集は先行開発課の事情とお伺いしましたが、具体的な内容はどのようなものになるのでしょうか?」
その言葉に周囲の人間が会話を止め、耳をそばだてた。
「この召集は技術顧問の佐藤が独断で行ったものであり、その内容は我々先行開発課も知らされてはおりません。」
あえて周囲に聞こえるよう、意図して格式張った口調で答える。
還暦を迎えながらもその手腕を買われ、生産管理課長として信頼の厚い西森は、穏やかな表情を崩さずにまた質問を投げかける。
「ほう……。しかし、そちらは少数でチームを組織し、その情報を部内で定期的に共有するという体制をとっておられたはず。何も知り得ないということはないのではないでしょうか?」
鋭い。キャリアの差は圧倒的だった。
「心当たりは、あります。あくまで確定的でないものとしてお聞き願いたい。」
部屋のほとんどの人間が、この二人の会話に耳を傾けていた。しんとした部屋で、すべての視線が武藤に向けられる。どうせみんなが知ることになる話だ。
「先日、東京事業所で霊魂定着の実験をしていた実験体に霊魂が定着しました。つまり、我々の自衛隊出向時からの一連の実験が成功したことになります。」
「それは素晴らしい。それで、その実験体はどうなされたのです?」
「そこが今回の争点になると思われます。今回の実験体に定着した霊魂はすぐ傍で事故死した少年のもので、実験体とのマッチングも良好でしたので、本人の望むとおり日常生活を送ってもらうことになりました。当然、我々の管理下で、データ採取にも同意の上協力して貰っています。」
「なるほどね・・・・・・」
そう言うと西森は腕を組んで宙に目をやった。唾を飲み込む音が聞こえる。
「その、試験体は今どこに?」
「東京事業所の社員寮にいるかと思います。」
「そうか・・・・・・」
西森の発言の真意が見えない。
「時間ですよ、皆さん」
ドアのほうから声がかかった。佐藤の声だった。
前回更新から間が空いてしまいました。描きかけのファイル入れたドライブをフォーマットしてしまったので完成直前で書き直し+期末試験で・・・




