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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
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発覚

とりあえず、気が抜けた。


事態は核心に向かっているとは思うのだけれど、

奈緒がね、無事ならね、もういいの。しかもデート、昨日だったって言うし。


「イマイチだった。何を考えているのかよくわからない人で、得体が知れなくて気持ち悪かった。一度そう思うと、仕草とか笑顔とか、もうイチイチ嫌ね。やっぱりいい男は観賞用に留めておくべきよ。」


とか言ってるし。

確かに奈緒は人を見る目があるよね。それを再確認出来て良かったよ。うん。無事で良かったよ。

「で、何があったの?」

後で話すよ。じっくりね。今、私、脱力中なの。


藤田さんの車に沈み込む。

普通にシルバーの普通に乗用車なのに普通にBMWで普通じゃなく乗り心地がいいもんだから、もう余計に腹が立つっ。


「日下部さん、頭から湯気が出ているよ?」

「・・・この状況で、そんな空気読めない台詞が言えるのは貴方だけですっ。」

「おま・・・。」


拓也が呆れる。碧さんが引く。ええそれがどうかしましたか?


「彼は、僕の兄だ。ご存知の通り、腹違いのね。15年前、事件を目撃した人物の一人だ。」


藤田さんは運転をしながら淡々と言った。やっぱりね。私達の予想通りだわ。

私がビンタした後が赤く腫れている。自業自得よ、アカンベー、だ。

といいますかね、魔王を殴ってしまった以上、こちらが怒り続けていないと負けなんですよ、怖いんです。防波堤を張っているんです。攻撃は最大の防御、っていうヤツです。


私は後部座席でぶすくれて尋ねた。


「藤田さんと碧さん、河島(たける)とつるんでるんですか?」


碧さんが驚いた様にわずかにこちらを振り返ったけど、私と目が合うとフイッと反らされた。

・・・想像以上に、傷ついた。


「・・・何でそんな事を思う?」

藤田さんが前を向いたまま聞いてくる。

「質問に質問で返さないで下さい。」

怖いもの無しなの。でも今だけなの。我に返った時が怖いの・・・。


藤田さんは何故か、クスッと笑った。


「碧は、少なくとも、兄とは仲間じゃないよ。」


・・・喜んでいいのかな?



「・・・あの人、なんで奈緒に近づいてるんですか?」

「さあね。女の好みまでは分からない。だけど僕も引っかかるものを感じたから、今回、彼女のマネージャーもどきを志望させてもらったんだ。」

「・・・なんで、引っかかるものを感じたんですか?」


「それは、兄が、日下部さんを既に知っているからだよ。」


は?

一瞬固まった。

河島(たける)が、私の事を知っていた?何で?


「どういう事ですか?」

「さあ。実は僕にも、どういう事なのか未だによく分からない。だから今日は、そこをハッキリさせようと思う。」

「誤魔化すなよ。なんで綾の事を知っている、ってあんたが知ってるんだよ?」

拓也が私の隣で噛みついた。


「兄が日下部さんを、いわゆるストーカーしていたからだよ。」


は?その2。

ストーカー?知らないよ、私?


「だから親父が転校させたんだ。」


・・・え?いつの話?・・・15年前の話?

・・・ってあの事件の後?私が小学1年生の時の、あの当時?


「・・・それと事件と、何の関係があるんだ?」

「さあ。それは分からない。でも先日、君が事件の『闇』の部分を目撃していた、という事が分かった。」


彼は、『闇』という言葉を強調した。

私が碧さんに話した、アレだ。私の唯一の、持ち駒だったアレだ。


「だから多分、彼は事件がらみで、日下部さんを監視していたのでは、と推察している次第だ。」


「・・・何故・・・・・・まさか・・・。」


拓也の顔色が変わった。助手席の碧さんが、前を向いたまま、少し眉根を寄せた。

私は、足元に絡まっていたものが、ほどけていくのを感じていた。



河島(たける)・・・違う、河野健一が、私の事を覚えていたんだ。

あの時、あの雨の中で、彼は私を見ていたんだ。ひょっとしたら眼があっていたのかもしれない。

私の視力が弱い事も知らずに。

それはつまり、私と目があったという事はつまり。



「奴の口を割らせるしかないんだよ。」


静まり返った車内に、藤田さんの声だけが響いた。





「なんだよ、ここ・・・。」


拓也が呟いた。私は口を開けて見た。

だってここ、ホテルみたいなんだよ?ドアマンもいて、フロント係も二人もいて、ポーターがいて、フロントの床がキラキラしていて、ガラスの壁がピカピカして、お花が盛りに盛られていて、

ここ、何?


「サービスアパートメントだ。」


何、それ?何人が住むの?日本語で言うと、つまり、何??


キラッキラで無駄に広いエントランスを抜け、全面ガラス張りのエレベーターに乗り、一面絨毯に敷き詰められたフロアで降り、つまりここってホテルなんでしょ?

藤田さんはとある一室の前に立ち、勝手にカードキーを差し込んだ。


「なんで勝手に開けられるんですか?」

「ここは親父名義だから。つまりそれは、僕の管理下、という事。」

カチャ、と開く。


「・・・金持ちってのは。しかも政治家ってのは。これだからロクな息子が育たねーんだよ。」


拓也が低い声で、小さくボソッと言った。

藤田さんがすこおし、片眉を吊り上げた気がした。

そして拓也の後ろに回り込むと、少し屈んで、耳元で囁いた。


「それは失敬。」


途端に、拓也の鳥肌が立った。

というのがね。見てわかったのよね、離れていてもね。

あ、私、この悪魔兵器の事をこの子に話すの、忘れていたわ。


「・・・・・。」

すると拓也はしばらく固まり、次にしゃがみ込んでしまった。顔が腕の中に埋まってる。憐れだ。


「男にもやるんだ・・・。」

碧さんが引き気味。

「効果は実験済み。」

藤田さんはすまして、部屋の中に入って行った。

・・・実験済み・・?して、結果は?なんて聞けない・・・やっぱり悪魔だ・・・。


拓也はいきなりすくっと立ち上がると、ズンズン歩いて私に近づき、私の腕を取ると引っ張る様に、逆方向に歩きだした。

「綾、帰るぞ。」

「え?どうして?」

「こんな危険なトコにいられるかっ。」


「・・・腰にキタ?」

「・・・ガツンときた。」


・・・微妙に私から視線を反らすの、リアルだからやめてくれないかな?


「おい、入らないのか?」

部屋の中から藤田さんの声がした。誰ん家だいっ。お茶しに来たみたいに気軽に言わないでっ。


「・・・いないみたいだな。」



一部屋がやたらと広くて部屋の中の廊下も広いけど、間取りが割と単純なせいか、一目で殆んど中が見渡せる。

落ち着いたこげ茶の家具で統一されていて、絵もかかっていれば華も飾られているけど、それがあまりにも綺麗過ぎて多分、これはこの部屋の一部であって、部屋の主の趣味ではないのだろう、と思った。

つまり、やっぱりホテルの部屋?

冷蔵庫も、電子レンジも、みんな統一されている。


碧さんが、勝手にリビングを色々と(あさ)り始めた。拓也もそれに加わり始めた。

藤田さんがどっかに行った。寝室?

私もなんとなく、そちらへついて行く。こんな豪華な暮らしをするのねゲーノージンって。

部屋に入ると、藤田さんも既に何かを漁っていた。おおきなキングベットがある。

藤田さんの、手が止まった。


何気なく、彼の手元を覗き込んだ。


「うわ・・・。」


これって・・・私の写真だ・・・。・・・こんなに沢山・・・。

しかも、・・・ごく最近のモノから、マジこれ?中学生じゃん。ゲ、これ高校生?うわ、私ぶっさいく。

ショックだ。大ショックだ。

ストーカー写真があった事よりも、あまりにも自分がおブスな事に大ショックだ。

もっとマシな写真を取ってほしかったわ。選んでよ。え?選べないって?うぅ。


じゃなくて。

この人、病気だ。




私の呟きが聞こえたのか、残りの二人もやってきた。

ベッドサイドテーブルの引き出しの中の写真を、4人で眺める格好となる。


「・・・俺、やっぱ探偵やるのはやめるわ。専業会計士になる。」


拓也が呟いた。あまりの事に何を言っていいのやら、さすがの拓也も混乱しているらしい。最初の感想がそれかい?

しかもさ、専業会計士、って何?兼業じゃなくて専業、ってイミ?


「最近、会計士も就職難らしいぜ。」


碧さんも写真を眺めながらボソッと呟いた。え?碧さん、かえすとこ、そこですか?

「うん。頑張る。これはマズイ。」

拓也が人生の決意を固めていた。ここで?


まあ、いいか。この子には色々お世話になりっぱだったし、色々決意してくれるなら、かったるい拓也としては喜ばしい限りで私も嬉しいわ。


うん、そうだよね。



「・・・でも、天下の河島(たける)にストーカーされるなんて、私も偉くなったかもしれない。」

「「「・・・・・。」」」


男三人が私を凝視した。

え?なんで私の台詞じゃ、みんな固まるの?


「だってほら、今をときめく人気俳優だし?かっこいいし?ファンの子達に追っかけられてるだろうし?そんな人が、忙しい合間を縫って・・・・・逆に私を、追っかけて・・・。」

「・・・・・・。」


え?どうして引き続き固まっているの?どうしてそんなに空気を変えるの?私の時だけ?


「・・・こういう場合はヨッシー、同意すればいいのかな?それとも否定?」

「俺に聞かないでよ。」

「現実を逃避しているな。」


ちょっとちょっとちょっと。時代遅れの芸人みたいになっちゃったけど、

当事者は私ですよ?

何故みんなもっと手加減してくれないのよっ!


「まあでも、これは確かにかなりキツイもんな。」

でしょ、碧さん。ああ、やっぱり優しいですね。

「だからKYでもね?」

「え?」


あれ?真顔で聞き返す?



「人の部屋で何をやっているのかな?」


どうでもいい事をやっていたら、後ろから声が聞こえてきた。



ああ、このシチュエーション。満を持してのご登場ですね。

解っているけど、恐る恐る振り返る。


ボスキャラ、かも。



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